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模型戦記  作者: BEL
第9章 模型大戦
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第59話 おっさんズvsおっさんの海戦 その8

 第2機動艦隊を救援すべく、本隊から分かれて敵戦艦艦隊へと進む臨時第32戦隊。

率いるはクイーン・エリザベス級戦艦ウォースパイト。

欧州艦は迷彩している事が多いが、この艦は迷彩していない。


 隊形は複縦陣をとり、右側に旗艦ウォースパイトとドイッチュラント。

左側には重雷装巡洋艦北上を先頭に5隻の駆逐艦が続く。



「敵艦隊、右に変針。 反航戦になります」


「こっちを狙うか。 良いだろう、ウォースパイトとドイッチュラントは砲戦用意。 北上と駆逐艦は機を見て雷撃を行え」

「臨時第22戦隊に通達。 全速で合流し、戦列に加われ」


「はっ!」



 ウォースパイトとドイッチュラントは20ノットに増速、北上と駆逐艦は26ノットに増速し、雷撃ポイントを伺う。



「敵艦隊、距離18000! 敵戦艦発砲!」


「左転舵、敵艦隊を全砲門で捉えよ」



 既に左にいた水雷戦隊は前方に過ぎ去っており、左回頭に問題は無い。

戦隊司令の命を受け、艦長は具体的指示を出す。



「取舵20!」


「取舵20!」



 操舵手は復唱すると、舵輪を操作する。

イマイチ舵の利きが悪いウォースパイトだが、ゆっくりと左に向かう。

旗艦の回頭を見て、後続のドイッチュラントもその後に続く。


 後方から左側方にかけ何本もの水柱が上がる。

その距離は何の被害も無い程離れているものの、水柱の間隔の狭さは、砲撃の正確性を示していた。



「近いな」


「ええ」


「夾叉は時間の問題だな。 いつ撃てる」


「あと30秒お待ちを」



 回頭を終え、砲撃用の諸元計算も終え、全ての準備を整えた2隻は命令を待つ。



「よし、砲撃開始!」



 ウォースパイトの8門の15インチ砲とドイッチュラントの6門の28cm砲が火を噴く。


 25秒後、敵艦隊の前方にいくつもの水柱が立つ。



「近いな、修正!」



 戦艦同士の戦いは戦車が砲を撃ち合うのとは異なる。

直接狙って当てるのではなく、敵を夾叉し、後はその状態を維持する。

そうする事で「いずれ、どれかが当たる」という砲撃だ。


 流石に新しいだけあって、敵の方が先に夾叉を達成した。

ブリッジの面々に緊張の色が出る。


何しろ史実ではビスマルクが距離14000でフッドを撃沈している。

ウォースパイトは戦艦ではあるが、その水平防御性能はフッドと大差ない。



「案ずるな、落ち着いて捕えよ」



 戦艦同士の砲戦に確実なものはない。

史実が再現される保証など、何処にもないのだ。



 速度を上げて別れた北上と駆逐艦はその後左180度回頭の上、更に回頭して敵艦隊の進路を塞ぐ形で12000まで接近していた。

既に敵戦艦の副砲がこちらを撃ち始めていたが、被害はない。 そしてこちらも各艦が主砲で応戦しているが、戦艦相手に有効なダメージは与えられていない。



「敵駆逐艦に動きは無いか?」


「ありません! 」


「どういうつもりだ? 我々を無視するのか?」



 水雷戦隊の襲撃を防ぐべく、本体と分かれて迎撃に来るものと思われたが、その様な動きは無く、前に出ることなく単縦陣の後ろに付いている。

2隻で6隻の相手は出来ないと見たのか、あくまで戦艦を攻撃するための艦という認識なのか。



「まあよい。 全艦雷撃戦用意、反航体制に入った後距離6000にて扇状発射」



 艦隊は35ノットに増速し、北上を先頭に突撃体制に入った。



******



 旗艦ティルピッツでは、前方に出てきた敵軽巡と駆逐艦が速力を上げたのに気づいた。

艦長はその動きを訝しむ。



「まさか、昼間から魚雷戦をするつもりか?」


「艦長、敵艦はおそらく日本艦、あの酸素魚雷を使う気でしょう」



 進言した副長は敵艦隊を双眼鏡で目視し、陣容を確認していた。



「酸素魚雷か、召喚時に付与された知識でしか知らないが、威力が大きくて長射程の魚雷と言うだけで、普通の魚雷には違いないだろう」


「ええ」


「ならば、雷跡を見て回避すれば良いが、敵はそれを見越して反航戦で仕掛けて来ているのだろう」



 魚雷戦を反航戦で仕掛けるのは、一般的には我彼の戦力差が大きい時だとされている。

砲撃との連携が難しく、雷撃のタイミングもシビアな反面、敵の攻撃に晒される時間が短く、離脱も容易だ。


そして、これは攻撃を受ける側も同じだ。 魚雷接近を確認してから対処する時間は短い。


 そして同等の戦力なら、同航戦を選ぶことが多いだろう。

互いに巡洋艦を含む水雷戦隊同士なら、敵の攻撃も限定的だ。


 今回の場合、戦艦に向かっていくとなれば、激しい攻撃を受ける可能性がある。

副砲に撃たれる時間を短く抑えるなら、反航戦が向いているケースが多いだろう。



「監視を厳にせよ、それと、高射砲も迎撃に加えろ、副砲だけでは阻止しきれないかもしれん」


「はっ!」


「しかし、拙速だな。 もう一つの巡洋艦部隊と合流してから来るものと思っていたのだが」


「あちらの艦隊の巡洋艦は雷撃戦をしないのかもしれません」


「うむ、だが駆逐艦らしき小型艦を率いていたように見受けられたが」


「そうですね。 ちょっとわかりませんね」



 実のところ、酸素魚雷は無駄に射程が長すぎる所がある。

乱戦で使うと、同士討ちの危険があるので、合流前に攻撃に踏み切ったものだ。

もちろん、回避運動などを強要する事で、砲撃を阻害する効果も狙っている。 既に戦艦同士の砲撃戦に突入しており、彼らにしてみれば、いつウォースパイトが被弾するか判らないという意識があったのだ。


 そして艦隊司令は後方の2隻の駆逐艦に、敵水雷戦隊の妨害を指示した。

2隻の駆逐艦は左側から戦艦群を追い抜く形で前に向かう。



「敵に魚雷発射があれば、ティルピッツ、シャルンホルスト共に突発的な回避運動に入る。 衝突しないよう注意せよ」



 現状でも砲撃戦を行っている関係で、その航路は一定していない。

艦隊を分けるという事は事故率が上がるため、安易に行うべきではない。 襲撃のタイミング予測だけの問題ではなく、これもあって駆逐艦を同行させていたのだ。

だが、敵の行動が単なる牽制ではなく、雷撃の可能性が高まったため、リスクを承知で出さざる負えないのであった。



 そして、彼らが懸念していた魚雷の発射が実施された。

ティルピッツで敵艦を監視していた兵はその動きを捕らえた。 だがすぐには報告できなかった。

確かに敵艦の横に魚雷が突入した水しぶきが上がったようなのだが、その後の魚雷の航跡が見られないのだ。

水兵は状況を整理し、艦橋に報告した。



「敵艦魚雷発射するも、失敗の模様。 航跡無し。 沈んだか、故障で自走しなかったものと思われます!」



 たが、この報告、信じて良いのかな?

用語集


・この艦は迷彩していない

元キットでは1940年が単色、1944年が迷彩の指定となっている。

日本艦の様に後になると対空火器が増えるといった設定が無いため、塗装が楽で状態が健全(1944年は3番砲塔が動かない)な1940年を選んでいる。



・夾叉

既に何度も出ているが、今回は意味が解らないと何をしようとしているのかが判らないので、簡単に解説。

数発(通常6発以上)撃った砲弾が、敵艦を囲むように手前と向こう側に着弾する状態。

方角と距離が合っているので、いずれ命中弾が出るという確率頼りの砲撃の際に目指す状態。

詳しくは(正確には)検索してもらいたいが、本作を読むにはこのレベルの理解で十分だろう。



・水平防御性能はフッドと大差ない

もっと近づけば舷側装甲の違いが出るが、砲弾が上から降ってくる場合、水平防御が問題となる。

なお、ビスマルクの一撃であっという間に沈んたため「フッドは紙装甲」という誤解があるが、一次大戦型の戦艦並みの装甲は持っていた。

ウォースパイト(クイーン・エリザベス級)の装甲が薄いのではなく、フッドの装甲が戦艦並みなので、人によってはフッドを「高速戦艦」と呼んでいる事もある。



・確実なものはない

ミリオタ界隈では結果原理主義(発生した事至上主義)を信奉する人も少なくありませんが、本作ではその主義は採用しておりません。



・召喚時に付与された知識

召喚に関わった者の知識なので、この場合土井の知識となる。

このため、第二次大戦中のドイツ海軍士官としての知識と土井の知識の合算が、当該ホムンクルスの知識となる。


なお、土井の日本海軍に対する知見は、一般人より上※なのは確かだが、そんなに詳しくはない。

彼の「専門」は第二次大戦でのドイツ陸軍である。


※一般人は酸素魚雷なんて単語すら知らないだろう。



・反航戦が向いているケースが多いだろう

魚雷艇による襲撃なら確実だろうが、駆逐艦や巡洋艦まで含む艦隊となると、たとえ戦艦相手でも必ず反航戦が良いとは限らない。

今回は「敵も魚雷を持っている」ため、安全を重視した。


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