第60話 おっさんズvsおっさんの陸空大決戦 その1
夜明け前、戦場の傍に土井の地上戦力が集結する。
そこには、やたら目立つ存在が含まれていた。
夜明けと共に陸空戦が開始する事もあり、大英達は前夜戦場直ぐ近くのマカン村に泊まっていた。
そして、そのマカン村からでも、その異様な姿は確認する事が出来た。
「おいおい、アリなのかあれ。 というか、どっから連れてきた?」
秋津が驚きを隠せないその存在は、巨大な石像。
どう見ても生き物ではない。
彼がアキエルから聞いた話では、キリエルは異世界から魔物を捕まえてきて、魔獣として使役しているという話。
あんな石像が「自然に生きている」というのは解せぬ。
それに対し、大英の見解は。
「いや、造ったんじゃねぇの?」
「あぁ、そっちか。 って、亜人なのか? アレ」
ミシエルは亜人を生み出すプロだが、石像を亜人と呼ぶのは無理がある気がする。
「そうかぁ、アレ、何だか判ります?」
大英は話をティアマトに振る。
「私が判る訳無いでしょ」
ですよねー。
「あれは……珪素生命体ね。 通るんだ。 中々にボーダーライン」
「モードリセット、サイトノーマル」
眼鏡を望遠&対象調査モードから通常モードに戻し、アキエルは見解を示した。
「ボーダーライン?」
「天造兵装扱いではなく、魔法生物扱いという事」
「あーそう言う事か」
ようやく秋津も納得した。
そんな訳で、結構な決戦という事もあり、アキエルも地上に降りて来ていた。
(それにしても、アレがOKなら、アレも魔法生物……ま、まだちゃんと動かないだろうし、じいさんが渡すわけ無いか。 そもそも禁忌だしね……)
「どうかしたのか?」
「え、何でも。 それより、こっちの配置は大丈夫なの?」
「ああ。 一通り配置は完了しているし、予備も揃えている。 俺も英ちゃんも現地で指揮を執るから、予定外にも対応できるさ」
「なら私もいくから大丈夫ね」
こうして、彼らは戦場へと向かう。 そして航空基地からも次々と航空機が離陸し、編隊を組んでいく。
日の出まであと10分。 両軍は配置と準備を整えていた。
秋津と大英は双眼鏡を降ろすと感慨深げに語る。
「これはエライ事になってるな」
「ああ、正にファンタジー世界だな」
現地まで来て、敵の布陣がよりはっきりする。
背が高く村からでも見えた石像、それ以外に巨大なカバ、9本の首を持つ馬鹿デカイ魔物、そして大きな体に4本足とコウモリ風の翼を持つ魔物が数体見える。
勿論、それらと共に戦車や装甲車と思しき車両が多数布陣していた。
「遂にドラゴンと戦う日が来たか」
召喚兵器とファンタジーモンスター両方を相手にする。 目立たないが、いつもの亜人たちも参加している事だろう。
「今までにないパターンだな」
「ああ、ちゃんと連携して来るのかな」
以前戦車隊が攻めて来た時はモンスターは勿論のこと、亜人すら参加していなかった。
その理由は判らないが、相手が「発生した事至上主義者」なら、戦史に戦車とオークが連携した戦いなんて事例は無いから、一緒に運用するなんて思いもしないか、思っても「使い方」が判らないだろう。
他にも単に「文明の遅れた現地戦力なんて意味が無い」みたいな「現代チート主義」を掲げた差別主義者かも知れない。
だが、今度は違う。
単に「そこにあるから使う」というだけなら、連携も何もないから個別に撃破すればいい話だが、そうではない可能性もある。
「どうだろうな」
「なんか嫌な予感がするな。 連携して来る想定でいよう」
「それが良いな」
そして、その時が来た。
*****
日の出と共に10両の戦車隊、その他の車両数両が戦域へと突入する。
それに続き、コロッサス1体、ベヒモス2体、ヒュドラ1体、ドラゴン2体が入る。
最後に数両の自走榴弾砲・自走ロケット砲と自走対空砲・対空戦車が入った。
そして空には数機のレシプロ戦闘機と攻撃機が飛来する。
その下の低空を6体のワイバーンが飛ぶ。
「さーて、どう出る?」
土井はマリエルと共に軽装甲車Sd.Kfz.222に乗って現地に入った。
傍には直衛用に38t戦車E型とカノーネンヤークトパンツァーが各1両、歩兵が乗り込んだオペルブリッツ、それにB.M.Wサイドカーが随伴していた。
場所的には東西の中間付近、やや東寄りだ。
なお、東西の中間付近、やや西寄りには8輪重装甲車とエレファントとバイク、それに37mm対空砲を搭載した8トンハーフトラックが105mm対空砲と共に配置された。
マリエルはワイバーンの後ろを飛ぶキリエルに連絡する。
「キリエルさん、指揮に問題はありませんね」
「ええ、コロッサスもベヒモスも問題ないわ」
「承知しました。 では、手筈通りに」
「まっかせてー」
「製造」した魔法生物として本来ミシエルの配下にいるコロッサスだが、今回はキリエルに指揮権を移譲している。
そしてベヒモスはなかなか懐かず苦戦していたが、こちらも開戦前になんとかなったとの事だ。
最後にオークとゴブリンの集団がイタリア兵と共に徒歩で戦場に入った。
*****
大英の召喚軍は30両以上の戦車・駆逐戦車を戦場に送り込む。
自走砲や対空砲も戦場に突入するが、こちらは3両しか無かった。
王国内各地に派遣している分を引き上げる訳にも行かず、近場のものを持ってきたためだ。
また、シルカはいつもの丘の上だし、ゲパルトは飛行場に置いてある。
いずれも対空レーダーとしての運用だ。
というのは、陸の戦場の外のため、交戦規定により発砲出来ないためだ。
「なら戦場に連れてきたらどうか」という意見もあるかも知れない。
だが、連中のレーダー能力をもってしても、30キロ四方という空の戦域全体を監視することは出来ない。
しかも、陸は1.2km四方という狭い戦場なので、戦車に撃たれる危険がある。
このため、いつもの配置にしているのである。
対空砲としての火力を捨てても、情報収集能力を安全に行使する道を選んだのだ。
まぁ、飛行場は戦場の外だけどな。
大英は敵の様子を見て疑問を持つ。
「まずは制空権奪取だが、レシプロ機しか来てないのは怪しいな」
「そうなのか、見た限り大戦中のドイツ軍ばかりいるようだが……」
「だとしても、262とかのジェット機が無いのはおかしい。 温存してるだろコレ」
「様子見か」
「真意は判らんがな。 こっちが20機以上連れてきたのが馬鹿みたいじゃ無いか」
「負けるよりマシだろ」
「そりゃそうだが」
「ところで、ドラゴンもいるようだが、アレでなんとかなるのか?」
「ならん。 マッカーサーに爆撃機を要請しよう」
航空隊はレシプロ機を投入しているが、空戦目的の戦闘機なので、デカいモンスターとは戦えない。
だが、戦いは始まったばかりだ。
用語集
・魔法生物
魔法で動く生物。 広義だとスライムなんかも含むかもしれないが、今回の定義は狭義。
・文明の遅れた現地戦力
イミフ。 時間旅行や恒星間旅行すら実現している超魔法文明なのだがな。
まぁ、戦いを知らないという意味では遅れてるかもしれないが。