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模型戦記  作者: BEL
第8章 水棲魔獣と大規模軍団
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第50話 おっさんズと海の魔物 その1

 その日、飛行場では戦車を使って岩の除去が行われていた。 大きな岩を滑走路から押し出すのだ。

本職のブルドーザーと違い、取りこぼしが多数発生するが、そこは人力で処理する事となる。

作業の様子を見て、大英はマッカーサーに声をかける。



「これなら復旧も早そうだね」


「はい、本日中にレシプロ機の運用は可能となり、明日午後にはジェット戦闘機の運用も可能となる予定です」



 報告を受け、大英も安心する。


 飛行場の現況を確認した後、召喚を実施する。

今回は1/144の双発攻撃機を2機召喚した。

「96式陸上攻撃機 第901海軍航空隊」と「一式陸上攻撃機11型 高雄航空隊」だ。


 今後は洋上航空兵力も必要だろうという選択。

別に普通の双発機は海の上で迷子になるとは言わないが、海軍機のほうが向いているのは確かだろう。


 こうして飛行場の状況も把握したところで都に戻ると、王都からの使者が来ていた。

最近船が正体不明の「水上生物」に襲われるケースが増えていて、対応に苦慮しているという事であった。



「つまり海に魔物が?」


「その可能性があり、調査をして頂きたいとの事です」


「水の上に浮かんでいる生物なんていないだろ。 敵のモンスターじゃないのか?」



 秋津も魔物説を支持する。



「うーん、『水上』って何かいるか?」


「水に浮かんでいると言えば、ラッコとかか?」



 海に浮かんで腹の上に乗せた貝を石で叩き割る生物の姿が浮かぶ。



「どう見ても、船や人を襲う気がしないな」


「そうだな。 ファンタジーモンスターにも聞かないな」



 シーサーペントやダイオウイカをはじめ、海の魔物は色々伝えられているが、いずれも「海の中」にいて、襲撃の際にだけ海上に姿を現す。

空想上の生物であっても、実在の生物を組み合わせたり、大きくしたモノだから、生態自体は普通の海生生物と変わらない。

なので使者の話とはイマイチ合わない。



「まぁ、敵さんが生み出した生物がいつも『ファンタジーモンスター』とは限らんだろう。 水上生物を生み出したのかも知れない」


「でも、人を食うとか趣味が悪いな。 天使の仕業とは考えにくいが」


「だよなぁ」



 とはいえ、ここはよく聞く異世界ではなく、地球である。

3万年前のパラレルワールドと推測しているが、地球に「凶暴で群れを成して襲撃する水上生物」は存在しない。

いくら凶暴でも、サメやシャチはあくまで水中生物なのだから該当しないのだ。



「まぁ、襲われた極限状態で認識がずれているのかも知れないし、襲われるまで気づかなかったのなら、襲う時だけ水上に出てきているという話かも知れない。 想像しても結論は出ない。 船を出して調べるしか無いだろう」


「そうだな。 で、何を出すんだ?」


「この間召喚したキャンベルタウンでいいんじゃないか。 戦闘になるとしても至近距離だろうから、大戦中の駆逐艦が向いてるだろう」



 こうして、襲撃が頻発しているという海域へ、小型駆逐艦が派遣される事となった。



「あと、哨戒機も出そう。 群れを成して水上にいるなら、上空からでも見つけられるかもれしない」



 という事で、明日朝に PV-1 も出動させる事とした。

一応、襲われたという海域近辺を低空で飛ばす事とする。


近辺なのは、現代と違い厳密な海図も無いので、海域の指定も「ざっくり」したものだから。

もちろん、過去に襲撃があった場所と同一の場所に出現するとは限らないから、正確さに拘っても大した意味は無いので問題無いという判断だ。



「では、陛下には『調査承りました』とお伝えください」


「ありがとうございます」



 使者は喜んで帰途に就いた。


 そんな事もあり、この日の午後の召喚は先日先送りにした駆逐艦を召喚する事とした。

現れたのは小型駆逐艦ホットスパー。 元は 1/600「HMS Hotspur」で「NAVAL DESTROYERS OF WWII」に入っている4隻のうちの1隻だ。

その単装砲が並ぶ姿は、秋津も馴染みが無い。



「まーたマニアックな駆逐艦だな」


「まーいいじゃん。 小さい方が疲労も少ないし」



大英も疲れた顔で言うので、ある意味説得力がある。

そして、湾内に佇む駆逐艦・護衛艦を見ながら、秋津は「海軍の仕事も増えそうだな」と呟く。



「ああ。 少し制作を艦船にシフトする必要があるかな」



 大英もリソース配分で海軍を少し増やす事にした様だ。


 翌朝、キャンベルタウンは出港した。



 さらに翌日、キャンベルタウンは問題の海域の手前で水平線上に「艦影」を発見する。



「艦長、マストより報告、右舷前方12000メートルに艦影らしきものを確認」


「詳細を確認しよう。 そちらへ向かえ」



 接近すると艦橋でも視認できるようになった。 その集団はキャンベルタウンに気付かないのか、キャンベルタウンから見て左前方へゆっくり進んでいる。

双眼鏡で見ると、確かに船のようにも見える。 その速度はざっと10ノットほどだ。



「シャチやサメの類では無さそうだな」


「大きさもかなり大きく見えますね」


「そうだな。 30メートルくらいはありそうだ。 鯨としても大きい。 ファンタジーのモンスターもいるから、生物の可能性は否定できないな」



 長さ30メートル程の船らしきものが3隻、その周辺に10メートル程の船らしきものが10隻見える。



「群れを成して行動している様だ。 生物か、例の豚頭人間などが乗る船なのかもしれないな。 接近して確認しよう」



 船団へと接近するキャンベルタウン。

距離8000まで近づくと、船団は進行方向を変え、速度を上げてキャンベルタウンに向かって来る。



「マストも無いから無線が通じるかどうか判らんが、交信を試みてみよう」


「はっ」



 無視しているのか、そもそも電波を使っていないのか、船団の動きは変わらない。

距離6000で艦長は指示を出す。



「よし、各砲座に指令。 射撃用意。 目標は先頭の大型艇。 取舵40度」



 キャンベルタウンは左に転舵し4門の4インチ砲を右舷に向ける。

船団は構わず前進して来る。



「よし、5000で撃つ。 撃ち方用意!」


「艦長! 左舷後方に駆逐艦発見! 高速で接近中!」


「なに?」


「距離10000、推定速力20ノット以上!」


「挟撃か? 速度を上げ! 最大戦速!」



 その直後、キャンベルタウンを「光」が貫く。

その光は駆逐艦がいるとされた方角から放たれ、船体後方を直撃、そのまま貫通して後部砲のある構造物を消滅させる。

爆発が発生し、衝撃が船体を揺らす。



「馬鹿な! なんだこの兵器は!」


「わかりません!」



 続いてまた光が襲い掛かり、艦首に命中し辺り一帯が消滅する。



「くっ、あの駆逐艦か! 打電しろ、近くに哨戒機がいるはずだ! 敵は光線砲を持つ駆逐艦! 急げ!」



 間もなく放たれた3発目はマストを掠めるも船体に被害は無かったが、次の4発目の光線が船体中央を直撃し、キャンベルタウンは真っ二つに折れて轟沈した。

だが、その1発外れた事により生まれた僅かな時間で、通信は成功した。


 PV-1は緊急の連絡を受信する。 だが、その内容は急いでいたためかやや不明瞭であった。



「敵は光線の駆逐艦? どういう事だ? 問い合わせろ」



だが、何度問い合わせても応答は無い。



「とにかく、基地に連絡だ」



 PV-1は無電の内容を飛行場のM577に伝えると、周辺の捜索を始める。



「この辺りにいるはずだが……」


「機長! 海面に油が……」


「なに……これは、攻撃を受けて沈没したのか?」


「しかし、沈んだのであれば、海面に生存者もいるはずですが、見当たりません」


「機長! 右前方に艦影! 駆逐艦と思われます」


「見つけたか?」


「いえ、キャンベルタウンではありません。 幅が太すぎます」



 見ると、太さは全長の2割にも達している。 普通の駆逐艦の倍はあるだろう。



「何者だ? もしかして、これに沈められたのか?」


「そうかも知れません」


「よし、高度を800まで下げ。 詳細を確認しよう。 ただし、対空砲火のそぶりがあれば、直ちに離脱だ」



 高度を下げて「駆逐艦」に接近するPV-1。



「あの砲塔のようなものは何だ? 砲身が見えないな。 砲塔では無いのか?」


「わかりません。 もう少し接近しますか?」


「いや、あれは我々の知識に無い存在だ。 いったん帰投して閣下に報告しよう」


「はっ」



 PV-1は旋回して離脱しようとする。 だが、その直後、機体のすぐ横に光の棒が出現し、すぐ消える。



「な、何だレーザー光線か?」


「あの艦から放たれたようです」


「出力全開! 距離を取れ!」



だが、その直後「駆逐艦」から放たれた光線は、今度は命中した。

光線は右エンジンを貫きエンジンは爆発。 右主翼は破壊され、報告する間もなくPV-1は墜落した。



*****



 海に浮かぶ円盤の直径は270メートルに届こうとしていた。

そして、開口部から1隻の船が姿を現す。


全長約100m、幅約20m、水上の高さ10mほど。 やや太めだが、サイズ的には駆逐艦と呼ぶのがふさわしいだろう。

船体上部には、小さなレンズ状の物がはめ込まれた開口部を持つ、箱型の物体が大小数個乗っていて、時折向きを変えている。


この「駆逐艦」は、これまで出現していた大型と小型の船を従え、周辺海域を遊弋し、時折外洋へと航行していった。

用語集


・ホットスパー

あまり知名度は無いが、イギリス海軍のH級駆逐艦である。

基準排水量 1,340トン、全長 98.45メートル。

小型と言うが、イギリス海軍の駆逐艦は大体こんなサイズ。 日米や仏独の駆逐艦がでかいだけである。



・我々の知識に無い

ホムンクルスは、その当人が何者かに関わらず、現代までの知識を持っている。

このため、PV-1は第二次大戦当時の機体だが、その乗員の知識は第二次大戦時までの知識ではなく、21世紀の軍事知識も持っている。

なので、現代軍人が見ても「正体不明」という事である。

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