第56話 おっさんズとインフラ整備 その1
格納庫を召喚した日の夜、大英は太さ3.5mm程のランナーを3センチくらいの長さに切って小箱に入れた。
そして、「明日の整備はB-17」と念ずる。
翌日、飛行場に行くと、格納庫の中では2機のB-17が整備を受けていた。
秋津はその様子を見て感心する。
「おー、これは便利だな。 指示を出さなくてもやってるじゃないか」
「ああ、整備員の技量、格納庫に収められている整備用機材・工具類まで全部切り替わる。 何を対象にするかの指示も、理解しているしな」
もはや格納庫と言うより整備場と言った方が良い様相だが、まぁ間違ってはいないだろう。
そんな訳で、整備員たちは、前日の内に格納庫前に置かれていたB-17を引き込んで、整備・補給をやっていたのである。
なお、まだ外には2機のB-17が待機しており、これらも引き続き整備を受ける。 まぁ、そのまま外で行う事となろう。
ちなみにここのB-17は2種類(B-17F , B-17G)があるが、整備の上ではどちらも問題無く行える。
そして、この日午前の召喚は「工場」であった。
格納庫から少し離れた所にその建物は出現した。
秋津はその姿を見て問う。
「これで何が作れるんだ?」
「装備以外は大体なんでも行けるらしい」
「装備以外?」
「そ、弾薬は作れるけど武器は駄目。 ミサイルは作れるけど小銃は作れない」
「変な設定だな」
「もっと変な所もあるぞ。 ドラム缶は作れないけど、ガソリンとか軽油が作れる」
「どんな工場だよ」
「さぁな。 アキエルさんの説明ではそうなっていた」
「それで、何を作るんだ?」
「まずはガソリンかな。 ガソリン用で空のドラム缶やらジェリカンが結構あるから、それを持ち込んで作ってもらう」
「やっぱ燃料か」
「そうだね。 これで燃料を節約しなくても良くなる。 次は航空機用消耗品かな。 ざっくりした指示でもやってくれるから助かる」
「だよな。 専門的な指示が必要だったらアウトだよな」
専門的な指示が必要だったら本職でないと使えない。
細かい指示が必要だったら、必要な部材が揃うのに何日かかるか判らない。
というのは、格納庫での整備も同じなのだが、「指示」は1日1回限定で、前日に出す必要がある。
なので、3回指示が必要なら、どんだけ製造能力があっても、3日かかる。
これがざっくり「レシプロエンジン用消耗品」という指示なら、1日で出来る訳だ。
そして、午後は工場と格納庫の間に「倉庫」を召喚した。
倉庫自体は現地でも建てれるけど、召喚したほうが早いのと、照明があるので夜でも使える。
工場の製造は夜でもやっているので、出来たブツを納める倉庫も、夜でも使いやすい方が良いだろう。
翌日
大英はこの日の整備は一式戦を指定していた。
12機の隼が格納庫前に並び、整備を受けていた。
で、召喚なのだが、何を召喚するか気づいている人もいるかも知れない。
この日の午前の召喚は「兵舎」であった。
特に機能的な物は無いのだが、格納庫、工場、倉庫と来れば、ホムンクルス達の住処が必要だろう。
まぁ「欧風建物」でも良いのだけれど、とりあえずはコレが定番だろう。
余裕があったので、監視用のやぐらも一緒に召喚した。
そして、午後。 マッカーサー待望のモノが召喚された。
そう、残る建物と言えばこれ、「司令部」だ。
あくまで司令部の建物であって、人員は施設の維持管理に必須な分しか付属していない。
なので、「誰か名の無い司令官が既に司令官の椅子に座っている」なんて事は無い。
「ようやく仕事場らしくなりました」
コーンパイプ片手に、笑顔で語るマッカーサーであった。
*****
この日土井がやって来たのは「飛行場跡」である。
滑走路上には元が何なのか判らない程に朽ち果てた物体があり、端のほうには爆撃で破壊された格納庫の残骸があった。
基地からのゲートは格納庫にゲートポイントが設置されていたのだが、残骸が取っ散らかっているので、今日はマリエルが滑走路の反対側にゲートを開いたのである。
「ここが飛行場か……」
滑走路の工事も中止されたため、長さは500メートル程しかない。
「これじゃ単発機しか飛ばせないな。 少なくとも倍、出来れば3倍に伸ばせますか?」
「はい、元々の計画ではこの3倍にする予定でしたので、棟梁に工事を再開して頂きましょう」
「あちらの廃墟が基地の建物?」
「そうですわ。 飛行機械が収められていたのですが、爆弾を受けてあのような事になったようです」
「見に行っていいですか」
「はい」
マリエルはゲートを開き、二人は500メートル程先の残骸に行く。
残骸の近く、北側に周辺とは雰囲気の異なる幾何学的な5角形の板が1枚、地面に埋め込むように置かれている。
「これは?」
「こちらは、先ほどお話した赤土様のお墓になります」
「そうですか」
土井は膝まづくと手を合わせる。
それを見て、マリエルも追悼の仕草をする。
「それじゃ中を見せてもらうよ」
「はい」
格納庫は瓦礫が散乱し、壁も屋根も無くなっている。
かろうじて舗装の一部や、歪んで倒れかかっている柱が、ここに何か建築物があり、何かが置かれていた事を表していた。
「ここは整理して滑走路にしてもらえますか」
「格納庫として再生されないのですか」
「格納庫はここの南側に、滑走路と平行になる位置に新しく作ってください。 ここの5倍くらい必要になるので」
「そんなに必要なのですか」
「とりあえずは舗装だけで良いですよ。 屋根は無くてもそんなに問題はありませんから」
「そうですか」
「それに、滑走路の一端が格納庫では、離着陸の方向が固定されるので、あまり望ましくありません」
「西夏様によれば、ここは周りが森なので、余り風が入らないから、向かい風の効果が得られない。 みたいな事を仰られていましたが」
「それは確かにそうだけど、やっぱり両端は開けた方が良いよ。 向こうの木も100メートルくらいは切って欲しい」
「承知いたしましたわ」
続いて二人は海岸へと赴く。
そこには海生魔獣の魔獣舎と、小規模な船着き場があった。
そのささやか過ぎる「海軍基地」の様相に、土井は頭を抱える。
「うーん、これは大変だな」
「そうなのですか」
「5万トンの戦艦を泊めたいんだが」
「5万トン……ですか」
5万トンがどの程度の大きさの船なのか、イマイチ想像できないマリエルであった。
それでも、目の前の施設が全く能力不足なのだけは理解した。
用語集
・そのまま外で行う事となろう
別に格納庫に天井のクレーンといったものは無いので、単に屋根があるかないかだけの話。
昼間なら、むしろ外の方がやりやすいかもしれない。 夜は中で無いと暗いから中に入れて行うだろう。
余談だが、この4機がB-17の全てではない。 召喚済みだけでも後10機、未召喚のものも6機ある。
合計すれば20機だ。
で、召喚済みの10機はまだ実戦参加どころか、飛んですらいないので、整備は不要である。
(リアライズシステムで召喚された兵器は、整備完全状態で召喚され、稼働させない限り時間が経過しても、整備状態が自然に悪化する事は無い)
・どちらも問題無く行える
現実の整備員がどうかはともかく、極端な話スピットファイアを整備する指定がされれば、Mk.1とMk.18の両方を問題なく整備できる。
この両者、エンジン・機体・武装が全部違って、同じなのは名前だけ。 なので、マーリンとグリフォンどっちもいけるファンタジーなスーパー整備員なのだ。
そんな整備員にとって、B-17のFとGの違いなど、全く無いに等しい。 というか、現実の整備員でもFとGの違いを気にする事は無いだろう。
・レシプロエンジン用消耗品
プラグとかエンジンオイルとか諸々。 詳しい事は我輩はエンジン整備をやってるわけでは無いので判らん。
・住処が必要
格納庫と違い、兵舎も倉庫も基本的に中身は空。
維持管理するホムンクルスは配置されるものの、兵員は付属しないし、倉庫の中も壁際にラックが少々あるだけ。
その辺りが、燃料で満たされたジェリカンや弾薬満載の戦車とは違う所。
なので、「住処にするつもりで兵舎を召喚したら、兵員が住んでいて問題が解決しない」なんて事にはならないのである。
・先ほどお話した
これは書いてないです。 「読んだ記憶がない」と、前回や前々回に戻って探す必要はありません。
・向かい風の効果が得られない
飛行機は風上に向かって離陸し、風上に向かって着陸するのが望ましい。
という話なのだが、無風状態なら、風の向きは気にする必要が無い。
実のところ、森だからではなく、たまたまここの場所が風があまり吹かないという場所なのだ。 だって周りの木は普通の木ですよ。高さが100メートルある巨木の森とかじゃないですから。
なお、格納庫が一方の端にある理由はもう一つあって、それは土井が依頼した事とも関わっている。
そう、滑走路の先もある程度木を切る必要があるので、それを一方に限定することで、工期短縮を図ったと言う訳。
一応伐採範囲の長さも100メートル程短くなるし、幅を限定する事で航空偵察から見つかりにくくするという効果も、申し訳程度にはあった。
だが、土井の航空隊は最終的には30機以上を運用する基地になるので、あるかないか判らんと言うか、既に航空基地が存在した事が露呈している以上、隠蔽については考慮する必要はないというのが、土井の考えである。
ま、第二飛行場が用意出来ればベターなんだろうけどな。