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模型戦記  作者: BEL
第8章 水棲魔獣と大規模軍団
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第53話 おっさんズと太古の敵 その5

 海の戦いはモリエルとアキエルが出かけているという重大事態という事もあり、天界でも注視している。

そんな中、マツエルは異常事態を検知する。



「セキエルさん! 円盤が、円盤が……」


「どうした? 何を慌ててるんだよ」


「円盤が消えました!」


「は?」


「反応が消えたんです。 周りにいた船も一緒です」


「まさか、ちょっと見せてみ」



 セキエルがセンサーをチェックすると、反応が確認された。



「なんだよ、あるじゃんか。 驚ろかせ……」

「モリエルさん!モリエルさん!緊急事態です!!」



 セキエルは円盤の存在を確認した。 ただし、その場所はそれまで追尾していた場所では無かった。



「言いたいことは判るよ。 今、目の前だ……」



 モリエルは、そうセキエルに返信した。




 大和Ⅰを旗艦とする艦隊の進む先にゲートが開く。

それはあっという間に数百メートル規模に拡大し、それを通って円盤と新型駆逐艦の大群が現れた。


いや、通ってという言い方は正しくない。

ゲート自体が出現と共に後方へと高速移動して、直径数百メートルの範囲を数秒で転移させたのだ。

天界のゲートシステムでは見られない運用であり、神の魔法とは異なる体系と言える。


そして現れた円盤と艦隊との距離は僅か5キロ。 直進しかせず、水平線の下は撃てない光線砲でも直撃できる距離だ。



「な、全艦右反転120度! 砲戦しつつ距離を取れ!」

「陣形単縦陣へ移行!」



 驚きつつも即座に指令を飛ばす大英。

複縦陣を解除し、事前の計画に従い、右側の巡洋艦・駆逐艦を左側の戦艦・護衛艦の後ろに付ける。


 円盤と新型駆逐艦の光線砲に魔力が集まる。



「エミエル!」


「はい!」



 即座に指示を出すアキエルと、名を呼ばれただけで何をすべきか理解するエミエル。

数十本もの光線が先頭艦である大和Ⅰへと集まる。

そしてそれらは、全て大和Ⅰの前に展開されたゲート、大和のサイズと比べれば非常に小さなそれに向かっても軌道を曲げられて吸い込まれていく。


 一斉攻撃が何の効果も見せない事で、円盤と駆逐艦は再攻撃を行うべく光線砲に魔力を集める。

だが、その前に各艦の砲撃が始まる。


 120度は前部主砲がなんとか撃てる角度だ。

2隻の大和が18門の46センチ砲を放つ。 轟音と振動、そして大きな爆煙が出る。

5キロという至近距離のため、直ぐに着弾。 目標が大きいだけに、全弾直撃だ。



「やったか?」



 大和の威力に期待する秋津は目を凝らす。

徹甲榴弾が爆発した煙が風に流されると、円盤は健在だった。

だが、表層に多数並んでいる光線砲は吹き飛んでおり、無傷という訳ではない。



「ダメかよ、46センチが効かないだと」



 秋津は半分呆れる。



「そもそも表面で爆発してる。 貫通してない」



 大英は円盤の様子を見ている。



(おかしいな。 いや、おかしくないのか……)



 続いてウォースパイトの38センチ砲が発射され、着弾する。

当然のように、結果は同じだ。


 一方、敵の新型駆逐艦の光線砲で、巡洋艦に被害が出始めた。

巡洋艦・駆逐艦も反撃しているが、戦況は思わしくない。



「アヴェンジャーに通信を。 敵の駆逐艦を始末するようお願いします」



 大英は通信士に依頼する。



「どうすんだ? 魚雷は効かないんじゃないか?」


「円盤には効かなくても、駆逐艦には効くだろ。 このままだと護衛が剥がされる」


「なるほどな。 そりゃそうだ」



 秋津も納得した。

先行していたはずの2つの前衛艦隊は、後ろに回られた形になり、現在反転してこちらに向かっている最中。

3隻の戦艦は副砲や高角砲も光線砲を潰すため円盤を撃っている。


 他の艦艇だけで駆逐艦を始末するのは中々に大変であった。


 艦隊の後方を飛ぶTBF アヴェンジャーが20機。 航空攻撃用に用意していたものだ。


 この雷撃隊には、敵の光線砲による迎撃を避けるため、距離5000メートルから実施するよう指示を出している。

元々は巨大な円盤相手なのでこの距離でも外さない想定だったが、小型艦相手となると話は違う。

とはいえ、接近すれば光線砲に撃たれる。



「閣下、編隊長より返信です。 敵艦は小型なので、2000メートルまでの接近を許可されたいと」


「敵の対空光線砲の推定有効射程は1キロか……よし、許可すると伝えてください」



 連絡を受け、アベンジャー隊は高度を下げつつ速度を上げる。



「それじゃ、お先に失礼」



 上空にいる3機の4発機に挨拶すると、アベンジャー隊は戦場へと突入する。


 艦隊は距離を取ろうとするが、円盤の速度は思いの外速く、全く離れない。

これには大英も閉口する。



「何であのカタチで25ノット以上出るんだ?」



 水の抵抗をまともに受けるから、動きが鈍い「機動要塞」というイメージを持っていたのだが、普通に戦艦と変わらない速度を出している。

そして、既に何斉射も受けているが、円盤の戦闘力は全く減っていない。



「困ったものね」



 アキエルの分析によれば、破壊される傍から新しい光線砲が湧いて出ているという。

圧倒的な再生力である。


 そして、その光線砲の動きが変わった。

これまで先頭の大和Ⅰを撃っていたが、全く効果が無い事で、方針を変えたのだ。


 光線が一斉に大和Ⅱに向けられる。



「え?」



 エミエルの防御は大和Ⅰの艦橋部分を中心に展開している。

そこから300メートル以上離れた大和Ⅱは範囲外だ。


 20発以上の光線が大和Ⅱの艦橋や煙突、マスト、後部艦橋を直撃する。

巨大な爆発と共に煙突以降の構造物は消し飛ぶ。

そして、艦橋も中央に大きなダメージを受け、倒壊した。



「嘘、大丈夫なの?」



 キリエルはショックを受けている。 彼女は召喚兵器がこのような大ダメージを受けるのを見た事が無い。

しかもそれは今自分が乗っている艦と同じ形のモノなのだ。


 大和Ⅱは鐘楼と共に空中線・メインマストが失われ、無線通信は出来そうにない。


 大英は艦長にあの被害で作戦継続が可能か聞くと、司令塔が無事であれば可能との事であった。

それを聞き、マリエルは通信を大和Ⅱ司令塔へと送る。


司令塔の構造はマリエルも承知していた。

なにしろ、この大和Ⅰの司令塔にはモリエル、それにリディアとパルティアがいて、マリエルも一度中に入った事があるためだ。



「ご無事ですか?」


「おお、これは魔法の通信ですな」


「はい」


「ご安心ください。 本艦はまだ戦闘継続可能であります」



 さすがは魔法で召喚されたホムンクルスである。 通信ウインドウの展開にも動じる事は無かった。


 大和Ⅱは第一艦橋、第二艦橋を喪失し、一時的に戦闘指揮が止まったが、すぐに活動を再開していた。

まだ第二艦橋の下にある司令塔が無事であり、主砲予備指揮所と防御指揮所、そして操舵所が健在だった。


 防御指揮所にいた大和Ⅱ副長は被害状況を確認すると、指揮を引き継いだのである。


 とは言うものの、円盤の光線砲は破壊する傍から新しく生み出されており、火力が減る様子はない。

このまま攻撃が続けば、大和型と言えども沈むのは時間の問題だろう。


 そこへ、アベンジャーの雷撃隊が到着する。

雷撃隊は敵駆逐艦を始末すべく接近しつつ高度を下げていく。



「よし、数は少ないけど、2隻くらいは削って……」



 そう大英が言いかけた時、駆逐艦から放たれた光線が、8キロ彼方のアベンジャーを貫いた。

一撃で炎上・爆発して落ちていくアベンジャー。


 他の駆逐艦や円盤も光線を放ち、次々とアベンジャーを撃ち落としていく。



「撤退だ! 全機下げさせろ!」



 結局逃げ延びたアベンジャーは2機しか無かった。

秋津は嘆く。



「なんてこった、敵の対空砲の射程が伸びてやがるとは」


「敵の改良速度は思ったより早いわね」



 アキエルも予想外という顔だ。

だが、そんな敵の進化に感心している場合では無い。


 大英は砲撃を受ける円盤を見ていて、ある事に気付いた。

光線砲の被害は縦方向に多く、横方向は少ない。 砲弾が低角度で当たっているからだ。



(これか、違和感の原因は……ビスマルクと同じだな)



 その時、巨大な爆発が後ろで起きた。


 大和Ⅱが舷側を撃ち抜かれて爆発したのだ。



「ああっ、そんな」



 マリエルは艦橋内に展開された映像ウインドウを見て、口を押えて固まっている。


 大和Ⅱは爆発を繰り返しつつ、急速に沈んでいった。



「くそっ、このままじゃ全滅だ! どうする」



 秋津は焦り叫ぶ。

戦況はあまり良くないのであった。


用語集


・全艦右反転120度

どこぞの司令は「全艦反転180度」とか左右の指定なく叫んでいたが、それに対して突っ込みを入れていたおかけで、非常時のシミュレーションが出来ていた成果である。

まぁ、右側は運動性に勝る巡洋艦で、5キロと言う至近距離では水平射撃になるから、戦艦部隊との間に挟むと不都合という理由もあって「右」を指定した次第。



・2000メートルまで

航空雷撃は2000メートルより接近して行う事が一般的。なので、これでも遠い。

ちなみに日本海軍なら1000メートル以下が多いらしい。


2024-10-19 誤字修正

そのな中

 ↓

そんな中


2025-08-16 誤字修正

副縦陣

複縦陣


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