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模型戦記  作者: BEL
第8章 水棲魔獣と大規模軍団
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第50話 おっさんズと海の魔物 その11

 スブリサの都に戻った大英達は、今回の戦いについて総括をしている。

秋津が口火を切る。



「結局、敵は北の海からしか来なかったな」


「ああ、当然連携して南からも襲撃があると思ったんだが、何の動きも無かった」



 大英達は南の森からの敵襲に備え、兵力を温存していたのだが、実のところミシエル達と海の魔物に関連は無いため、連携も無い。

仮に襲撃があったとしても、それは単なる偶然なのだが、それは彼らには判らない話だ。

温存しなければ、もっと大兵力で上陸すら許さず、さくっと壊滅出来たとは思うが、それは後出しじゃんけんな論でしかない。


 そして動きが無かった点については、ゴートも疑問を呈した。



「そこはわしも疑問に思う。 あのマリエル殿が指揮を執っている事を考えれば、このような粗略な戦い方をするとは考え難い」


「何かトラブルとか行き違いがあったのかもな。 そこは考えても判る事じゃない」


「だな」


「とりあえず、今回の敵を調べてみたいな。 死体と言うか残骸が海岸とかに残ってるというからな」


「どっちなんだろうな。 生き物なのか機械なのか」


「見れば判るかも知れないし、見ても判らないかも知れない」


「行って見るしかねぇか」


「持って来るには大きいしな。 行った方が早い」



 都や村々の防備はモントゴメリー達に任せ、大英達はヌヌー伯領へと出向く事にした。



「重装輪回収車が間に合わんのは残念だったな」


「あれか、こういう時には大事だな。 よく持ってたな」


「手ごろな値段だったからな。 というか、普通の回収車は外国製でとんでもなく高いから買えん」



 回収車を仕入れるのは当然というのが大英の立場で、重装輪回収車を手に入れるまで持ってなかったのは、マイナー故国内メーカーの製品が無く、高価すぎて手が出なかっただけとの事だ。


 ちなみに「間に合わない」というのは、召喚制限がまだかかっているため。

大英の持つ重装輪回収車は赤島の1/72のもので、1/72はこの時点では00年代が限界。

重装輪回収車は10年代の車両なので、まだ召喚不可なのであった。


 と言う訳で、代わりにA-34コメットを連れていく事とした。

コメットはワイヤーロープを装備しているし、M5よりずっと重いため、引き起こしに使えるという判断だ。

残念な事に、既に現地にいる三式中戦車にはワイヤーロープの装備が無いので、同じことは出来ない。



 その日の午後、大英達は第2騎士団長のパガンと共にヌヌー伯領に到着し、ララムリと合流して村へと赴いた。

途中の街道で、パンツァーファウストで倒された「残骸」を調べ、コメットは先行し兵達は横倒しのM5を復活させる作業に取り掛かる。



「これは、生物というより、普通に船だな。 脚生えてるけど」



 こんこんと黒い船体を叩きながら大英は第一印象を語った。



「これ、何だろう。 FRP? 炭素繊維? 滑らかだし、およそ生物の体を構成しているとは思えないな」


「うーむ、判らんな。 こんなのファンタジー映画やアニメでも見た事無いぞ」


「だよな、脚や触手と口を無視すれば、ただの黒い船だものな」



 秋津データベースでもヒットするモノは無いようだ。

そして、パガンは船体に空いた2つの穴に注目する。



「ほほー、これがあの『パンツァーファウスト』って奴の威力か」


「そうでさ(かしら)、凄かったですぜ」


「むむう、見たかったな」


「イエーイw」



 陽気な第2騎士団である。



「ところでお前ら、こいつを解体しないのか」


「お頭、この甲羅、ハルバードでも割れませんぜ」



 甲羅では無いと思う。



「そんなに固いのか?」


「固いというか、刃が通らないんでさ」


「ふむ」



 パガンは船体を触ってみる。 触った事の無い感触だ。 戦車の装甲とも違う。



「試してみっか」



 そう言うと、ハルバードを構える。



「おりゃー」



 船体に当たった斧頭は弾かれる。 固いというより少し弾力がある感じだ。



「うおっ、とっとっと」


「ぎゃはは~~」



 とにかく陽気な第2騎士団である。


 大英は改めて各所を見て回る。


 触手部分や脚は腐り始めているが、船体は何も劣化は見られなかった。

口の周りはうろこ状になっていたが、船体部分は一体成型でもしたかのような継ぎ目のないものだった。



「これ、船とサメとタコのキメラサイボーグか?」


「そこで『船』っておかしいだろ」



 常識人の秋津的にはクレームをつけずにはおれない。



「だって船じゃんコレ」


「ま、そうだけどよ、タコつぼみたいなもんだろ」


「じゃ船の中に住んでるのか?」


「住んでるというか、ヤドカリみたいなモンじゃねぇのか」


「うーん、脚が生えてなきゃそうかもしれんが」


「脚は問題だな」



 結局のところ、自然界にも、ファンタジー作品にも見かけない「変な」存在という結論となった。


 一行はM5が戦った海岸へと移動する。 37mm砲に撃たれた個体もチェックするためだ。


 海岸に着くと、既に1両復活していた。


 今回同行したトラックの荷台にはドラム缶が積まれており、復活したM5に給油する。

M5の航続力ではスブリサに帰れないが、これで帰還可能となった。

もっとも、そのまま暫くヌヌー伯領に留まり、防備に就くのだがね。 それでも燃料不足を心配していては、戦いは難しくなるので、これで良いのだ。


 浜には何体もの「船」が横たわる。

いくつもの破口があり、何発も被弾してようやく倒れた事が伺える。


 破口の周辺は割れており、さっき見たパンツァーファウストで空いた穴とは違った様子だ。



「やっぱり金属じゃ無いな。 生物的な甲羅でもないが」


「そうだな。 だが37mmで抜けるなら、戦車の敵じゃあないな」


「こいつらはな」


「あ、そうか、大型の奴は光線撃つんだっけか」



 大英は横倒しになっている残骸を見ながら言う。



「ああ。 見た所、こいつらが撃たなかったのは、そもそも光線砲を積んでないからだな」


「中型も撃って来るか……」


「判らんな。 少なくとも空に向けては撃ってこなかったが」


「光線撃たれたら戦車でも危ないな」


「ああ」


「中型でも戦車で倒すことは出来るだろうな、撃たれなければ」


「うーん、こいつら攻撃力だけ突出してるとか、バランス壊れてるな。 普通自分の攻撃には耐えるだろ」


「つーか、船がそのまま上陸して戦うとか、その時点で壊れとるわ」



 大英と秋津が話しているのを見て、ララムリは側近に零す。



「こんな魔物と渡り合う神獣と一緒に戦うには、どうすれば良いのだろう」


「殿下、直接武器で戦うだけが戦いではありません」


「そ、そうだね。 神獣が戦いやすいように準備したり、神獣騎士隊の方々に協力する事も戦いでしたね」


「その通りです」



 とりあえず、小型船はなんとか始末できるが、中型を上陸させてはいけない。

それが基本の作戦と認識した。



*****



 円盤の周辺に中型艦・小型艦が多数集まっている。

陸を目指した艦隊が「頭」を潰されて撤退したものだ。


 円盤から光線がそれぞれの艦艇に伸び、数秒照射され、次へと移る。 それは攻撃ではなく、通信のようだ。

一通り照射を終えると、円盤から大型艦が出てくる。

艦隊は再編成され、指揮下の中・小型艦の数を増やした編成となり、円盤の周囲を周りだした。


それは大きくなった艦隊で訓練をしているかのようであった。

用語集


・普通の回収車は外国製でとんでもなく高い

大英は「手ごろな値段」とか言ってるが、重装輪回収車も別に安価ではない。

それでも海外の装軌式回収車キットの多くが1/35のため、1/72の重装輪回収車は安く見える。

(近年のキットは皆高額なので、感覚がマヒしているのではなかろうか)


ちなみに調べてみると1/72のティーゲルの回収車は比較的近い価格だが、安くはないね。



・国内メーカーの製品が無く

例えば、(今検索したところ)90式戦車回収車のキットはレジン製の超高額キットしか見当たらない。

しかも別途90式戦車のキットを用意する必要がある。

相当ニッチな市場という事のようだ。



・三式中戦車にはワイヤーロープの装備が無い

現実の三式中戦車がワイヤーロープを持っているのかどうかは不明だが、1/350のキットから召喚した車両には付いていなかった。

モールドも無く、箱絵にも描かれていないし、他の資料でもやはり見当たらない。

当時の鉄不足な状況を考えると、ワイヤーロープは無いのかもしれない。



・自分の攻撃には耐える

戦車や戦艦のように「砲と装甲」がある装備品の場合、想定交戦距離でなら、自分で自分を撃っても大きな被害が出ない事を目指した装甲防御を持っている。

もっとも、敵の「船」が光線を受けた実績が無いため、単に実体弾やHEATのジェットに弱かっただけで、光線には強いのかもしれない。


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