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模型戦記  作者: BEL
第8章 水棲魔獣と大規模軍団
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第50話 おっさんズと海の魔物 その7

 ヌヌー伯領の都は海に向かって突き出した三角形状の土地にある。 海に面した港町であり、王国にとって重要な交易拠点である。

スブリサに留学中の若き領主ララムリ=オルメカは、久しぶりにこの故郷の地に立った。



「流石は神獣ですね。 出立したその日、しかも明るいうちに着いてしまうとは」



 ララムリは早朝にスブリサの都を出発し、5時間のドライブを終えた所であった。 明るいうちどころか、まだ昼過ぎである。

彼が乗って来たのはジープで、Morris Truck とそれに牽引された17ポンド砲、そして4両のM5軽戦車と共に到着した。


 とはいえ、浮かれている場合ではない。 艦隊が迎撃に失敗したら、ここが戦場となるかも知れないのだ。

故に、防衛戦の指揮を執るため戻って来たのである。


 17ポンド砲は海に向って岬に配置された。 ここには大英も秋津も来ておらず、将校のホムンクルスもいない。

このため、砲兵には自身の判断で射撃目標を定めて発砲するよう指示が出されている。

一応ヌヌー伯領の騎士も立ち会っているが、あくまで立ち合いと護衛であり、指揮権は無い。


 M5軽戦車は城の近くに置かれ、領主であるララムリの指示に従うよう命ぜられていた。


 そして、ヌヌー伯領の沖合では戦端が開かれようとしていた。



「フォックス1より入電、敵艦隊T1は東方20キロを西進中。 そして、北方に別の艦影を確認とのことです」


「何、別の艦隊が? T2,T3はまだ後じゃ無かったのか?」



 T2,T3はターゲット2、ターゲット3の略で、便宜上敵第2艦隊、敵第3艦隊を指す。



「別の艦隊かと思われます。 サンダー2が確認に向かうようです」


「まずはT1を叩く、砲戦用意!」



 軽巡洋艦エイジャックス、駆逐艦コサック、駆逐艦Z28の3隻は単縦陣で北を向き、目標を右に捉える。

艦隊は目標を目視しないまま砲撃戦を始めようとする。


着弾観測機のシーフォックスと連携しての攻撃である。


 今回の戦闘は交渉の余地は無いと判断されているため、すぐに戦闘に突入する。

まず、15センチ砲を装備したエイジャックスとZ28が発砲した。


 敵艦隊全体を見れば、初弾から艦隊後方の小型艦群に夾叉という幸運な結果だが、当てたいのは雑魚ではなく、旗艦と思われる駆逐艦。 もちろんと言ってはアレだが、命中弾は無い。

シーフォックスはその様子を観測し、結果をエイジャックスに連絡する。

そして、それを元に照準を修正し、発砲。 これを繰り返すため、発射速度は極めて遅い。


 敵艦隊は20ノットに増速。 それに合わせて照準も調整される。


 そして、4回目にして遂に艦隊中央の駆逐艦を夾叉した。 これまでの砲撃では他の中型・小型艦を含め命中弾は無い。

また、相手からの反撃も無い。

シーフォックスが観測できているという事は、相手からもシーフォックスが見えているはずだが、光線に撃たれる事は無かった。


 目標を夾叉したことで、エイジャックス・Z28両艦は全力射撃を始める。


 4分後、1発の砲弾が敵駆逐艦に命中する。 一般的な構造の艦艇であれば、15センチ砲弾を受ければかなりの被害が出るが、敵駆逐艦は平然と航行を続けていた。 その被害は光線砲が1基破壊された程度であり、機関部は無事で、船体にも歪みや穴など無く速力は変わっていない。

思いの外頑丈なようだ。


 砲撃は続く。 艦隊は時折反転して距離を離す。 接近されれば光線砲に撃たれるためだ。


 さらに3分が過ぎ、2発目の命中弾が出る。 艦首部に命中した砲弾により、前部船体を破壊された駆逐艦は速度が15ノットに落ちる。

周りに散らばる中型艦・小型艦もそれに合わせて減速する。

中型艦・小型艦を先行させるといった戦術は取らないようだ。


 そして3発目の命中弾が艦中央部に着弾。 だが、ミサイルや魚雷などの誘爆を起こすような物体が少ないためか、まだ沈む気配はない。



「耐えますね」


「ああ、だが効果はある。 砲撃を続けよ」



 艦隊の指揮を任された旗艦エイジャックスの艦長は、作戦を継続させる。


 こうして、それから20分が過ぎ、遂に敵駆逐艦は海に没した。 命中弾は7発に達していた。

接近して戦えばもっと早く沈められたかもしれないが、光線に撃たれて大きな被害を出したであろう。


 旗艦を失った中型艦・小型艦はしばらくその場で右往左往していたが、砲撃が続いており、命中弾を受けた艦が出ると、反転して後退を始めた。


 エイジャックス艦隊は追撃せず、北に現れた敵へと向かって行く。



 その頃、T3 へ向かう航空機があった。


 高度500メートルで接近するJAS-39Aは目標をロックオンし、距離60kmでRBS-15対艦ミサイル2発を発射する。

2発のミサイルは海面近くまで高度を落として駆逐艦へと迫っていく。 JAS-39Aは速度を落としつつ、状況を注視する。


 駆逐艦はミサイルの接近に気付かないのか、そのまま航行を続けている。

ミサイルは接近を続け、目標まで6キロとなったところでポップアップし、終末誘導態勢へと移行する。


 ようやく気付いたのか、駆逐艦は速度を上げるが、光線による迎撃は無い。

そして、あと1000メートルという所まで来た時、光線が放たれた。

毎秒1発のレートで発射された光線は、3回目にしてミサイルを捕らえ、撃破した。

だが、飛翔するミサイルは2発ある。 そして1発撃ち落とした時、もう1発はあと200メートルまで接近していた。


 目標を変えて放たれる光線。 だが、それがミサイルを捕らえる事は叶わず、直撃する。

大きな爆発が起き、船体は真っ二つとなって轟沈する。


 こちらでも、旗艦を失った艦隊は、数分後に撤退していった。



 状況は T2 へ向かったFS-T2改でも同様だった。


 距離40kmで発射されたXASM-1は海面近くを飛翔し、そのまま目標へと向かう。

距離10kmで気づいた駆逐艦は速度を上げ、距離5キロで光線を撃ち始めるが、全く当たる気配がない。

10秒に1回の頻度で放たれるが、亜音速で飛ぶ小型の目標を相手に射点の修正は間に合っていないようであった。


 さらに近づき、残り1000メートルになると、別の光線も放ち始める。

こちらは毎秒1発であり、飛行物体を撃つための光線なのだろう。

XASM-1はシースキミングのまま舷側へと突入を図る。


 そして残り50mで光線を被弾し爆散するが、その残骸はそのまま駆逐艦へと突入する。

もう1発は残り数メートルという所でミサイル後部に光線が当たり、軌道がずれるが、もはや手遅れ。

多少のずれはあったものの、船体を直撃する。


 直撃1発、至近弾1発を受けた駆逐艦は、炎上しながら静かに沈み、残存艦艇は数分の混乱の後、撤退していった。


 JAS-39A、FS-T2改は各々無線で報告を行う。

「敵の対空火器は1000メートルまで近づかないと動作しない」と。



 当初見つけていた3個艦隊を撃退し、新たに見つけた1個艦隊(仮称T4)と交戦を始めたのだが、敵はそれが全てでは無かった。

ヌヌー伯領近海に派遣されたMe410Aは都より北、ヌヌー伯領北端にある村へと向かう新たな艦隊、それも2つを見つけた。 距離は近く、沿岸までは2時間もかからないと見積もられた。


報告を受けた大英も驚きを隠せない。



「おいおい、一体いくつあるんだよ」



 一つくらいは未発見もあるだろうし、もう一つ出てきたとしてもあり得る話。

それが一つではなく2つとは。

秋津も焦る。



「どうする、艦隊は間に合うか?」


「いや、T4の始末が今終わったとしても、現地までは1時間以上かかる。 仕留める前に取りつかれかねない。 外洋に出過ぎた。 T4は囮だったのか?」


「うー、じゃどうするよ」


「とにかく、航空隊を出す。 1キロ以遠から攻撃できれば大丈夫なら、ロケット弾と魚雷が使える」


「そうか、それか」


「だが、数が足りん」


「なにー」


「ほんの数機で雷撃したって当たらん」


「あーそりゃそうだー」



 誘導ミサイルと違い、無誘導の魚雷は容易に回避されてしまう。

このため、先に急降下爆撃でダメージを与えて速度を落とし、多数を揃えて左右から襲撃するというのがセオリー。

ちなみに対空火器が増えた大戦後期は爆撃の前に、機銃掃射やロケット弾で対空砲火を制圧してから急降下爆撃、最後に雷撃というのが理想的な空襲となった。


 とは言うものの、駆逐艦が相手では爆撃でカタが付く。

史実でも駆逐艦を航空魚雷で仕留めた事例はあまり聞かない。 まー、普通はデカイ奴を雷撃するからね。

大体喫水も浅いから、物によっては直撃しても当たらない。


そもそも運動性が高い駆逐艦に航空魚雷を当てるとか、無理ゲー。



 大英の指示でロケット弾装備機と魚雷装備機が集められる。

さて、戦える戦力は集まったのだろうか。

というか、ロケット弾があるなら、別に雷撃に拘る必要は無いのだがね。

用語集


・目標を目視しないまま

この時のエイジャックスから見た水平線までの距離は、場所にもよるが、艦橋ではおよそ14キロほど。 後ろに続く駆逐艦ならもっと短い。

まぁ、測距儀はもう少し遠くまで見える気がするが、20キロは厳しいかと思われる。



・艦隊の指揮を任された旗艦エイジャックスの艦長

本来艦隊司令官と艦長は別の存在。 以前の「あまつかぜ」の時と同様、艦隊司令が乗艦している状況で召喚されていないため、兼任する事となっている。



・海面近くまで高度を落として

専門的な言葉で言えば「シースキミング」。



・XASM-1

実弾を想定して召喚されているため、ASM-1と同様の弾頭を搭載している。



・左右から襲撃

何にでも例外はある。

一番有名なのは大和を沈めた時の作戦。

片弦に集中させたので、武蔵の時の半分で済んだ。



・直撃しても当たらない

船体の下を通過してしまう。 現代の魚雷なら真下を通過する際に磁気信管が作動して1発撃沈だけど、当時の魚雷は「駆逐艦をスルーしてその向こうの大物に当てる」という思想があった訳ではないが、磁気信管を実用化していた米軍でも磁気信管は付いてないのが普通。

今は、駆逐艦も昔よりデカイから十分狙うべきターゲットだけど、飛行機で水上艦艇を雷撃すること自体が普通無い。


2024-07-20 誤字修正

飛行物体を討つ

     ↓

飛行物体を撃つ

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