第55話 ドイッチュラントと呼ばれしおっさん その2
その日、アキエルは1/700に掛けられていた排水量や全長などによる制限を解除した。
同時に、サイズによる変更ポイントを2000トンに改め、2000トン以下のもの(一部艦艇と全ての航空機・車両)について、臨時措置ではなく恒久的に年代先取りとなる改定を行った。
これにより、現時点では2000トン以下は1950年代、2000トン越えは1940年代までが召喚可能となった。
これを受けて、大英は円盤との戦いで大きな被害を受けた艦隊の再建にとりかかる。
幸いにして、1/700の艦隊については完成済みの数が揃っている。 小中学生当時の制作のため、デキや状態については少々残念な所も多々あるが、それが召喚の障害になったり、性能の低下を招く事は無い。
実のところ大英の「1/700艦隊」は、あまり同じものを作らないにしては、結構まともな編成が出来たりする。
多くの人の場合、
戦艦と空母ばかり(または戦艦と空母しかない)
著名な海戦の参加艦艇を揃える
のいずれかが多いように思う。
この2パターンだけで艦船モデラーの4割はカバーできる気がしないでもない。
大英の場合、どちらにも該当しないが、以下の数を目標にしていたようだ。
(空母+戦艦)= 巡洋艦
(空母+戦艦+巡洋艦)= 駆逐艦
つまり、
空母1隻、戦艦1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦4隻
という8隻を1単位とし、これを8つ設ける。
これを「八八艦隊」と言う。
まぁ、目標であって実践出来ている訳ではないし、艦隊間の戦力差が大きすぎて戦闘単位としては機能しないのだがな。
そんなわけで、世間的に販売されているキットの種類数とくらべると、意外とまともな編成になる。 曲がりなりにも輪形陣もやれなくはない。
それでも、現実に戦う事を想定してのものでは無いため、補助艦艇を中心に色々と不足がある。
近年では補助艦艇のキットも増えており、大英もある程度までは入手しているが、現実の艦隊編成を念頭にすると、全く足りていない。
ただ、広い太平洋を暴れまわる訳では無いため、燃料についての心配は少ないので、タンカーが少ない事はあまり気にしていないようだ。
さて、キット制作だけで一日が終わる訳もなく、制作は召喚の合間になっている。
この日の午前は潜水艦の「伊-1」と「伊-6」それにUボートIXC型を召喚したが、それでスブリサに戻るのではなく、そのままザバックの執政官と都の北の海岸へとやって来た。
執政官は岩場の多い海岸へと大英達を案内する。
「こちらになります。 いかがでしょうか」
「良い感じですね。 広さも問題ないようです」
「では、必要な手続きを進めておきます」
「お願いします」
一緒に来ていたビステルは大英に問う。
「ここで何をなさるのですか?」
「うん、ここに基地を新設しようと思う。 城傍の基地も間もなく手狭になるだろうから」
「港も何もない、ここにですか?」
「何もない方が都合がいいのでね」
土地の確認を終えた大英達は城に戻り、少し早いが午後の召喚を行う。
召喚されたのは3隻の駆逐艦、「綾波」と「響」、「初雪」であった。
響はジオラマ仕立てで海面を模した紙粘土に固定されていたが、召喚の障害とはならず問題なく出現した。
次の日。
この日も艦艇召喚のために大英はザバックに来ていた。 そこへ、艦隊が入港する。
北方諸島へ出かけていた、秋津が指揮する艦隊だ。
この艦隊には行き同様、秋津・ゴートと共にシュリービジャヤも乗って来ていた。
結局のところ、シュリービジャヤは結論を出せず、スブリサへと帰還する事になったのである。
ただし、その帰還には軍務卿である父シャイレーンドラと、従兄妹マリとその父を伴っていた。
こうなった原因は、マリがシュリービジャヤが第1騎士団長を務める姿と、その住まうスブリサの都を見たいと言い出したためである。
結論を出せずにいるシュリービジャヤに助け舟を出した形だ。
秋津達は内火艇に乗り換えると、桟橋に到着し大英達が迎える。
「戻ったぞ」
「おかえり」
オッサン同士が静かな挨拶をしていると、その横で若者が明るい挨拶をしていた。
「おっかえりー」
「た、ただ今戻りました」
リディアの歓迎にシュリービジャヤは引きつった笑顔で応える。
「どうしたの?」
「いえ、何でもありません」
だが、その背後から質問の声がする。
「シュリービジャヤ様、そちらの親しげな方は、どちら様でしょうか?」
「あ、彼女はですね……」
「早う降りよ、後がつかえておる」
説明を遮ってシャイレーンドラが声をかける。
「は、はい、父上。 マリ殿、私が先に降りますので、お手を」
「はい」
シュリービジャヤは桟橋に降りると、マリの手を引いて、彼女が内火艇から降りるのをサポートする。
「ありがとうございます」
その様子を見てリディアの頭上には「?」が浮かぶのであった。
その後に情報共有の時間を持つため、先に召喚を済ませる。
現れたのは軽巡「天龍」と「夕張」の2隻。
「凄いのですね。 先ほどの方の魔法なのですか」
「はい。 彼女はみ使い殿や、他の方々と共に、あのような『神獣』を召喚しているのです」
召喚を終えた大英は秋津らに合流し、ザバックの城へ行き、北方作戦についての報告会議が開かれる。
*****
天界、レリアル神のオフィス。
モリエルがレリアル神に書類を提出する。
「こちらが最終的に選定した候補となります」
「ふむ、この者が最もふさわしいのだな」
「はい。 模型の種類と数、戦に関する知見、そして人格。 全てにおいて最高レベルでバランスが取れています」
「よろしい。 それで、この者を連れてきたとして、迎え入れる準備はできておるのか?」
「現在鋭意進めております。 短期間でアキエル君の召喚天使に追いつかせるための様々な施策を準備しており、間もなく揃う見込みです」
「そうか。 期待しておるぞ」
「はっ、お任せください」
それから10日後、レリアル神はカテゴリー8の複合大魔法「天使召喚」に赴いた。
用語集
・セーラム
USS Salem。セイレムとして表記されることもある。
[2024-11-16 補足]
本文に出て来ない。当初の原稿にはあったのですが、カットしたのに、こっちから消すのを忘れていました。
とりあえず、大英が保有している最大の重巡。
・この2パターンだけで艦船モデラーの4割はカバーできる気がしないでもない。
近年は「海自護衛艦しかない」というケースもあるようだ。
・八八艦隊
現実の八八艦隊は2つある。
一つは旧海軍の「戦艦8隻、巡洋戦艦8隻」からなる主力艦整備計画。
もう一つは海自の「護衛艦8隻、ヘリ8機」からなる1個護衛隊群の編成。
大英八八艦隊の内容は、本文には余計だし、ここに書くのも重いのでパス。
・彼女はみ使い殿や、他の方々と共に
関係者以外に説明するとこの様になる。
こう聞くと、共同作業に聞こえる。
実際は大英の模型を使ったリディア一人の魔法を他の3人がサポートしているが、この事は一級の機密事項である。