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模型戦記  作者: BEL
第8章 水棲魔獣と大規模軍団
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第50話 おっさんズと海の魔物 その3

 女王の元に大英の見解が届けられたころ、旧大公領のマウラナ伯領の都では騒ぎになっていた。

3つの村が廃墟となり、村民は一人残らず姿を消していたのだ。



「一体何が起きているのだ!」



 執政官が声を荒げるが、誰も答えを持っていない。



「と、とにかく、島長達に配下の村々に異常が無いか調べさせてはどうでしょうか。 ついでに船を出させて周辺の警戒もさせては」


「そうだな、一度総点検が必要だな。 それに船が出ていれば、何者かが侵入しようとしても見つけられるだろう」



 執政官は納得すると、領主に向かい了承を求めた。



「うむ、それでよいだろう」


「ははっ」



 状況はバヤン辺境伯領でも同様だった。 既に2つの村が犠牲となっている事が確認されている。

こちらでは大公の大型帆船の生き残りがあるため、それを島々の哨戒に出す事とした。


 大型帆船ロックサイズ号は1名の魔導士と8名の騎士、その他数十名の水兵からなる乗員を乗せ出港した。


 一行は、まず直接被害を見るため、壊滅した村に上陸した。 その被害は想像を超えたものだった。

焼け落ちた家々、一人残らず消えた村人。 村長の館を取り囲む低い石積みの壁までもが溶け落ちていた。

これはおよそ人の手で起こせるようなものではない。 一体何をどうすればこんな事が起こせるのか。 彼らには全く理解できなかった。


 一人の騎士が指揮官でもある魔導士に話しかけた。



「これは、酷すぎますね。 この目で見るまでは、どれかの村が海賊となって他の村を襲撃した……といった可能性も考えていましたが……」


「わしも同じだ。 こんな被害はあり得ない、圧倒的な力の差とかで説明できる話ではない」


「そうですね、私もそう思います。 こんな事が出来るのは……アレしかないのでは?」


「アレ……まさか、そなた」


「王国の『神獣』が村を襲ったのではないかと思います」


「確かに神獣の力はすさまじく、この有様を説明できるが……、一体如何なる理由で襲うと言うのだ?」


「それは……、領主が依頼したのでは? 言う事を聞かない村々のいくつかを見せしめに……」



 その騎士や魔導士は元々大公の配下であった。

後から王国から派遣されて来た領主の事を快く思っていなかったし、そもそも王国自体にも憎悪の目を向けている。



「なるほど、自演という訳か。 確かに、領主と島長の間はうまく行っていないと聞くな」


「きっとそうに違いありません。 神獣を使う者も、所詮我らのような辺境の民の事など理解しないでしょう」



 その会話を聞いていた他の騎士や水兵たちも、口々に「そうだそうだ」と声をあげる。



「大公様のご長女様を新たな大公とし、大公国を再興しましょう」


「しかし、そうは言っても……」


「丁度良い機会ではありませんか、哨戒任務として島々を巡るのです。 この機を利用して、村々と島長達の支持を取り付けましょう」



 旧大公国の兵として、その移動や活動を制限されていた彼らであったが、船乗りとしての技量を買われ、此度の任務を任されたのであった。

なにしろ、領主の手勢は海を知らず、船の扱いには不慣れであったためである。



「そなたの言う通りだな。 この凄惨な様相は人の成せる技にあらず。 神獣を使った襲撃に相違ない。 このような無法は断じて許されない」


「それでは」


「だが、王国を相手に事を構えるなら、その神獣をどうにかせねばならぬ。 それが出来ねば、この惨状が全土に広がってしまう」


「それについては、良い考えがあります」


「なに、真か」


「はい。 神獣は神獣騎士隊の魔導士が操っていると聞きます。 神獣と戦わずとも、神獣騎士隊を全滅させてしまえば我らの勝ちです!」


「なるほど。 だが、それは可能なのか」


「神獣の指揮を執る以上、神獣騎士隊も海に出てくるはず。 海の上なら、我らが負ける訳がありません」


「そうだな。 海を知らぬ(おか)の騎士などに後れは取らぬな」


「はい!!」



 彼らの得ている情報には重大な欠落がある。 神獣には「神船」と呼ばれる船がある事が。

大公国が解体された日、公都の貴族居住地区に籠っていた彼らは、港に来ていた護衛艦を見ていなかったのだ。


だが、彼らがそれに気づく機会は来なかった。


 被害を受けた村を離れ、次の村へと向かうべく出港して数刻後、彼らは「本物の犯人」と遭遇した。



「何だあの船団は」


「は、速い、速いぞ」



 そして、光線を受け船は燃え上がる。 船上を逃げ惑う騎士と水兵。

そこへ中型船が横から激突し、船は転覆する。

投げ出された乗員達は、次々と群がってきた小型船に捕食されていく。


指揮官の魔導士も、大公国再興を叫んだ騎士も、例外なく餌食となった。



*****



 王都では困惑が広がっていた。

マウラナ伯領、バヤン辺境伯領からの情報が全く入って来なくなったのだ。

交易の船は1隻もやって来ず、向かった船は1隻も戻って来ない。


 そんな中、難破した船員が一人漂着した。

その語る内容は信じがたいものだった。

当人は聞いた話として語ったのだが、幾つもの村が丸ごと消えてなくなったと。


 普段であれば、世迷言として無視されるレベルの荒唐無稽な言葉であったが、海路が遮断されている現状では真剣に取り扱われ、王都へと伝えられた。



「北の海が戦場となっているのではありませんか? すぐにみ使い殿に、大英殿に連絡を」


「ははっ。 飛行機で連絡いたしましょう。 パットン殿、宜しいですな」


「もちろんOKだ。 これは緊急事態だ」



 女王の言葉を受け、軍務卿は使者をスブリサへと送る事とした。



*****



 王都を飛び立った飛行艇(JRF-5)は着陸前に通信を入れる。 一刻も早く連絡するためだ。

通信を受けたマッカーサーは、都までバイクを走らせる。



「承知しました。 速やかに対策を立てて実施しましょう」



 と、大英は回答したものの、まだ情報が足りない。



「どうするよ、迂闊に駆逐艦派遣しても、沈められかねないだろ」


「まずは航空偵察だな。 村が消えるような事態なら、高空から見ても判るだろう」



 航空基地から彩雲11型が飛び立つ。 大英は彩雲に対し、5000メートル以上の高度で偵察を行う様に指示した。

敵の光線の射程は不明だが、とりあえずという指標である。

本来であれば、もっと高高度でも偵察活動は可能なのだが、写真を撮っても現像できないため、目視による偵察に限定される。

そのため、あまり高い高度では差し支えるという懸念があったためだ。


危険があれば当然より高い高度でも良いのだが、敵と遭遇した際は偵察を中止して離脱を優先となるため、どの道今回はこの高度での運用となる。


そして、召喚では予定を早める。


 ザバックに来た大英達は遂に本物の巡洋艦の召喚に踏み切った。

「本物の」と言うのは、ここの所連日艦船の召喚を行っており、大型駆逐艦2隻と、敷設巡洋艦と言う「名ばかりの」巡洋艦を召喚済みであったためだ。

湾内に浮かぶ様子は3隻の駆逐艦がいる様にしか見えない。

それもそのはず、そのアブディール級敷設巡洋艦マンクスマンは日本で言えば天龍型より小さく、秋月型駆逐艦とほとんど変わらない。


 そして今日はリアンダー級軽巡洋艦エイジャックスという「あまつかぜ」から見ても2倍以上の満載排水量9740トンの大きな艦の召喚だ。

選ばれた理由は、これでも未召喚の中では簡単な方だからだ。

排水量だけなら、それこそ天龍や球磨のほうが軽いが、現状1/600か限界なので、1/700の模型は選択肢に入らないのだ。

そんな訳なので、SKYFIX「1/600 HMS AJAX」が選ばれたのである。



「これ、終わったら寝る。 倒れて頭打たないようにサポートお願い。 3人とも起きるのは明日の昼頃だと思うんで、ベッドまで運搬宜しく」


「わかりました」


「そ、そんなに大変なのですか」



 以前初月を召喚した時は、ぐったりして兵に支えられながらとはいえ、歩いて寝所まで行ったが、今回は61式の時のようにすぐに寝込むという見込みだ。

ハイシャルタットにとっては、初めての事である。

そして大英は秋津に後を託す。



「すぐに出撃することにはならないと思うし、話は彩雲が帰って来てからだけど、何かあったら頼むよ」


「ああ、任せとけ」



 こうして、6インチ砲8門搭載する9千トンの巡洋艦が水上に姿を現した。

用語集


・未召喚の中では簡単な方

ちなみに召喚済み(現存)は「初月」「冬月」「みねぐも」「あまつかぜ」「ホットスパー」「コサック」「Z28」「マイレ=ブレゼ」「マルソー」「マンクスマン」。

それに潜水艦が2隻。



・6インチ砲8門搭載する9千トンの巡洋艦

ちなみに日本海軍でサイズ感が近い船は阿賀野型と大淀。


2024-05-18 修正

召喚済み(現存)に「冬月」が抜けていたので追加。

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