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模型戦記  作者: BEL
第9章 模型大戦
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第57話 おっさんズと貴族のお家事情 その4

 その日シュリービジャヤはエリアンシャル家に滞在中の軍務卿である父シャイレーンドラとその弟ドゥマク、その娘マリを城の一室に招いた。

同じくリディアもその場に父である神官マラーターを呼び出し、その部屋に入る。


 先客を見つけた神官は娘に問う。



「これはどういう事だ」



 同じく、予想外の来客に軍務卿はシュリービジャヤに厳しい目を向ける。


 そこへ、もう一人入室する。

それを見て、シュリービジャヤはすぐに立ち上がり、他の面々もそれに続く。



「一同集まっているようだね。 さ、かけたまえ」



 そう言いつつ領主は、上座にある空いている席に座る。

領主が現れたとなれば、神官も小言を言っている場合ではない。

皆席に着くと、軍務卿は口を開く。



「殿下、これはどういう事ですかな」


「いや、将来について悩みを抱えている家臣がいると聞いたもので。 少し話を聞きたいと思ったのです」


「殿下のお心を惑わすような事ではございませんが」


「将来の神官家当主と第一騎士団騎士団長家当主が抱えている問題となれば、気にしない訳にはいかないのでは?」


「その頃には、殿下は女王陛下の後を継いで即位なされているのでは」


「それを理由には出来ないと思います」


「……御意」



 そしてシュリービジャヤが話を始める。



「私の婚約についてですが、今はみ使い殿を支えて戦っている真っ最中。 もちろん、毎日敵と剣を交えている訳ではありませんが、非常時である事は間違いない事です。 これについては、父上も叔父上もご理解頂けていると思います」


「そうであるな。 それについては、異論はない」



 軍務卿は納得の回答をする。

一方ドゥマクはやや意外そうな顔をしながらも「その通り。 間違いない」と答える。

だが、答えつつも内心では違う事を思っていた。



(常にみ使い殿が勝利し、騎士団は添え物程度と思っておったが……)



 まぁ、縁談を持ち込んできた時点で、余り危機感は感じていないのは確かだろう。

シュリービジャヤは話を続ける。



「この戦いが終わるまで待てとは申しませんが、マリ殿も騎士団長の妻を目指されるのであれば、まずは戦いについて理解して頂きたいと思います」

「ここにいるリディアさんも、この戦いにおいて重要な役目を負われています。 私は我が役目を深く理解し、共に歩める方を妻としたく思います」


「それはマリ殿には務まらないと言っているのか」


「そうは申しません。 ですが、今のマリ殿は戦について詳しくは無いと思います。 暫く我が陣に滞在し、私と騎士団、そしてみ使い殿の戦いをご覧いただいてはどうでしょうか」



 この発言を聞き、青くなるドゥマク。 だが、彼が娘の方に目を向けると、目を輝かせている様子が見えた。

そしてマリは発言する。



「それは嬉しいご提案だと思いますわ」



 貴族だからと言って、全員が軍務に就いているとは限らないし、女性であれば軍務に就かない方が一般的だ。

実際、ドゥマクは産まれてこの方軍務に就いた事は無い。

それでも、昔から続くモノはある。


 男は戦場を駆け、女は家で武運を祈りつつ帰りを待つ。


 それが長く続いた建前だ。

建前と言うのは、そもそも戦がほとんど無いので、たとえ騎士であっても「戦場を駆ける」事自体が空想の範囲だからだ。


 今のように戦いがある状況は、この場にいる誰もが「初めての経験」なのだ。

女性であっても「家で待つ」では済まない事もある。

実際、リディアは戦場の村に何度も行っているし、戦艦に乗り込んで戦いを現場で見た事もある。

そして、それが「選ばれるために必要」とあれば、マリにとって参加するのをためらう理由は無い。



「それでは、しばらく一緒に戦いに赴きましょう。 騎士団長の妻という『仕事』が、自分に合っているかどうか、見定めてください」

「神官殿もそれでよろしいですね」


「ええ、異存はありません」



 こうして、シュリービジャヤは回答を先延ばしにする事に成功した。



 その後、リディアは午後の召喚のために中庭で待つ大英の元に合流する。 シュリービジャヤやマリ達も同行する。



「これが神獣召喚……」



 驚くマリの前に現れたのは12両のM4中戦車。 リディアとシュリービジャヤのために、関係者全員が見学できるよう、城の中庭で召喚できるアイテムを選択したものだ。

2両はそのまま城に置かれ、10両は第3騎士団の詰め所へと移動していった。


 大通りを進むM4は街の人々からの声援を受け進んでいく。

それを見送りながらシュリービジャヤはマリに話しかける。



「この都の人々は神獣の活躍を知っています。 それ故、あのように応援をしてくれるのです。 さらに敵の魔物をその目で見た人もいます。 戦いを知る街です。 そして明日は前線の村へと赴きます。 そこは村人さえもが武器を取り、神獣や騎士団と共に戦う事もある場所です。 王都も戦乱を経験されましたが、短期間の事。 マリさんには、戦いが続く生活を知って欲しいと思います」


「わかりました。 何処へでもついてゆきますわ」



 そんな二人の様子を後から離れて見るリディア。 「どれだけ持つかな~」と悪い笑顔をするのであった。



*****



 その日、土井は大勢の魔導士と共に船着き場に来ていた。

船着き場の拡張については絶賛工事中だったが、召喚の妨げにはならない。



「良い感じに進んでますね。 それじゃ、やりましょう」



 初の海軍艦艇として、U-BOAT TYPE XXIII が召喚される。

その小さな潜水艦は頼りなくもあるが、最後は大戦艦へと続く第一歩であった。


 もっとも、召喚した当事者にはそんな感慨は無いようだ。



「こう来るかー。 きっついな」



 土井はその場に座り込む。 これまでの車両や航空機よりもずっと細かいスケールで質量もある。

なにしろ元キットは 1/700 なのだ。 大英ですら最近召喚できるようになったものを、数に任せて無理やり通したようなもの。

そして亜人たちの半数は倒れて気絶している。

それを見て土井はマリエルに聞く。



「あれ……、大丈夫なのか?」


「確認いたしますわ」



 マリエルは生体反応を調べ、全員の生存を確認した。



「大丈夫ですわ。 疲労が大きく倒れただけで、生命に別状ありません」


「そうか、それは良かった。 今日の召喚はこれで終わりにしよう」


「それが良いですわね」



 こうして陸海空全ての整備に乗り出した土井召喚軍だが、召喚とは違う所でちょっとした問題に直面する。



 翌日。


 基地に警報が鳴る。

初めて聞く音に土井は面食らう。



「な、何だ、何の音だ?」


「これは、接近警報ですわ」


「接近警報?」


「空から何者かが基地に近づいています」


「何、大丈夫なのか」


「問題ありませんわ。 航空基地と線路は自動で偽装展開するので、空からは見えません」



 現状戦闘中ではないため、警報発令と同時に森に見える偽装を展開する設定になっている。

工事に当たっている者達にも通知が送られ、一旦工事中断して基地内へと避難する。


 土井はマリエルに連れられ、司令室へと入る。

入ってすぐマリエルはミシエルに聞く。



「状況はどうですか」


「ああ、敵さんの飛行機械が接近している。 飛行場に向かっているようだ」



 スクリーンには1機の飛行機が飛んでいる姿が映し出されている。



「1機だけという事は……」


「多分偵察だね」



 単機で攻撃に来たとは思えないし、爆装している様にも見えなかった。

マリエルは土井の知識に期待する。



「あの機体が何なのか判りますか」


「うーん、判らないけど、拡大できる?」


「できるよ」



 ミシエルは映像を拡大する。

航空機は大写しとなり、機首とその周辺にいくつか「窓」があるのが判る。


 土井はその機体に見覚えは無かった。 だが、窓の存在から写真偵察機である事は判った。



「ありがとう。 これは写真偵察機だ」


「写真……偵察機?」


「向こうにはここみたいな映像システムは無いのかな」


「無い……と思いますわ」


「なら、写真を撮りに来たんだろう」


「それは……まずいですわね」


「どうして?」


「偽装は瞬間的に見るだけの目視を想定したものです。 静止画像をじっくり精査すれば、不自然な点等が見つかるかもしれません」


「それは困るか」



 「うーん」と唸る土井を見て、ミシエルは対策を口にする。



「落すことは出来る?」


「確かに撃墜すれば写真は渡らないけど、こっちに戦力がある事がバレるから、尚更悪い事になるんじゃないかい」


「あーそっか」


「今開戦しても勝ち目は無いから、手を出さない方が良い」


「それってヤバくね? 何かあるって気づかれたら向こうから攻撃してくるんじゃ……」



 ミシエルの懸念をマリエルは否定する。



「気付かれてもいきなり攻撃して来る事は無いでしょう。 それに飛行場だけ攻撃してもあちらが勝つことは出来ません。 それは大英様も判ってらっしゃるはずです」


「同感だ。 英ちゃんは相手の全貌を掴んでない段階では動かない」


「そうか。 じゃこっちから手を出さない限り、何も問題無いって事かな」


「そうとも言えないのが困る所なんだよなぁ」


「そうなんだ」


「爆撃されても偽装はそのままなのかな」


「そうですわね。 システムに被害が無ければそのままですわ。 流石に発生した炎や煙は消えませんけど」


「そうか。 それって英ちゃんたちも知ってる事かな」


「大英様は判らないと思いますが、多分動く前にアキエルさんに質問されると思うので……」


「なら、知ってる前提で良いね。 戦果の確認が出来ないって事は、無駄弾になるからやらない可能性が高いかな」

「とりあえず、格納庫の飛行機は一旦倉庫に引き上げよう。 予想が外れて爆撃くらったら困るからね」


「了解いたしましたわ」



 全面的な攻撃は無くても、飛行場だけ爆撃する事はあるかも知れない。

とはいえ、偽装が生きていたら戦火の確認が出来ない以上、攻撃の可能性は低いという判断だ。


 まぁ、その判断自体は悪くない。 しかし、それ以前の問題があるのだが……。



*****



 RF-101Cブードーは偵察任務を終え、無事帰還した。

撮影したカメラのフィルムは直ちに回収され、司令部の現像室へと送られる。


 出来上がった写真を見て、大英と秋津は確信する。



「ここは飛行場があったところだけど、この写真だと森に見える」


「おかしいな」


「ああ。 こんな短期間で森に戻る訳が無い。 偽装してるのは間違いない」


「当たりって訳か」


「廃墟を偽装する意味なんて無いからね。 飛行場が復活して飛行機を運用する準備が進められている。 つまりモデラーが来ているのは間違いない」



 アキエルの推測を裏付ける証拠を得た大英達であった。


用語集


・小さな潜水艦

wikiを参照すると

水上排水量: 234 t

水中排水量: 258 t

有名なVIIC型と比べると1/3しかない。



・廃墟を偽装する意味なんて無い

廃墟「に」偽装すれば良かったのだがな。 偽装システムはアップデートされていなかった。


2025-06-07 余計な文字を削除

そしてシュリービジャヤが話をを始める。

              ↓

そしてシュリービジャヤが話を始める。


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