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模型戦記  作者: BEL
第8章 水棲魔獣と大規模軍団
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第53話 おっさんズと太古の敵 その3

「なんとも、山のような船であるな」



 近くで大和を見たゴートの感想である。

これまでに見た駆逐艦や巡洋艦よりもずっと大きいため、そんな感想になる。


 内火艇は大和に接舷し、一行は階段を登って乗り込む。



「疲れてるときの階段ってのは、なかなかきついわね」



 キリエルはお疲れ。 他の召喚に参加したメンバーも同様だ。


 それでも、甲板に出ると感嘆の声が上がる。



「おお、これは」


「すごいですね」



 ゴートとビステルは目の前に現れた巨大な砲塔に圧倒された。

天使達も目を丸くしている。



「未来の人類がここまでのものを作っていたとは、こんなものが相手では、ドラゴンでも厳しいだろうね。 これを召喚するのは確かに大変だ。 天使に助力を求めるのも判る」



 モリエルも感心している。



「これが大和か。 鉄の城、男の(ふね)か」


「やはりでかいな」



 大英も秋津も感動している。

模型や写真でしか見た事の無い巨大戦艦に、今乗っている。

その感慨は、初めて召喚した6ポンド砲を見た時のソレを超えるものだった。


 ちなみに大英の感想に「大きい」という意味が含まれていないのは、一般公開でスーパーキャリアーに乗った事があるため。

あちらは全長300メートル越えだし、飛行甲板の幅もやたらあるからね。



 艦尾側から乗り込んだ一行は、艦首側へと進む。

大英は上部構造物の中央部分を見て語る。



「おお、高角砲はちゃんとしてるな」


「『ちゃんと』とは何だ?」


「いや、元の1/250のキット、高角砲が全部シールド付きなんよ」



 秋津は高角砲群に目をやる。

下段にはシールド付き12.7cm連装高角砲、上段にはシールドの無い12.7cm連装高角砲がそれぞれ3基づつ並んでいた。


 秋津は大戦中の飛行機には詳しいが、艦船についてはそんなに詳しくは無い。



「そうなのか」



 と反応を返すのが精いっぱいであった。



「どれ、上の方も見てみるかの」



 バタエルはエンジェルシステムを起動すると、艦橋横を上がっていく。



「ほほう、これは興味深い」


「おじいちゃーん、早く降りて来ないと置いてきますよ~」



 一人空に上がっていくバタエルをエミエルが呼ぶ。



「全く、若いモンは気が短くて困る」



 バタエルは名残惜しそうに、降りるのであった。



 一行は艦首を周って再び艦橋横まで戻ると艦内へと進み、食堂で一休みする。

食堂と言っても、ボイラーが起動していないため何も料理は出て来ない。 というか、艦艇の場合、特に指定しなければ食材は搭載されていない。 ホムンクルスは食料を必要としないため、大量の食材を積んだ所で処置に困るからだ。

なお、電源は発電機を回して確保されているので、部屋が暗いという事は無い。


 マリエルは周囲を見渡しながら大英に話しかける。



「この軍船と同じものを、もう一隻用意するという事なのですね」


「そう、中止半端な攻撃だと、相手を強くするだけと聞いたので」


「そうですか……」



 今は円盤を倒す頼もしい存在であるものの、いずれは対峙しなればならない。

果たしてコレを沈める事が可能なのか?

マリエルは思い悩む。


 相手が将来手にする戦力について詳しい情報は得られたが、対抗策は思いつかない。

このような巨大戦艦を仕留められる「生物」を、マリエルは知らない。

もちろん、無抵抗ならシーサーペントで沈められる気がしているものの、当然護衛は付くだろうし、どんな対抗手段を持っているかも判らない。 シーサーペントが先日の「対水中武具」による攻撃を突破できるとは思えなかった。


 そんな彼女の肩に、モリエルは手をかける。 それに気づき、顔を上げてモリエルを見るマリエル。



「モリエル様……」


「心配いらない。 今は目の前の敵に集中しよう」


「わかりました」



 その様子を見るアキエル。



(コレを見ても「まだやれる」という事ね。 流石はモリエル。 でも、コレが究極では無いんだけどな)



 アキエルに現代の軍事知識がある訳ではない。 しかし、リアライズシステムの運営上、事前に大英の在庫に関してスキャンしている。

その結果、大和よりも大きな召喚負荷がかかる存在を確認しているのだ。



(ふわっとした自信か、何か切り札があるのか。 楽しみにしてるわよ)



 一通り大和見学を堪能した一行は、基地に戻る。

そして、1/600大和からの召喚に挑む。


 例によって大英は事前通告を行う。



「多分寝込むと思うから、後の事は宜しく」


「そんなに!?」


「そんなに」



 キリエルが思わず口にした言葉に、応える大英。



「それじゃ、いっくよー」



 リディアの能天気な掛け声とともに、召喚が始まった。




 洋上に浮かぶ2隻の大和型戦艦。

両方とも大和のため、高角砲装備は同じだ。 キットの想定年代も同じため、外見上の違いも見られない。

現実には起こりえない光景だが、ここでは起きるのだ。


なお目立っていないが、少し離れた所に駆逐艦コサックも2隻いたりする。



 翌日午後、召喚に参加したリディア以外の6名が目覚めた。(もちろんリディアは朝から元気である)



「あー、まだ眠いわ」


「召喚した奴は……あれか……」



 ミシエルが目を向けた先に、2隻の大和が佇んでいる。



「しっかし、こんなに疲れたのに、出てきたのは同じものなのね」



 何か疲れを増やしそうな言葉をこぼすキリエル。



「しょうがないじゃない。 ずっと小さな模型から召喚したんだから」


「それじゃ、大きな模型だけ揃えたら良い話?」


「大きいほど作る手間が増えるから、揃えるのは大変なのよ」


「そっか」



 アキエルの説明を受けて納得するキリエル。



「でも、逆に言えば、小さいほど短期間に数を揃えられる訳だね」


「そうとも言うわね」



 アキエルはモリエルの指摘に得意げに応える。



「最近そちらの『数』が増えているのも、このためかな?」


「そうねぇ、その通りと言っておきましょう」



 口には出さずとも、降伏しろ降伏しろと圧をかけるアキエルであった。



 食事の後、天界からアキエルに連絡が入る。



「円盤が大艦隊と共にこっちに向かっているわ。 予想通りにね」


「では」


「ええ、作戦開始よ」



 召喚軍は既に全艦出撃準備完了している。 もちろん、大和も含めて。

なお、一部の潜水艦は予想進路上に展開済みだ。


 大英達は出撃準備にかかる。 ゴートやビステルも特に出来る事は無いが、海の戦いを経験すべく同行する。

すると、リディアが大英に声をかけた。



「私たちも連れていってくれないかな」


「え? いや、そうだね。 ここにいるより安全かもしれない」



 魚雷艇と小型潜水艦は残していくし、戦車も数両あるものの、迂回されて侵攻されれば、防ぎきれるものでは無いだろう。

最前線とは言え天使直衛が得られる艦内のほうが安全なのは間違いない。

リディアとパルティアの二人も同行する事とした。



 準備が終わり、大英達は後から召喚した大和、便宜上「大和I」と命名された艦に乗り込む。 ちなみにもう1隻は「大和Ⅱ」となる。

後から召喚した方が「Ⅰ」なのは、大英が入手・完成させた順番が先のためだ。



 大和Ⅰ、大和Ⅱ、ウォースパイト、3隻の戦艦を中核とする艦隊が出撃した。


用語集


・高角砲はちゃんとしてる/高角砲が全部シールド付き

キットのリサーチミスや制作上の考証間違いは、召喚時に自動的に修正される。



・大和よりも大きな召喚負荷がかかる存在

ここでいう「存在」に「戦いに参加しない」建造物は含んでいない。

もちろん、大英の家にある地球儀をシステムが捕えて「超強力な兵器」と勘違いしている訳ではない。

アキエルはちゃんと「兵器」だけを抽出した結果を見て、認識している。


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