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模型戦記  作者: BEL
第9章 模型大戦
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第60話 おっさんズvsおっさんの陸空大決戦 その7

「参ったなー」



 Sd.Kfz.222の中で、戦況を見ていた土井は、頭を掻きながら困り顔である。


 頼みのYF-23は撤退に追い込まれ、ファンタジーのエース筆頭のドラゴンが予想外の方法で倒された。



「さすがに層が厚いな、小手先のテクじゃ破れない」


「どうされます?」



 後に立つマリエルの問いに、土井は少し考える。

そして立ちあがって振り向くと、告げた。



「よし、少し早いけど決戦だ」


「承知いたしました」



 ゆっくり歩いていたヒュドラ、コロッサス、ベヒモスに突撃指令が出され、速度を上げて走り出す。


 右翼では2両の5号戦車、それにヤークトパンサー、T-55AとT-62MVが大英軍左翼のパンサー部隊を撃破して前線を切り開いていた。


 そこへ土井とマリエルが乗るSd.Kfz.222と護衛車両、そして召喚用のオーク・マジシャン達を乗せたオペルブリッツ、そして自走するケンタウロス・マジックユーザー、馬に乗るオーガ・メイジ達は500m前進し、戦場右翼中央まで進出する。



「よーし、ここで良いだろう」



 魔法を使う亜人達が整列して召喚準備を整えていく。

マリエルはゲートを開き、残りの未召喚キットを取り出す。



「土井様、これで全てになりますわ」


「おう、ありがとう」



 トーチカ・ガスマスク装備歩兵・20ミリ対空砲・20ミリ4連対空砲・ロケットランチャー・ロケット砲、それにサイドカーが並べられる。

移動できないトーチカと、自力では移動困難な火砲類だ。


 召喚の印たる黒煙と光が現れ、その様子は大英達も把握した。

それらが消えた後、召喚された兵器群が出現した。


 土井とマリエルは装甲車を降り、トーチカに移動する。



「これで広くなったな」



 このトーチカは中身が空の建造物。 砲などは付属していない。

元キットは富士山模型の「1/76 WA28 ガスマスク」。 同社の「WA31 トーチカ」に入っているトーチカであれば砲がついているが、こちらのトーチカには何もないのであった。


 ドイツ歩兵が迫りくる大英軍の戦車を確認する。



「敵戦車隊確認! 数16」


「多いな。 攪乱しよう。 ロケット弾全弾発射だ」



 土井の指示を受け、ロケット弾に関わるドイツ兵がせわしなく動く。

間もなくロケット弾が発射され、前線の穴を塞ごうと向かっていたM4A3E8シャーマン部隊に降り注ぐ。


 戦車相手にこのロケット弾は効果無い。 もちろん、直撃すればそれなりの被害は出るが、そうそう当たるものではない。

本来は歩兵相手に使う装備だ。

だが、ロケット弾の嵐が過ぎ去った後、16両のシャーマンは土井軍戦車を見失い、格上の戦後型戦車の的と成り果てる。


 しかし、続いて現地に現れた4両の61式戦車とSU-100、シャーマン ファイアフライの行動を阻害することは出来なかった。

そう何度も撃てるほど、ロケット弾の在庫は無い。


 T-62MVの車長は状況を把握し、配下の戦車へと指示を飛ばす。



「まぁいい。 骨董品とイポンスキーの紛い物、たかが6両に後れを取るものか」



 戦時中の戦車と言えども数が多ければ、まともに相手をするのは危険。

装甲を破られなくても、運悪く履帯を切られれば動けなくなる。

だから戦後型混じりの6両より、全車戦時中型16両のほうが危険という判断なのだ。



 T-62MVはT-55Aと協同で61式戦車を狩に行く。 5号とヤークトパンサーはSU-100とファイアフライを狙う。


 たちまち2両の61式が撃破され、SU-100も敵を射界に捉える事無く擱座した。

だが、そうそううまい事ばかりは続かない。


 ファイアフライの反撃で5号のうち1両が炎上する。


 61式のうち1両は初期に召喚された車両で、乗員の経験も豊富。 速攻の反撃でT-62MVにHEAT(70式対戦車りゅう弾)を叩きこむ。

だが、HEATはT-62MVの装備するERA(爆発反応装甲)に阻まれて効果を発揮しない。

しかし、ERAは「消費」されていくし、全ての部位を覆っている訳でもない。

状況を理解した61式は2両連携して徹甲弾に切り替えて砲撃を集中する。


 だが、そこへ事態を大きく変えかねない存在が現れた。


 12機のP-47Dが飛来したのだ。 各々HVARロケット弾10発を搭載している。


 邪魔する者の無い空から、次々と低空に降りてきたP-47Dに向け、トーチカ横に配置された2基の20ミリ対空砲が火を噴く。

P-47Dはいったん距離を取るべく反転していく。



「よしっ、このまま敵機を近づけるな!」



 操作するドイツ兵の意気が上がる。

ところが、離れていったはずなのに戦闘機の爆音は続いている。



「うん? おかしいな。 奴ら離れて……って、まてよ」



 土井はトーチカを出て後ろを見る。



「やべっ、敵機だ! 敵機! 後ろ! 後ろ!」



 彼らの後方に回り込んでいた別のP-47が6機突っ込んできていた。

すぐに機関砲は後ろを撃とうと旋回するが、既にHVARロケット弾は発射されていた。


 土井はトーチカに戻る。 マリエルは自身と土井を守るべく防壁を展開する。


 このHVARの着弾により2基の20mm対空砲は沈黙。 トーチカにも穴が開いたが、マリエルのおかげで破片等による被害は無かった。



「うおっ、マリエルさんありがとう。 攻撃が届くとか流石前線だな」


「いえ、当然の事ですわ。 それよりどうします、装甲車は健在ですが、戻りますか?」


「いや、このままここで指揮を執る」


「承知いたしましたわ」



 だが、対空砲を潰された事で先ほどのP-47が戻ってくる。

そして、T-62とT-55に向けHVARを放つ。


 後方からHVARを受けたT-55はエンジンを破壊されて炎上、全周から波状攻撃を受けたT-62も炎に包まれる。


 だが、T-62の炎はT-62自身が火災を起こしたのではない。 装備するERAがHVARの被弾によって起爆したのである。

T-62の乗員は疑問を持つ。



「うおっ、馬鹿な、あんな骨董品のロケット弾では爆発しないはずなのに」



 本来P-47が搭載しているHVARは多目的弾か半徹甲弾であり、ERAは起爆しない。

ERAは守るべき戦車自身の脅威になるような、高威力の攻撃を受けた時にしか爆発しないように設計されている。

装甲車の20mm機関砲なんかの掃射でERAが剥がされてしまったら、肝心の戦車砲弾や対戦車ミサイルが飛来した時に役に立たないからだ。


 だが、このときP-47が装備していたHVARは成型炸薬弾頭を持つ対戦車用の新型だったのだ。

これは第二次大戦後に登場したタイプで、本来P-47は搭載していない。

だが、F-9Fパンサーが搭載していた戦後型のHVARを元に、工場で量産したのである。


 HVARの嵐が去った。


 T-62は前進を続けている。

T-55はエンジンを破壊されたが、運よくエンジンへの被弾は無かった。

あの嵐を耐えきったのだ。


 だが、その直後61式の砲撃を受ける。

それはERAが失われた所に命中した。

T-62の幸運もここまで。


大きな爆発と共に砲塔が吹き飛び、びっくり箱となるのであった。


 こうして主力を失った土井軍右翼戦車隊であったが、まだ戦える。


 トーチカの横を大きな影が通り過ぎる。

身長10mを超える巨人のようなモノが、振動と共に走り抜けた。



「よーし、コロッサスの力、見せてくれよ」



 土井は期待を込めてその背中を見送る。

そして、その上空を3機のミグ戦闘機が通過していった。

用語集


・ロケットランチャー・ロケット砲

キットでの表記はこうなっているのだが、現物の名称はネーベルヴェルファーとなる。

木枠のようなもの(ガイドレール)の中から大型のロケット弾が放たれるタイプ(ロケットランチャー)と、6本の筒を束ねたような発射機を使うタイプ(ロケット砲)がある。



・何度も撃てるほど、ロケット弾の在庫は無い。

現実なら用意されているのだろうけど、キットには1回分しか付属していない。



・T-62MV

キットでは「T-62 ERA 1972年型」と表記されている。

爆発反応装甲(ERA)を装着した車両だ。


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