第59話 おっさんズvsおっさんの海戦 その2
第2機動艦隊旗艦 大淀艦橋では、艦長が艦隊司令と電話をしていた。
「第1艦隊は水偵がレーダーに捉えられ、その下にいるだろうと推測され、誘導弾が飛んできたという事だ」
「まさか60キロ彼方の単機を捕らえられるとは」
「かなり高性能というか、時代が進んでいるようだ。 戦場では対角線上にいる我々の水偵も捕えられている公算が強い」
「では、こちらにも来ると?」
「判らん。 敵さんの次発はまだ確認されていない。 1回しか撃てないのか、次まで時間がかかるのか。 それとも温存しているのか」
「難しいですね」
「とにかく、位置を変える事が必要だ。 撃つ撃たないは敵さんの事情だが、こちらの位置が露呈しているであろうことは確実だろう」
大淀艦長は電話を切ると、増速と進路変更を指示した。
いつもの航空基地に置かれた統合作戦本部では、大英達が艦隊からの報告を聞き、頭を悩ませていた。
秋津は驚愕の声をあげる。
「おいおい、大型対艦ミサイルってそんなモノがあるのかよ」
「うーん、キエフ級かスラバ級、あとエコーIIかな」
「あるのか?」
「3つともあるよ。 召喚条件が届いてないから『ウチ』の艦隊には無いけど」
ここで言う「ある」とは「現実世界にある」という意味ではなく「キットがある」という意味だ。
「じゃ向こうの方が先に進んだのか?」
「そう言う事になるな。 『どんなに考えづらくても、不可能な選択肢を除いて行けば、残ったのが真実だ』って格言もあるし」
「いや、模型じゃ無くて本物かもって可能性はあるんじゃないか」
「それ、どうやって命令を承諾させるん? ミサイルは艦長の私物じゃ無いんだけど」
「やらないと帰れないとか言われれば使うしかないだろ」
「そうかぁ。 それされると困るな。 ニミッツ級10隻とか持ってこられたら勝てんじゃん」
「そんなにあるのか?」
「一つの世界から持って来るなら全艦って事だから、ドックで修理中のものまで持って来る事になるけど、『複数の異世界』からなら、いくらでも調達できるんじゃね?」
「それは酷い」
「まぁ、そこまでのレベルだと天使じゃ無理だろうから、神様直接介入みたいな話になると思うけど」
「そうか。 1隻持って来るだけでも俺らの召喚より大変そうだな」
「一応聞いてみようか」
そう言うと、大英は横で話を聞いていたティアマト神にアキエルへ通信を繋いでくれるよう頼んだ。
事情を聞いたアキエルはちょっと考えて回答した。
「それはあり得るけど、今回は無いわね」
「あり得るんだ」
「理論上はね。 アマテラス神に気付かれるから、やらないとは思うけど」
「アマテラス? アマテラスって天照大神のこと?」
「それかどうかは判らないけど、21世紀の日本で一番力を持っている神はアマテラス・アメイジアという方だと判明しているわよ。 今はいない方だから、ティアマトちゃん達の誰かの子孫だと思うけど」
「多分天照大神と同じ存在じゃないか」
秋津はこれまでの状況から、そう推測する。
「で、み使い召喚も、レリアル様の天使召喚も同じだろうけど、アマテラス神に気付かれないよう慎重にやっているのよ」
「なんで?」
大英は素直に質問する。
「見つかったら色々面倒だから」
「そうなんだ」
「それで、今回の件だけど、何万トンもの船を召喚したら、流石に気づかれると思うのよ」
「同じタイミングで戻してもか?」
秋津は疑問を口にして、すぐ愚問だと気付く。
「いや、沈んだら戻せないか」
「まぁ、それもあるけど、時空への影響も桁違いに大きくなるし、衛星の魔力消費でも警報とか出てないから」
「警報?」
「一定以上の消費があると、警報が出る設定にしているの。 普通の天使召喚を大幅に超える様な魔力行使があると、すぐ判るようにね」
納得する秋津。 だが、大英はまだ納得していないようだ。
「今回は違うとして、キエフ級は日本の船じゃないけど、アマテラス神って地球全体を管轄してる訳じゃ無いよね」
確かに、さっきアキエルは「日本で一番力を持っている神」と言っていた。
「……そうなんだ。 となると話は違って来るわね。 確かに日本の外には神族の力が及んでいないっぽい資料はあるわ」
「え、それじゃ『他の神』の管轄と言う訳じゃなく、そもそも『管轄している神がいない』って事?」
「未来の事だからはっきりとは情報が取れてないけど、大体そんな感じね」
現代は神々から見て思いの外深刻な問題を抱えているらしい。
それはそうと、現状に対して何か対策はあるのかと言うと、乏しい。
秋津が話題を戻す。
「しかし、今から出来る事ってあるのかな」
「無い。 今からフネを追加しても間に合わないし、そもそもミサイルに対処できる艦はまだ無理」
「となると……飛行機が使えないのは痛いな」
「ああ、状況を見て召喚。 という技は現地まですぐ行ける飛行機の特権。 それが禁止されているのは痛いな」
「レギュレーションが無ければ何かあったのか?」
「FS/T-2改とグリペンのASMは補充済み。 F-1にも積める。 A-7やA-6、それにF/A-18も出せる」
「そっかぁ、厳しいな」
「第3艦隊に頑張ってもらうしかない」
「大丈夫かなぁ」
「相手が一点豪華なら、なんとかなるさ。 総合的に艦隊組んでたらヤバいけど、二次攻撃が無いという事は、あまり数は無いのかもしれない」
「なるほどな」
「それに仕掛けもあるし」
大英は敵の戦後艦艇の数や質に応じた対応をするよう指示を返すのであった。
*****
ミンスク艦橋に報告が届く。
「3番より報告、敵潜水艦と思しきものを撃沈!」
ミンスク搭載のKa-25対潜ヘリコプターが1隻の潜水艦を探知、友軍の潜水艦は作戦に参加してない事から、対潜魚雷を投下、撃沈を確認したという事であった。
「各艦に警報。 近海に敵潜が潜んでいる可能性あり。 警戒せよ」
「はっ」
だが、その直後今度は悪い報告が届いた。
「ビスマルクより報告! 我魚雷攻撃を受ける。 復旧は困難。 旗艦をティルピッツに変更する」
「馬鹿な、一体何隻の潜水艦が潜んでいるんだ」
驚く艦長に艦隊司令は告げる。
「閣下によれば10隻は下らないとの話だが、もしかしたら、もっといるのかもしれない」
「まさか」
「艦隊を分けたのが裏目に出たかもしれんな……」
司令は窓の向こうでミンスクと並走するモスクワ級ヘリコプター搭載巡洋艦「モスクワ」を見ながら語る。
土井海軍の水上艦は10隻しかない。
だが、離れて戦うミンスクとモスクワ、接近して砲戦するビスマルク以下の艦艇では運用思想が違いすぎるため、土井は艦隊を2つに分けたのであった。
「司令、第2艦隊には満足な対潜装備がありません。 被害が増えるのでは?」
「よし、モスクワに指令。 対潜ヘリ8機を第2艦隊方面に派遣せよ」
「はっ!」
ヘリは15分ほどで第2艦隊の海域に到着するだろう。
航続距離的にも問題は無く、むしろ最初から出すべきであったのではなかろうか。
そして第2艦隊はパニック状態になっていた。
旗艦ビスマルクがいきなり雷撃を受け、左舷に傾いている。
水柱と爆発音の数から、4発もの魚雷が左舷側に命中したらしい。
防御の高さで知られた巨艦であったが、傾斜は拡大するばかり。
司令官は脱出し、並走するティルピッツへと向かう。
ビスマルクはティルピッツと共に複縦陣で進撃していた先頭にいた。
輪形陣のように、周りに護衛艦艇がいなかったのが災いしたようだ。
後方にいた駆逐艦2隻が艦隊左側に進出し、敵潜を捜索しているが、見つからない。
「まさかこの位置で潜水艦に襲われるとはな」
「おそらく、作戦時間前から海域に入って待ち伏せしていたのでしょう。 攻撃さえしなければ、先に入っていてもレギュレーション上は問題ありませんから」
「敵とは距離を取るはずだという、思い込みの裏をかかれたな」
「ええ」
作戦海域に入ってまだ30分も経ってない。 開戦時刻に海域に突入していたのでは、この位置にいるはずがないという訳だ。
ティルピッツ艦橋では艦長と副長が状況について話をしていた。
「艦長、我々も潜水艦を持って来るべきだったのでは……」
「敵さんには戦後型の小型艦が複数あるらしい。 被害が出るだけで戦果は望めない。 攪乱する効果はあるかも知れんがな」
「ミンスクの存在を事前に知らせた方が良かったかも。 そうすれば、彼らも潜水艦を出さなかったのでは?」
「そうかもな。 だが、そうすると別の問題も起きるだろう」
「はい」
そこへ、連絡が届く。
「第1艦隊より連絡、15分で対潜ヘリ部隊が到着するとの事です」
「そうか。 司令官がいらしたらお知らせせねばな」
「アドミラルシェーア、右翼に入ります!」
後方にいた装甲艦アドミラルシェーアは、ティルピッツの右舷側に位置を変えた。
右側からの攻撃に備えての事だ。
対潜能力は無いが、盾にはなるとの考えだ。
まぁ、あまり現実的ではないが邪魔にはなるだろう。
両軍ともに損害を出しながら、戦いは続く。
用語集
・艦長が艦隊司令と電話をしていた
大淀の旗艦としての司令部は艦橋には無く、艦後部にあります。
実際に艦橋と司令部が電話で会話できたかどうかは判りませんが、無いと伝令が走る事態になるので、多分あるという想定です。
もう少しのんびりした状況なら、艦長は副長に指揮を任せて、司令部へ出向いている事でしょう。
本来の用途は連合艦隊旗艦なので、前線で艦隊指揮を執る事ではないため、ちょっと使い勝手が良くないようです。
・スラバ級
現代ではモスクワ級と言う。
・ティアマトちゃん達の誰か
現時点ではディヤウス・パンゲア、ティアマト・アドリア、ガイア・パノティアの3柱。
対象は今後増えるかもしれないし、もしかしたら子孫ではなく妹かも知れない。
・何万トンもの船
エコーII級潜水艦だと何万トンというサイズではないが、そこを突っ込んでもしょうがない。
なにしろミサイルを発射したのはミンスクなのだし。
・……そうなんだ
アキエルは艦級名や艦名を聞いても、それが何処の国のものかは判りません。
ま、当然ですね。
・A-7やA-6
流石にビクトリアスでの運用は無理と判断したので、載せていない。
F/A-18? 載る訳ないでしょ。
・防御の高さで知られた
実際に防御が高いのかと言うと、実はそうでも無かったりする。
・モスクワ級ヘリコプター搭載巡洋艦「モスクワ」
名前が同じだけで黒海で沈んだ巡洋艦モスクワとは別物。
先代のモスクワである。
・あまり現実的ではない
吃水が違うので、魚雷の深度を変えれば素通りである。 もちろん、全長も短いしな。
だが、余計なひと手間を要する事が攻撃のチャンスを減らすかもしれない。
効果はゼロではないが、あまり意味は無いだろう。 気休めですね。