第53話 おっさんズと太古の敵 その4
ザバックの都から出撃した艦艇は3つの艦隊に分かれて進軍する。
先行する2つの前衛、サフォーク艦隊、ベルファスト艦隊。
そのやや後方を進む主力艦隊である。
◆主力艦隊
戦艦 大和Ⅰ、大和Ⅱ、ウォースパイト
巡洋艦 エイジャックス
護衛艦 みねぐも、あまつかぜ
駆逐艦 マイレ=ブレゼ、マルソー
◆前衛1 サフォーク艦隊
巡洋艦 サフォーク
駆逐艦 ホットスパー、Z28、初月
◆前衛2 ベルファスト艦隊
巡洋艦 ベルファスト、マンクスマン
駆逐艦 コサックⅠ、コサックⅡ、冬月
各艦隊上空、高度6千メートル付近をB-24爆撃機とPBY-5飛行艇が飛ぶ。
B-24は爆撃に来たのではなく、哨戒機代わりだ。
上空からの近隣監視と砲撃時の着弾観測に使われる。
索敵に関しては、大雑把な情報は天界からもたらされるため、偵察機は必要ない。
航空攻撃は、敵の対空光線砲は1キロ程度の短射程であるものの、命中精度と威力を考えると急降下爆撃の実施は難しいということで、対艦攻撃手段としては見送られた。
大和Ⅰの第一艦橋でアキエルが最新情報を解説する。
「敵の前衛艦隊は5つ。 便宜上E1~E5とするけど、横一列に並んで前進してるわ。 残すと本土が攻撃されるので、殲滅します」
これを受け、大英は各艦隊への指示を出す。
「サフォーク艦隊は右からの2個艦隊を、ベルファスト艦隊は左からの2個艦隊を迎撃。 主力艦隊はエイジャックスとマルソーで正面の1個艦隊を叩く」
「各艦隊は魚雷の使用は禁止。 砲撃戦でお願い」
各艦隊は十分な射程を持つ15センチ砲以上の搭載艦が攻撃の中心となる。
曲射が出来ない光線砲の射界外から、砲撃を行うためだ。
上空の飛行艇から敵艦隊視認の報が届き、各艦隊は速力を上げて戦闘態勢へと移行する。
敵艦隊は大型駆逐艦4隻、中型駆逐艦16隻で編成されていた。 速度が遅い上、光線砲を持たない小型艦は海戦では役に立たないと判断されたためか、参加していないようだ。
砲撃戦が始まる。
右翼担当のサフォーク艦隊は順調に敵を殲滅していった。 だが、左翼担当のベルファスト艦隊は少し事情が違っていた。
「敵駆逐艦に命中を確認! 3発目です! ……敵艦健在! 接近してきます!」
「くそっ、距離を取れ!」
サフォークは15センチ砲の砲撃で大型駆逐艦2隻を撃沈したものの、3隻目に手間取っていた。
「耐弾性が上がっている可能性があるとは聞いていたが……」
Z28も中型駆逐艦を砲撃しているが、殲滅速度は明らかに低下していた。
そしてそれは中央の主力艦隊でも同様だった。
「エイジャックスより入電、敵艦隊接近につき退避。 本隊も退避を進言します」
「良くない流れね」
表情を曇らせるアキエル。 そこへ戦場を飛んでいるバタエルから連絡が入る。
「嬢ちゃん、爆発する実体弾の有効性が下がっているぞ、至近弾は効果なしじゃ。 直撃しないと駄目だな」
「やっぱり強化されてるかぁ」
「左翼も同じじゃな。 右翼はそうでもないが、何か違うのか?」
アキエルはバタエルの質問を大英に投げかける。
「サフォークは重巡だから20センチ砲だけど、エイジャックスとベルファストは軽巡で15センチ砲。 20センチ砲の方が威力が大きいからかな」
「そっか、耐性が上がったと言っても限界はあるわよね。 だから大きい砲ならこれまで通り至近弾でもダメージが入る。 とはいえ、あるもので戦うしかないから、小さい砲は直撃しないと効果が無いとなると、命中率は低くなるわよねぇ」
「命中率……誘導砲弾なら高くなるんだろうけど、現代でも艦砲は誘導しとらんしなぁ」
「誘導……」
アキエルはちょっと考えてバタエルに連絡する。
「ねぇ、砲弾を誘導できない? 完全に外れているのは無理としても、落下する砲弾の弾道を操作して、至近弾を直撃弾に出来ないかしら」
「難しい注文じゃのう。 じゃが、やってみるか」
バタエルは15センチ砲弾の弾道を計算し、至近弾になると見込まれた弾に魔法で力を加えて弾道を制御し、直撃コースへと変える。
砲弾は直撃し、敵艦は轟沈する。
「よーし、思ったより簡単じゃな。 たかだか音速の数倍程度、大した事無かったわ」
「いけるのね」
「じゃが同時に2隻の面倒は見れんぞ」
マルソーも15センチ砲を撃っているので、こちらにも担当が必要だ。
「そういう事なら、私が参りますわ」
マリエルが申し出る。
「うん、お願い」
そしてマリエルに続き、苦戦しているベルファスト艦隊に向けてミシエルとキリエルが飛んで行く。
誘導作戦は成功し、形勢は逆転、敵前衛艦隊は壊滅した。
数隻の残存中型艦は後退して去って行く。
艦隊が壊滅した海域の後方、前進を続ける円盤。
その動きを捕らえる2本の潜望鏡があった。
「発射管1番から4番開け。 魚雷発射用意」
円盤の進路上を塞ぐ形で待機していたUボートVIIC型とHMS UNDINEは襲撃体勢に入る。
そして、両艦はタイミングを合わせて魚雷を放つ。
流石に目標が大きい事もあり、全ての魚雷が円盤へと吸い込まれていく。
円盤の端で次々と上がる水柱。 全弾命中である。
しかし、円盤は何事も無かったかのように前進を続ける。
2隻の潜水艦は直ぐに再装填し、次弾を放つ。 今度も全弾円盤へと向かう。
だが、今度は水柱が上がらなかった。
「どうなっている? 全弾命中のはずだぞ!」
「判りません。 ただ、小さな破壊音が聞こえています」
「破壊音? 魚雷を迎撃したのか? いや、それならそれで、爆発音がするだろうし、手前で水柱が上がるはずだ」
何が起きているのか判らないが、UNDINEは残弾無しとなり撤退する。 VIIC型は再度攻撃を行うものの、効果は見られない。
円盤に着弾する直前、水面下で蠢く円盤の触手が魚雷を捕らえ、起爆させる事無く破壊していたのだ。
VIIC型は前部発射管用の魚雷を撃ち尽くし、反転し撤退しつつ後部発射管から魚雷を放つものの、結果は変わらないのであった。
「潜水艦隊より入電、初撃8発命中するも、円盤の動きに変化なし。 次弾以降は命中するも起爆せず」
「うーん、8発食らって平気とか大きすぎるのか。 というか、次弾が起爆しないって、そんなに早く耐性とか無力化する何かが出てくるのか?」
大英には何が起きているのか判らないが、それはアキエルも同じだった。
「いや、いくら何でも分単位で耐性や対策なんて獲得しないでしょ。 起爆しなかったって事は、別の理由よ」
円盤の触手は元々魚などを捕食するためのものだったが、魚雷の爆発を感知し、即座に対応したという事。
流石に分単位で新しいモノは生み出せないが、新しい用途を「思いつく」事は出来るのであった。
「だけど、こうなると水上艦の魚雷も期待できない事になるか……」
巡洋艦と駆逐艦は魚雷を搭載している。 作戦では戦艦の砲撃と共に、それらの雷撃も予定していたのだ。
アキエルはとりあえず予定通り作戦継続を提案する。
「一応1回は試してみましょ」
「そうだね、賛成」
「円盤は進路そのままで前進しているそうよ。 思ったよりタフなようだけど、それは織り込み済み。 これからが本番よ」
「ああ、全くだ」
大英も同意し、全員円盤迎撃に意識を向けるのであった。
用語集
・第一艦橋
かなり狭い。 某宇宙戦艦のせいで広い部屋だと思っている人も多いと思うが、実のところその内部は半径3メートル程の円に、少し突き出た部分がある程度。
・現代でも艦砲は誘導しとらん
AGSは失敗。エクスカリバーN5はまだ量産してない。
・目標が大きい
それこそ巨体タンカーが船腹向けて停止しているようなもの。