表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模型戦記  作者: BEL
第9章 模型大戦
207/237

第55話 ドイッチュラントと呼ばれしおっさん その4

 その日、土井はマリエルが用意した映像資料を見ていた。

大きな盾を持つオークとゴブリン達が薄い黄色の小型自動車と交戦し、壊滅する様子が流れた。

盾を構えるも、機関銃に撃たれ盾ごと貫かれて倒れるオーク、自動車に迫る度引き離されて、追いつく事が出来ずに撃たれ続けて数を減らすゴブリン。



「これは、イギリスのジープか。 また珍しいものを出してきたな」


「あれが何かご存じなのですか?」


「おう、二次大戦という戦いで使われたジープという車だよ。 中でもあれは重武装なタイプだ」


「そうでしたか」



 続いて流れる映像では、牽引式の巨大な盾でジープの攻撃を無力化し、盾よりも高い位置に魔法の矢を出して攻撃していた。



「おー、やるじゃない」


「ミシエルさんの考えた戦法ですわ」



 ジープは狼に乗ったゴブリン・ライダー達と激闘を繰り広げる。

速度的な優位が少なくなり、停止しての射撃が出来ず走りながら撃っているため、命中率が落ちている。



「なるほど、戦い方も改善してるんだな」


「はい」



 だが、村へと進むジープとそれを追うゴブリン・ライダーを見て顔色を変える。



「まずいだろ、ここで追いかけたら……」



 土井の懸念は当たり、村の手前でジープが向きを変えると、ゴブリン達を機関銃の弾が襲う。



「あーあ、不用意に村に近づいちゃ駄目だよ」


「お判りになりますか」


「そりぁ、あれだけ派手に逃げてりゃ『囮』だって判る」


「という事は、次もですわね」


「次?」



 続く映像では、逃げ回ていたジープが一回りして巨大な盾を展開するオーク達へと向かってきていた。



「いや、どうする気だ? 機銃じゃ効果ないのは判っただろうに……」



 その声を聴いたわけではないが、直後ジープはUターンして逃げていく。

そして、手前に映るオークと盾が爆発する。



「は?」



 次々と爆発は起き、オーク達は倒れる。 それは盾の向きを「手前」に変えた状態でも同じだった。



「これ、砲に撃たれてるだろ。 カメラより後ろから」



 間もなく映像は逆を向き、発砲している車両を捕らえるが、直後に再生が終了する。



「え? どうしたんだ?」


「これは、こちらの戦力が全滅してしまいましたので、撮影が終了してしまったのです」


「ちょっと戻して止めれる?」


「はい」



 映像は前方に車両を捕らえた所に戻り、静止画表示となる。



「これは戦車……4号か」


「種類まで判るのですか?」


「いや、遠いから4号だって事しか……」


「拡大しましょう」


「できるんだ」



 映像の一部、4号の所が拡大され、大きく映る。



「長砲身だからH型かな。 F2もあるけどプラモって事なら、H型がメジャーだしな」


「そういった考え方もあるのですね」


「まあね」



 土井は仲間内では「毒」と呼ばれている。

本来なら「独」なのだが、そういう慣例となっている。

で、何が「独」なのかと言うと、彼の名前が由来だ。

土井忠、読みは「どいただし」なのだが、「どいちゅう」と読む事も出来る。


「どいちゅう」「ドイッチュ」「ドイッチュラント」「ドイツ」「独逸」


という訳だ。

ま、最後は「ドク」になったのだが。


そして単に「ドク」だと医者っぽいので、アクセントの違う「毒」が選ばれた次第。

別に彼が毒舌家という訳ではない。


 とは言うものの、実のところもう一つ由来がある。

彼はウォーゲームをプレイする際、多くの場合ドイツやドイツ軍の担当なのだ。

(例外はナポレオン時代のゲーム。 この時はプロイセンではなく、フランスの担当)


 それは戦略級で第三帝国を担当するのみならず、作戦級でドイツ国防軍、戦術級でドイツ軍兵器を担当している。

特に陸戦もののゲームは最も愛好していた。


そんな彼だから、ドイツ軍車両の識別は得意技なのだ。


 さて、話を戻そう。


 次の映像は街の近くであった。

オーガと巨大馬による騎馬隊が現地の騎士を軽く倒し、騎士団の詰め所を攻撃しつつ街へと迫っていた。



「あれに見える城壁に囲まれている街が、最終目標になるスブリサの都ですわ」


「おー、まさに中世都市だな」



 しかし、騎馬隊は都の城壁上に設置されていた大砲に撃たれ、被害を出し始める。



「こちらも判りますよね。 止めて拡大しますわ」



 大砲にズームするが、土井にとっては余り馴染みが無いブツであった。



「いや、申し訳ない。 これは判らん」


「そうですの」


「多分どっかの対戦車砲だと思うけど、それ以上は判らんね」


「そうですか」



 英軍装備の解像度は、あまり高くない土井であった。

それでも、榴弾では無かった事と、高い仰角を取れそうにない姿から、対戦車砲だと推測した。


 こんな感じで映像を見進めていたのだが、ある映像で土井の顔色が変わった。

それは、4匹のグリフォンと10匹以上の巨大ハエを従えたキリエルが、マカン村に初登場した際の映像であった。



「あれは……」


「どうされました?」


(英ちゃんと秋やんじゃないか。 なんでここに二人が?)



 キリエルと二人の会話を聞き、土井は確認する。



「マリエルさん、あの二人の男性が相手の天使ですか?」


「ええ、大英様と秋津様です」


「ふっ、ふふっ」


「どうされました?」


「ああ、すいません。 二人と会った事はありますか」


「ええ、この後説明いたしますが、何度か協同作戦を行った事がありますわ」


「協同作戦?」


「実は、この戦いとは関係ない戦いも幾つか起きていまして……」



 マリエルは王国の内乱や、勇者と名乗る者達による騒乱などについて軽く説明した。



「そうですか。 なかなかの活躍ですね」


「ええ、それだけに強敵です」


「知ってます」


「え?」


「あの二人、自分の親友ですから」


「ええっ??!!」



 予想外の情報に接し、混乱するマリエルであった。



*****



 その日、大英はついに空母の召喚に踏み切った。

……と書くと、何か無理をして階段二段飛ばしをしたかのように聞こえるが、実は順当な召喚であった。

この前日、軽巡矢矧と練習巡洋艦香取を召喚しており、サイズ的には小型空母まで手が届いていたのである。


 そして現れたのは、その小型空母である龍驤。

甲板には零式艦上戦闘機21型、99式艦上爆撃機、97式艦上攻撃機が各4機づつ並んでいる。

これらは召喚前に飛行甲板に置いたもので、同時に召喚されたものだ。


 空母に限った話ではないが、陸の兵員輸送車などど同じで、搭載機は「別物」である。 自動で満載状態で召喚される事は無い。

搭載機は搭載機として、別途調達しなければならない。


 そんな訳で、同時召喚として12機の搭載機もちゃんと用意して召喚したのであった。

本来であれば常用機数である36機としたかった所だが、模型で再現されていない格納庫に配置する訳にはいかず、飛行甲板に並べるにも限界がある。

無理やり詰め込めばもっと行けたのだが、それでは召喚後乗員たちがとんでもないパズルを解く羽目になる。


なので、残りの搭載機は「現地」召喚する事とした。

つまり、龍驤に乗り込んで、格納庫の中で召喚するのである。


 そんな訳で、午後に搭載機の追加召喚を行い、各々8機づづ、合計24機追加して36機としたのであった。


 なお、後日アキエルから「それ、載せなくても横においておけば、まとめていけるわよ。 海に落ちないかって? そんな訳ないじゃない。 格納庫だっけ? あるべき場所に収まるわよ」と言われて唖然となったのは秘密だ。

用語集


・H型がメジャー

1/72 ならF2型もあるが、1/35のHのほうがメジャーだろう。

なお、近年ではF2をGとする意見もある。



・プロイセン

プロシアと表記される事もある、後にドイツ帝国となる国。



・ドイツやドイツ軍の担当

第1次大戦のゲームならドイツ帝国の担当である。

ある時、第1次大戦の戦略ゲームで土井がドイツ帝国、秋津がロシア帝国、大英がイギリスとベルギーを担当した事があった。

史実ではベルギーを踏みつぶしてフランスに侵攻したドイツ軍だが、ここではあろう事かベルギー軍に大敗。

逆にフランス軍がベルギーに救援に来て侵攻不能となった。


でも、東部戦線ではロシア突出部を包囲殲滅に成功して、秋津はドイツを止めるすべがない事態に。

このままドイツ軍が侵攻してくれば、史実より3年早くロシア革命が起きかねない。

しかし、転んでもただでは起きない秋津は、オーストリア=ハンガリー帝国正面にいた兵力を防衛の為に北に転身させず、そのままオーストリアへと突入させる。

南から殲滅作戦に参加していたオーストリア軍は補給線を切られて行動不能になった。


ところで、このオーストリア=ハンガリー帝国、滝という友人が担当していたが、土井から殲滅作戦を事前に聞いていたので、まさかロシア軍が突っ込んでくるとは思っておらず、主力をイタリアと対峙させていたうえ、殲滅作戦に参加していた部隊が戻れなくなったため、背後を突かれて崩壊状態となる。


さらに、西部戦線ではフランス・ベルギー・イギリス軍によるドイツ侵攻が発生。

8月の砲声から半年もたたないうちに同盟国の敗北が決まったとさ。


と言う訳で、ドイツ担当だからと言って、ドイツ常勝という訳ではないのであった。

「俺じゃない、滝が悪い!」

いや、運も実力の内。



・ドイツ軍車両の識別は得意技

識別では解像度という言葉が近年よく使われている。 それで言えば非常に解像度が高いと言えるだろう。

それで土井や大英達について「III号戦車H型とIII号戦車J後期型」(両方とも「5 cm KwK 39 L/60」装備)を例に挙げると


大英

III号戦車である事しか判らない。 型を聞かれても答えられない。 というか、同じものが2つ並んでいると思うだろう。


秋津

III号戦車H型とIII号戦車J後期型の区別が出来ず、どちらIII号戦車J型と誤認する。

(J型に前期後期で違いがある事は気づかない)


土井

III号戦車H型とIII号戦車J後期型の区別が出来る。 どちらか一方だけ示さても、正確に回答できる。


と言った感じになるだろう。



・龍驤

こう見えて最上型や利根型といった重巡達より小さく軽い。

なので、召喚負荷的には順当なのである。


ところで、3機種4機づつというのば、元々付属の機体から彗星4機を外したもの。

追加の8機づづは、富士山製の「日本海軍 航空母艦搭載機」から、天山を除いた24機。



・搭載機は「別物」

でも、整備員は全数空母側で召喚される。

それは空地分離している時期の空母でも変わらない。

(整備員は空母の乗員ではなく、航空隊の所属。でも召喚時は搭載機が1機も無くても、整備員は全数召喚される)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ