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模型戦記  作者: BEL
第8章 水棲魔獣と大規模軍団
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第49話 おっさんズと4本足の亜人軍団 その1

 夜陰に紛れ森の中を北へと移動する集団がある。

それは大きな体躯と翼を持つ生物。 ワイバーンだ。

そして彼らは多数のムシュフシュ、ペリュトンを従え「歩いて」いた。

その集団は地上1メートルという超低空を飛ぶキリエルによって先導されていた。


やがて森を出ると、各々飛び立つが、その高度は数メートル程という超低空で、時折地上に降りて休みつつ進んでいった。


 同じく地上を進む数名程度の小規模な集団がいくつもあった。

それらはオークやオーガを主力とする集団だが、その中に1名づつ4本足の者がいる。

それは馬ではなく、今回初参加の亜人「ケンタウロス」である。


また、数名のケンタウロスを中核とする集団も別途地上を進んでいる。


 それらは暗闇の中、静かに土煙や騒音を立てないよう、歩いて進軍している。

明かりは持たないが、方位磁石と地図を持ち、マカン村から漏れる僅かな明かりを頼りに自分たちの位置を確認しつつ進んでいった。


 これまで、盛大に大軍勢を派手に進軍させていたが、以前森を出た後すぐに砲撃を受けて壊滅した事例から、離れていても長射程の攻撃を受ける事を学んだ。

このため、今回は静かに進軍する事としたものである。

深夜の進軍であるが、以前も夜間に村に突入した実績もあり、実施について問題は無いと考えられた。


一応全ての集団に夜目が効くゴブリンが随伴している。


 各々の集団は事前の予定に従い、静かに進軍していった。


 そして、夜明け前。


 各集団は作戦通りの位置に付く。 以前のように予定を違えて村に突入するような失態は繰り返さない。


 一方、時を同じくして低空飛行で進軍していた飛行生物の集団は、村ではなく飛行場へと近づいていた。

大きく遠回りし、暗い事もあってシルカのクルーに見つかる事は無く、飛行場から数百メートルの位置に到達する。

だが、ここからは簡単には近づけない。

そこから飛行場までは遮る物が無く、そのまま進めば発見される可能性が高い。


飛行場では篝火(かがりび)が焚かれ、夜明け前のこんな時間でも周囲を警戒している様子が伺える。



「さーて、この距離で突撃すれば、ヴィマーナ(飛行機械)に邪魔される事は無いよね」



 キリエルは時間を確認すると魔獣達に突撃を指示し、ゲートを開いて基地へと帰る。

直ちに村への侵攻軍を率いて再出撃するために。



*****



 ホムンクルスは1~2時間程度休むだけで活動出来るため、どこも24時間体制で警戒している。

とはいえ、身体能力は人間と変わらない。 夜目が利くわけでもなければ、超絶な聴力や嗅覚も持っていない。


レーダー機器は電力が無ければ動作しない。 つまり燃料が必要であり、これは24時間は勿論の事、夜間だけだとしても稼働させることは出来ない。

あくまで特別な時だけだし、地上にいる相手を見つけるタイプは持ち合わせがない。


 そして、そんな「人力警戒」をしている航空基地に、低空飛行で魔獣が突撃して来た。


 人力と言っても、双眼鏡を使っているので、肉眼よりはマシである。

だが、突撃して来るワイバーンを見つけた時点で、距離は600メートル程になっていた。

既にワイバーンは全力で飛んでおり、1分もあればこの距離を飛んで来てしまうだろう。


なお、同行していたムシュフシュとペリュトンはその速度にはついて行けないので、後ろからゆっくり飛んで来ていた。

実のところ、ワイバーンは岩を掴んで飛んでおり、素の状態ならもっと速かったりする。



 直ちに警報が出され、基地は蜂の巣をつついたような騒ぎとなる。



「敵襲!!敵襲!!敵襲!!」



 アラート待機していた鍾馗がエンジンを始動するが、突入を阻止するには間に合わない。

だが、相手は飛んでいるとはいえ高度は10メートルにも満たない低空である。 直前に着陸していたため、高度を取る余裕が無かったのだが、戦法は滑走路に岩を置くというものなので、むしろ低空の方が向いている。

高い所から落としても、砕け散るし、外れるしで良い事無いからね。


 だが、この低空侵攻が仇となる。


 そう、航空基地に配備されているのは飛行機だけではない。 陸上侵攻に備えて戦車を始めとした車両も配置されているのだ。


 位置が良く、始動が間に合ったアーチャーは真正面から突っ込んでくるワイバーンに向けて発砲した。

本来対戦車戦闘するための17ポンド砲は空中にあるものを撃つには向いていない。

だが、流石に「戦闘車両に対して正面から突っ込む」という不運に見舞われた相手を葬る事には成功した。


作戦に参加したワイバーンは防御型だったが、戦車を撃破できる砲に撃たれては、ひとたまりもなかった。


 一方、他の車両はそこまでの幸運には恵まれなかった。

ちょっとでも方向がずれれば、砲による撃墜は困難である。

M5軽戦車はそんな相手にM1919機関銃を放ったが、流石に魔法で防御を強化した防御型である。 7.62mmの機銃では鱗を貫くことは出来ず、突撃を阻止する事は叶わない。


 次々と岩が滑走路に落とされ、2本の滑走路はあっという間に機能不全に陥る。

ワイバーンは岩を落としたのち、高度を上げて離脱していく。

鍾馗は離陸が間に合わず、岩に衝突するのを避けるので精いっぱいだった。


 だが、後続のムシュフシュとペリュトンは別の運命を辿る。

兵員が揃い射撃を開始した4連装20mm機関砲は、次々とこれらを撃墜する。

また、M5軽戦車の対空機銃も命中精度はともかく、当たれば致命傷になった。


 この後続の任務は滑走路周辺にあると考えられた飛行機械を破壊する事だったが、鍾馗以外は格納庫に入っていたため、見つける事が出来ないでいた。

キリエルが直接指揮を執っていれば、周辺の建物に目標を切り替える事も出来たであろうが、予め行動を規定していたため、そういった柔軟な対応は出来ず、目標を見つけ出せずに右往左往していた事が被害を拡大していた。


 そしてペリュトンの1体が南側の防空網を抜けて、滑走路上に止まっている鍾馗に向かったが、いきなり四散した。


 それは遅れてやっと行動を開始したゲパルトによる射撃だった。

滑走路北側に配置されていたゲパルトはエンジンと発電機を始動しレーダーを稼働させ、システムを立ち上げて態勢が整うまで、やや時間がかかったのであった。


 敵はライオンやヤギ程度のサイズ。 ゲパルトの35mm砲は正にオーバーキルであった。

結局、被害は滑走路だけに留められた。 だが、これは元々の作戦目的を達したという事であり、作戦自体は成功したのであった。



*****



 夜も開けぬ時間から都に連絡が届く。



「何だって、飛行場が?」



 まだ暗い中、叩き起こされる形となった大英達に届いたのは、寝耳に水の報告だ。

航空機や車両に損害はないものの、滑走路は二本とも使用不能で、復旧にはどれだけ掛かるか判らないという。

唯一の重機であるG40ブルドーザーはザバックで水上機基地の建設のために出払っており、ワイバーンが持ち込んだ岩の撤去には使えない。


 航空基地司令のマッカーサーからの伝言は、岩の撤去方法は大英達に相談したいが、今はまず都や村への襲撃を警戒すべきというものだった。

そりゃそうだ。 飛行場を「破壊」ではなく「一時的使用不能」という方法を取ったという事は、今すぐにでも攻撃があると考えるのは、司令官なら当然推測する事だ。



「判った。 マカンとアンバーに警報を出せ。 シルカもレーダー起動だ」



 直ちに通信兵はテントに戻り両村と丘にいるシルカへ通信を送る。

だが、マカン村は既に戦場となっていた。

用語集


・ムシュフシュ

あまり馴染みがないかも知れないが、ライオンの体に蛇の頭、鷲の脚それに翼を持つ空飛ぶ魔物だ。

伝わる神話では騎乗に適しているらしいが、今回は誰も乗っていない。


・ペリュトン

以前海で活躍する事もなく撃ち落とされていた「鳥」。

なお、胴体はヤギのような姿なので、鳥と言うより翼を持つヤギが飛んでいるようなもの。

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