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模型戦記  作者: BEL
第2章 異世界戦争
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第8話 おっさんズ、新たな敵を見る その3

 都に戻った大英達は報告がてら領主たちと昼食をとる。



「では、被害なしで敵を撃退出来た訳ですね」


「はい、敵には新たな魔物が現れていましたが、問題なく撃退できたようです」



執政官は無傷での勝利という報告に、み使いによる召喚軍の強さを改めて認識した。



「それでですね、執政官にちょっと協力して頂きたい事があるのです」


「はい、私にできる事なら何なりと」



それを聞いて、大英は秋津と見合わせ、秋津が口を開く。



「この近辺に長さ4キロ、幅100メートル程度の丈夫で平坦な土地ってありますかね」


「長さ4キロ、幅100メートルですか。それは、おおよそで良いのですよね」


「もちろん、厳密にその長さである必要は無いですよ」



これ、会話だからこのように聞こえているが、実際の執政官の中では違う単位で理解されている。

「おおよそ」と言ったのはその関係もある。


たとえば、

 40ノット程度

を馬鹿正直に時速何キロ換算で言えば

 時速74.08キロ程度

などという、「程度つけてるのにやけに細かいな」てな話になる。

まぁ少数は無しにしても

 時速74キロ程度

だから、人によっては妙に細かいと思うかもしれない。

実際の翻訳システムがどう訳しているかは不明だが、さすがに10の位で四捨五入したりはしていないだろう。



「そうですね、ここから北にしばらく行くと、砂漠地帯があります。

そことの境界付近なら、そのくらいの広さはあるでしょう。

多少木を伐採したり、丘を(なら)したりする必要はあるかもしれませんが、砂地手前なら固い地盤なので丈夫だと思います」


「それはちょうど良いや。じゃ俺はこの後見に行く事にするわ。

ビステル君は道解る?」


「はい、お任せください」


「その細長い土地で何をするのです?」



執政官の疑問はもっともである。

これには大英が答えた。



「飛行場をつくるのです」


「ヒコウジョウ?」



執政官相手でもやはり通じない。

適切な訳語が無いと、翻訳システムもうまく伝えられないのだ。

村での説明を繰り返す大英。



「なんと、飛行機(ヴィマーナ)を運用するための施設ですか。

でも、そんなに広い土地が必要なのですか?

ム・ロウ神の飛行機は普通に街中に降りてきたと記録にあったと記憶していますが」


「あー、神様の飛行機はそうなのかもしれませんが、我々のは滑走路と呼ぶ長い道路のような物が必要なのです」


「そうなのですか」


「うち等の世界の文明はここよりずっと進んでいますが、神様と比べれば未開の土地みたいなものですから。

まぁ、ヘリや垂直離着陸機(VTOL)は滑走路を必要とはしていませんけど」


「ヘリ……ですか」


「あぁ、いずれ実物をお見せします。

口で説明するより、現物を見て頂いた方が早いでしょうから」


「判りました。楽しみにしています」



食事が終わると、秋津はビステルを伴って車で飛行場候補地を見に出かけた。

大英はゴートと自宅に戻り、2階の「在庫倉庫」を漁り始める。



「何かお探しですか」


「うん、確かこの辺りにあったはずなんだけど……」



大英はある段ボール箱を押し入れから出して、中を開く。

その中には、高さ2センチくらいで、ほぼ正方形のものや幅はそれと同じで長さが長い箱がいくつも入っていた。

そう、ミヤタのMMシリーズの小型キットである。

それをとっかえひっかえ出して見ている。



「あった、あった。こいつがあるのを忘れていたとはな」


「何が見つかったのじゃ」


「コレです」



それは

 ミヤタ模型 1/35 テントセット

であった。


実はこれを忘れていたのは結構間抜けな話だったりする。

それはなぜか。

別にキャンプが出来るという話ではない。

そもそも、キャンプをする必要も無いのだが。



「これには通信機が入っていまして、これを街の城壁の上に置き、村に指揮通信車を置けば、通信が繋がるはず」


「ふむ、通信が繋がるとは?」


「村からの連絡が即届くという事です」


「なんですと?」


「村の者と話が出来るので、伝令をよこさずとも敵襲をすぐに知ることが出来ます」


「そ、そんな事が……」


「まぁ、そもそも指揮通信車自体まだ完成してませんし、充電できる体制も出来てないので、通信網構築にはしばらく時間がかかりますが」


「そうであるか。しかし、驚く事ばかりじゃのう」



そう言って周りを見渡した時、ゴートは棚の中に見慣れぬ形の物体が多数並んでいるのに気が付いた。



「大英殿、もしかして、この棚の中のモノたちは……」


「ええ、模型です」


「なんと、これほど多数あるのか」


「そんなに多くは無いですよ。

まだまだ増えますし、色々必要になるので増やさないとなりませんし」


「そ、そうであるか……」



「増える」というのは出来上がったキットを指している。

キットの在庫は増えないが、完成したキットは全体から見れば少数派なのである。


ゴートはいくつもの棚を見るが、その中に並ぶ物たちは「センシャ」と似たものが数個ある以外は、どんな用途のものか想像もつかない異形のモノばかりであった。


挿絵(By みてみん)


そして大英はキット制作にとりかかる。

せっかくなので、さっそくテントセットを作り始める。


作り始めると言っても、最初にするのは塗装だったりする。

大英のスタイルは、まず塗装して、疑似的に「塗装済みキット」のような状態にしたのち、ランナーから切り離して組み立てるのだ。

そしてこの塗装工程を「予備塗装」と呼んでいる。


このような手法になった原因は、小さい部品の多い喫水線シリーズの艦艇を中心に制作していたためだ。

25ミリ機銃とか、切り離してから塗装とか無理。

では、組んでから塗ればどうか。

これも問題がある。

単装機銃なんかは組んでから塗装したら、壊しかねない。


結局先に塗っておく形式に落ち着いたのだ。


もちろん、予備塗装だけで塗装が終わる事は無いし、ものによってはある程度組んでからが本番になるものもある。

ゲート(部品とランナーが繋がっている部分)をカットした跡が未塗装で残るし、迷彩塗装なんかは、形になってからでないと塗れない。


ちなみに大英の塗装は筆塗のみである。

例外はトップコートを缶スプレーで行うだけ。


整理すると、

 予備塗装

 組み立て

 仕上げ塗装(種類によってはタッチアップのみ)

 マーキング

 トップコート

である。


なお、1/700の艦船模型の世界ではトップコートを吹かない人も多くいるが、スライドマークを使わないのならともかく、甲板のラインや艦番号のマークを貼るなら、トップコートはやったほうが良いと思う。

表面の質感がマークのある所とない所で違ってしまうのでね。


さて、夕方になり、リディア達が来たので召喚を行う。

今回の召喚は

 ミヤタ模型 IV号戦車H型(旧キット)

である。


「タンクショック」(敵に戦車が何両も現れた事を指す)のため、急遽制作に取り掛かっていたもので、昨日完成したものである。


召喚の儀式を済ませたが、大英もパルティアも以前程疲労した様子は無かった。



「かなり楽に出来るようになったかな。

どう?疲れた?」



振られたパルティアも



「ううん、まだまだいける気がします」


「そうか、そろそろ48(ヨンパチ)を用意するかな」


「よんぱち…ですか?」


「今まで召喚して来たのは1/35の模型なんだけど、これより一回り小さい1/48の模型もあって、それを48と呼んでる。

より小さいものから召喚するから、今までより高度な召喚になると思う」


「高度…ですか、がんばります!」



リディアも



「一歩前進だ~」



と笑顔になる。



「うん、期待してるよ」


「はい!!」



パルティアの笑顔を見て、大英は彼女も召喚が楽しくなって来ているものと理解した。

召喚のたびに増えていく戦力。

ある意味育成系ゲームとか戦略シミュレーションでの、内政充実といったものに近い感覚があるかもしれない。

そして、難易度が上がる作業に挑戦できる日が近いという事は、自らの成長を実感できる訳でもある。

これが所謂「好循環」というモノであろう。

今後に手ごたえを感じ、大英の表情も緩む。


現れた4号を見てゴートは意外そうな顔をする。



「これは…色は違いますが邪神のセンシャと同じように見えますな」


「ええ、同型の戦車ですから」


「なるほど、同じ形のものは沢山あるのですかね」


「キット数という意味では、人気のある戦車ですから、かなりあるでしょうね」


「ふむ、再びこのヨンゴウと戦う日も来るのであろうか」


「どうでしょうね。いくら人気があると言っても、誰でも作るという物ではありませんから」


「そうでありますか。ふむ、良く現れるなら仮想的として騎士達の訓練に役立つかと思ったのであるが…」


「あぁ、そういう意味でしたら、どの戦車でも使えると思いますよ。

大きさと強さが違うだけで、兵士による戦車への対処法は基本一緒ですから」


「おお、そうであるか」


「各騎士団の方々も治療や休息も終わっているみたいですね」


「うむ、騎士達にセンシャへの対処法を学ばせるのは有益であると思っておった所である」


「午餐の際にでも、執政官に提案してみてはどうです」


「大英殿の賛同も得られたことだし、そうする事としよう」



*****



「秋津様、この辺りになると思います」


「おっ、そうか」



ビステルの声で秋津は車を止める。

秋津の車は都を出て北に向かい、20分程進んでいた。

例によって舗装道路ではないので、現代日本での「車で20分走った」程離れた場所ではない。


外へ出る。

周りを見渡せば、比較的平坦で遠くまで見通せる。



「大丈夫ですか」


「ああ、これなら飛行場建設も楽そうだな」


「安心しました」


「風は…この時間で太陽がそこだから…北東からか。この辺りいつも同じ風が吹いてるのか?」


「そうしょっちゅう来ている訳ではありませんが、大抵はこのような感じですね」



南側に立っている木々は、やや西に傾いている気がする。

ほぼ北東か東からの風が吹くことが多そうだ。

風向きが一定なら、横風用の滑走路については後回しで構わないだろう。



「ところで、この近辺…ま、多少離れていてもかまわないが、炭酸カルシウムと火山灰が取れる所ってあるかい」


「たんさん…すいません、浅学故判りません」


「そうかー、ま、あとで執政官に聞いてみるわ」



その後、車に乗って周辺を走って、土壌の強度や土地の様子を確認して戻っていった。


*****



召喚が終わってしばらくすると、秋津の車が戻ってきた。



「乙ー、どうだった」


「おー、いけるいける。4千メートル級も楽勝だ」


「それは朗報」



飛行場候補地も決まり、騎士達への新たな訓練も考案された。

通信手段を確保する見込みも立ち、着々と事は前進するのだった。


用語集


・ヴィマーナ

コレ、前回書いてなかったですね。

リアル世界でヴィマーナを検索すると、インド神話に登場する空飛ぶ乗り物と回答が得られる。

とりあえず、今はこの情報のみ記載しておこう。


*****

脱字修正&フリガナ追加

垂直離着陸→垂直離着陸機(VTOL)

飛行機建設→飛行場建設

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