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模型戦記  作者: BEL
第9章 模型大戦
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第58話 おっさんズとおっさんの戦い その2

 その日、大英達はザバック辺境伯領の新しい海軍基地に来ていた。

敵に海軍があるため、新規戦力の追加を行うのである。


 午前の召喚は3隻の駆逐艦「睦月」「有明」「春雨」であった。

これはまぁ、順当に護衛艦艇の追加であったが、午後は少し毛色が違った。


 午後の召喚は「デュケーヌ」というマイナーな艦だ。

フランス海軍シュフラン級ミサイル駆逐艦で、マラフォン対潜ミサイルとビームライディング誘導方式のマズルカ艦対空ミサイルを搭載している。

キットは1/400という珍しいスケールで、以前戦列に加えた「マイレ=ブレゼ」「マルソー」同様、エスチャーニアというフランスメーカーから出ているものだ。


 秋津はその特徴的な巨大レーダードームを持つ駆逐艦を見て、「これは何処の艦だ?」と問う。

印象的な見た目だが、多くの日本人には馴染みがない。



「フランスのミサイル駆逐艦だよ」


「なるほど、そりゃ見た事ないわ」



 実のところ、大きな問題は空の脅威だけではない。

レーダーと対空ミサイルももちろん重要だが、ソナーと対潜兵器も重要だ。

これらは数でどうにかなる物ではなく、質が全てを左右する。



「とにかく、年代を進めるためにも、可能な最先端は外せない。 でも、それに拘り過ぎれば艦隊のバランスが崩れる。 対決は時間の問題だから、いつ始まっても良い様に整備しないとね」


「そうだな。 現用戦闘機や現代の潜水艦が出てきたら、二次大戦の艦じゃどうにもならんよな」


「だけど、60年代の艦じゃ戦艦の相手は出来ない。 大戦期の艦も並行して整備しないと」


「相手のカードが見えないってのは、厳しいな」


「ま、それはお互い様だろう」


「そうだな」



 さて、実はお互い様ではないが土井の持つ情報も正確ではないから、そうそう外れた話でもない。


 こうして、手探りの中、召喚軍の整備は進んでいった。



*****



 それから数日後、王国全土がある祭りの日を迎えた。

それは「新年祭」と言う。



「新年祭?」


「いかにも。 今の年の終わりと、新しい年の始まりを祝う祭りである」



 秋津の問いにゴートが答えた。



「何が基準なんだろ」


「最も太陽が低くなる日が一年の最後の日と聞いておる」


「うーん、低くなる日って何だ?」


「昼の時間が短い日。 つまり冬至じゃね」



大英はスマートフォンのカレンダーを見ながら語る。



「これは、冬至が年の最後で、次の日が新年初日って訳ですか?」


「そちらでは冬至と言いますか。 そうなりますな」


「そうか、判りやすいですね」


「大英殿の住まわれる地では違うのでありますか?」


「うん、違う。 新年は冬至の10日後くらいかな」


「なんと、なぜそのような事に?」


「それは判らないけど、色々あるんだろう」


「そうでありまするか」


「でも、これで一つはっきりした事がある」


「それは?」


「年の違いはざっくり3万年、月の違いも結構あるって事。 日は一致してそうだけど」


「ん、そうか」



 秋津も気づいたようだ。

今日は新年祭1日目なのだが、スマホのカレンダーを見れば、既に年が明けて数か月経っている。

秋津も感慨深く語る。



「そうかぁ、ここ年中暑いから季節感無いよな」


「ああ、それに忙しいから月日の経つのも忘れてたわ」



 さて、そんな訳で都の中や村々でも、戦時中なためか、そんなに盛大では無いものの新年を祝う空気が流れていた。

それはマカン村の指揮所でも同じであった。


 指揮所の壁に新年恒例の飾り物が設置されるのを見て、騎士達も年末を認識する。



「おっ、新年の飾り物か。 今年も終わりか」


「という事は、午餐は御馳走だな」



 そして騎士・従卒たちが期待した午餐の時が来る。



「みなさーん、召し上がってくださーい」



 マリの声に皆「オー」と歓声を上げる。



「こりゃあ良い奥方になりそうですね」


「全くだ。 最初は王都の箱入り娘と聞いていたから、こんな辺境の村での生活なんて、いつまで続くのかと心配したけど、すっかり馴染んじゃったな」



 騎士達は口々に語る。

現在マカン村に常駐しているのは第1騎士団。 マリも団長のシュリービジャヤに付いてきて村で生活している。


日本で言えば大晦日に当たるこの日の宴は、村人と共に楽しく行われた。



 翌朝、シュリービジャヤとマリは都にやって来た。 新年の挨拶である。

そんな二人を見て、リディアは「うーん」となっている。

「都会っ子に田舎暮らしは無理」というアテが外れた形だ。


 こうしてこの日は都で新年の宴が開かれるのであった。


用語集


・「デュケーヌ」

前回土井はこんな事を語っていた。

>「ああ、英ちゃんが持ってる1/200とかの1/700より大きいスケールでミサイル艦は1隻しかないのが判っているから、もしミサイル艦が出てきたら、1/700でそこまでの召喚が可能になった事を示すし、無いなら、まだそこを召喚出来ないって判る」


土井はこの1/400デュケーヌを大英が持っている事を知らない。

さらに言えば、シュフラン級ミサイル駆逐艦についても知識がない。

土井は海軍には疎く、フランス軍にも疎く、戦後モノにも疎いの三重苦状態なので、大英は入手時もその後も紹介していなかったのだ。

なお、疎いと言っても一般ピーポーよりは詳しいので悪しからず。


ちなみに、大英は同じ時期のミサイル艦をまだ複数保有しており、土井の推測は大外れだったりする。



・60年代の艦じゃ戦艦の相手は出来ない

現代の艦艇に普通にある対艦ミサイルなんて物は、この時期の西側艦艇には装備されていない。

そして東側艦艇のキットは乏しく、大英の在庫にも余りない。



・冬至の10日後くらい

冬至が何日かは年により異なる。

2024年は12月21日

2025年は12月22日



・新年恒例の飾り物

日本ならしめ飾りのようなもの。


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