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模型戦記  作者: BEL
第8章 水棲魔獣と大規模軍団
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第52話 ラグナロクを呼んだ「モノ」

 その日、天界のアキエルの元にある報告が届いた。

それは、大英の依頼で「陸で撃破した敵艦」の構造物について調査した結果であった。



「じゃ、生物ではないのね」


「はい。 対レーザーコーティング、対ビームコーティングを持っており、トウリのモンスターにも該当するような防御機能を有する生物は存在しません」


「一体何と戦うためのモノだったのかしら」


「召喚兵器が使用している運動エネルギー弾や化学エネルギー弾、爆薬等に対する耐性は低く、物理的な攻撃には弱いものです。 自然・天然の『甲羅』とは考えにくいかと」


「ミシエル君がわざわざそんな効果の乏しい能力付与をするとは思えないわね」


「はい。 まるで『天界で戦う』ための防御システムのように見受けられます」



 天界の戦士が戦う場合、魔法によってレーザーやビームを放つ事が多い。

魔力を使用した攻撃の場合、これらへの変換効率が高いためだ。

物理的な物体を召喚して加速・誘導して当てるより、ずっと効果的。



「でも、地上で戦うのには、あまり意味ないわよね。 まさかこっちに転移する訳じゃないだろうし」


「御意……」


「ちょっと待ってよ、コレを作ったのがミシエル君で無いとしたら、誰?」


「先日の『勇者一行』のように、ダゴンの手の物では?」



 それを聞き、別のスタッフが反論する。



「それはありません。 先般の一件以後、世界間移動は厳重に監視しております。 あのような大船団は勿論のこと、人一人たりとも侵入を見逃したりはしません」



 これにはアキエルも同意する。



「そうよね。 外からは入って来れないという事は、最初からこっちにいた……」


「アキエル様!」


「禁忌倉庫を調べて!」


「ははっ!」



 禁忌倉庫には大昔、そう、まだレムリアに天界が建設されるより以前に「敵」から鹵獲した数々の物品が収められている。



*****



 70万年ほど前、神々の母星。

 全球防空管制司令部。


 神々の戦士はその多くが宇宙船に乗り、クトゥルーの眷属ダゴン配下の宇宙艦隊との戦闘をしていた。

母星ではランクの低い戦士や学生、退役後再度軍務に就いた老戦士などが、全球防空管制司令部の指揮に従って、敵が放つ「隕石爆弾」の迎撃任務などに従事していた。



「第103小隊はビルス方面に向かう爆弾を迎撃せよ!」


「新たにヴィーグへ向かう爆弾4個を探知!」


「くそっ、反対側か。 一番近いのは……第12小隊を向かわせろ!」


「はっ!」



 全方位から母星へと同時飽和攻撃が行われ、処理しきれず地上の被害も少なくない。



「新手です! 東経105度、南緯27度へ向けて爆弾1個を探知!」


「ん? そこは南平洋だぞ、合っているか?」


「はい。 海に向かっています」


「津波の懸念は?」


「実体隕石であれば、問題ありません」



 隕石爆弾は爆弾と名が付いているが、実際はただの岩の塊。 ただ、大きさと速度のため、都市に落ちれば核攻撃にも匹敵する被害となる。

原野や砂漠、海洋に落ちるなら大した問題は起きないが、重要拠点を狙って来るため、対処が必要なのだ。



「誘導システムの故障か何かで軌道を外れたのでは無いでしょうか」


「そうだな」


「新たにイザブへ向かう爆弾2個を探知!」


「仕方ない、『外れ』は無視だ。 イザブへ向かう爆弾は第98小隊で迎撃!」



 迎撃を逃れ海へ向かう隕石は大気圏突入後3つに割れ、各々の破片は少し距離を開けて海へと突入する。

突入した破片は砕け、各々中から直径3メートル程の円盤が現れる。


 円盤は周囲の海洋生物を摂取して成長し、やがて海上に姿を現すと、長さ9メートル程の小さな船を生み出していく。

小さな船は集団で近隣の島を襲撃、陸上の生物を捕食し、円盤へと運んでいく。

その犠牲者には神々も含まれていた。


 間もなく、島々での異常事態は当局の知る所となり、警察が捜査を始める。

警官隊は襲撃に来た「船」と戦い、これを撃退した。


 だが、次の襲撃の時、警官の放つ光線魔法は効力を発揮しなかった。

船には対レーザーコーティングが施され、光線による攻撃に対して耐性が出来ていたのだ。


 また、別の大陸沿岸の街を襲った船は、最初から対レーザーコーティングを持ち、警官隊は大きな被害を出して退避していった。


 船の戦闘経験は円盤へと伝わり、円盤が受け取った情報は他の円盤と共有された。

それは同時に活動を開始した3基に限らず、全海洋で活動を始めたすべての円盤で同様だった。

後から追加された円盤も、到着と同時に情報を受け取り、最初から最新バージョンの船を生み出したのだ。


 度重なる沿岸部への襲撃に、軍は有神艇の投入を決定する。

警官より多彩な魔法攻撃が出来る老戦士や若い学生戦士を乗せたボートを海に出し、海岸に近づく前に迎え撃つのだ。


 警官とは出力が違う戦士の光線魔法により、船は対レーザーコーティングを破られ、次々と沈む。

近接して直接触手を絡ませたり、体当たりする以外の攻撃方法を持たない小型船は、ボートに乗り強力な光線を撃って来る戦士の前に、成すすべなく敗れ去った。

だが、この状況も長くは続かなかった。


 円盤は戦士に対抗するため、これまでの3倍、30メートル級の中型船を生み出した。

その船には大型の光線砲が搭載され、戦士の放つ光線より遠くからボートを撃つ。

戦士の防御魔法を貫通し、ボートを破壊。 戦士は離脱を余儀なくされる。


 さらに中型船は海岸に近づくと光線砲による攻撃を行う。

小型船の活動に障害となりそうな施設等を上陸前に破壊。 そして小型船と共に自らも上陸し、抵抗する天使達を排除した。


 この事態に軍は数世紀前に使われていた「装備」を復活させる。

無神攻撃ヴィマーナである。

小型高出力のビーム砲を持ち、集団で飛行し自立AIで目標を攻撃する。

汎用的な天使の登場によって旧式化し、使われなくなっていたものだ。


 だが、現在地上には戦闘に向かない天使しかいない。 戦える天使は皆宇宙の戦いや爆弾の迎撃に回っている。

残っている天使は介護や警備、子守りやインフラ整備など神々の世話をする事が主任務で、空中戦闘すら出来ず、その魔法火力は警官に毛が生えたような程度。

避難する神々の時間稼ぎをするのが精いっぱいであった。


 そして新たに生み出された天使が一人前になって戦えるようになるには、10年以上の時間を要し、とても間に合わない。

一方、ヴィマーナは設計資料を基に製造魔法で量産すれば、数日で前線に送る事が出来た。


 軍が船団を探知すると、無神攻撃ヴィマーナは船団に向けて出撃。

数キロメートルまで接近するとビーム砲による攻撃を行う。

彼らの対レーザーコーティングはビーム攻撃には効果が無く、次々と撃沈されていく。


それは中型船と言えども例外ではない。

自慢の光線砲も空を飛ぶ相手には撃つ事が出来ず、沈められるのであった。


 軍は敵の出撃拠点が海に浮かぶ大きな円盤である事を認識し、無神攻撃ヴィマーナの大群を向かわせる。

作戦は成功し、円盤の一つを撃沈することに成功した。

母艦とも言える円盤であったが、水上を攻撃する光線砲は持っていたものの、空からの攻撃には無力だったのだ。


 だが、例によって彼らは学習し、対抗策を生み出していく。

それは2つの対策だった。

新たに生み出された船は対ビームコーティングを施され、耐性を持つ。

完全に防ぐことは出来ないが、有効なダメージを出すためには、10倍近づく必要があった。 ヴィマーナが搭載するビーム砲の有効射程は、数百メートルにまで減少した形だ。


 もう一つは新兵器を搭載した大型船の登場だ。

有効射程1キロ程の「対空光線砲」を装備する90メートル級の船だ。


 有効射程が縮み、より接近が必要となった無神攻撃ヴィマーナは、この対空光線砲によって次々と撃ち落とされていった。

低速のヴィマーナは、有効射程に入る前に全滅してしまったのだ。


 制海権は失われ、海上輸送路は寸断。 各地で資源や食料の偏りが発生しはじめていた。

転送やゲートによる輸送では絶対量が少なく、需要は満たせない。

更なる効果的な対策が無ければ、軍は宇宙で戦う戦士を呼び戻さなければならなくなるだろう。


 さらにこの手の侵入兵器は内陸にも現れ、巨神が街で暴れると言った事象も起きていた。

宇宙艦隊の侵攻は防ぎ、むしろ戦況は優勢であったが、母星に直接現れた敵によって、地上では苦戦が続いていた。



 そんな中、投入時に海に入れず海岸に墜落して、起動に失敗した円盤が1基、軍によって捕獲された。

大きさはともかく、形状や意匠が敵の出撃拠点の大型円盤に酷似したソレは、何か関係がある物だと認識され、分析に回される。


 だが、それについて詳細を調べる余裕は、彼らには残されていなかった。

星系外より巨大なエネルギー弾の接近が探知された。

それは母星に向かっており、破壊したり軌道を変える事は困難であった。


 いや、何の抵抗も無ければ出来たかもしれないが、周りをダゴンの艦隊によって固められており、戦士たちによる対処は不可能だったのだ。


 命中すれば、良くても地上の生命は全滅し、数100万年単位で生命が住めない星となる。 悪い予測なら星そのものが破壊されてしまう。

ここまでの攻撃はダゴン本人であっても難しい。 業を煮やしたクトゥルー自身が手を下した可能性が考えられた。


 絶望に包まれる軍司令部と政府。


 そこへクトゥルーと対立するハスターからの提案が届く。

星を捨てて脱出せよ。 さすれば、全員居住可能な星へと導くと。


一つの星へと移住する事は敵わないが、脱出船単位でダゴンの追撃をかわして安全な星へと送り届けるという。

クトゥルーと同格のハスターがやる事であれば、眷属程度が手を出すことは出来ない。


ハスターは、自らの配下となり得る文明・種族を増やすべく、救済の手を差し伸べたのだった。


 政府はこの提案を受け入れ、全住民の脱出作戦を実施する。


 急な事で大混乱の中、作戦は実施され、多くの神々が宇宙へと旅立って行った。

ダゴンによる転移の追跡は遮断され、神々はクトゥルーに行き先を知られる事無く、宇宙への脱出に成功した。


 そんな混乱状態である。 円盤の分析どころではない。

円盤はその他の鹵獲品と共にある移民船の倉庫に保管され、そのままとなった。


 その二十数柱の神々と多くの天使を乗せた移民船はレムリア星系へと流れつく。

天界が建設され、正体不明な物品たちは禁忌倉庫へと収められた。



*****



 アキエルの元に報告が届く。


 昔、神々の故郷の星で海と沿岸域を荒らした巨大円盤と似た意匠を持つ小型円盤が、姿を消していたと。


 鹵獲から70万年が過ぎ、ゆっくり進んでいた自己修復によって円盤は起動に成功し、目的地とは違う星で活動を開始していたのであった。

用語集


・良くても地上の生命は全滅し、数100万年単位で生命が住めない星となる。

ドリフのBGMが聞こえる……。 いや、本来は全然違う音楽なのだが。



・業を煮やしたクトゥルー自身が手を下した可能性

いわゆる「もうよい、下がっておれ」の発動ですね。

ダゴンの戦績が悪いからクトゥルーはお怒りのようです。


まぁ、そのまま戦っていて破れて

「死してクトゥルーにお詫びを」

にならなかっただけ、ましだと思いましょう。


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