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模型戦記  作者: BEL
第8章 水棲魔獣と大規模軍団
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第51話 おっさんズと海中の敵 その4

ザバック沖の海上で護衛艦「みねぐも」は、南からやって来るイカダ艦隊を確認した。

だが、同時に「別の存在」も捉えていた。


 海中に不審な音源が多数あるのに気づいたのである。



「何の音か判るか」


「ダイオウイカやクジラに近い音ですが、少し違っています」


「どちらにしても大型生物のようだな」


「はい、あ、接近します。 本艦に近づいているのでしょうか」


「確認が必要だな。 艦橋に要請しよう」



 みねぐもは左に数度変針する。



「皆ついて来ますね。 これは偶然ではありませんね」


「どうやら狙ってきているようだな」



 報告を受け、艦長は大型海洋モンスターによる襲撃と判断し、先制攻撃を指示した。



「ファンタジーモンスターが現れる世界だとは聞いているが、一体何なのだろうな」


「興味深いですね」


「だが、姿を見る時はこっちが沈む時だ。 遺憾ながら先に叩くしかあるまい」


「はい」



 艦長と副長の脳裏に、巨大なクラーケンに襲われて沈みかけている帆船の絵が浮かぶ。

現代的な船であっても、取りつかれては助からないだろう。



「あの亀は囮なのだろうな」


「おそらく。 ですが、放置する訳にもいかないでしょう」


「野生動物を撃つのは気が引けるが、実際はとんでもないサイズだな」


「ええ、それに見た目だけでの判断も危険でしょう。 魔法のある世界ですから、何をして来るか判りません。 近づく前に対処すべきと考えます」


「さて、処理がてら囮に引っかかったフリでもするか。 DASH発艦後、主砲でイカダを攻撃だ」


「はっ」



 攻撃命令を受け、無人ヘリコプターDASHが発艦する。 DASHは現代的な用語で言えばドローンの一種。 短魚雷を2本搭載して攻撃を行う。

そしてみなぐも自身はイカダに向けて砲撃を開始する。


 DASHはイカダ艦隊を無視して海中の敵へと向かう。

海中の敵は位置的にはイカダ艦隊の下、深度30メートルから60メートルくらいなのだが、運動性の違いか意図的な理由があってか、水上の艦隊とは微妙にズレた場所を進んでいる。


 海中目標の上空に到達したDASHは、高度を下げてMk.44対潜誘導魚雷を2本連続して投下する。

Mk.44の1本目は初期捜索深度15.24m、下限捜索深度45.72mで設定されており、2本目は初期捜索深度45.72m、下限捜索深度76.2mで設定されていた。

これは異なる捜索パターンを持たせる事で、互いの動作に悪影響を出さないためである。


海に入った2発のMk.44は、旋回しながら「大型目標」を探す。



*****



 海中を進む海洋モンスター軍団と、海上のイカダ艦隊、そしてそれらを指揮するキリエルは前方に1隻の大型軍船を見つけ、攻撃のために接近していた。

ちなみにキリエルは訓練時同様に海中にいる。


 イカダは囮として使う。

乗っている亀は、亀だと思えば大きいがモンスターとして見ると小さい海亀だ。 ドラゴン的な亀を小さくしたような物だが、その子供ではなく別種。

一応火を吹く能力はあるものの、射程は短いので、戦うなら接弦しないとダメだろう。

それでも、敵は近づくものは迎え撃たなければならないだろう。 そしてこのイカダには推進器が取り付けられており、大型軍船にも追随できる速力を発揮するとされる。


 海中を進むはクラーケンとオクトパス。 本来は単独行動をするボス級モンスターなのだが、キリエルに指揮され3体づづ6体もの集団で進軍している。

速度の速いクラーケンは深度50m付近を進み、やや低速のオクトパスはキリエルと共にその半分の深度を進んでいる。


 キリエルは敵の大型軍船がイカダを撃ち始めたのを確認する。



「引っかかった引っかかった。 待ってなさいよー。 いけっ突撃!」



 クラーケンとオクトパスは突撃命令を受けて速度を上げる。

だが、その頭上前方に2本の小さな物体が落ちてきた。

その物体の一つは沈みながら円を描くように動く。



「何? アレ」



 キリエルは見た事も無い細長い物体に気付く。 情報ウインドウが開くが、大きさと移動速度しか表示されず、ソレが何なのかは判断できない。


 すると、突如動きを変える。 円運動を止め、真っすぐ進みだした。 その先にはオクトパスがいる。



「え? どういう事?」



 もう1本はそのまま深度45m過ぎまで沈降すると、同様に円を描き始める。

そして先の物体は、動いているオクトパスに向かって進行方向を修正しつつ向かう。



「いけない! オクトパス避けて!」



 だが、それは無理な相談だった。 原潜相手だと遅いと言われた速度であるが、オクトパス相手には十分速かった。

逃げ切る事叶わず、起爆する魚雷。


直撃を受けたオクトパスは体をバラバラに粉砕され、肉塊となって沈んでいく。



「なんて事、向こうはこっちの事が見えているの?」



 混乱するキリエルをしり目に、もう1本の魚雷はクラーケンの1体へと向かう。

クラーケンはオクトパスより機動力に優れるが、それでも魚雷からは逃げられなかった。


 再び起きる爆発。

クラーケンも爆殺されてしまった。



「くっ、これはいけないわ。 追いかけて来て自爆する……こんな武具まであったなんて」



 その頃、海上では次々とイカダが撃沈され、3インチ砲弾を受けた亀は多くが死亡する。 稀に無傷や軽傷のままイカダが破壊された場合は海中へと避難する。 海亀なので、溺れる事は無い。



「どうする? どうしよう」



 迷うキリエルの元に通信ウインドウが開く。



「キリエルさん、撤退です。 作戦は失敗ですわ」


「マリエル……」


「追跡武具まで存在したとあっては、対策を考え直さないといけません」


「判ったわ」



 そんな話をしていると、頭上の海面から細長い物体が4本飛び込んできた。



「いけない! また何か来た!」


「急いでください!」



 キリエルは全軍に撤収を命じ、自身も後退を始める。

飛び込んできた物体はそのまま沈むと、突然次々と爆発した。


 1体のオクトパスが爆発に巻き込まれ、犠牲となる。



「あー、何なのもう!」


「敵の軍船が接近していますわ。 全速で逃げてください」



 やむを得ず、キリエルはオクトパスとクラーケンを置いて撤退する。 クラーケンも遅いオクトパスに合わせず、全力で逃げるのであった。


 実は召喚軍はこれまで何度か誘導ミサイルなどの誘導兵器を使用しているが、ミシエル達相手に使ったのは、これが初めてであった。



*****



 みねぐもでは、敵の動きを的確にとらえていた。 なお、海上のイカダは既に全滅している。



「敵性水中生物、逃げていきます」


「ボフォースの攻撃は継続、フローラ装填。 DASH2番機の発進は中止」


「はっ! ボフォースの攻撃は継続、フローラ装填。 DASH2番機の発進は中止!」



 連絡を受けた後部甲板では2番機から魚雷を降ろし、1番機の帰還を待つ。

そして、ボフォースロケットによる攻撃は継続され、また1体撃破に成功する。



「よし、これまでとしよう。 深追いは禁物だ。 作戦終了」


「作戦終了!」



 南より来襲した艦隊は、こうしてみねぐも1隻に撃退された。

遅れて出港したコサックは、帰投するみねぐもと交代で警戒任務に付くのであった。



*****



 円盤の直径は330メートルを超える。 これはニミッツ級空母の全長に匹敵する。 それが円形をしているのだから、この構造物は原子力空母を超える巨体という事になる。

そしてその周辺には数多くの艦艇が遊弋している。

艦隊の再建は順調に進んでいるようだ。


用語集


・ダイオウイカやクジラに近い音

ソナー員はかなり細かく聞き分けることが出来ると言う。

潜水艦のソナー員なら、エビの場合エビの音と特定するのみならず、その品種や現在行っている行動まで聞き分けるらしい。

水上艦のソナー員はそこまでの技量は無いかもしれないし、聞いた事の無い音なら確証も持てないだろうが、それなりに判断できるだろう。


・無人ヘリコプターDASHが発艦する

みねぐもはこのDASHを2機搭載している。 実の所同時運用が可能かどうかは不明。

なので、本作では1機だけ飛ばし、帰投してから2号機を飛ばすという運用を想定しております。


・2本連続して投下

これも1本づつ投下できるのか、1本だけ残すとバランスが崩れて飛行に差し支えるのかは情報が無いので、連続投下としています。

ちなみに2本の魚雷が同じ海域でアクティブソナーを使ってホーミングしようとすると、干渉して動作に問題が生じるという話があります。

実際のミッションでは捜索パターンと呼ばれる魚雷の機動設定を別々にすることで、干渉を避けるとか、パッシブモードが使える魚雷なら、そちらにするという方法もあるようです。

本作では捜索パターンの設定を変える事で、深度の異なる別々の目標を狙う動作をさせています。


・15.24m/45.72m

単位の変換で細かい数字が出るのはいつもの事。

ただ、今回は現実世界でも同じ事になるお話。

この値は本来50フィート/150フィート。


・ドラゴン的な亀

英語にすると問題が生じるので、このままで使う事。

それにしても、ウミガメなのに、なぜ火を吹くのだろう。 あ、某所ではブレスを吹くと言うだけで、別に火を吹くとは言ってなかったか。

何を吹くかは知らないが、どっちにしても水中では使えない能力だよな。


・推進器

水中モーターのデカイ奴だと思えば、大体合っている。

キリエルの指示で自在に向きと出力を調整でき、イカダに対し20ノットを優に超える速力を与える。

一応スペック上は30ノットを超える事も出来るのだが、その場合乗ってる亀の安全は保障されない。

元々天界にあったブツではなく、オノエル棟梁の制作。

例によって攻撃武具(天造兵装)ではないと判定されたため、使用が許可された。


・クラーケン

頭足類のモンスターとして知られている。 イカなのかタコなのかは解釈次第(どちらでも無い事もあるかも知れない)。

本作ではイカの一種。

タコだと相棒がオクトパスだから「タコとタコ」という謎状態になるわな。


・起爆する魚雷

実のところ、本当に起爆するかどうかは不明です。

後継のMk.46は磁気信管のため、タコ相手に起爆する事は無いでしょう。

Mk.44の信管の資料が無かったので、触発信管か触発信管と磁気信管の併用という想定です。


なお、某AIは「対潜魚雷による海洋生物への誤認攻撃」が発生していると主張しています。

クジラなどを相手に磁気信管が作動するとは思えないので、触発信管を備えた対潜魚雷がある(または「あった」)のかも知れません。

ただ、近年の魚雷は複殻式船殻に対応するため、成形炸薬弾頭を備えているようなので、直撃させる想定かと思われます。

とりあえず、本作では生物相手でも「起爆する」と設定しています。


・作戦終了

別に事前に「対潜攻撃作戦」を立てていた訳ではありませんが、終了なのでこのように表現しています。

実際の海自ではどのように表現しているかは判りませんが、とりあえず「状況終了」で無い事だけは確かかと思います。


ちなみに戦闘中、特定のミッションが終わる時に「状況終了」と語るのは誤用だそうです。

(召喚軍は戦争中なので、「状況終了」が発令されるのは、大英達が21世紀に帰る前に「全軍召喚解除」する時。という事)


・敵の動きを的確にとらえていた

魚雷や爆雷(ボフォースのロケット弾)が次々と水中爆発を起こしてソナーを攪乱しているので、完全にリアルタイムですべてを把握という訳ではないのでしょうが、実用上問題ない範囲で「的確に」とらえていたという事です。


・フローラ装填

フローラとはボフォースの弾種の名前。 射程が長い弾。 最大2.2キロ程飛ぶ。

ネリの方が射程が長いが、みねぐもは新造時想定なので、搭載していない。

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