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模型戦記  作者: BEL
第2章 異世界戦争
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第9話 おっさんズ、世界の理を知る その1

 さて、「第9話」などと話数は次に進んでいるが、前回と同じ日の出来事である。



 いつもの面々での夕飯を終えた大英がふと西の空を見ると、少し欠けた月の姿が見えた。

彼は驚愕の表情になる。



「つ……きだと?」


「どうした?」


「いや、月が……」


「ん?月がどうかしたのか?」



 秋津は特に疑問を持たなかったようだが、大英は何か「とんでもない物」を見たかの様で、傍に居た執政官に質問した。



「つかのことお聞きしますが、あれは月ですよね」


「はい、いかにも」


「月はあれ一つだけですか?」


「? もちろん月は一つですけど」


「なるほど」


「どうかしたか?」



 秋津の問いに大英は「ま、いいや。明日にするわ」と答え、この話題は終了した。



翌日。 朝食後。



「よっと」



 大英は2階の部屋で棚の上から白い円筒状の物体と、木製の三脚を降ろした。



「よし、使えそうだな」



 1階に持って降りると、それらを組み立て始めた。



「おっ、望遠鏡か。 すごいもの持ってたんだな」


「おう、中学の時に買ったものだ。 鏡が曇って駄目になってるかと思ったが、大丈夫だったようでよかった」


「それで何すんだ?」


「もちろん、空を見る。 地上を見ても逆さまでイマイチだからな」


「なんで空を?」


「確かめたいことがあってな」


「昨日言ってた『月』か?」


「ま、他にもあるけどな」


「ほう」



 この望遠鏡はその手の人たちからは「反射赤道儀」と呼ばれているものだ。

対物鏡はレンズではなく、反射鏡を使っている。

Comet社製で口径10センチ・焦点距離100センチ。

今どきの製品だともっと焦点距離が短いものが主流なのだが、昔のものなので長いのだ。

というか、彼が叔父(年が離れているからそう呼んでいるだけで正確には従兄)を通して注文した時は型番の末尾が100(POLARIS-R100)だったが、実際に届いた製品の型番にはLが増えて100L(POLARIS-R100L)になっていた。


 そして同時に新製品として鏡筒が短い100S(POLARIS-R100S)がラインナップに追加されていた。

やっぱ、1メートルは長すぎる。取り回しが良くない。ウチのバルコニーは狭いんだから。

って声が届いていたのかどうかは知らないが。


 大英は組み立て終えると玄関ホールに持っていき、トイレの扉の前に置いた。

本来なら「えらい邪魔」となるところだが、このトイレ、この世界に来て以来使われていない。

ま、下水道が無いんだから使えないよね。

上水道が無いのはバケツとかで水を運べばどうにかできても、下水道が無いのは如何ともしがたい。

……いや、そんな話はどうでもよろしい。



「暗くなったらのお楽しみ」



と言う訳で、外に出しやすい場所に置いて、本日の業務に就く事としたのだ。


で、本日の業務は……

 大英は「テントセット」などの制作。

 秋津は騎士達に「戦車と対峙した時の対処法」を講義する。

であった。


もちろん、一日中やっているわけでは無い。

大英は召喚もあるしな。


では、秋津教室の様子を見てみよう。



 城内の広場、練兵場とも呼ばれているが、そこにT-34/85が進み出ていた。

第1、第2、第3の各騎士団、それに近衛騎士隊から選抜された希望者、その数20名がその近くに集まっている。

そして彼らとT-34の間に立つ秋津が講義をしている。



「と言う訳で、この戦車には剣も槍も効かないし、ハンマーで叩いても、効果は無い」


「そんな馬鹿な、俺のハンマーは鉄の鎧さえ潰せるんだぞ」



 第2騎士団から参加していた力自慢の騎士が疑問を呈する。



「では、試してみてはどうかな?」


「良いのか? センシャは貴重なものだと聞いたが……」


「ああ、確かに貴重だが、それは叩いたら壊れる時に気にする事だろ?

それより、跳ね返って自分や周りの人に当たらないよう、そっちを気にしてくれや」


「おー、自信あるんだな、じゃ本気で行くか!」


「どうぞ」



と秋津は右手を差し出して、誘導する。

騎士はハンマーがT-34に届く距離、約1メートルまで近づくと、大きく振りかぶり、全力で車体前面中央を叩く。


 ガン! と大きな音と共にハンマーは跳ね返り、振るった騎士はのけぞり、ハンマーを持ってい()手を頭の上に持って行かれた。

そう。 持ってい「た」手である。


 今、ハンマーは彼の手を離れ、後ろに飛んでいたのであった。

幸い、誰にも当たらなかったが。

そんな事になっても倒れなかったのはさすがだ。

第2騎士団の入団試験をパスした事は伊達ではない。



「ば、馬鹿な……」



 彼は痺れた手をさすりながら、「お、俺のハンマー……」とあたりを見まわした。

第1と第3騎士団の面々は驚愕し、第2騎士団の強者たちは笑いながら「後ろだ後ろ!」と彼にヤジを飛ばすのであった。


 T-34は塗装に傷が付いただけで、壊れもしないし、凹みもしなかった。

そりゃ戦車と言えども非装甲部分を叩かれれば、その部分は壊れもするだろうが、秋津はわざと一番強い正面装甲板を叩くよう誘導したのであった。

45mmの装甲板相手では、騎士が振るう武器では何をどうやっても、どうにもならない。

実例を示したところで、秋津は騎士たちに対して語る。



「と言う訳で、理解できたかな。 戦車相手には今まで皆さんが持っていた武器は効果が無いって」



それを聞いた騎士たちは、どうしたらいいのかと困惑する。

だが、秋津はさらなるダメ押しをする。



「そして戦車はただ固いだけではない。 主砲や機関銃を撃ってくる」


「シュホウ?キカンジュウ?」



 何の事だかわからない騎士も少なくない。



「この砲塔から伸びている長い筒。これが主砲。

この間の戦いで火を吹く所を見た者も居ると思うが」


「ああ、轟音を上げていた」


「あの戦いでは、馬に乗った騎士4名が敵の主砲に撃たれ、一発で死に至ったと聞いている。

もし、密集したファランクスを撃たれたら、一撃で全滅する事だってある」


「ほ、本当か?」



 第3騎士団との戦いを見ていない第1、第2騎士団の騎士たちは、その威力が想像できない。



「騎士達を撃った4号は榴弾という砲弾を使っていたのだろう。

榴弾の威力は大きさで決まる。

4号は75ミリ。このT-34は85ミリだ」


「で、では、あの攻撃より強いのですか」



 実際に砲撃を受け、慌てた撤退を演じた近衛騎士隊の騎士は驚きながら聞いた。



「まぁ、大して違わないけど、少しは強いんじゃないか」



 陸自の155ミリりゅう弾砲と比べれば、75ミリと85ミリの差など「どんぐりの背比べ」である。



(そういや去年大英の家に行ったとき、米軍の170ミリ自走カノン砲を仕入れたって喜んでいたな。

まだ作ってないようだけど、アレが召喚されたら凶悪だろうな)



 ふと、思い出す秋津であった。


 もっとも、当の大英はしぱらくソレ(M-107)を作るつもりは無いようだ。

弾数が少なすぎて「手間対効果が低い」というのが理由だ。

実はもう一つ問題があって、人員が足りない。

付属するフィギュアが3名のため、砲を操作するには不足しているのだ。


 実車では砲兵は別の車両で随伴していたそうであるが、それのキットは無い。

まぁ、実際に召喚する事態となれば、他の兵員に代役をやらせる事になるだろうが、練度不足で本来の力は発揮できないだろう。

とはいえ、実力を発揮する程弾数は無いから(発射速度が遅くても)別にいいのかもしれないが。


 203ミリのM110や、ドイツの列車砲など世の中にはもっと大きな砲はあるし、戦艦の主砲なら口径だけでなく門数も多い。

艦艇なら搭載弾数も多いから実用性も十分ある。

それらと比べれば、2次大戦の戦車砲なんて豆鉄砲だよなぁ。

だが、その豆鉄砲ですらこの世界では、想像を超えた「驚愕の超兵器」なのだ。


 そして、それより遥かに低威力の車載機銃すら騎士たちには致命的に危険なのである。



「それから、この車体前面から出ている細い棒。

これが機関銃だ。小さな弾丸が連続して飛び出してくる。

1発でも当たれば致命的だ」


「こんな小さなものがか?」



 細く小さな機関銃の銃身を見ても、その威力は想像できない。

だが、近衛騎士隊の面々だけは例外だった。



「いや、確か騎士が一人倒されている」


「本当か?」


「本当だよ、それでだ、今実例を見せよう。 おーい、頼む」



 秋津に呼ばれたホムンクルス達が準備を行う。

二人がM1919A6と弾帯を持って秋津に駆け寄る。


「コレが機関銃。 色々なサイズのものがあるが、今は小さい奴を用意した」


 7.62mmの二脚機関銃なので、「小さい」という説明は間違っていない。

M2のような12.7mmのものが「大きい」という認識だ。

重量的には元々重機関銃として運用されていたものだから、結構重いけどな。


 そして50メートル程離れた城壁の手前に、騎士の鎧を枯草の束に着せた標的が立てられた。



「じゃ、2、3発撃ってみようか」


「はっ、閣下。目標に2、3発の射撃を行います」


「この距離で当てるのは大変では無いか」


「飛び道具らしいが、腕のいい騎士なら、矢を落とす事も出来よう」



(いや、50メートルの距離を飛んでくる矢を落とすとか、何のファンタジーだよ。

100メートルなら、弓なり弾道で遅いから達人なら落とせるかもしれないが)



 秋津はそんな事を思いつつ準備を見ていた。



「射撃準備完了!」


「よし、撃て」


「はっ!」



タタッ


 比較的軽いが、騎士達には予想外の大きな音と共に3発の弾丸が連続して発射され、そのすべてが標的に吸い込まれていった。



「射撃完了しました!」


「よし」



 標的が回収され、騎士達の元へ届けられる。

弾は鎧を貫通し、裏側も突き抜けていた。



「ば、馬鹿な……」


「こんな事が……」



 騎士達は絶句する。



「本来なら1キロ以上の射程がある銃なんで、50メートルなんて近距離で撃つものでは無いんだがな」


「1キロですと!?」


「それで当たるものなのですか?」


「そのために連射できるようになっている。本気で撃ったらこの弾帯、数秒で使い切るよ」


「そんな、遥か彼方から撃たれ、近づいても武器が通じない。

どうやっても倒せないではありませんか」


「そうだなー、もし皆さんが今の装備で戦車と対峙する事になったら、逃げ隠れするしか手は無いな」


「それでは、今日のお話は、我ら騎士に『逃げ隠れせよ』と伝える為の催しでありますか」


「いいや、そんな話で終わらせるつもりは無いから、安心してくれ」



 そんな話をしていると、城門を通ってリディアとパルティアが現れた。



「おっ、来たな。では、続きは午後やろう。 食事の後、再開だ。一旦解散」


「ははっ。 秋津殿、ありがとうございます」



 騎士達は敬礼すると、リディア達に手を振って、各々食事へと向かった。

どうやら騎士達の間でも、二人は人気があるらしい。


さて、今日の昼の召喚は話題の「機関銃など」である。

対象は

 ミヤタ模型 1/35 ドイツ 小火器セット

だ。


 パンツァーファウスト、Pz.B.39対戦車ライフル、そしてMG34とMG42機関銃が召喚された。


 例によってそれらはホムンクルス達が隊舎に持って行ったが、パンツァーファウストの一つは秋津が持って行った。

用語集


・T-34/85

初出でもなければ、本作独自の用語でもないが、特別に記す。

近年はソ連軍の資料を基に T-34-85 と記述する事が多い。

だが、本作ではキットでの名称を優先し T-34/85 としている。


・ハンマー

こちらもリアルに存在したもの。

ウォーハンマーと呼ぶものである。

釘を打つ大工道具の金槌みたいなものを想像していると、大きな間違い。

柄の長さは1m以上ある。



修正 2020年 06月30日

後書きで誤字1文字訂正

「もちらも」→「こちらも」


修正 2022年 07月02日

本文修正

「おー、自身あるんだな、じゃ本気で行くか!」

     ↓

「おー、自信あるんだな、じゃ本気で行くか!」


その他字下げ・改行等改定。(文章は変わっていないので、読み直しは不要です)

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