第59話 おっさんズvsおっさんの海戦 その3
第1機動艦隊では敵の通信と思われる電波を捉えていたが、残念ながら内容の理解は出来なかった。
戦場に艦隊が来ているのは判っているのだから、無線封鎖も意味がないという事なのだろう。
そして、暗号化や符丁によって内容が判らなければ問題ないと考えているようだ。
この辺り、衛星による監視を受けるのが当然の現用艦隊と、第二次大戦時の常識の違いなのだろう。
攻撃隊の発艦を進めていると、デュケーヌのレーダーが接近する12機の機影を捉えた。
「今度は飛行機か。 空母が来ているのか。 直ぐに摩耶に連絡しろ」
「ははっ」
連絡を受けた摩耶は飛龍に、先行する葛城隊を接敵させ、敵機の正体を確認させよと指示を送る。
葛城が撃沈される前に発艦できた航空機は4機の烈風だけ。
指揮は飛龍の航空隊司令が引き継いでいた。
「……と言う訳だ、やれると思うなら、報告後空戦に入る事を許可する」
「おお、任せとけ。 敵討ちだ」
本来は飛龍の航空隊に合流すべき所だが、母艦がやられた者たちだ。 敵機を目の前に引けと言われてもねぇ。
「敵機は噴進式だろう。 巴戦は不可。 正面から突っ込む以外ない」
臨時編隊長に任じられたホムンクルスは、3機の僚機に指示を出した。
接近する両編隊。 デュケーヌは敵編隊が2つに分かれ、3機だけ烈風隊に向かっていくのを確認した。
直ちに直接連絡が送られる。
「ほう。 3機だけで我らの相手をするという事か。 なめられたものだな」
*****
「敵機は速度からレシプロ機の模様。 やれるのは我々だけだ。 ぬかるなよ」
「おお」
3機のYak-38が高度を上げつつ探知された戦闘機と思われる敵機へと向かう。
この3機はUPK-23-250 23mm機関砲ガンポッドとFAB-500 M-62 500キロ通常爆弾を2つづつ搭載していた。
残り9機は500キロ爆弾は同じだが、ガンポットの代わりにR-60空対空ミサイルを積んでいた。
R-60の能力ではレシプロ機相手には向いていない。 Yak-38は固定武装が無いため、R-60装備機はジェット戦闘機が現れる場合に備える。
3機だけガンポッドにしたのは、レシプロ機と戦う事を想定してのものだ。
それでも、積極的に空戦したい訳ではない。 500キロ爆弾を2発積んだままの空戦とかやりたくは無いからな。
速度に物を言わせて一撃離脱し、そのまま爆撃へ向かう算段だ。
どうせ撃ち漏らしても、艦隊にとって脅威とはならない。
攻撃隊の邪魔にならない程度に相手をすればいい。 通り過ぎれば付いて来れないだろう。
というのが、彼らの方針であった。
Yak-38はミンスクからの誘導に従って迎撃コースを調整しようとするが、烈風もデュケーヌからの連絡を受けて飛行経路を調整する。
(Yak-38は捜索レーダーを積んでおらず、自分で相手を見つける方法は目視しか無かったりする)
結局双方はほぼ正面から相対する形となった。
「よし、もらった!」
2つのガンポッドから23mm砲弾が前方から接近するプロペラ機へと吸い込まれて……と思った瞬間、横転してかわされる。
「馬鹿な、くそっ、大戦中の機体は動きが読めねぇ」
次の瞬間、自機を取り巻く曳光弾の雨に襲われる。 それは2機の烈風が装備する、合計8門の九九式20mm二号機銃四型から放たれた20mm砲弾の雨だ。
「うぉっ」
爆装したままの機体は重く、避けられずに被弾する。
たかがレシプロ機と侮って爆弾を捨てずに空戦に挑んだ事は誤りであった。
むしろ、全機爆装とかせずに、3機だけでも空戦装備のみ行って護衛戦闘機とすべきであった。
そんな後悔を思いつつ、Yak-38は落ちていく。
脱出装置も被弾して機能せず、ミンスクと僚機へダスヴィダーニヤと通信を入れ、それが最後の通信となった。
残りの2機はジェット戦闘機の意地を示した。
烈風の1機は23mm砲弾複数の直撃を受け空中で四散した。
もう1機も主翼に被弾し、高度を落としつつ撤収していった。
しかし、2機の烈風を撃破したものの、そのまま前方へ離脱する事は叶わず、2機とも被弾。
墜落を免れるため、爆弾を捨てて帰投する事となった。
*****
追いつけない速度で離脱していく敵機を見送り、残った2機の烈風は葛城から発進した攻撃隊に合流する。
と言っても、実際に合流した先は高度6千メートルを飛ぶ零戦隊だ。
「敵に第2陣があるかどうかは不明だが、警戒しつつ突入せよ」
実際に対艦攻撃を行う攻撃隊は超低空を飛んでいた。
魚雷を装備した97艦攻は勿論のこと、本来急降下爆撃をするはずの99艦爆までもが、海上十数メートルの低空で敵艦隊がいるであろう地点に向けて飛んで行く。
敵が大型対艦ミサイルを撃ってきた事から、少なくとも冷戦中期の艦艇がいると考え、高空侵入では到達できないと考えた大英の指示であった。
方位の微調整は少し離れた(真上ではない)所を飛んでいる零戦隊を通じて行われる。
零戦隊の目視と、デュケーヌのレーダーが捉えるヘリコプターの動きから、敵艦を探すのだ。
そんな零戦隊に向け、4発のミサイルが迫る。
「な、何だ?」
ミンスクとモスクワの2艦から発射されたM-11シュトルム中距離艦対空ミサイルの近接信管が作動し、4機の零式艦上戦闘機21型は粉々の火の粉となって飛び散った。
さらに後続のミサイル4発が編隊に迫る。
「散開!! 敵の噴進弾だ! 近づいただけで爆発する! 引き付けて回避とか考えるな! そんな暇は無い」
合流した烈風2機を加え、30機以上の勢力となっていた零戦隊だが、SAMに対抗する術はない。
編隊をバラし散開するが、次々とミサイルによって撃墜されていく。
「くそっ、だが、愚かなり。 数に限りある噴進弾を我らに使うなど……」
烈風2機を含め、19機が撃墜された所で、撤収命令が下される。
だが、ミサイルの発射位置は特定され、攻撃隊は高度を10メートル以下まで下げながら突入していく。
そして、4キロまで接近し、攻撃隊は目視で2隻の大型艦を確認した。
「突貫!!」の声と共に99艦爆16機と、97艦攻16機が突入していく。
99艦爆の搭乗員は反跳爆撃の訓練を行い、マスターしていた。
距離2キロの時点で敵艦からの対空砲火が始まった。
ミンスク搭載の AK-726 76ミリ連装砲 は本来15キロ以上の射程があるが、低空侵入する攻撃隊の発見が遅れたため、こんな距離になってから発砲を始めたのであった。
続いて AK-630 30 mm多銃身機銃も射撃を開始する。
モスクワも AK-725 57mm連装速射砲 の射撃を開始した。
*****
高空より迫る零戦隊を攻撃隊と誤認し、撃退したと油断していた所、帰投中のKa-25からの通報で攻撃隊の接近を知ったという大失態であった。
「くそっ、まんまと騙されたわ」
「仕方ありません、我々の装備は10メートル以下から侵入する航空隊など想定していません」
「至近距離にもヘリを上げておくべきだったか」
至近距離の対潜捜索は自分で出来るため、Ka-25は離れた所に派遣していた。
今回はたまたまエンジンの不調が発生した機体が帰投中に、母艦に迫る編隊を見つけたのであった。
「ここまで迫られてはミサイルは使えんが、あんな旧式にやられる訳にはいかん。 全対空砲で落とせ!」
この艦隊は3隻。 中央に旗艦空母ミンスク、右翼にヘリ巡モスクワ、左翼に駆逐艦Z23が横並びになっていた。
航空隊は右側から突入していく。
用語集
・暗号化や符丁
暗号化と言っても、ロシア海軍ご用達の暗号を使ったのでは、ビスマルクやティルピッツでは受信しても復号できない。
なので、予め用意した符丁が必要になる。
だから現用艦は分散して各艦隊に配置しろとあれほど言った……いや、誰も言ってないな。
・R-60の能力ではレシプロ機相手には向いていない。
改良型のR-60Mなら、上手くすれば当たるかも知れない。
(F-14が零戦を撃墜したようにね < それは史実ではない)
・横転
重戦闘機が得意で、軽戦闘機が苦手とする機動。 旋回とは逆ですね。
回避機動としてはよくあるもの。
右か左に縦回転しつつ、横にずれる機動。 コクピットを内側にして動く。
基本は半横転なので、そのままだと背面飛行になる。
もう半回転するか、下方半宙返りをして元の姿勢に戻す。 速度ががっつり落ちるので、もう半回転する事は余りない。
(半横転からの下方半宙返りはスプリットSと呼ばれる事もある > 通常スプリットSの開始はバンクで背面飛行に入るらしい)
またはバンクで元の姿勢に戻すが、バンクで180度戻すのは時間がかかるので実戦ではあまりやらない。(レシプロ機の場合)
横にずれるのが横転。ずれないで姿勢だけ回すのがバンク。
横にずれるだけなら下方に横滑りする機動もある。 編隊からの対地攻撃へ向けて、右(左)バンクして右(左)方向へすべるように降下していくのは、定番。
・自機を取り巻く曳光弾の雨
マンガなんかでは点線で描かれる事も多い機銃弾ですが、実際はそんなに真っすぐ同じ航跡は描きません。
地上に固定されている機関銃ならともかく、支える物も無い空中で射撃しているのです。 機体は揺れ、1発ごとに微妙に違う軌道で飛んで行きます。
結果、バラバラに飛んで行き、目標を包む事になります。
実際の所は、戦時中のガンカメラの映像を見ると判ります。
・10メートル以下から侵入する航空隊など想定していません
キエフ級やモスクワ級のレーダーではシークラッター(海面からの乱反射)対策はまだ不十分。
超低空からの侵入者を見つけるのは困難だ。
なお、現代の艦艇ならシースキミングでやって来る対艦ミサイルを警戒するため、シークラッター対策が出来ている。
なので、2キロどころか20キロ先でも発見できる。