第60話 おっさんズvsおっさんの陸空大決戦 その3
戦場はほとんど木が生えていない平原だが、所々に1~3メートル程度の低い丘があり、視界を遮っていた。
そんな平原を進軍する土井戦車隊の一つ「重戦車小隊」は、前方900mに敵戦車を認め停止する。
この部隊はキングタイガー2両とタイガーI1両、マウス1両の4両で編成されている。
小隊長を兼ねるマウス車長は双眼鏡で敵を確認する。
「敵は……いや、敵もキングタイガーか。 しかも8両いるな」
「我が方の倍じゃ無いですか」
「側面に回り込むのは……無理だな。 よし、このまま先制攻撃だ。 撃たれる前に数を減らすぞ」
4両は慎重に狙いを定め、発砲した。
900mという距離は第二次世界大戦型の戦車にとっては通常の交戦距離である。
4発の砲弾は3発が各々別々の目標に命中し、うち2両を撃破した。
残った6両は二手に分かれると一旦停止し、発砲する。
タイガーIとキングタイガー1両が撃破される。
「くそっ、やはり狙ってやがったか」
敵が移動を続けていたのは、こちらを見つけていなかったからではなく、見つけて戦力分析の上で、距離を詰めていたのだろうとマウス車長は推測した。
残った2両は善戦するが、キングタイガーが撃破され、マウス1両のみとなった時点で、敵の数は4両残っていた。
マウスの装甲防御は強力で、理論上200m離れていれば正面は勿論のこと、側面ですら抜かれる事は無い。 その上、主砲はキングタイガーの装甲をどこでも普通に撃ち抜く。
とはいえ、「戦争は数」である。
1両だけでは戦線を支えられない。
そして、何より近代的な戦場では状況は短時間で変化する。
重戦車同士が戦っている戦場に4機の戦闘機が接近する。
そしてその接近を探知した土井軍も戦闘機を向かわせる。
*****
前線から近接航空支援の要請を受け、マッカーサーは4機のホーカー タイフーン(ロケット弾装備)を送り出す。
しばらくして、敵航空基地から小型機2機の離陸を確認したE-1からの報告を受け、4機のF-86Fが発進する。
F-86を見送ったマッカーサーはつぶやく。
「このタイミング、敵には初歩的なレーダーがありそうだな。 閣下に報告しておくか」
F-86F は先行しているタイフーンを追い越し、接近する小型機へと向かう。
後方を取ろうと回り込むが、向こうも後ろを取られまいと機動する。
「ちっ、レーダーで捉えられてるって訳か。 全機、正面から行くぞ!」
F-86F4機は方針を変え、直接敵機へと向かう。
敵機も同じく突っ込んできて、互いに機銃を撃ちながら高速ですれ違う。
共に被害は無く、双方は旋回してドッグファイトに入っていく。
「互いにジェットじゃ速すぎて当たらんか? いや、訓練不足? 違う、覚悟不足だな」
この4機のF-86F、主翼には日の丸が描かれている。
つまり、元キットは航空自衛隊機を再現したキットなのだ。
「隊長! アレはドイツ機です! あれが飛んで戦ったという記録はありません」
「ああ、だがキットがあるんだろうよ」
その敵機は「He162 フォルクスイェーガー」と「Ta183 フッケバイン」。
本来はF-86でも油断できない相手だ。
朝鮮戦争当時の米空軍機なら、気は抜けないだろう。
「ふっ、台湾海峡を再現してやるさ」
4対2の数の優勢に加え、F-86にはドイツ機には無いある装備を持っていた。
「よーし、もらった!」
F-86Fから放たれたAIM-9BサイドワインダーはHe162へと吸い込まれていく。
爆発が起き、He162は機体後部を破壊され、残った機体前部と主翼は不規則な軌道で落ちていく。
残ったTa183は僚機の最期を見ても撤退せず戦う。
「まだ続けるか」
だが、と言うか、やはりと言うか、4対1になっても中々後ろを取れない。
向こうもキットからの召喚装備で操縦するのもホムンクルス。
なので、初期のサイドワインダーがどういうものかを知っている。
それは、後ろを取れなければ撃てないという事実だ。
結局この時期のサイドワインダーはドッグファイト用の装備なのだ。
それでも、いつまでもその状況が続く事ははない。
ついに1機のF-86が後ろを取り、Ta183に向けサイドワインダーを発射する。
しかし、その直後、Ta183は機首を上げ急上昇を始める。
それを見た発射機のパイロットは叫ぶ。
「野郎、後ろに目でもついてるのか!」
Ta183は太陽に向かい、そして反転水平飛行へと遷移する。 インメルマンターンだ。
だが、サイドワインダーはその機動に追随せず、あらぬ方向に上昇を続けている。
パイロットの予想通り、ミサイルはかわされた。
これも初期のサイドワインダーの弱点「一度太陽に向かうと、ずっとそちらに飛び続ける」だ。
ホムンクルスには召喚者の知識が含まれている。
台湾海峡の人民解放軍パイロットと違い、初期型赤外線誘導システムへの対策を知っているのだ。
中々苦戦しているが、実はコレで問題は無い。
そもそも、F-86は何をしに飛んできたのか。
そう、彼らが上空で死闘を演じている中、低空では戦車隊の戦いにある決着が付いていた。
4機のテンペストがRP-3ロケット弾によって、マウスを空襲。 上面装甲を破られたマウスは炎上してしまった。
敵機による「テンペストが行う空襲の阻止」を阻害するのが目的であり、全滅させる事が任務ではない。
まぁ、墜としてしまえば自動的に任務達成なのだがな。
地上でマウスが撃破された事を知ったTa183は戦域を離脱。 航空基地へと帰って行った。
そして、F-86も損害無しで帰投するのであった。
*****
地上をゆっくり歩くドラゴン2体とヒュドラ1体。
その頭上に6機の双発爆撃機が迫る。
爆撃機の音に気付いたドラゴンは浮かび上がると飛行を開始する。 だが、その速度は遅い。 とてもじゃないが、爆撃機から逃げるのは叶わない。
しかし、空に上がった事で、十分な高度を取れば直撃以外では爆弾の影響は受けない。
それでも、低速なため第二次大戦型の爆撃機でも十分直撃を狙える。
2機のJu88Aは急降下爆撃体勢でドラゴンへと向かう。
そのJu88Aに向かう「モノ」が現れた。
ワイバーンだ。 飛行機とぶつかれば連中も無事では済まないだろうに、2体のワイバーンが高度を上げつつ向かって行く。
Ju88Aは7.92mm機関銃を放ち牽制するが、7.92mmではワイバーンの鱗を貫通出来ない。
いや、見た所鱗に当たる前に弾かれている様にすら見える。
「まさか、体当たりする気なのか?」
何かのバリアのような物を纏って体当たりするという戦術なのだろうか。
予定を変えて、向かって来るワイバーンを爆撃するべきか。
しかし、あの機動性なら、投弾してもかわされる可能性が高いとパイロットは判断し、衝突直前に回避する事に決めた。
結局、体当たりではなかった。
至近距離まで接近しJu88Aが回避する前に、ワイバーンはブレスを放つ。
「うわぁ」
2体が放った火炎によってJu88Aは炎上。 ワイバーンはブレスを放った直後、離脱していく。
Ju88Aは高温で機体構造が崩壊、火だるまになり制御を失って墜落していく。
*****
燃えながら落ちていく敵機を見て、キリエルは喜ぶ。
「よし、やったわ」
ワイバーンで敵戦闘機を落すのは不可能。 飛行速度もブレスの射程も足りない。
だが、「何処かに向かっていく相手」と戦うなら話は別。
どこに行くか判っているなら、その手前で待ち伏せすればいい話。
相手が避けてくれるなら、相手の攻撃は失敗になるので、目的は達成。
避けないなら、ブレスの射程内まで引き付けてからやるだけ。
もちろん、相手の射撃が強く、ワイバーンの防御を超えるならアウトだけど、今回はブレス型に防御型の特性を追加した「新種」を生み出した。
ちょっと撃たれたくらいでは、ダメージは無いし、ひるみもしない。
それでも、相手をブレス範囲に捉えられないと意味が無いのは変わらないから、戦闘機が来たら逃げるしか無いのだけれどね。
こうして一進一退の戦闘は続く。
用語集
・台湾海峡を再現
金門砲戦について調べると宜しい。
・ドイツ機には無いある装備
実はwikiによるとTa183にはその装備を搭載する計画があったらしい。 多くのキットでは再現されていないが、ある1/48のキットでは搭載状態が再現されている。
もっとも、その装備はwikiによると「単座戦闘機では運用不可能」な代物らしい。
Ta183って単座機なんですけどね。
ところで、AIR WARやった人なら判るだろう。 戦闘機とミサイルを両方飛ばすのがどれだけ大変で面倒か。
ミサイル撃ったら、それだけ動かすユニットが増えるんだから。
1機飛ばすのでさえ大変なのに。
それをリアルでやるんだから、そりゃあ単座じゃ無理な話だわ。
(自機を操縦しながら、有線誘導ミサイルの誘導までやる。 ATM搭載ジープで言えば、ジープを運転しながら、対戦車ミサイルの誘導をする様な話)
・初期型赤外線誘導システムへの対策を知っている
土井は現代航空戦にはそんなに詳しくない。
では、その知識は何処から来たのか。
いやー、ある航空基地の名を冠した漫画があり、それを読んで得たのである。
中東で傭兵が操る多種多様な戦闘機が活躍する作品だ。