第60話 おっさんズvsおっさんの陸空大決戦 その6
空域の監視が復活した事により、E-1は低空を迫りくる3機の航空機を探知したが、時を同じくして地上の81式短SAMでも探知していた。
「敵編隊、機数3、速度440ノット」
「よし、この速度ならジェット機だろう。 このまま光波弾を使う。 照準合わせ」
81式短SAMは赤外線・映像誘導の「光波弾」とレーダー誘導の「電波弾」を装備している。
2両あるランチャー車は各々2発づつ装填して待機していた。
先ほどまでレーダー妨害下にいたため、「光波弾」の発射を想定している。
射撃準備を整えた81式は、2両から合計3発のミサイルを発射した。
「続いて電波弾発射用意」
ランチャーは4発のミサイルを装填している。 1両目は2発光波弾として発射したので、残弾2発は電波弾。
選択肢としては、2発の光波弾を再装填するか、そのまま電波弾を撃つかの2択だ。
距離が近いので、再装填する時間を考えれば、電波弾を使うほうが良いという判断だ。
だが、そこまでの対応は必要なかった。
上空を飛ぶ3機のHo-229に向け飛んで行くミサイル。 Ho-229の搭乗員はその白煙に気付くが、時すでに遅し。
対空ミサイルへの対抗手段を持たないHo-229は回避を試みるも、音速の2倍以上の速度で迫るミサイルから逃げる十分な時間は無かった。
3機のHo-229は次々と被弾し、撃墜された。
そして別の場所では2機のB-25Bがドラゴンに向かって行っていた。
それに気づいた秋津は疑問を持つ。
「あれ、飛んでるドラゴン相手にどうする気だ?」
「ああ、何か飛んでる相手でも爆撃するらしい」
事前にマッカーサーから連絡を受けていた大英が答えた。
「マジかよ、三号爆弾じゃあるまいし、当たるのか? いや、三号爆弾だって普通当たらんが」
「どうなんだろうね」
*****
2体の巨大なドラゴンが、前後30mの間隔をあけて高度30mを時速100キロで飛行していた。 その鱗は陽光の下で溶けた黒曜石のように輝き、翼幅20m近い翼がゆっくりと空を切り、遠くに見える戦車隊を焼き尽くすべく前進する。
その上方では、4体のワイバーンが時速200キロで空を切り裂いていた。 全長8m、翼幅12mほどの細身の体はドラゴンより小さく、青銅色の鱗が輝く。
Ju88Aを焼き尽くした火炎ブレスと、体当たりを恐れない突撃が、接近する者を脅かす。
それに立ち向かうは2機のB-25Bミッチェル爆撃機。 高度100mでエンジンを轟かせて突進していた。 それぞれ8発の260ポンド破片爆弾を搭載している。
護衛の戦闘機はヒュドラ攻撃任務で不在、ワイバーンの妨害を自力で排除しつつ、ドラゴンを仕留めなければならない。 乗組員たちは戦車隊を救うため、鋼と科学の力で鱗と魔法に挑む。
B-25B搭乗員は1キロ先にドラゴンを視認する。 そして同時にワイバーンが突っ込んでくるのも確認した。
1番機機長が叫ぶ。
「目標確認、1キロ前方」
「銃手、ワイバーンを牽制しろ。 爆弾倉、準備!」
2番機機長は操縦桿を握り、ワイバーンの動きを追った。
「速いな。 でも、俺たちのほうがもっと速い。 野郎ども、油断するなよ」
B-25Bは時速370キロで飛行している。 これはワイバーンの2倍近い速度だ。
ワイバーンは2体ずつに分かれ、左から2体が上昇、右から2体が急降下し、攻撃態勢に入った。
100m以内に近づくと火炎ブレスを食らうかもしれない。 B-25Bはブレスを警戒し高度100メートルを維持しつつ炎を避ける急激な機動に備える。
500mに迫ると、ドラゴンの巨体が迫力を持って迫る。 目は溶岩のように輝き、戦車隊を焼き尽くす火炎を準備していた。
だが、B-25Bは地上の犠牲者ではない。 空の狩人だ。
「爆弾倉、開け!」の命令と共に爆弾倉の扉が開き、爆撃準備を整えた8発の爆弾が姿を現す。
ワイバーンが先制攻撃を仕掛けた。 左の2体が1番機に向けて火炎を吹く。
1番機は右に急旋回、火炎は20メートル下を通過し、機体下部を焦がすだけだった。
「撃て!」の命令で12.7mm機銃が咆哮し、先頭のワイバーンに命中。 角度が悪く多くは鱗を貫けず跳弾となったが、翼の付け根に1発が当たり、血が噴き出す。
ワイバーンは悲鳴を上げ、よろめいた。
2番機にも2体のワイバーンが突撃したが、巧みな操縦でブレスを放つタイミングを与えない。
ワイバーンのブレスは幅が狭く、首も真っすぐな状態で真正面に目標を捕らえる必要があった。 自身の速度、そしてブレスの飛翔速度も遅く射程も短いのに、戦闘機の機銃の様に前にしか攻撃できない。 空戦に向かないというのは、こういう事である。
ワイバーンたちは方針を転換し体当たりすべく突っ込む。
2番機は急上昇で回避するも、爪が尾部を擦り、軽い傷をつけた。
機首銃手の射撃はほぼ弾かれていたが、爪は掠っただけで直撃できなかったため体が半回転し、鱗の無い腹部がB-25の尾部銃座の前に晒される。
尾部銃座はすかさず弾を浴びせ、腹に弾が突き刺さる。
被弾したワイバーンは血を撒き散らしながら丘陵に墜落した。
距離300mまで接近したところで、2機のB-25Bは各々8発の爆弾を0.5秒間隔で投下する。
爆弾には近接信管が付いており、空中の相手にも有効なタイミングでの起爆が出来る、マッカーサーが対ドラゴン用に準備した秘密兵器であった。
最初の爆弾が先を行くドラゴンの上10mで炸裂。 轟音とともに、数千の破片が50m範囲に飛び散る。
ドラゴンの翼は引き裂かれ、体中に破片が突き刺さる。 多くは鱗に阻まれて弾かれるが、それでも半数は鱗を貫通し、ダメージを与えた。
ダメージを受けたドラゴンの咆哮が響き、飛行が乱れる。
そこへ2発目、3発目が続き、2体のドラゴンを破片の嵐が包む。
ダメージの累積と、目や翼など鱗に守られない部位の被弾もあって高度が落ちる。
特に先行する1体は至近距離での爆発を受け、被害も大きく高度の低下も大きい。
結果、8発目、9発目と後続の爆弾の起爆高度も下がっていく。
この低下は後続の2体目に重大な被害をもたらす。 それは2体目のドラゴンは下からの爆弾を受ける事になるためだ。
首こそ鱗に守られているが、鱗の無い腹部に破片が食い込み、血が流れ出す。
合計16発中、6発が2匹を覆う有効範囲で爆発、翼と胴体をズタズタにしていく。
先を行くドラゴンは左翼がほぼ切断されて丘陵に墜落、地面を揺らす。
2体目は傷つきながら飛行を続け、苦し紛れに火炎ブレスを空に放つが、その危害範囲にB-25Bはいない。 やがて力尽き平原に墜落し土煙を上げる。
ドラゴンが墜ちた後も、残る3体のワイバーンは攻撃を続けた。
1体は防御射撃の12.7mm機銃弾に傷つきつつB-25Bに向け火炎を吐くが、速度差が大きくその火炎は虚しく虚空を焦がすのみ。
2体目は体当たりを試みるが、B-25Bはこれを左旋回でかわす。
そしてドラゴンを倒した2機のB-25Bは速度と高度を上げる。 それにワイバーンは付いていく事が出来ない。
高度1,000mで水平飛行に戻ると、状況を改めて確認した。
2体のドラゴンは地上に不自然な姿勢で横たわり動かない。
戦果を確認し、2機は戦場を離脱し帰還していった。
*****
戦いの状況は大英達も双眼鏡で見ていた。 距離があるため細かいところは判らないが、ざっくりドラゴンが倒れたのは判った。
また、B-25Bからの報告も、航空基地のマッカーサー経由で届いた。
「そういやVT付いた爆弾積んだ奴を召喚したか」
「おーおー、それかぁ」
秋津も納得したのであった。
ファンタジー世界最大脅威の一つ「ドラゴン」を倒し、見通しが明るくなったが、まだ全てが片付いた訳ではない。
用語集
・三号爆弾
日本軍が空対空爆撃用に使用した爆弾。 まぁ、飛んでる相手を爆撃するので、ほとんど当たらない。
・対ドラゴン用に準備した秘密兵器
「近接信管付260ポンド破片爆弾」
元々は1/700のB-24を召喚する際に、マッカーサーの進言でこの爆弾を搭載している状態で召喚したもの。
B-24から降ろしたこの爆弾を工場での量産にかけて、数十発製造している。
(工場では「今まで取得した事のあるもの」しか製造できない)
いずれドラゴンが出現する事を想定した大英から相談を受けていたマッカーサーが出した答え。