第59話 おっさんズvsおっさんの海戦 その6
「回避!回避!」
左右より同時に迫る魚雷。
右回頭で避けようとすれば、左の魚雷に船腹をさらしてしまうし、右からの魚雷へ突っ込んでしまう。
左回頭で避けようとすれば、右の魚雷に船腹をさらしてしまうし、左からの魚雷へ突っ込んでしまう。
どうすればよいか判らず、判断が遅れる。 さらに各艦が互いに相手がどう動くか判らないまま右往左往し、それは攻撃よりも大きな被害に繋がる。
「馬鹿馬鹿、何でそこにいる!」
「うわぁ」
右回頭したアドミラルシェーアは、左回頭したティルピッツの舷側に突っ込む。
20ノット以上の速度で衝突し、アドミラルシェーアの艦首部分は大破。 ティルピッツは左舷に破口を生じ2度傾斜する。
衝突による損害自体はそう大きなものでは無かったが、回避運動が途中で止まったのは問題だった。
直後、アドミラルシェーアは艦尾に魚雷が命中し、航行不能に陥る。
ティルピッツは何とか被害を免れた。
前方で衝突が起きたが、後続のシャルンホルストとグナイゼナウには影響しなかった。
グナイゼナウは右回頭し、シャルンホルストは左回頭で、互いに外側へと離れる機動であり、前方の艦とも接近しないためだ。
だが、回避という意味では不十分であった。
グナイゼナウ艦首に水柱が上がる。
魚雷の直撃により艦首は破壊され、一気に速力が低下する。
魚雷攻撃を終えた攻撃隊は去っていく。
艦隊はようやく空からの脅威から解放された。
「艦隊を立て直せ、単縦陣に移行する」
旗艦からの指示でバラバラになった艦隊は隊形を整える。
そして、アドミラルシェーアとグナイゼナウを艦隊から切り離し、ティルピッツとシャルンホルスト、それに2隻の駆逐艦の4隻だけに再編成する。
そこへ彼らが待ちに待った報告が入った。
「見つけました! 連絡のあった想定位置通りです!」
「よし、方位を合わせて24ノットで前進だ」
ティルピッツの対水上レーダーが、ヘリから敵艦隊の想定位置について連絡を受けていたその場所に、艦隊を発見したのだ。
距離は4万8千。 水兵達は「今度はこっちの番だ」と意気を上げる。
*****
第3特務艦隊旗艦セーラムでは次の対応を巡って緊迫していた。
「敵のミサイルはあとどのくらいで発射されると見るか」
「明確には判りませんが、15分以内と評価しています」
「攻撃隊は間に合うか?」
「抵抗が無ければ」
「抵抗はあるだろうな」
「ええ」
攻撃機はスカイレーダー4機とA-4スカイホーク1機、後はロケット弾を装備した戦闘機が十数機しかなく、キエフ級の防空ミサイルをどこまで突破できるか未知数なため、誘導用の戦闘機隊とミサイルを避けて超低空で進む攻撃隊という先の戦法を再度行う必要があると判断された。
なお、スカイホークは戦闘機隊と共に高空を飛んでいる。
それでも、最初とは異なりモスクワの対空ミサイルは機能しないと見られているため、攻撃に踏み切ったものだ。
「現代の様に電子戦機があればなぁ」
「そうですねぇ」
実のところ、F/A-18Gグラウラーが「飛行場」にはいたりする。
流石にビクトリアスでの運用は無理なので搭載していない。 陸上からの航空機が参加できない制限は思いの外、重荷であった。
そこへ、第1機動艦隊旗艦摩耶より提案が届く。
それによると、軽巡洋艦エイジャックス、ベルファストと駆逐艦エスキモー、コサックⅠを艦隊から分離、敵艦隊に向け進軍させるとの事であった。
敵艦隊の残存はキエフ級空母1隻と大戦型ドイツ駆逐艦1隻の合計2隻と報告を受けており、最終的に砲雷撃戦で決着を図る方針だ。
「承知したと返答してくれ」
「はっ!」
そして話題は左翼を担当する第2機動艦隊に移る。
「間もなく砲撃戦が始まるだろう。 こちらからも支援を送るが、リストアップは終わっているか」
「はい、ウォースパイト、ドイッチュラント、北上、島風Ⅰ、島風Ⅱ、初雪、綾波、響が妥当だと思います。 第1機動艦隊のレパルスは被害を鑑みるに、留め置くべきかと」
「なるほどな。 ところで夜戦になるかな」
「昼のうちに決着が付けば良いのですが、夜戦になる事もあり得るかと」
「よし、直ちに艦隊から分離、臨時第32戦隊を編成して向かわせてくれ」
「了解しました」
そこへ、第3特務艦隊のミサイル艦「モスクワ」から報告が届く。
少々紛らわしいが大英の艦隊にもモスクワがおり、土井の艦隊と同じくヘリコプター巡洋艦であり、そもそも元キット自体同じSKYFIX の1/600。
「戦闘機隊に向けSAMが発射された模様」
「始まったか」
「うまく行くと良いのですが」
「そうだな」
*****
応急補修を終えたミンスクはモスクワを放棄し、駆逐艦と共に右に回頭して第2艦隊後方へ向かうコースに入る。
接近する航空隊を探知したものの、残る戦闘機は被弾して作戦参加が難しい2機のみ。
航空隊を失った空母は、自らの重武装を頼りに作戦を継続する。
「敵機射程内に入ります」
「よし、シュトルムで迎撃」
2基の連装発射機から発射される4発のM-11 シュトルム艦対空ミサイル。
ただし、現代の対空ミサイルの様に次々とは放たれない。 セミアクティブ・レーダー・ホーミング方式のため、多数のミサイルを同時誘導するのが難しいためだ。
それでも、50年代の爆装した戦闘機相手なら十分な能力を持っている。
しかし、侵攻する航空隊は散開し、回避運動を行う。 彼らの装備は多くがロケット弾のため、機動性は余り低下していなかった。
相手の装備の特性を考慮して、あまり重装備はしないようにしたのである。
「着弾! ……駄目です、1機しか減っていません! 敵機散開して迎撃を逃れた模様」
「くそっ、小型の戦闘機か」
「放置しますか」
「いや、軽装でも対艦能力はあり得るし、付近に展開しているヘリを狙われる危険もある。 迎撃を続けろ」
「了解しました!」
船を沈める重装備は無くとも、小型火器でも武装やアンテナ類を潰される可能性がある。
向かって来る敵機を放置するという選択肢はない。
希望の乏しい戦いが続く。
用語集
・電子戦機
ここで言う電子戦機とは狭義のもの。 敵防空網制圧 (SEAD) 任務に付く航空機で、米空軍ではワイルド・ウィーゼルとか呼ばれている。
・夜戦になるかな
ミンスク相手なら昼間から駆逐艦を向かわせても問題無さそうですが、戦艦を含む艦隊相手に昼間から水雷戦隊を突入させるのは危険。
なので、使いどころは夜だろうというお話。
・多数のミサイルを同時誘導するのが難しい
ちなみにビームライダー方式だと、難しいではなく不可能と言う。