第60話 おっさんズvsおっさんの陸空大決戦 その5
空の戦場を監視するE-1、そのレーダーに突如異変が生じた。
「機長! レーダースクリーンに障害が発生しました。 航空機の探知が出来ません」
「何? 故障か?」
「確認します」
「とりあえず基地に報告しよう」
基地のマッカーサーの元に連絡が届く。
「何、E-1がジャミングを受けている?」
「確認中ですが、その可能性が高いとの事です」
「そうか、電子戦機か第4世代以降の戦闘機が来ているな……」
マッカーサーは手元のリストを見て、指示を出す。
「よし、EA-18GとF-22A、F-15に出撃準備を出そう。 あと、P-61は直ぐ出られるな」
「はい。 いつでも行けます」
クルーは機器を調べたが、故障の証拠は見つからなかった。
そして緊急発進したP-61のレーダーも、間もなく障害に見舞われた。
「やられたな。 間違いないな」
報告を受け、準備を整えた各機は離陸していった。 そしてマッカーサーは空中にいる全機に警報を出す。
「現在空域監視は妨害されている。 敵機の襲撃に警戒せよ」
事情を大英に報告すると、空を見上げながら呟く。
「これでは大戦初期やレーダーの無い洋上の航空作戦と同じだな」
空域の情報が無かった当時、空戦には「先に見つけた方が勝つ」という原則があった。
「見つからなければどうという事は無い」と語った人がいたかどうかは知らないが、雲間から現れた爆撃機に奇襲されるといった事象は、レーダーが普及する前の出来事であった。
アウトレンジ戦法なんてのも、途中で見つからない(見つけた時はもう目の前にいる)事が前提の作戦だ。
その後、地上や洋上艦艇からのレーダーと無線電話によって戦闘機を誘導する戦術が普及し、アウトレンジ戦法は机上の空論化した。
そのレーダーを潰されれば、レーダーが無かった時期の空戦に逆戻りと言う訳だ。
もっとも、逆戻りしているのはこちら側だけで、向こうは逆に全域を監視できているだろう。
まぁ、立場が入れ替わっただけとも言うがな。
マッカーサーからの連絡を受け、大英は短SAMの戦場投入を指示する。
予め組まれていた部隊編成に従い、81式短距離地対空誘導弾一式(射撃統制装置搭載車両1両、誘導弾搭載車両2両)が護衛を伴い戦域へと侵入する。
M18 ヘルキャットと106mm無反動砲を搭載した73式小型トラックが護衛だ。
なお、73式小型トラックのキットは1/35で人員が付属していないが、今では1/35まで補完機能が有効なので、分隊長・装填手・操縦手の3名が搭乗している。
EA-18GとF-22A、そしてF-15CとF-15DJが高度を上げていく。
ジャミングしている敵が戦域外にいるなら、物理的な排除は出来ない。 電子的にジャミングを無効化する必要がある。
戦域内にいるなら、これは撃墜するのが最善。
どちらになっても良い様に、この編成で差し向けたのであった。
そして懸念は的中する。
屠龍とFw190Aの背後から2機のMe262A-1aとMC205 VELTRO、Ta152が迫る。
レーダーによる監視が無いため、屠龍もFw190Aも目視による監視となる。 だが、存在を知っていて前方を探すのと、いるかどうかも判らない状態で全周を探すのでは大きく違った。
Me262は背後から迫ると、その30mm機関砲で屠龍を撃つ。
たちまち2機の屠龍は撃墜され、混乱状態で散開する。 しかし、後ろを取られた状態からの逆転は難しい。
一旦離れて立て直そうにも、ジェット戦闘機であるMe262から逃げる事は容易ではない。
残り3機も2機が撃墜、1機が離脱となる。
状況は護衛のFw190Aも同じだった。
やはり背後から迫ったMC205とTa152の奇襲によって、2機が撃ち落とされる。 Me262に対処しようにも、自身を守るので精一杯だ。
さらに屠龍を撃退したMe262まで参戦し、状況は悪化。
屠龍がダメな時は代わりに任務を引き継ぐ想定で10機派遣されていたのだが、既に4機が落とされ相手は1機も被害なし。
編隊長は作戦中止を決断し、撤退する。
その後、上空に上がったEA-18Gの搭乗員は、自身が知る最新型の電子戦システムと対峙している事に気付く。
「こいつはやべぇな。 このクラスを相手にするとか、現実の航空作戦でもそうそう無いだろうな」
EA-18Gは搭載する高度な電子戦システムを稼働し、対処を開始する。
カウンタージャミングにより、E-1のレーダー機能は復活。 さらにジャミング源を特定して情報をF-22と共有する。
「レーダーには映らないし、敵さんが使ってるのは現代米軍仕様だな」
そして一緒に上がってきた2機のF-15には距離を取って待機するよう指示した。
相手がステルス戦闘機と判れば、F-15は足手まといとまでは言わないが、リスクは負えないという判断だ。
続いて相手のレーダーのジャミングを開始するが、敵もさる者、短時間で周波数を変える周波数ホッピングで対抗する。
EA-18Gはそれに追随してジャミングを継続する。
そして敵機の位置を特定したF-22Aは距離18kmまで肉薄してロックオンを実行。
被ロックオンを検知したYF-23はジャミングを中止する。
ジャミングへの妨害が発生した時点でエンジン出力を上げていたYF-23は、そのままスーパークルーズに入って離脱を図る。
F-22Aも加速するが、非武装で機体も軽量のYF-23のほうが加速力に勝っていた。
距離は次第に離れ、ミサイルを撃つチャンスは失われてしまった。
しかし、これでE-1による空域監視は復活。 撃墜こそ失敗に終わったものの、目的は果たせた。
こちらにステルス機と戦える戦力がある事が判った以上、再度の妨害は簡単には行えないだろう。
ところで、YF-23が離脱する少し前、土井軍は対地攻撃用の戦闘爆撃機を数機発進させていた。
作戦途中でジャミングが失われたものの、爆撃隊は直ぐに迎撃される事は無いと見て、戦場へと突入していった。
用語集
・そのレーダーを潰されれば、レーダーが無かった時期の空戦に逆戻りと言う訳だ。
現実の戦争ではECMに対抗してECCMが用意されたりするし、中小国同士だと互いに阻止に失敗して空爆が成立したりしている。
(まぁ、見えていても迎撃する時間が無いというケースもあるだろう)
某アニメで言えば、某粒子の信頼性が乏しいと思えばいいだろう。
状況によって有線ミサイルすら誘導できないほど強く効いたり、遠距離から探知・狙撃されるほど効果が薄かったりというように不安定だと、イメージとしては近いかもしれない。
ま、劇中ではそれを「人為的に」引き起こす技術( Minovesky Particle Countermeasure : MPCM)は存在していないっぽいですが。(∀には全無効化の設定だけあるらしい。ターンXが装備していたら歴史が変わっただろう)
(だから1000年経ってもMSがメイン兵器。 現代戦で平安時代の装備が未だに主力の様な物)
・ジェット戦闘機であるMe262から逃げる事は容易ではない
これがP-38Lのような大戦後期の双発戦闘機なら話も違った。
初期のジェットエンジンは出力調整が鈍く、一度速度が落ちると復旧するのに時間がかかる。(加速力が低い)
なので、大きな運動を強いてエネルギーを消耗させれば速度を維持できず、強力な加速力に物を言わせて離脱する事も可能である。
(レースゲームで言えば、グリップが強く小回りが利いて加速が早いが最高速度は遅い車と、最高速度は速いが、加速が鈍くグリップも弱い車のようなもの。)
まぁ屠龍ではそんなエンジンパワーは無いし、速度も遅いので無理な相談なのだが。
・リスクは負えない
第5世代戦闘機と第4世代戦闘機では1対100くらいのレートになるらしい。
もちろん、1機で100機は落とせないがな。
実際の相手は戦闘機ではなく試作機なので、墜とされる心配は無かったわけだが、そんな事まで判る訳では無い。