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模型戦記  作者: BEL
第2章 異世界戦争
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第7話 おっさんズ、新たな敵を見る その1

今回より第2章です。

 神獣騎士隊の名が民衆に布告されて数日が過ぎたある日、村で平穏を破る事態が発生した。



「敵襲!敵襲!」



 森より現れたのは見慣れた豚頭のオークと、見慣れない緑色の小人であった。

その数、各々約30体ずつ。戦力を貯めていたのか、結構な数だ。

監視塔にて双眼鏡でその集団を見ていたヤークトティーガー車長(暫定指揮官)は都へ伝令を走らせると共に、待機しているSASを呼び出した。

SASジープのドライバーが監視塔に登る。



「見てくれ」



車長はドライバーに双眼鏡を渡す。



「あれか」


「そうだ、あのような緑色の小人は初めて見る。

閣下は見慣れぬ新手や新兵器が現れた際には、SASの投入をためらうなと仰せだった。

今がその時だろう」


「了解した」



 部隊の展開についてはある程度現場に任されている。

基本的には敵に情報を渡さないため、既存の兵力で対応するよう指示されているが、不測の事態には大英の指示を待たずに「新兵器」の投入を可能にしていた。

何でもトップが指示するようなマイクロマネジメントは失敗の元だと大英は考えているのだ。

だが、全ての権限が与えられているわけでは無く、ヤークトティーガーの車長でありながら、彼にはヤークトティーガーを戦線投入する権限は無い。

そこは大英の判断を仰ぐ事になっている。



村に展開している歩兵隊が招集される。

アメリカ歩兵4人、ドイツ空挺兵4人の計8名が揃った。


元のキットはミヤタの1/35ミニチュアミリタリーシリーズの

 アメリカ歩兵セット

 ドイツ・パラシューターセット

である。


ただ、アメリカ兵の1人は元々持っていた火炎放射器は置いといて、小銃を手にしている。

もう一人手りゅう弾を手にしていた兵も同じく小銃を持っている。

事情はドイツ空挺兵も同じで、手りゅう弾の使用はできるだけ控えるよう通達を受けていたし、拳銃を持つ兵には小銃が与えられていた。



「さて、如何なる敵か。その力見定めさせてもらう」



迫りくるオークと緑色の小人。その距離は防壁まで1キロ。

歩兵隊は展開を終え、ドライバーと機銃手、合計2名のSAS兵が乗ったSASジープが門へと進む。



「開門!」



門が開けられ、SASジープは敵に向かい荒野に躍り出る。

二人乗りのジープは敵の想像を超える速度で迫る。

だが、その接近を見ても彼らの進軍が止まる様子は無い。


距離100メートルで、ジープは車体右側を敵に向け停止する。

敵はオークと緑色の小人が合流し、一群として突き進んでくる。


それに対し、車体右後部のビッカース機関銃を準備するSAS兵。

すると、敵が見慣れぬ動きを始めた。


オークたちは背中に大きな盾、タワーシールドを背負っていた。

その盾を取り出し、前に掲げる防御姿勢をとりつつ、駆け足で前進を始める。

緑色の小人はその陰に隠れながら続く。



「ほほう、それで防ぐつもりなのか」



SASのドライバーは両手を開き、掌を上にあげ、呆れたポーズをする。

機銃手は狙いを定める。



「オークにはコメディアンの才能がありますな。我らを笑い死にさせるつもりでしょうかね」


「ああ、間違いない」


「準備完了です、いつでも行けます」



距離60メートルになったところで射撃は開始された。



「よし、ファイアー!」


「イエス、サー!」



ビッカース機関銃の銃口が火を吹く。

一瞬でオークに届いた銃弾は盾を砕き、木片が散乱する。

そして盾だったモノを持っていたオークの体を貫いた。


次々と倒れるオーク。

そして盾を持つオークの陰で弓の準備をしていたオークも、銃弾の餌食となった。


同じく盾持ちの陰に隠れていた緑色の小人は、驚きパニックを起こしながら散り散りに逃げ出す。

だが、指揮官と思しきオークの掛け声で、冷静さを取り戻した緑色の小人は、オーク隊から離れ左右に分かれ、こん棒を片手に全力でジープに向かい走りだす。

小柄で軽快。コボルトと比べても足は速いようだ。


1門の機銃では対処するのは厳しい。

しかし、SASは冷静に対応する。



「よし、撃ち方止め、距離を取るぞ」


「ラジャー」



射撃をやめ、走り出すジープ。

その加速性能は高く、たちまち小人との距離が開く。

そして左方向(敵から見て右方向)に前進したため、二手に分かれていたはずの小人は、ジープを追って一塊になってしまった。



「よし、これで歓迎できるな」


「任せてください」



ジープが停止すると、すかさずビッカースの射撃が再開される。

今度は緑色の小人がその犠牲者となった。


あっという間に15体が倒れ、数を半分に減らす。

それでも突撃を続ける緑色の小人。


再び距離を取るジープ。


さらなる射撃で、残り5体となった緑色の小人は、士気崩壊して逃げ帰って行く。

オーク隊の生き残りも、戦場からの撤退を選択した。


こうして、魔物達が企てた「新手」と「新兵器」による襲撃は失敗に終わった。


防壁の奥でその戦いを見ていた村人や第1騎士団の残存駐留部隊の面々は、次元の違う戦いに声も出ない。


こうして、戦いが終わり、SASジープが城門に戻ってきた頃、村に大英達が到着した。



「え、もう終わったの?

見た事ない敵が来たと聞いたんだけど」


「はい、敵は新戦力を投入してきましたが、思いの外脆弱でした」



KS750を飛ばして来た伝令からの報告で、すぐに出発したのだが到着までに片付いてしまったのだ。

秋津は笑顔で


「まぁ、良かったじゃないか」



と述べ、大英も



「だな、早く終わった事は問題ない」



と同意した。

本人的には「やり過ぎた感」があるが、既に敵には戦車の情報が渡っていると考えられる事を思えば、全く気にする必要はないと理解している。


そして車長に問う



「ところで、新戦力とは?」


「ご覧になりますか」


「ああ」


「まだ敵が撤退したばかりですので危険です、拾って来させましょう」


「頼む」



SASジープが出向き、比較的原型をとどめていた盾と損傷の少ない緑色の小人の遺体を回収してきた。

その鷲鼻の小人を見て大英と秋津は



「うーむ、この凶悪な顔は……」


「ゴブリンだな」


「その様だな」



それを聞き、大英達に同行して来たゴートは問う。



「これがごぶりん……こ奴らは、如何なる者でありますか」



やはりこの世界に元々いる存在では無いらしい。

大英は



「集団で行動し小賢しく残忍……で良いのかな」



秋津も同意して



「まぁ、ゴブリンハンターじゃそんな感じだったけど、他でも大抵は同じじゃね」



と答えた。

SASのドライバーは



「確かに、比較的統率の取れた集団行動をしていました。

それと、走る速度はコボルトより早いようであります。

脚力が高いという事は、筋力はコボルトに勝る可能性が考えられます」


「なるほど、なら腕力もそれ相応に強いかもな」



普通に想像通りの能力だろう。

まぁ、見た目からわからない特殊能力があるかもしれないが。


ちなみにSASのドライバーはコボルトが走るところを見た事が無い。

では、なぜ「走る速度はコボルトより早い」と言えるのか。

これは、大英が得た知識・経験が召喚時に伝わっているためだ。


本来はホムンクルスが「自身より後の時代の兵器・戦術の知識」を得たり「大英達の言語」を習得するためのシステムのオマケ機能のような物と言える。

余談になるが、このため第2次大戦の兵員であるSASドライバーでも74式戦車やF15イーグルに関する知識を有しているので、それらを見ても驚く事は無いし、その機能・性能・運用について正しく把握できる。

このため、時代の違う兵員や装備でも、問題なく連携することが可能となっている。

この事については、例によって事前にム・ロウ神より説明を受けている。

流石に原理についての解説は無かったようだが。


秋津は破損しているタワーシールドを見て



「これが盾か。これで銃を防げると思ったのか」



厚さ1センチ程度の木の板を金属の枠で止める構造になっている。

形状は平らな長方形で、厳密にはタワーシールドの定義からは外れるかもしれない。

(本来のタワーシールドはやや湾曲している)


確かに、これでは短銃ならともかく、機関銃には通用しない。

ギャング映画で、短機関銃を持った敵がやってきたときに、テーブルを倒して盾代わりにするなんてシーンがあるが、あのテーブルの天板だってコレより倍以上厚みがあるだろう。


大英は



「まぁ、連中も『機関銃』に撃たれた事は無いから威力が判んなかったんでは?」


「そういうもんかな」



村でコボルトを撃ったのは短機関銃で、機関銃より威力は低い。

4号が騎士を撃った時車載機銃を使っているが、短銃でも倒せる相手を倒しただけで、その威力の全体像は掴めない。

見た事ないブツの能力は過小評価になる傾向がある事を考えれば、「飛び道具なら盾で対処可能」と思っても不思議ではないのかも知れない。



「『敵将』も間抜けではないが、考察不足だな」


「間抜けではない……ですか」


「こっちの装備を見て、すぐ次の襲撃に対応策を入れ込んでくる。

間抜けには出来ない芸当」


「なるほど」


「だけど、その『対応策』が全然なってない。

この程度の盾しか用意できていないけど、これは工作精度や開発力・生産力の問題じゃないだろう。

これで十分だと考えたのなら、考察不足も甚だしい」


「手厳しいですな。

大英殿を敵に回すという事は、破滅を意味する気がしてきました」



ゴートが言うとシャレになってない気がする。

同行していたビステルは



「なるほど、勉強になります」



と感心していた。


とはいえ、ミシエルの名誉の為に補足すれば、彼は戦車の車載機銃を見ていない。

短銃も見ていない。それらの発砲の様子も含めて、全く知らないのである。

だから、銃身の長さと初速、そして威力の相関について知る機会は無かったのだから、考察不足は言いがかりだと憤慨する事だろう。

それでも、「短機関銃の一連射」を敵の「全力」と推測している時点で、あまり弁護は出来ないかなぁ。

敵にはより強い「何か」があると想定しておくべきだろうね。

用語集


・SAS

 これは実在する組織。

イギリスの特殊部隊のようなもの。

ここに登場するSASジープのキット名は「イギリス・S.A.Sジープ」である。



・ゴブリンハンター

 様々なファンタジー作品がある中、最もゴブリンにフォーカスした作品。

主人公はゴブリンを狩る事を最優先にしているという変わり者。

報酬が良くてもゴブリン討伐が絡まなけれは、その依頼は検討対象外としている程。

テーブルトークRPGの雰囲気を持つ小説で、アニメ化の際もOPにサイコロが登場している。


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