第50話 おっさんズと海の魔物 その4
彩雲はマウラナ伯領とバヤン辺境伯領を調査するため飛行している。 眼下に村のようなモノが見えてきた。
「ここじゃないか、村の様子を見てくれ」
偵察員は双眼鏡で地上の様子を見る。
「これは……酷い有様ですね。 動く者は無く、建物は皆焼け落ちています」
「そうか、難破者の話は本当だったのだな」
「海岸から棒状の模様が伸び、村内に続いています」
「模様? 何だそれは」
「ワニが歩いた跡に似ていますが、大きさがけた違いですね。 周りの建物の大きさを考えると、幅は数メートルあると思われます」
「何か巨大な物が動いたのか。 海岸からと言うと、海から上陸したのか」
「ですね。 単に撃たれただけでなく、何かが村の中まで侵入したのでしょう。 あと、足跡っぽいものも見えますが、ここからだと詳細は判りません」
「足跡か。 無限軌道やタイヤではないのか」
「細い移動痕は見えません」
「他に何か特徴的なものはあるか?」
「以上です」
「よし、他の村も見てみよう」
彩雲は次の村を求めて沿岸上空を飛び続けた。
結局、5つの村が全滅しているのが確認された。 いずれも大きな島の南岸にある村か、南側にある小島の村だった。
村内の状況はどこも同じで、襲撃者は南の海からやって来て上陸し、村と村人を襲ったものと推測される。
調査を終えた彩雲は反転し帰投する。 行きは南北に蛇行しながら飛んだが、帰りは南岸上空を真っすぐ進む。
偵察は終えたので、高度は6千まで上げた。 もちろん、調査を終えたとはいえ偵察員は地上の様子を見ている。
そして、偵察員は地上に煙と光を見つけた。 先ほどは何も起きていなかった普通の村だ。
「前方の村で火災の可能性あり。 要確認と認む」
「よし、高度5千に降下する」
彩雲は高度を下げ、村へと向かう。
「あれは……、洋上に艦船を確認! 大型艦1隻、中型艦4隻、小型艦多数。 光線です、大型艦から光線が、あぁ、村で爆発が……」
「こちらでも確認した、離脱する」
「離脱……は、はい……」
「『敵』の詳細は知りたいが、俺たちの使命はこの情報を持ち帰る事だ。 リスクは取れない」
「はい」
「それに、本機ではアレを止められない。 残念だが、村を助ける手はない」
「判っています……」
「……」
彩雲は針路を北西に向け、速度を上げる。 艦艇は彩雲に気付かなかったか、攻撃すべき標的と認識しなかったのか、射程外だったのか、理由は不明だが撃って来る事は無かった。
そのまま島の北岸まで進むと、進路を西に取り洋上へと出る。 そして暫く進んだのち、南西へと進路を変え本土へと向かう帰路についた。
地上では惨劇が展開されている。 6つ目の村も、それまでと同じく全滅した。
*****
彩雲からの報告はザバックに滞在している秋津の元に届けられた。
まず速報が通信で伝えられ、続いて偵察員がサイドカーでやって来た。
「という事は、大型艦は駆逐艦クラスなのか?」
「はい、正確ではありませんが、村の建造物との比較では、そのように判断されます」
「そして、その1/3程度の中型艦と、さらに1/3の小型艦か。 そうなると小型はもうボートだな」
「ええ、ただ、小型と中型は岸に向かって進んでいました」
「何だ、射程が短いのか?」
「もしかしたら、上陸するのかも知れません」
「何? 船がか?」
「はい、以前襲撃を受けた村では、大きな物体が動いた跡が見られました。 もし今回遭遇した相手と同じ編成だとすると、一つおかしい点があります」
「おかしい……そうか、アレが無いのか」
「ええ、揚陸艦が見当たりません。 なので、小型艦、もしかしたら中型艦もですが、船そのものが上陸したのではないかと。 というのが、私と機長の見解です」
「そうかぁ、水陸両用って訳か。 これは問題だな。 こっちの陸上戦力を強化しないとならんかもな」
秋津は襲撃者がレリアル陣営だと思っている。 ならば、海軍の最重要拠点であるザバックが襲撃を受けるのは時間の問題と考えた。
そして報告後、偵察員はそのまま滞在する事になった。
「すまんね。 大英が起きたら奴にも説明してやってくれ」
「お任せください。 問題ありません」
こうして、敵に関する生の情報がもたらされたのであった。
*****
キリエルはモンスターを狩るためトウリに来ていた。
ダゴンの勢力が近くにいない事を確認しつつ、活動する。
「この辺なら、いそうだけど……」
海の中を飛びながら、前方の魔力反応を探す。
飛ぶという表現になっているのは、体の周囲に水を遮断するフィールドを形成し、水中を進むため。
遠目には、透明な「人が入るサイズのラグビーボール」が進んでいるように見える。
当人にとっては、エンジェルシステムで飛んでいるのと同じ感覚。
そして、海中での視界はそんなに遠くまで利かないので、魔力探知を行うのだ。
「いた! これは……ダメね。 まだ子供だわ」
目的の相手では無かったようで、次のターゲットを探す。
不意に大きな反応が出ると同時に下から巨大なタコが姿を現し、キリエルに襲い掛かる。
魔力探知は前方を対象範囲としていたため、下や後は捉えられない。
そのため、急浮上してきた相手に気付かなかったのだ。
「これは!」
キリエルは一気に速度を上げ、距離を取る。
「ふふっ、大物じゃない。 待ってたんだから! ホールド・ステイシス・ストア」
オクトパスを捕らえたキリエルは、次を求めて探索を再開する。
*****
海に浮かぶ円盤の直径は遂に300メートルに達した。 村を襲って「物資」を調達する活動は続いている。
そして配下の「艦隊」も数を増やしていくのであった。
用語集
・大型艦から光線が
本来、レーザー光線は目に見えない。 大気中に埃などが多数漂っていて、かつ可視光レーザーだった場合にだけ見える。
そもそも光線が見えたら、光線のエネルギーの一部が標的以外に拡散している事になるのだから。
ですが、これはお約束ですね。
光線が見えなかったらメタ的に不便ですからねぇ。
同じ理由で「赤外線レーザー」とか「紫外線レーザー」も使われないですね。 見えない事に意味があるなら話は別でしょうけど。
なお、粒子砲は粒子自体が光っていれば見える事でしょう。
・揚陸艦
本作を見る方々には釈迦に説法かと思いますが、車両や兵員を輸送し、上陸させる艦艇です。
近年のものは水陸両用のホバークラフトを搭載している事も多くあります。