第47話 おっさんズと新戦力整備 その1
その日大英達はザバック辺境伯領の都に来ていてた。 当然、艦船の召喚を行うためだ。
「これ、この間のと似てるね。 余り大きくないけど」
海岸に置かれたそのキットを見て、リディアが感想を漏らす。
「ま、同型艦だからね」
「どーけーかん?」
大英の説明が通じていない。 どうやらこの地では同型艦に該当する文言が存在しないようだ。
船の種類が少ないため、同一仕様の船を指す言葉が無いらしい。
「おなじ形の船」
「ああ、なるほど」
こうして召喚されたのは、秋月型駆逐艦「冬月」だ。
元は1/350で、少し前に天界から届いた「ウインド 日本海軍駆逐艦 冬月 1945」。
以前召喚した1/200の初月も秋月型駆逐艦のため、同型艦である。
「ふぅ、これならもう少し上でもいけそうだな」
大英の感覚だと、1/350の駆逐艦なら余裕があるという事だ。
だが、残念な事に彼の在庫にある1/350の艦船は「ミサイル戦艦ニュージャージー」しかない。
サイズ的にも年代的にも、これは現状召喚は無理である。
1/350の巡洋艦があれば、挑戦すべきアイテムになったであろう。 だが、模型から召喚して戦うなんて事が起きるとは思いもよらぬこと。 階段状に丁度いいキットを揃えておくなど、出来ない話なのだった。
午後になって陸上兵器の召喚も行う。
艦艇の基地機能を有するこの港を守るための陸上装備だ。
今回の召喚は場所も慎重に選ぶ。
「場所が大事なのですか」
「コレには壁もあるんでね。 防御に使おうと思うんだ」
パルティアの問いに、大英は「崩壊しかけているレンガの壁が立っている地面」の模型を見せて答える。
そして、やや海側に突き出た場所に定め、召喚を実行する。
召喚されたのは建物の一部だったレンガの壁2つを持つ「地面」と、対戦車砲とそれを牽引するトラック、それにジープだ。
これらは全て一つのキットに含まれている。
Enjoyの1/76「Morris Truck & 17pdr.Gun & Geep」というセットだ。
湾内に侵入して来る帆船や手漕ぎ船があれば、17ポンド砲で撃てば大抵は撃沈できる。
レンガの壁も、弓矢や初歩的な魔法には耐えるだろう。 まぁ、防御に向いた形状ではないので、効果は限定的だが無いよりはマシ。
召喚された兵士たちが整列して挨拶する。
キットにはそれぞれの運転手しか付属していないが、整列している兵士は7名いる。
省略フィギュアの補完機能が発動して砲兵が追加されたためだ。
なお、砲弾はMorris Truck(モーリスC8)に十分搭載されているので、以前の6ポンド砲の様に砲弾不足で困る事は無い。
こうして戦力の拡充を進めるのであった。
*****
旧大公国の領域は王都に近い側の「マウラナ伯領」と、遠い側の「バヤン辺境伯領」に分割されている。
マウラナ伯は以前の大公家ではなく、別の家である。 バヤン辺境伯も同様。
両家には旧大公国の家臣の一部が参加し、統治の助けとなっている。
実は、旧大公国は以前の大公領の時から、他の諸侯とは少し異なった統治体制が取られていた。
両家はその体制を引き継ぐ事となった。
一般の諸侯では、スブリサ辺境伯領も同様だが、諸侯の下にいるのは村長や町長といった者達だ。
だが、ここでは諸侯と町村長の間に「島長」という者がいる。
諸侯の支配地では町や村が街道で繋がっていて、行き来が容易な事と、領地自体がそんなに広くなく、行くのにかかる時間も大したことは無い。
ところが、ここでは小さな島が多く、街道は大きな島に限られ、行き来は帆船か漕ぎ舟なため、時間がかかる。
このため、中間管理者としての島長が置かれているのだ。
なお、中には村が一つあるだけという島もあり、島長が置かれているのは複数の町村がある島に限られている。
こういった特殊事情のため、島長と交友のある旧大公国の家臣が必要とされたのである。
ただ、こういった「遠さ」のためか、島民の忠誠心はあまり高くない様であり、今後マウラナ伯、バヤン辺境伯の両者を悩ませることになる。
*****
ミシエルの開発室では、新たな兵士の最終調整が進んでいた。 全ての問題がクリアされれば、量産に入る事が出来る。
彼はこれまで、コボルト、オーク、ゴブリン、オーガ、トロール、ゾンビなどを生み出し、量産して前線に投入してきた。
既に人間の兵士を上回る力量を発揮しており、剣や槍などの近接装備で戦う限りにおいては、騎士に勝ち目はなくなっている。
だが、現状彼の敵は銃器を使った高速長距離攻撃を主体としており、遠距離攻撃の出来る魔法兵ですら太刀打ちが難しくなっている。
そして何より戦車の存在が頭痛の種だ。
天界の動力が使えないため、兵や馬の腕力・脚力だけが頼りだが、内燃機関の力とは大きな差がある。
それは速度だけでなく、装甲にも違いが現れる。 出力が大きければ、重い車体を実用的な速度で動かすことが出来る。 つまり、重い装甲を施すことが出来る訳だ。
兵の魔法を超える火力・射程、馬を超える速度、兵の魔法が効かない装甲。
ミシエルはこの課題をクリアすべく研究を重ね、新たな兵士を生み出そうとしていた。
「調子はどう? うまく行ってる?」
「ああ、もうすぐ完成だ」
キリエルの問いに気分よく答える彼のそばでは、オーガよりも大きな人型のモノが働いている。
大きな体躯故の腕力で、巨大なカプセルを軽々と運んでいた。 ただ、その身長は高く、まっすぐ立つ事が出来ないため、常にかがんでいる。
「なんか窮屈そうね」
「うーん、天井もっと高い部屋を作らないとダメかなぁ」
「でも、アレって研究員じゃないわよね」
「そりゃそうだ。 兵士として生み出したものだからね」
とはいえ、銃器をなんとかできなければ、ただ的がでかい兵士にしかならない。
その腕力も、敵が武器の届く距離にいなければ無意味だ。
「ま、今作ってるコイツが成功すれば、あのサイクロプスにも使い道が出るさ」
「そうね」
サイクロプス、今は力仕事担当の助手だが、本来はオーガを超える兵士として生み出したもの。
目が一つしか無く、巨大な目が容積を取るため脳が小さいという問題はあるものの、戦ったり、簡単な仕事をさせるだけなら十分実用になっている。
ちなみに専用の金属鎧を試作した所、おそらく遠距離なら小銃弾に耐えられると推測された。
ただ、至近距離だと貫通される可能性があるし、機関銃だとかなり遠距離から貫通されるだろう。
榴弾の爆発にも結構な確率で耐えると見込んでいるが、当然直撃すればアウトだ。
なお、大きすぎて戦車砲弾を直撃させられる可能性があるという判定も出ている。
脚力は高いものの、重い鎧を着こんでは、その走る速度は人間並みに低下してしまう。
これでは近づく前に撃たれるだろう。
結果、金属鎧は却下となった。
以前オークが数体がかりで押していた木の装甲板より強力な防護力を持つのだが、それですら足りないのである。
根本的に違う対策が必要となり、様々な検討を経て、今の開発に繋がっているのだ。
「さーて、もう一息だ」
ミシエルの頑張りは続く。
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海の底に、その場所に似つかわしくない異様な物体が鎮座している。
自然物とは思えない直径4メートルの円盤状の物体。 表面には不思議な文様が浮かび、円周部に等間隔で3か所ある点が明滅を繰り返している。
そして近づいた魚は、突如物体表面から伸びた触手状のモノに絡め捕られ、その先端に飲み込まれて姿を消す。
数日後、物体は浮上し海に浮かぶ円盤となる。 ただし、直径は5メートルに拡大していた。
周辺に陸地は見えない。 そして水面下では多くの触手が伸び、近づく魚などを捕えて捕食している。
まるで生き物の様だが、歴史上このような生物が生息していたという記録は無い。
用語集
・年代的にも
現状1/350なら、60年代まではいける。 ミサイル戦艦は80年代だから無理ですね。
創成期のあきづき型護衛艦なら大丈夫だが、生憎キットの持ち合わせは無い。
・Enjoyの1/76「Morris Truck & 17pdr.Gun & Geep」
以前マリエルが来た時(第32話 おっさんズと王都への道 その3)に制作していたキットである。