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模型戦記  作者: BEL
第8章 水棲魔獣と大規模軍団
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第49話 おっさんズと4本足の亜人軍団 その3

 テントの通信兵はマカン村のフンクワーゲンと交信し、航空支援の停止と敵の襲撃について警告しようとしたが、フンクワーゲンからの返答は「既に交戦中」であった。



「承知、直ぐに閣下に伝えます」


「敵は既に村内に入り込んでいる。 危険である事も合わせて伝えるように……あ、暫し待て」



 数秒後、フンクワーゲンの通信兵は会話を再開する。



「将軍より閣下へ伝言だ『村に来られるのは危険なので、閣下達は都にて指揮をお願いする。 村の事は心配ご無用。 都も警戒されたし』、以上」


「承知」



 大英・秋津はマカン村へと向かうべく身支度を整え、連絡を受けたゴートも到着する。 そこへ通信兵が駆け寄ってきた。



「閣下、お待ちください!」



 通信兵の報告を受け、大英と秋津は出発を中止するが、ゴートは心配そうだ。



「大丈夫なのでありますかな」


「まぁ、ロンメル将軍が『任せろ』と言っているんで。 大体大丈夫じゃないかと」


「大体ですか」



 秋津は大英に同意し説明をする。



「まぁ、大丈夫だろ、D-DAYじゃアレだったけど」


「その『でーでい』というのは」


「ああ、ロンメルが防衛に失敗した戦いだな」


「なんと」


「かみさんの誕生日とかで、現地を離れていた日に戦いが始まったんで失敗しただけで、いれば話も違ったんじゃないか」



 大英も同意する。



「そうだね。 本人が任せろと言うんだから、ここは任せよう。 それより、都への襲撃に備えないと、『村は守れたけど都が落ちた』では話しにならない」



 大英達は城へと向かう。



*****



 マカン村の指揮所。 取り込んだ木材を消化する透明でゼリー状のモンスターを見て、ロンメルは指示を出す。



「あの不定形モンスターは危険だ。 住民は家の中で待機させろ。 松明要員は要らないから、戦いは我々に任せるように伝えてくれ」


「ははっ」



 続いて、ロンメルは各部隊からの報告を精査する。



「敵の動きが妙だな。 これまでのような直線的な突撃が見られない」


「あの天使は帰ってしまいましたから、豚頭人間達を指揮する者はいないはずですが」



 キリエルはスライムを運んできたグリフォンと共に帰投していた。



「将軍、これは敵に天使とは別にそれなりの指揮官が同伴しているのでは無いでしょうか」


「そうだな、ならば、その裏をかく」


「どうされるので?」



 ロンメルは副官に指示をする。



「それは……判りました。 直ちに指示を伝えます」


「よろしく頼む」



 副官が司令部を出るのと入れ替わりで第2騎士団団長のパガンが入ってくる。



「遅れてすまねぇ、もう村ン中で戦ってるようだが、ダンナ、何か策はあるかい」


「もちろんです」



 ロンメルの説明にパガンも納得。



「よーし、任せとけ」


「頼みます」



 パガンは司令部を出て詰め所に入ると、待機している第2騎士団の精鋭に指示を飛ばした。


 既に村の中では不定形の魔物(スライム)が獲物を求めて動きまわっていて、一部は木製の構造物を捕食している。

以前飛来したハエを上回る体長を持つ巨大なジガバチが低空を飛び回り、ハーピーがヒトを求めて放浪する。


M42は村の中を飛ぶこれらを相手にするにはオーバーキルな上、水平射撃が外れれば村の建物を破壊してしまうため、撃つ事が出来ない。

グリフォンはスライム投下後、キリエルと共に直ちに撤収しているため、飛んでいない。

つまり、空に撃つべき目標は無く、地上を撃てば余計な被害が出るという状態だ。


 目標となるべきヒトが村の中心部にいないため、ジガバチとハーピーは周辺部、つまり戦闘が起きている場所へと向かって行く。

だが、飛べない上移動が遅いスライムは家を食べようと動く。



「そうはさせるか!」



 ジガバチ達がいなくなったところで、第2騎士団は外に出る。 そして団員の一人がスライムに向けてハルバードを振りかざす。

だが、先端についた斧部分の直撃を受けても、何らダメージを受けた様子はない。

切れたりちぎれる事もなく、包み込んでしまう。



「このっ、放せ!放せ!」



 魔物(スライム)に向かって放せと言っても通じる訳もない。

魔物の力は強く人の力では抜き取る事は叶わず、そのままハルバードはスライムの中へと埋もれていき、絡め取られてしまった。



「下がれ、これでも食らえ!」



 別の団員が銃を撃つ。 それは第2騎士団に供給されていた「ロス Mk.III M1910小銃」だ。

本来は至近距離で撃つ銃ではないが、別に近くを撃てない訳ではないので、問題は無い。


 銃弾がスライムの体を貫通して地面に当たる。 その貫通孔は何事も無かったかのように塞がる。



「馬鹿な、神獣の武器が効かない?!」



 団員は次弾を装填し、発砲。 だが、結果は変わらない。



「くそっ、化け物め! どうすりゃいいんだ!」


「とにかく、ロンメルのダンナに報告だ!」



 報告を受けたロンメルは窓から見える不定形モンスターを見ながら、考える。



「まずは閣下の意見を聞こう」



 ロンメルは指揮所の横に停められているフンクワーゲンへと向かう。

連絡を受けた大英は、会議中であったが直ぐにテントへと向かい、通信に出る。



「心配ご無用と言っておいて申し訳ございません。 少々相談したき事象が起きまして……」



 一通り説明を受けると大英はその特徴から、スライムではないかと考えた。



「そうか、それはスライムじゃないかな。 普通の攻撃はほぼ効果が無い……」



大英は、「燃やす・粉々にする・核を潰す」という3つの対処法を伝えた。

とはいえ、スライム自体は人さえ飲み込むサイズなのに、核らしきものは見えない。


 実のところ、1センチ程のサイズがあるので、「コレが核」と教えられれば判るとは思うが、収縮胞・食胞・ミトコンドリアなどが多数浮かんでいるため、どれが核かなど、生物学者で無ければ判断できないだろう。

まぁ、生物学者もモンスターを見た経験は無いだろうから、「どれが核?」と聞かれても困るだろうが。



「どうやら、爆殺するか、火炎放射器で焼くかだな。 ここには火炎放射器は無いから、手りゅう弾で爆破して見よう」



 ロンメルは司令部要員と共に第2騎士団と合流して、適当なスライムを目標に定める。

司令部要員はその1体のスライムに向けて手りゅう弾を投げ込むと物陰に隠れる。

スライムはそれをそのまま体内に取り込んでいき、数秒後爆発した。


 粉々になったスライムは一見死んだように見えるが、欠片のうち一つだけは動いていて、周りのぶよぶよと震えるだけの欠片と合体して大きくなっていく。



「再生しようとしていますね」


「アレを焼ければ良いのだが」


「ダンナ! それなら任せろ!」



 パガンは手にした松明を、その小さな動き回る欠片に押し当てる。

数秒後、焼け焦げた欠片は動かなくなった。

他に動く欠片は無い。



「おそらく、あの欠片に核があったのだろう。 爆破の際に核まで破壊出来れば一撃で終わるかも知れないが、狙ってやるのは無理だろう」


「では、手りゅう弾で爆破後、松明で止めですね」


「直接そのカクとやらを焼けば早いんじゃねぇか」



 騎士団員の脳筋っぽいアイデアだが、ロンメルは否定する。



「近づいても何処に核があるか見つけるのは難しい。 適当に松明を突っ込んでも取り込まれて火が消えて終わりだろう」


「そうか、わかりやした」



 だが、第2騎士団の面々は手りゅう弾を使う訓練を受けていない。 仕方ないので、司令部要員がそこを担当してチームを組む。


 次々とスライムを狩っていくチーム。


 だが、あと一体という所で、弾切れになる。 手りゅう弾の在庫はそんなに多くは無かったのだ。



「どうするよ」


「困りましたね。 あれが最後ですか」


「他には見ねぇな」


「あれで最後なら、コレで行きますか」



 まだいるなら、日本兵かコマンドの中で手りゅう弾を持っている兵を呼びに行く所だが、彼らも楽な戦いをしている訳ではない。

そこで、司令部要員は背負っていたエンフィールド小銃を用意すると、その先端に小銃用擲弾をセットする。



「1発しか無いから、外したら司令部まで取りに行かないとなりません」


「大丈夫か?」


「まぁ、なんとかなるでしょう」



 いつぞやの対レイス弾の時のように、銃床を地面に固定すると、狙いを定めて撃ちだした。

投げる手りゅう弾よりも高速で飛んでいく擲弾。

スライムの体を突き抜ける寸前で起爆する。



「よし、成功だ」



 飛び散った破片を丹念に調べる騎士達。



「おかしいな。 動く奴が見当たらねぇ」


「しょうがない。 手あたり次第全部焼いとけ」


「そうだな。 見えない所にいたとしても、合流する体が無ければ何も出来んな」



 威力が少し大きかったと言うか、運よく核まで吹き飛ばしたか、再生を試みる欠片は見つからなかった。


 こうして、中心部に投下されたスライムはなんとか殲滅出来た。

では、周辺部で苦戦している兵達のところはどうなっているだろうか。


 飛来するジガバチらの相手もしなければならず、苦戦している兵達。

そこには、次々と戦車が到着していた。

コマンドスの所、ソ連兵の所、そして日本兵が戦っている所にも 。



「待たせた。 これより反撃に転ずる。 歩兵には虫の始末をお願いしたい」


「これは……、心強い。 あいつらの事は頼む、虫については任せてもらおう」


「ああ。 我らの力を教える事としよう」



 各所に4号戦車H型、3号突撃砲G型、そして5号戦車G型が到着している。 その数、合計で12両。

各戦車は、既に視認できる距離にいるオーク、オーガ、ゴブリン、そしてケンタウロスの集団へとその車体を向けた。


 何も遠くから砲を撃つだけが戦車の使い方ではない。

それが、これから展開されるのであった。


用語集


・ロンメルが防衛に失敗した戦い/いれば話も違ったんじゃないか

ちょっと二人の評価は高すぎるかもしれない。

そもそも、上陸作戦が決行される日の予測に失敗しているし、その他にも色々残念な所はあったりする。

ただ、召喚されたロンメルのホムンクルスはその失敗の知識を持っているので、同じ失敗は繰り返さない……市街戦になってるけどな。


敵についても、連合軍は相手がロンメルだと知っていて裏をかくよう作戦を立てていたのに対し、ミシエル達はロンメルの経歴も性格も能力も知らない。

そして、ロンメルの活動を制限する物資の問題・指揮の対立・手足を縛る総統の命令といったものは無い。



・次弾を装填

「ロス Mk.III M1910小銃」はボルトアクションの銃。 手動で装填しないと次の弾は出ない。



・生物学者で無ければ判断できないだろう

ミトコンドリアはサイズが一段小さいし、形も球形ではないので、知識さえあれば判ると思う。

もっとも、地球上の生物ではないスライムの事なので、誰も確証を持って答えることは出来ない。

ちなみに、地球で最も形態が近い(サイズは全く異なる)生物であるアメーバでは、顕微鏡で核や食胞が見えるサイズまで拡大しても、ミトコンドリアは見えない事が多い。



2024-03-30 脱字修正

そこ通信兵が駆け寄ってきた。

  ↓

そこへ通信兵が駆け寄ってきた。

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