表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模型戦記  作者: BEL
第9章 模型大戦
206/237

第55話 ドイッチュラントと呼ばれしおっさん その3

 その日、土井忠は仕事帰りにリサイクルショップに来ていた。



「なんだこれはw」



 手にした箱を見て笑いがこぼれる。

その箱はSKYFIXの1/600 MOSKVA という艦船のキットだ。

艦の前半がミサイル巡洋艦、後半はヘリコプター母艦というハイブリッドな艦艇。


それだけでも「変態感」があるが、パッケージの箱自体日本メーカーの艦船キットと比べると縦横比が異常という「笑いポイント」もある。

やたら細長い箱を手にした彼は、購入を決断し、買い物かごに収めた。


 次に手にした箱は1/72 カモフ Ka-50 ホーカム。



「ヘリか。 そういや作った事無かったな。 いっぺん挑戦してみっか」



 彼の在庫と完成品は、主として第二次大戦中のドイツ軍の正面装備ばかり。

あとソ連軍の戦後装備も少しあるが、そちらも戦闘機と戦車、それに大型艦艇しかない。

このため、ヘリは無かったのだ。


 こうして、2箱購入した土井は帰宅する。

夕食は仕事の合間に済ませており、この日は帰宅してからの食事はない。


 そうして、自宅であるアパートの部屋に入った所、不意にめまいに襲われる。

いや、揺れているのは彼自身に原因があるのではなく、部屋のほうだった。



「うお、何だ? 地震か?」



 壁に手を付き、体を支える。

地震のような細かい揺れではなく、ゆっくりした揺れだ。

マンションの高層階ならともかく、4階建ての3階でこのような揺れは経験がない。


 間もなく揺れは収まったが、外がいきなり明るくなった。



「何? 何の明かりだ?」



 彼が窓に目をやると、見慣れない風景が見える。



「は?」



 窓に近づく。 そこに見える光景は見慣れた街並みではない。

何処かの体育館の中にいる様な感じに見える。


 そして、窓際に立つと異常事態に気付く。

いや、街並みが変わっている事自体、既に十分異常事態なのだが、その疑問が吹っ飛ぶような状況がそこにあった。


 窓の外、直ぐ下に床があるのだ。 部屋は3階なのに、部屋の床の少し下に外の床がある。

つまり、1階と2階が消えて、体育館の床の上にいきなり3階が置かれているような状況なのだ。



「まさか……」



 窓を開けて左右を見れば、どちらにも隣の部屋が無い。 上を見れば、4階も無い。

こうなると、「どこぞの体育館の中にアパートが埋まっている」のではなく、体育館の中に彼の部屋だけが「切り取られて」置かれていると考えるべきだろう。



「これは一体」



 茫然と外を眺めていると、不意に後ろから声がした。



「説明が必要かの」



 土井が振り返ると、一人の黒いローブを着た老人が部屋の中に浮かんでいた。



「な、何者だ!」


「神である。 名はロディニアじゃ」


「か、かみ?」


「左様、其方をここに呼んだ者である」


「まさか、異世界召喚なのか」


「その理解で宜しい」



 土井は50を過ぎたオッサンであるが、以前の若者(赤土)同様、異世界召喚物の作品に馴染みがある。

というか、アニメやコミックで多くの作品に触れている。

そういう意味では、一般のオッサンよりも「この事態」を理解しやすいと言える。


 土井は社交的な一般人で職種も営業職である。

「いい年してアニメを見るなどコミュ障のオタクだけだろ」という発想をする人には、理解しがたい現実である。

だが、そういったステレオタイプな考え方は判断を誤る原因になるので、控えた方が良いだろう。


近年の50代は、アニメやゲームを嗜む層もレアな存在ではない。



 話を戻そう。

レリアル神は土井に事情を説明した。



「そうですか。 模型を本物にして戦う……と」


「左様、詳しい事は現場の者に説明させる」


「待ってください、まだ引き受けるとは言っていませんが」


「何を申しておる。 能力があるなら、それを発揮するのが当然であろう」


「いえ、『当然』の事ではありません。 自分には養わなければならない家族もいますし、いきなり失踪しては、多くのお客さんに迷惑が掛かってしまいます」


「そこは心配無用である。 全てが終わった暁には、元の場所の元の時間に戻す」


「え、そうなのですか」


「当然である。 別の時間や別の場所に戻しては、其方の住む家も崩れるのではないか? そのような『目立つ事』は、我々は控えるようにしておる」


「そうなのですか。 ところで、戦う相手は現地の人達ですか。 人を犠牲にする戦いに参加したくはありませんが」


「それは其方次第である。 敵も模型を本物とした武具であるが、奪取する村や都には人間が住んでおる」


「え、それでは敵もモデラーなのですか」


「そう聞いておる」


(なら、相手も現代人。 話が通じるなら、やっても良いか……)

「わかりました。 判断の前に詳しいお話を聞きましょう」


「よろしい。 では、ついて参れ」



 そして二人が玄関から出ると、近くの床の上に簀の子のような物が置かれ、その上に幾つもの段ボール箱が積み上がっていた。

その箱は土井が見覚えのあるものだった。



「これは……、ウチに送った段ボール?!」


「そうじゃな。 其方の家より取り寄せた。 2か所からの転送には難儀したぞ」



 いつものように転送前に「応えよ」が無かったのは、他所で転送作業をしていたからであった。



「模型が手元に無ければ、作業できないであろう」


「それは確かに。 でもいきなり段ボールが無くなって、ウチじゃびっくりする……あ、しないのか」


「問題なかろう」



 二人は地下倉庫から廊下に進むと、会議室に入った。

部屋には三人の天使が待っていて、出迎えた。



「ようこそいらっしゃいしまた。 私、ここで総指揮を執っているマリエルです」


「私はキリエル、モンスターの統率と前線指揮が担当よ」


「僕はミシエル。 亜人の開発と製造をやってる」



 すかさず土井も自己紹介をする。



「自分は土井忠。 妻と3人の子供がいる中年です」


「土井殿はまだ天使になる決心がつかぬそうじゃ。 お前たち、説得して見せよ」



 こうして、天使達との話が始まった。

早速土井が話を切り出す。



「それでは、話に入る前に感覚を確認したいのだけど、いいかな」


「感覚といいますと?」


「皆さんの『職場』は堅く真面目な感じなのか、フランクな感じなのか。 どちらかなと」


「それでしたら、フランクな感じですわね。 見た目も若く見えますでしょうから、堅苦しい対応は要りませんわ」


「あー若く見えるのは見た目だけだから、私もそこのミシエルも80歳過ぎてるし」


「ええっ、マジですか」


「マジですよ」



 急に会話の様相が変わるのであった。 話は続く。

話題は戦いの内容に進む。



「それじゃ、これまでの戦いについて簡潔にまとめた資料なんかはあるかな」


「そうですわね、まとめたものはありませんわ。 映像資料そのままだと見るだけで何日もかかってしまいますわね」


「映像であるんだ。 じゃあ戦いの要点とか、決め手になった辺りを見せてもらえばいいかな」


「そうですわね、準備いたしますわ」



 続いてモンスターについての話となる。



「それじゃあワイバーンが飛んでいるんだ。 これは現物を見てみたいな」


「じゃあ、会議が終わったら魔獣舎に行こっか」


「OK」



 世間にファンタジーRPGが普及する前からファンタジー作品に親しんでいた土井にとってみれば、現実にファンタジーモンスターがいるというなら、「これは見ねば」という所なのであった。


 こうして、話し合いは3時間越えの長丁場となった。 次から次へと話題が途切れず、思いの外長引いた感じだ。

そして、土井は決断する。



「天使の件、引き受けるよ」



 召喚天使土井忠の誕生である。


用語集


・多くの作品に触れている

本編で2話前に話題になっていた「ニート転生」だけではない。

「異世界オッチャン」という作品があり、これはアニメ化される前から注目している。(本編中ではアニメ化のニュースが出た頃である)

「魔人様再挑戦!」という作品のコミックも愛読しており、アニメ化の際には「『続け!』って言ったって、こんなデキじゃ続編作られないだろ」と嘆いていた。(まさか5年後に続編が作られるとは、予想だにしない展開だが、現時点の彼は与り知らぬこと)

というか、毎期ごとに注目作があるようだが、毎期何本も見る様なアニオタではない。


ゲームに関しても、大英や秋津から廃人呼ばわりされる事はあるが、世間的に言う「廃人」の域には全く届いていない。

(自由時間がニート並みにあれば、廃人どころか廃神になれる集中力と分析力・行動力は持っているものの、彼の仕事はとても忙しく、使える時間は大変短い)



・二人

正確には一柱と一人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ