第50話 おっさんズと海の魔物 その2
キャンベルタウンとPV-1が謎の船団と遭遇していた頃、バヤン辺境伯領のある漁村では、村民が沖合に見慣れない船団が近づいているのに気が付いた。
「なんじゃ、あれは」
「船か? いや、おかしいべ。 今漁に出てる船は無ぇだべさ」
日は既に高く、夜明け前に出漁していた漁船は既に帰港している。
というか、今話している二人自体、漁から戻って浜にいるのである。
そうして見ていると、船団の真ん中にやたら大きな船がいるのに気が付いた。
「な、なんだべ。 あのでかいのは」
「ん? 海に浮かんでいるんだから船だべさ」
「まてまて、あんなでかい船があるか」
海の上では比較対象が無いため、距離感やサイズがつかみにくい。 だが、周りに小さな船がいるため、やたら大きく見える。
船団には1隻の大きな船、数隻の中くらいの船、多数の小さな船があり、それぞれ3倍くらいの大きさの違いがあった。
村の漁船はどれも同じ大きさで、それは近隣の村も同じ。 なので、このように大きさが違う船が一緒にいる事はあまり見る機会がない。
「いや、大公さんの大きな船はでかかったべ……あ、おかしいな、あの船帆が無いべ」
「そうなのか」
「ああ、でかい船には帆があって、風も使って進むそうだべ」
大型の船は帆がある。 ガレー船はものによりけりだが、サイズ的に近い漁船は帆を使っていない。
要は小さな船は人力で漕ぐだけで動かすが、大きくなると風力の助けが必要という話だ。
大きな船なのに帆が無いとなると、「どうやって動くのか?」という話になる訳だ。
船団は岸に向かって近づいてくる。 そして浜の漁民は自分たちが大きな勘違いをしていた事に気付く。
漁民は、中型の船が自分らの漁船(長さ10メートルくらい)と同じサイズだと思って見ていた。 小型の船は3メートルくらいのボートだと思っていたのである。
だが、近くなって小型の船が漁船サイズだと気づいたのだ。 そして、さらにおかしい点に気が付いた。
「おい、おかしいべ。 あの船、誰も乗ってないべ」
「本当だべ。 それにやたら速くねぇか。 こがねぇでどうやって進んでる?」
「まったくだべ、めちゃくちゃ速ぇべ」
帆も無く、櫂も見えない。 盛り上がった形で甲板と呼ぶには難がある船上には人影もない。 しかも20ノット以上という、彼らの知る船とは桁違いの速度で進んで来ていた。
そうしていると、家々から人が出てきて、浜に集まって来ていた。
「おい、あれは何だべ」
「わからんべさ」
間もなく、大型の船は岸に平行に向きを変えて停泊する。 中型と小型はそのまま岸へと迫る。
「何する気だべ。 あんな数、船着き場に収まらねぇぞ」
「それより、あんなでかい船、座礁すっべ」
この漁村の船着き場は、大型の帆船が入れる仕様にはなっていない。
すると、突然大型船から光が出た。
直後、岸の反対側、山沿いに建つ村長の館から火の手が上がった。
「な、なんじゃ!?」
さらに、村の東西の門も燃え上がる。
村人たちは、何が起きているのか理解が追い付かない。
続いて船着き場に停めてあった漁船が次々と爆発する。
手漕ぎ船であり、爆発するような要素は無い船だが、光を受けて瞬間的に燃えたのだ。
そして、村人をさらに驚かす事態が進む。
小型の船が岸へと突っ込むと、脚が生え「立ち上がって」走り出したのだ。
長さ9メートルもある物体が、二足歩行を始めたのである。
「な、なんじゃと」
小型の船、いや地上を走っている姿は、もはや船には見えないが、とにかく小型の船は驚いて固まっている村民に近づくと、触手を伸ばす。
触手は一人の村民に巻き付いて空中に上げる。
「うおっ、は、離せ、離せー」
そうすると、小型の船の船首上方がぱっくりと開く。 粘液が糸を引き、歯や舌のような物が見えるその姿は、生物の口にしか見えない。
「や、やめろ、やめてけれーー、うわー!!」
触手は村民を「口」へと放り込む。
そのまま咀嚼し、辺りに断末魔の声が響く。 かみ砕く不快な音の後、人だった肉塊は飲み込まれた。
村民達はパニックを起こし、散り散りに逃げ出す。
それを追う多数の小型の船。 その速度は人間のそれを大きく上回り、狙われた者は皆捕まって食べられていく。
続いて、中型の船が上陸する。
脚を4本生やすと、ゆっくりと村の中へと進む。
そして、手あたり次第、近くの建物に光線を放ち、破壊していく。
船も家も破壊され、隠れる所も村から出る手段も無い。
そうして、僅か1時間で村は全滅した。
村を全滅させた船団は、無人の廃墟となった村の周辺で、ひとしきり動植物を食べた後、海へと戻りどこぞへと姿を消した。
*****
大英達の元にPV-1から届いた「キャンベルタウンからの無電」の内容が届く。
「『敵は光線の駆逐艦』って何だ? 光線を撃つ駆逐艦か?」
秋津の知識にそんな駆逐艦はリアルには存在しない。
「駆逐艦サイズの何か別のものなんじゃないか?」
大英は駆逐艦ではないという見解を示す。
「と言っても、光線を出す海洋モンスターって聞かないな」
例によって、秋津の知識にそんなモンスターは存在しない。
「だよなぁ、怪獣じゃあるまいし。 って、怪獣が出て来ないという保証は無いか」
「それより、天界の武器を積んだ船じゃないのか?」
「天造兵装はアウトだろ」
「そういや、そうか。 なら光線を出す怪人が乗ってる船か?」
「怪人か……レーサーにそんな怪人いたっけ?」
「見た記憶は無いな。 ゴスワットにもいないし」
マテ、CG使えない時代の作品を思い浮かべるんじゃない。21世紀の作品を思い浮かべろ。
と言っても、二人ともその辺は見てないからしょうがないか。
「まぁ、特撮にいなくても、現実にいればそうなるか」
「そうだな。 怪人か怪物かは知らんが、船から光線が飛んでくるなら、そいつらが乗ってるんじゃないか」
「というか、そんな光線出す奴と戦闘になったとして、無事なんだろうか」
「そうだよな。 撃たれたから光線出すって判ったんだよな」
すぐに大英達は模型配置部屋へと行く。
「これは……沈んでるな」
キャンベルタウンの白化キットは、やや黒ずんだ色に変色していた。
「なんてこった。 駆逐艦を沈める威力があるのか。 ハンドガンレベルじゃねぇな」
レーザーガンで撃たれてダメージを受けるくらいに思っていたら、沈んでいたとは。
それが秋津の感想である。
「まてよ、じゃPV-1は……」
現場傍を飛んでいるPV-1は無事なのか。 それを大英は確認する。
「やられた。 こっちもだ」
PV-1も変色していた。
「おいおい、飛んでる哨戒機を落とせるのか? マープアローじゃあるまいし、至近距離なんて飛んでないだろ」
「落とせる火力と射程と命中精度があるって事だな。 これは困ったな」
「うーむ」
「とにかく、皆に報告しよう」
ゴートとモントゴメリー、執政官、領主らが集まり、会議が開かれた。 マッカーサーにもPV-1喪失が連絡された。
「と言う訳で、調査に派遣した駆逐艦と哨戒機が失われました」
「神獣を容易く倒してしまうとは、光線とはそんなに凄い物なのですか」
執政官の問いに大英は答える。
「一口に光線と言っても、ピンキリですが、船を沈めたり、飛んでいる飛行機を落とせる力はあるようです」
「光線と言うと、この間城壁を溶かしたアレであるか」
ゴートが言っているのは「赤色レーザー」の事だ。
「そうですね。 アレのもっと強力な物だろうと予想していますが、実際に見ていないので外れているかもしれません」
「あれを放つのですか。 これは強敵ですね」
領主も敵の強さを理解したようだ。
「して、どうされるのですかな」
執政官は対策を尋ねる。
「もう少し情報を集めますが、一応方針はあります。 光線が曲がるかどうか次第ですが、直進しかしないなら手はあります」
大英は具体的な方策を説明した。 それを聞いて執政官は安心したようだ。
「それを聞いて安堵しました。 よろしく頼みますぞ」
「はい」
「ところで、この新しい敵が、陛下を悩ませている『海難』の原因ですかな」
「そう考えて差し支えないと思います」
「判りました。 では、その旨報告しましょう」
この時点ではまだ「村が消えた事件」の事は誰も知らない。
*****
海に浮かぶ円盤の直径は290メートルを超えていた。 開口部の拡大は無いが、駆逐艦級の大型船が何隻も出入りしている。
外洋から戻ってきた船団は開口部より中へと入り、しばらく後、出てくる。
円盤の中に入った船は、円盤の奥で何か液状の物を流し込んでいる。 どうやら、捕食して得られた「物資」を運び込んでいるようだ。
船団の活動が活発化する事で、大きくなっても円盤の拡大は維持されているのであった。
用語集
・ゴスワット
「アカスワット!」「アオスワット!」「キスワット!」「モモスワット!」「ミドスワット!」
「五人そろって、ゴスワット!」
という名乗り口上で知られている、戦隊ヒーローの草分け。
・CG使えない時代の作品
でも、同じ時代でも巨大ヒーローなら光線撃ってるんだがな。 予算の違いか?
というか、撮影所の中で行う模型の街での爆発は、ビル並みの爆発でもヒーローや怪獣から見れば等身大程度の爆発。 迫力が乏しいから巨大ヒーローはフィルムを加工して光線を出し、等身大ヒーローは逆に屋外(採石場)で巨大爆発の中を疾走する迫力ある映像をウリにしたのかも知れない。
・マープアロー
「戻ってきたエクストリーマン」(戻マン)という特撮作品に登場する防衛隊「Monster Raid Party(MRP:マープ)」所属の主力戦闘機。
前作や前前作登場の戦闘機と異なり、しょっちゅう落とされる。 怪獣の吹く炎の射程に入ったり、あろうことか手で叩き落とされる事さえあった。 近づきすぎである。
それでも後の作品の戦闘機と異なり、不時着する事が多い。
後の戦闘機は乗員が「脱出!」の掛け声で脱出した後、ビルの谷間に墜落爆発というケースが多すぎるから、まだマシなほう。
……不時着の特撮が面倒になったのかねぇ。 大型機は不時着してたけど。
・直進しかしないなら
SFの世界ではホーミングレーザーなんて厄介なものもあるし、反射板で向きを変えるケースもある。