第48話 おっさんズと海の怪現象 その3
最近はよくある事だが、この日大英達はザバック辺境伯領の都に来ている。
今回も艦船の召喚だ。
ここのところ 1/400 のフランス駆逐艦が続いていたが、これは 1/400 がフランスのメーカーであるエスチャーニア社がよく使っているスケールだったためだ。
在庫にはまだ 1/400 のフランス艦はあるものの、年代的に現時点では召喚が難しいため、この日の召喚は違う物である。
という訳で、今回は新しいスケールに挑戦する事となった。
今回召喚と相成ったのは、小型の駆逐艦。 4本煙突が特徴の「H.M.S Campbeltown」だ。
元はイギリスSKYFIX社のキットで 1/600 スケールの艦船シリーズの一つだ。
製品としては4隻の駆逐艦が入った「NAVAL DESTROYERS OF WWII」という。
同じ艦の4隻入りではなく、4種類の駆逐艦が1隻ずつ入っているという、大英大喜びな品だ。 まぁ、デキのほうはアレだが。
今回はその1番手として、最も小型のキャンベルタウンを選んだのであった。
いや、スケールの問題から負荷が高いので、小さいのが良いという事だったりする。
こうして、1280トンの小型駆逐艦が出現した。
「これは小さいお船だねぇ」
普段港町とは縁がなく、召喚した艦船はかり見ていたリディアの感想である。
確かにこの艦は3000トン越えの「あまつかぜ」は勿論のこと、2000トンの「みねぐも」と比べても小さい。
もっとも、その辺に浮かんでいるガレー船などと比べると、ずっと大きいのだがね。
元気なリディアと違い、パルティア・大英・ハイシャルタットの3名にはかなり疲労の色が見える。
「流石にこれはきついな。 予定通り午後は車両にしよう」
実は完成したキットとして、もう1隻駆逐艦と2両の装甲車を持ってきていた。 疲労度次第では予定を変えて2隻目の召喚に踏み切る事も考えていたが、やはり無理と言う判断だ。
そんな訳で、午後に召喚されたのは「Sd.Kfz.250」という小型のハーフトラックであった。
これは単体のキットではなく、ウイニングラン社の1/144「WWII ドイツ陸軍軍用車両セット1」という4種8両が入ったセットに入っているものだ。
1/144の小型車両なので、問題なく2両まとめて召喚される。
これは兵員4名を輸送可能な装甲車両なのだが、当然のように輸送対象までは登場しない。 兵員は乗員として規定されている2名のみである。
兵員については後日用意するとして、まずはここの騎士達に近代車両について学んでもらう教材として使うことにする。
秋津教室ザバック出張編だな。
こうして、海軍とその拠点となっているザバックの都を防衛するための装備が、増強されていくのであった。
*****
この地の船は木造で、現代人の目から見れば粗末な物なのだが、それでもそうしょっちゅう難破するものではない。
だが、最近難破事案が目に見えて増えていた。
そして、重要な事は難破の原因である。
大嵐に見舞われたとか言う事ではない。 そもそもそんなに海が荒れていたら出港しない。
生き残った者たちが語るには、大きな生き物に襲われたと言う話だ。
その生き物は水上を船の様に移動して、彼らの乗る船に体当たりして船を破壊した。
さらに、海に落ちた船員や、残骸の木片に捕まっている船員を「捕食」したという。
その発言から、当初はサメに襲われたものと考えられていたが、被害者が増えるにつれて情報の精度が上がってくと、サメとは異なる点がいくつか明確になって来た。
・常に水上に浮かんでいる
・大きさが大きく、一般的なサメの3~5倍程もある
・形が違う。幅が大きく、陸上の獣のような形状だ
・前足のようなものがあり、人を捕まえて食べる
・人だけでなく、船の構造材である「木」も食する
そのほか、以下のような特徴も見られた。
・群れで行動している
・大きさの割に小食で、多くの人や残骸が残っていても、放置して去って行く
これらの情報は「異常事態」の発生として、王宮へと届けられた。
王宮では先の戦いからの復興も終わらぬ状況で、この新たな問題への対応が求められる。
「一体何が起きているのでしょう。 このような事は過去に事例がありますか」
宰相であるフランク=ビリーユは軍務卿シャイレーンドラ=エリアンシャルに問う。
まだ若い宰相が経験豊富な老将軍の知識を求めた形だ。
「いや、このように船が立て続けに難破するような事例を耳にしたことはありませぬ。 過去の記録でも同様。 そして斯様に面妖な生物にも心当たりはありませぬ」
「という事は、豚頭人間のようなレリアル神の手の物による異形生物の活動でしょうか」
「そうですな。 他所の地の者は天使様達が討伐されたので、残党がいるとは思えぬ」
「では、いったいどのような意図があると思われますか」
「おそらく、み使い殿の戦力を分散させる事であろう。 北の海運に障害があっても、スブリサで物資不足が起きる事はないじゃろう。 従って南の戦いには何の影響もない」
「困りましたね。 ですが、放置する訳にもいきません」
「まずは調査をして頂くのが良いでしょうな。 敵の仕業と決まった訳ではなく、我らが知らぬ生物が大量発生しているだけという事もあり得る。 海の事であれば船の神獣……神船とでも呼びますかな。 この神船の出番。 神鳥を使うとなれば影響もあるやもしれぬが」
「そうですね。 敵の意図に乗ってしまうのは懸念事項ですが、これが敵の新たな水軍であれば、調べる必要もあるでしょう」
やりとりを聞いていた女王は皆に尋ねる。
「神船をこちらに送ってしまっては、それこそ相手の思うつぼですが、大丈夫なのですか」
「その点も含めて大英殿にお願いしましょう。 油断なきよう、調査隊の編成をして頂きましょう」
宰相の返事に満足した女王は方針を了承する。
「判りました。 それではよろしくお願いします」
「ははっ」
こうして、使者がスブリサへと派遣される事となった。
*****
基地の倉庫に整然と並ぶ60名の亜人達。 彼らを前にしてミシエルは作戦計画を語り、意見を求める。
亜人たちは各々10名のグループに分かれ、討論を始める。
そんな様子を見て、キリエルは感心する。
「凄いわね。 これだけの知能を持たせられたんだ」
「そうだね。 これまでは腕力や体力重視で、魔法を使える者も限定された魔法を先天的に習得させただけで、アタマのデキは他と変わらなかったし」
オーク・マジシャンやゴブリン・シャーマンも特別他のオークやゴブリンより頭がいい訳では無く、単に魔法に適性があるというだけだったのである。
それが、今集まっている新しい亜人は自ら作戦について考察し、議論を戦わせている。
「これは今までとは次元の違う戦いが出来そうですわね」
マリエルも期待を示す。
そして、15分ほどしてそれぞれのグループは意見を取りまとめ、発表する。
あるグループはより効果の高い戦術を提案し、別のグループは問題点を指摘しつつ、それを解消する提案を出す。
こうして6つのグループからの意見を聞いたミシエル、そしてマリエルも満足げだ。
実は初めから「穴」が空いていたり、オークやゴブリンなどの兵の特性を生かさない編成になっていたりと、問題点がある作戦計画を話していたのだ。
言ってみれば、テストと言う訳。 そして意見を取り入れる事で「本来の」作戦計画と遜色ないカタチになった。
「よし、合格だ!」
時間をかけて開発した亜人が、その意図通りの能力を発揮した事で、作戦の成功を確信する天使達であった。
*****
海に浮かぶ円盤の直径は190メートルに達している。 そして6つある開口部の直径は15メートルを超えた。
だが、一番の違いは別の所にあった。
開口部から出入りする小型船だが、より大きいタイプが出現していた。
それは全長約30m、幅約10m、水上の高さ5mほどと、これまでの3倍のサイズとなっていた。
形状は小型のものと異なり流線形に近く、小型船の後を追って追いつくなど、より高速力を発揮していた。
そして船首の少し後ろ側に「首」のようなものがあり、その先端にはレンズ状の物がはめ込まれた開口部があった。
数は少ないが、小型船を従えており、指揮しているようにも見受けられる。
こうして編成された船団がいくつも円盤の周りを遊弋し、時折外洋へと出かけていった。
円盤と、それに従う船団の拡大は続く。
用語集
・キャンベルタウン
元はアメリカ海軍の駆逐艦「USSブキャナン」で、1940年にイギリスへ譲渡、その後サン=ナゼール強襲として知られるチャリオット作戦にて自爆したという経歴を持つが、キットはその作戦の時の姿ではない。
普通にイギリス海軍で就役した時の姿なので、駆逐艦として利用できる。
(自爆時はドイツ艦に似せるため煙突や武装が減っている。見えない所では自爆用の爆薬を積んでいる)
・WWII ドイツ陸軍軍用車両セット1
他にSd.Kfz.251、II号戦車F型、Kfz.305トラックが入っている。
なお、「1」とあるように、これに続いて「2」も発売されており、実際に持っている諸兄もいると思うが、発売されたのは大英達が召喚された半年後なので、彼の在庫には無い。
ティーガーI初期型などが入った有力なセットなので、無いのは残念である。
もっとも、一番の注目点は戦車よりドラム缶とジェリカンが含まれている所だ。 燃料は大事。 もし神殿に届けば、大英君も大喜びする事だろう。
・神船
海の生き物なら魚ですが、海上に浮かんでいるモノを魚呼ばわりはかなり変。 なのでこれで良いのでしょうな。