第50話 おっさんズと海の魔物 その9
飛行場では大英達が敵艦隊が止まらないという報告を受けた。
秋津は焦る。
「やべーな。 村は大丈夫なのか」
「わからん、銀河とヘルダイバーは駆逐艦を撃ち漏らした時の保険だからな。 中型小型を全滅させるだけの数は無い」
「ついに本土上陸かぁ」
一応M5が村に向かった事は、報告を受けているが、その程度では足りないと秋津は心配顔だ。
「軽戦車4両じゃ抑えきれないだろう。 困ったな」
「上陸するのが1個艦隊の生き残りで終わるなら、大した事は無いんだけどな」
「終わるとは?」
「上陸後に『増える』と困る」
「増える? 何が?」
「敵が」
「増えるのか?」
「判らん。 でも、人を捕食する敵が自己増殖するってのは『定番』だから」
「うげー」
「これまで敵の天使が生み出した敵は、みんな『何処かで見たような相手』だったから、今度もそうかもしれない」
「じゃどうするよ」
「敵が拠点を作れないように、蹴散らすしかない。 空爆だけでは決着つかんだろうな」
「じゃどうする、地上兵力に余裕あったっけ」
「今は無い。 だからこれから作る」
そう言うと、大英は箱から小さな戦車を多数出す。
それは1/350の戦車だと思えば小さいが、1/700だと思えば大きい。
「これは……帝国陸軍か!」
「そ。 今なら全部まとめて召喚できる」
小さく見えたのはシャーマンやティーゲルと比べれば実際に小さいからで、スケールが1/500とかだったわけではない。
普通に1/350である。 秋津は日本陸軍車両に詳しいわけではないが、同スケールの九七式中戦車を召喚しているのを見ていので、サイズから気づいたのだ。
話を聞いていたリディアは「出番ね」と直ぐに準備にかかる。
本来なら午前の召喚がある時間帯なので、パルティアもハイシャルタットも飛行場に同行していたのだ。
「ところで、この戦車、いつも持ち歩いていたのか?」
「まさか。 最初から今日召喚するつもりで用意していたものだぞ」
「そうか」
「そりゃそうだ。 黒田さんじゃあるまいし」
「はは、そうだな」
「黒田さん」とは彼らの間で予知能力並みの発明をするキャラクターとして知られている架空の人物である。
こうして三式中戦車2両、一式7.5cm自走砲2両、九五式軽戦車2両、九七式自動貨車2両が現れた。
元々飛行場警備用に召喚されていた九七式中戦車と九七式中戦車改の4両と併せ、AFV10両とトラック2両をヌヌー伯領へ派遣することにした。
九七式自動貨車はヌヌーの都にて騎士団を乗車させ、現地へ向かう事を想定している。
第3騎士団の騎士4名がエンフィールド小銃を持って同行し、小銃による戦闘とヌヌーの騎士達をトラックに乗せる手伝いをする。
ヌヌーの騎士は「神獣」に乗った事など無いからね。 誰か「橋渡し」をする人がいないと恐れ多くて乗れないだろう。
なお、それとは別に第2騎士団から2名がパンツァーファウストを持って同行する。
こっちは「荒くれ者」にしか見えないので、他所の騎士を指導するのには向かない。
「先行するトラックでも現地までは3時間はかかる。 戦車隊は5時間以上だろう。 村の救援には間に合わないが、都への進軍だけは止めたい」
「そうだな。 空爆だけで片付けばいいが、それは無理だろうからな」
ゲームなんかだと空襲で地上部隊を全滅させれば、地上部隊は無くても問題無い事もあるが、現実には「飛行機では占領できない」以上、地上部隊は必要である。
そして、対地・対艦攻撃用にA-26を2機とA-10が2機発進していく。
ジェット機であるA-10はレシプロ機であるA-26に合わせず、先行して現地へと向かう。
A-10と言うと、爆弾満載が思い浮かぶ向きも多いと思うが、1/144の食玩のため機外装備は少ない、召喚時点で搭載しているのはマーベリックが2発だけ。
このため、1機は別途召喚したMk.20ロックアイ対戦車クラスター爆弾を2発、もう1機はGBU-12レーザー誘導爆弾を2発追加している。
最後に現地の制空任務に3機のF-104Jと2機のBf109G-6が発進する。
Me410を始め、現地に展開する航空隊からの報告では、現時点までに航空機は現れていないが、今後も現れない保証は無い。
どんな「飛行物体」が来ても対処できるように、ジェット戦闘機とレシプロ戦闘機を派遣した形だ。
F-104Jは速度を上げ、A-10を追い越して現地へと向かう。
現地では5機のSB-2Cヘルダイバーと2機の銀河が岸へと進撃する敵艦隊T6を確認する。
中型艦6隻、小型艦36隻。
直ちに攻撃を開始する。 中型艦も小型艦も対空能力を持たないようで、抵抗はない。
だが、数が多すぎて7機の爆撃機では仕留めきれない。
中型艦2隻を撃沈するので精一杯だった。
1発直撃すれば撃沈だが、そもそも無誘導の爆弾の命中率は低いのである。
敵艦隊は岸まであと5キロに迫った所で、2機のA-10が到着。 マーベリックによって残り4隻の中型艦を撃沈し、中型艦は全滅となる。
だが、やはり小型艦の進撃は止まらない。
A-10の1機は小型艦が多い場所にロックアイを投下する。
2度にわたるロックアイの攻撃で1隻が沈没、3隻が沈黙して漂流しはじめる。
2発で4隻を無力化できたのはクラスター弾のためだ。
ただ、期待した程の成果では無かった。 大英の目論見では倍の8隻は片付くと思っていたのだが、思いの他散開状態で密集度が低く効果が少なかったのだ。
もう1機のA-10はGBU-12で2隻の小型艦を撃沈する。
1発は直撃して木っ端みじん。 もう1隻は至近弾になったが、小型艦を沈めるには十分な威力であった。
これで残りは30隻。
外部装備を使い切ったA-10はその機首に装備する30mm砲(GAU-8 アヴェンジャーガトリング砲)を撃ち始める。
相手が小さいだけにこちらの方が有用で、2機のA-10で8隻を撃破した。
遅れて到着したA-26のうち1機は胴体内に8発の小型爆弾を搭載している。
もう1機は4発の爆弾を搭載している。
この2機の爆撃でさらに2隻が撃沈された。
その後、A-26は12.7mm機銃による機銃掃射を開始する。
1機は主翼下にポッド式で8門、機首に2門。 もう1機は主翼内に6門装備している。
小型艦は内火艇クラスのサイズとはいえ、いくらか装甲があるようで、12.7mmでは有効な打撃は難しい。
散々撃ったが、1隻が隊列を離れて漂流しはじめたのが精々だった。
まだ19隻が残っており、岸へと迫る。
ここで、Bf109G-6 は制空任務を離れ、対艦攻撃へ向かう。
A-26からの連絡で、12.7mmの効果がほとんど無い事を知り、任務の変更を申し出たのだ。
Bf109Gは MG151 20mm機関砲 を搭載しているため、有効かも知れない。 そう判断した大英は即okを出した。
2機のBf109Gの機銃掃射により、さらに2隻を無力化したが、遂に岸に取りつかれてしまった。
海岸に上がり、二本の脚で立ち上がろうとする小型艦。 その最初の1隻が上体を起こした時、衝撃を受けバランスを崩して倒れる。
そして倒れたまま動かなくなった。 その船体には穴が空き、青い液体が流れ出している。
海岸近くの丘の上に、4両のM5軽戦車が展開し、その主砲である M6 37mm戦車砲 が放った徹甲弾が、1隻目を直撃したのだ。
「自由にはさせません」
M5軽戦車は4対16の戦いに突入した。
用語集
・何処かで見たような相手
最初のオークからして「ファンタジーの定番」。
もっとも、今対峙している敵はミシエル製では無いのだがね。
・黒田さん
宇宙連合艦隊というアニメで活躍する技術者・軍人。 フルネームは黒田史朗という。
有名なセリフとして「こんな事もあろうかと」というものが知られているが、実際にアニメ本編で「こんな事もあろうかと」と語った事は無い。
・一式7.5cm自走砲
別名「ホニⅠ」。
ミヤタの1/35では「一式砲戦車」と表記されている車両。
・A-26を2機
1機はボロラエリ社の1/72、もう1機は食玩の1/144「A-26 インベーダー アメリカ空軍第37爆撃飛行隊 BC-340」。
・A-10
実のところ、もう一組装備を追加する余裕があるが、今回はそこまで積んではいない。
現地製の搭載用器具と人力での作業なので、装備の搭載には時間がかかるのである。
・密集度が低く効果が少なかった
より新型のCBU-97だと赤外線誘導なので、命中率は段違い。
もっとも、この「小型艦」がホーミングするほどの熱を出しているのかどうかは不明である。
そして、CBU-97の持ち合わせは無い(長谷部のアメリカ特殊爆弾セット X72-2 には含まれていない)ので、どの道使えない。