第46話 おっさんズと方針会議
異世界からの侵攻に対処し、人間同士の戦乱も終結した。
それは停戦の終わりを示す事象でもあった。
両陣営は再び戦いへと戻る。
今後の方針について、レリアル神の天使達は会議を開いていた。 戦いに参加しているマリエル達3人、契丹との旅を終えフリーになったリサエル達3人が会議室に集まり、モリエルとレリアル神がリモートで参加している。
まずマリエルがまとめた情報を報告する。
「今回の協同作戦で、いくつか重要な情報が得られました」
空中に初月の3D映像が浮かび、説明の助けとなる。
「このハツヅキと呼ばれる軍船はセンシャと同等の大砲を持っています。 以前西夏氏が召喚したセンシャと同じ技術で作られたものでしょう」
「従って、うかつに近づけば、その大砲の餌食となるでしょう」
「まぁ、そこは大丈夫じゃない?」
キリエルは問題視していないようだ。
「魔獣を船に乗せていくならマズイけど、元々海の生き物なら、水上を進むモノなんて無いんだし」
「そうだよな、魚も鯨もみんな海中生物だもんな。 海の中なら大砲も届かないだろ」
ミシエルも同感のようだ。 だが、モリエルは違う考えを示す。
「いや、彼らが使っている大砲は物理的な矢弾を使う武器だ。 レーザーや粒子砲と異なり、ある程度は水の中でも効力を持つだろう」
「でも下には撃てないでしょ。 それに海中にいる目標を魔法も使わず、どうやって見つける訳?」
キリエルの反論にモリエルも難しい顔をする。
「確かにキリエル君の言う通りだ。 彼らが使っている電波を利用した探知手段も、海中ではほとんど効果が期待できないだろう」
「なら、海中から近づいて行って、真下から攻撃すれば一方的にやれるんじゃない」
「そうだね。 ここも、未来も海生モンスターがいない世界。 海中に敵がいない以上、彼らの軍船が有効な海中への対処手段を持たないであろう事は確実。 見えない相手に向けてあてずっぽうで撃った矢弾に、まぐれ当たりしてしまわない様注意すれば良いだろうね」
「それでキリエルさん、水棲魔獣の状況を報告してくださいますか」
マリエルは海戦についての方針が固まったのを受け、実際に使える戦力があるのかどうかの報告を求める。
マリエル自身はキリエルのハンティングに協力しているので「捕えた数」は把握しているが、調教状況は知らないし、何より他のメンバーは情報を持っていない。
「クラーケンが数体いるけど、これじゃ数は足りないわ。 あとオクトパスも追加したい。 まだ出撃できる状態では無いわ。 あと3回くらいハンティングに行けば、出せると思う」
「補足しますと、彼らの軍船は3隻あります。 今後増える事も考えられるので、ある程度余裕をもってそろえる事が必要だと思います」
「なるほど、判った」
レリアル神の声を受け、マリエルは話題を次に進める。
「では、海に続き、空の戦いについて話を進めましょう」
映像はドーントレスに変わる。
「このヴィマーナは急降下爆撃という戦術を使い、大きな破壊力を持つバクダンと呼ばれる矢弾を使っての命中精度の高い攻撃が出来るそうです」
「バクダンは以前こちらのヒコウジョウを破壊する際にも使われたものと考えられます。 その時は動かず大きな建造物でしたので、命中精度はあまり関係なかったため、建造物を攻撃する武具と考えていましたし、今回使われたバクダンも教会と呼ばれる建造物を攻撃しています」
「ですが、航空基地とくらべずっと小さい教会に当てる精度がある事を考えますと、もっと小さな目標や、移動する相手に当てる事も考えられるでしょう」
「そんな事があるのかな。 魔法で誘導してる訳じゃ無いだろ」
ミシエルはマリエルの推測に異議を示す。
「ですが、彼らはこれまでも様々な事を魔法を使わず実現しています。 そして彼らのヴィマーナはセンシャと戦う事も想定された武具だと考えられます。 実際、以前こちらのセンシャを攻撃しており、あの大英様が効果の無い無駄な戦術を採用するとも思えません」
「でも結局は倒せなかったのよね」
キリエルも懐疑的だ。
「以前こちらのセンシャと戦ったヴィマーナは攻撃力が小さいためセンシャに有効な攻撃が出来ず、それがこちらの優勢となる状況を作っていましたが、村の中心部を一発で破壊しつくしたバクダンの威力であれば、センシャと言えども無事では済まないでしょう。 ましてや、私たちの兵や魔獣ではひとたまりもありません」
「それも……そうね」
「これは問題だね。 敵のヴィマーナをどうにかする事が必要だ」
モリエルも問題視する考えを表明した。 そして質問をする。
「空を飛ぶモノは空を飛ぶモノで対応出来ないだろうか」
これについてはキリエルから報告が行われた。
「今のところワイバーンは20体用意できてるわ。 これを倍にするつもり」
「なるほど、敵のヴィマーナは同時に数機しか運用されないから、数の力で押そうという訳か」
「そうね、空中にある敵と戦うという生態を持ったモンスターなんていないから、数で補うしか無いわ」
そしてマリエルは別の対策も示す。
「彼らのヴィマーナはその運用の為にヒコウジョウという特別な施設が必要です。 なら、我々がやられた攻撃は相手にも有効だと考えられます」
「つまり、ヒコウジョウを攻撃する訳だね」
「はい。 ただ、ヒコウジョウに保管されているヴィマーナを飛び立つ前に攻撃出来れば最善ですが、私たちの様に準備不十分な状態で攻撃されたのとは違い、彼らのヒコウジョウは実戦運用されており、近づけば迎撃されるでしょう」
「そこは数で押すしかないんじゃないか」
「ええ、ミシエルさんの言う通り、攻撃は多数の魔獣を動員する必要があるでしょう。 ですが、問題はもう一つあります」
「え、何が問題なんだ?」
「彼らのヒコウジョウは砂漠にあります。 周りは平地が広がっており、ヴィマーナは散開して置かれているようです」
「なるほど、森の中のヒコウジョウはヴィマーナが1か所に固まっていたため、一発で全滅してしまったが、彼ら相手ではそうはいかない訳だね」
「はい。 如何に多数のワイバーンを始めとする魔獣を動員しても、攻撃目標まで沢山あっては、倒しきれません」
「それじゃどうにもならないじゃないか!」
ミシエルは動揺する。
「いいえ、絶望するのは早いですわ。 一つ分散できない目標があります。 それはカッソウロと呼ばれる長い平地で構成されている構造物です。 これが使えなくなれば、彼らのヴィマーナは空に上がる事が出来ません」
「そうか、そこを狙うんだね」
「はい。 地上からヒコウジョウに侵攻するか、数を頼りにワイバーンを突撃させてカッソウロを破壊すれば、飛べなくなります。 もちろん、見つけたヴィマーナは地上にいるうちに一つでも良いから破壊してしまえば、なお良いでしょう」
そのやり取りを聞いてリサエルが質問する。
「それは帰る時も同じなのですか」
「そうですね。 飛び立つ時だけでなく、降りる時も必要なようです。 ですので、カッソウロを破壊する前に飛び立ってしまったヴィマーナも、降りる所が無くなって墜落するでしょうから、墜とさなくても始末できます」
「そうか、空中で落とせなくても、倒す方法はあるんだ」
納得するミシエル。 そんなミシエルにマリエルは問う。
「地上から行った時、カッソウロを破壊できる武具はあります?」
「あー、無いかな。 魔法で掘り返しても良いけど、オークやオーガの魔法で壊せる程度なら、奴らもすぐ直しちゃうだろ。 そこは何か地面をボコボコに出来る魔獣とか連れていくしかないんじゃないかな。 なんか使えるのある?」
ミシエルは話をキリエルに振る。
「そんなモグラみたいなモンスターいたかしら」
「いや、でかいモグラがいればそれでいいんじゃ」
「少なくともトウリでは見た事無いなぁ」
「そうか」
「アンタこそ、巨人作ってなかったっけ?」
「巨人って呼ばれると困るな、そんなにデカくないし」
「そっか」
「あれ、じゃワイバーンでもカッソウロを破壊出来ないんじゃ……地面にブレス吹いても焦がすだけじゃないか?」
「そこは岩でも持ってって落とすってトコかな。 穴を開けつつ、邪魔者も置く感じで」
「そうなるか」
ミシエルとキリエルのやり取りを聞いてマリエルが補足する。
「ヒコウジョウは一時的に機能を止めるのが精いっぱいでしょう。 ですが、決戦のタイミングで実施すれば、戦いを有利に運べますわ」
「そうだね。 彼らの戦力ではヴィマーナがかなり重要な要素だから、一時的にでも無効化できれば、そこに勝機が見つけられるかもしれないね」
「はい、モリエル様の仰る通りですわ」
「空については承知した。 地上戦での方針はどうなっておる」
レリアル神の発言を受け、地上での戦いに話題は移っていった。
*****
大英達に合流した契丹であったが、すぐにスブリサの都から離れる事になった。
彼は新たに任じられたクタイ伯と協力して、クタイ伯領を立て直す仕事に就くという事であった。
「戦乱と混乱で疲弊した民を救うべく、微力を尽くして参ります」
「期待しています。 頑張ってください」
「はい」
領主の激励を受け、契丹を乗せた馬車はクタイ伯領へと出発した。
大英達はこれからの戦いについて方針を話し合う。
大英はメインとなる召喚方針について説明した。
何しろ、どんな装備が用意できるかが判らなければ、戦術も作戦もあったものではないからだ。
「とにかく数を揃えようと思う」
「そうだな、守る拠点が多すぎる」
「損害も多かったから、補充も必要だしね」
秋津も同意する。 異世界の超人を倒し、大公の脅威が消えたとはいえ、何時何処に敵が現れるか判らない状態が解消された訳ではない。
元々スブリサだけで展開していた時も、マカン村・アンバー村・都・飛行場と各所に兵力を配置していた。 通信機能の制限や部隊の機動力を考えれば、機動運用する部隊は用意するにしても、現地の戦力は必要だ。
会議の結論としては、しばらくは量的増強を進めて防備体制を固める。 となった。
こうして方針を決めた所で、その日の召喚がそのまま城の敷地で実施された。
都は戦力を大分抽出されて手薄になっているので、まずはここからと言う訳だ。
現れたのは「シャーマン・ファイアフライ」。
これまでは対人戦を重視した戦車を優先してきたが、流石に在庫も減って選択肢が狭くなってきたので、長砲身の車両を召喚したのであった。
「まぁ、榴弾撃たせてたらあんまりメリット無いけど、でかい魔物とか現れたら役に立つだろう」
「でかいと言うと……」
「ソドスタのジャイアント・タートルみたいなのが来たら、榴弾じゃ効かないだろう」
「あぁ、確かにな。 でもアレは一般的じゃ無いだろ。 アレじゃ怪獣だって」
「まぁな。 でも何が出てくるか判らんし」
大英と秋津はこんな話をしているが、ファイアフライの17ポンド砲より74式や16式の105mm砲の方が余程強いのだがね。
まぁ、数は力と言う言葉もあるし、装甲目標(?)に適する車両を増やすという意味では、意義ある事なのだろう。
こうして両陣営とも戦闘再開に向けた準備を進めるのであった。
*****
そこは天界の奥に設けられた一室。 禁忌倉庫と呼ばれるそこは天使は勿論のこと、神ですら簡単に入る事は出来ない。
そこには天界が創設された当初より様々な物品が保管されている。
そこで、ある「卵」が目を覚ました。
卵と言うのは仮の表現であり、鶏の卵を想像してもらっては困る。
直径3メートルはあろうという潰れた球体というか、回転楕円体のソレは、3つの目を開く。
異形の装飾に包まれた卵は、目を動かし周辺を観察しているかのようだ。
それから数分後、その卵は姿を消した。
光学迷彩的な物で見えなくなったのではない。 物理的にそこからいなくなったのだ。
転移したと思えば合っているだろう。
それを実現した力は天界の魔法システムを使っていない。
故に、誰にも気づかれる事は無い。
そして卵が何処に行ったのか、何故そのような動きをしたのかも……。
用語集
・海生モンスターがいない
自分から船を攻撃しないし、するとなっても体当たりしか方法が無い鯨はモンスターとは呼ばない。サメのサイズでは船と戦うには小さすぎる。
・センシャと戦ったヴィマーナは攻撃力が小さい
その時戦っていたIL-2は爆装しておらず、機関砲を撃っていた。
・ソドスタ
「ソード・アンド・スタッフ」というファンタジー世界を舞台にした「ロボット」アニメの略称。
ジャイアント・タートルは人間の兵士は勿論のこと、その世界での主力兵器とされるロボでも手に余る巨大亀。 動く災厄。
・補足 モンスターと魔獣
トウリに生息する素の状態はモンスター。 キリエルが使役する状態になると魔獣。