第6話 おっさんズ、反乱の後始末をする その2
都の建物は城を囲む城壁の西側に多く建っている。
西側の城門から続く大通りに面して商店が立ち並び、その周辺に民家が多数存在していた、
ちなみにその大通りはそのまま街の西門へと続いている。
一方城の南側には城門は無く、代わりにやや幅広の塔が城壁と一体化して建っている。
場所は城の敷地内に出現している大英の家から見ると、少し東側となる。
その塔は謁見のための場となっており、その周辺一帯は広場となっており、建物は建っていない。
謁見のための場と言えば、物語ではよくある西洋風の城だと城の一部が接しているケースが多く見受けられるが、ここでは城本体とは別の建物となっていた。
まぁ、敷地の広さのわりに城の建物が小さいためである。
とりあえず、この場の事をバルコニーと呼ぶことにする。
そして、そこに他の参列者達と共に大英達は壁の花よろしく並ぶ。
そこから見下ろせる広場には多くの人々が集っていた。
「街の人たちが集まってるな」
「おお、まさかこういうのを上から見る機会があるとはな」
やや興奮気味の秋津であったが、大英は平静だった。
「ここで話をして届くんかな」
「ん?」
「だってマイクも拡声器もないんだろう」
「気になるのそこかよ」
式典には各騎士団の団長も参列する。
既に前線である村の防備は召喚した歩兵たちが担っており、騎士団の面々も半数以上が都に戻って来ていた。
幹部クラスは第1騎士団の副団長を残すのみとなっていた。
やがて、リディアとパルティアもやってきた。
いつもと違い、フォーマルな格好である。
普段リディアは上下が分かれ、上は胸当て風の布だけ、下は前垂れのようなカタチのものが前後にあるという姿で拳法でも使いそうだが、神官である。
一方パルティアはミニ丈のワンピースという姉とは違った格好をしているが、今は二人とも同じデザインのワンピースを着ていた。
ただ、長さがちょっと特殊で、前はパルティアの普段着より短く、後ろは膝裏まで届くほど長いという変則的なものとなっていた。
運動するのには向かないが、そもそも運動するための服ではない
(リアル世界では燕尾服のように乗馬用の服から発達した礼服もあるが、女性用のイブニングドレスは運動用ではないのと似ているだろうか)
それと肩にスカート状の布がかかっていて、胸の下・肘のそばあたりまで続いている。ポンチョを小さくしたような物を想像するとよいかもしれない。
ちなみに太后の装束にはこの布は無く、スカート丈はデザインはそのままで長さだけ大幅に長くなっている。
流石に引きずるほど長くはないが。
これは未婚の女性は胸を隠し、既婚の女性は脚を隠すという事らしい。
「ど、どうかな」
やや恥じらいの雰囲気を含むリディアの問いに、周りの男性たちは口々に褒めたたえた。
普段の活動的な姿との落差が大きいためであろうか。
普段着とそう大きな差異はないパルティアも気恥ずかしそうに手を下に組んでいた。
「おー二人とも可愛いなぁ」
秋津は素直に感想を述べる。
大英も「あぁ」と同意を示した。
そんな中リディアは自分を見ながら固まっているシュリービジャヤ=エリアンシャル第1騎士団長の方を見る。
感想を求めるような眼に気づいたシュリービジャヤは、はっとなり口を開く。
「これはいけない。女神が嫉妬してしまう」
いかにも長髪美形が語りそうな言葉を聞いてリディアは
「それは言い過ぎ」
「いやいや、本当ですよ」
何か場違い感のある会話に進みそうな気配を察したか、マラーター神官が咳払いをした。
そうしているうちに時間となった。
領主とゴートがバルコニーの前面に姿を現すと、歓声が上がった。
既に民衆には街の外で爆音を上げていた邪神の魔物をゴートが黙らせたという話が広められている。
これは大英達「み使い」の存在を隠蔽するという意図もあっての事だ。
銀色の車やら戦車やらが街のど真ん中を走ったという異常事態に関しては、ム・ロウ神の神獣や魔法の車が遣わされたと説明されている。
という事で最終的に
ゴートが神獣と協力して魔物を討った
となっているのだ。
それはともかく、しばらく歓声が続いていたが領主が右手を上げると静かになった。
なるほど、拡声器が無くても何とかなるようだ。
そして式典が始まる。
式典ではゴートの功績を称え、今後は神獣を管理する領主直轄の専属騎士隊となる「神獣騎士隊」の顧問に任ずることが発表された。
それに伴い、第3騎士団の団長職を退き、家督も嫡男に譲ることが発表された。
事の真相を知らない民衆からすると、引退して名誉職に就いたように見えたかもしれない。
大きな栄誉と共に悠々自適な余生を楽しむ……という概念はこの世界には無いが、それに近い感覚を想像しておけば大体当たりだろう。
ちなみに神獣騎士隊の隊長は、当面の間執政官であるフランク=ビリーユが兼任すると発表された。
発表を聞くたび上がる歓声。
それを上から見いてた大英は領主やゴートへの民衆の信頼を確認した。
単に騎士達から慕われているだけではなく、民からも慕われている。
そして領主も善政を敷いているのであろうと。
そこには神が介入してでも守ろうとしているモノの姿を見た気がした。
やがて式典は終了し、各々着替えて領主の元へ集まった。
執政官は
「これで晴れて活動できますね」
と述べた。
これまでは正体不明の「地を走る鉄の馬」が突如街中を走ったりしていたわけで、実はあらかじめ騎士たちに道を確保してもらうなど面倒が多かったのだが、今後は神獣騎士隊の神獣や魔法の車という事になるので、大手を振って行動できると言う訳だ。
そして、領主のあいさつの後、祝いの宴が開かれ、それは日没後しばらくまで続いた。
- 翌日 -
それはもう残骸にしか見えなかった。
「これが4号?」
「ああ、戦いの次の日に見に来たときは、もうこんなだったぞ」
元の姿を知っているから戦車の残骸だと判るが、そうでなければ訳の分からない赤錆のカタマリにしか見えない。
戦車だとすると、もう数百年は放置されているのでは?と思う程の朽ち方だ。
無傷だった4号Dがこの有様なら、他の4両はというと、まぁ似たようなものだ。
「他のものも同じか」
「ああ、さすがにここまで朽ちると、炎上したかどうかなんて関係ない」
「だろうな、そっちのほうが綺麗だったら驚く」
「なんでだろな」
「うーむ、召喚が終わっても何か『維持費』的な物がかかってるのかな」
「それが切れて朽ちる?なんだかなぁ」
「だよなぁ。
昔見たマンガで、妖怪が卵を沢山抱えていて皆が『孵化したら手が付けられなくなる』って言って戦うが、例によって孵化が始まって子妖怪がわらわら出てきて『もうだめだ~』って所で主人公が駆けつけて妖怪を倒したら、子妖怪や未孵化の卵まで全部死んで『めでたしめでたし』なんて話があって、『なんで親が死んだら子まで道連れなんよ』って思ったが、そういう事なのかねぇ」
「いや、ソレおかしいだろ」
「そうだよねぇ、それ生物としてオカシイよなぁ。
後は自爆装置的な物かねぇ」
「なんだそれ」
「み使いが死んだら崩壊するようにプログラムされていたとか」
「そう言う事か。敵に情報や兵器は渡さん!つー事だな」
「それにしても、鹵獲して弾や燃料を取れるかと思ったけど、ダメとはなぁ」
「敵も間抜けじゃないって事だろ」
「そういや、乗員はどうなったんだ?あの4号は無人だったと思うが」
「それは詰め所に居たらしいんだけど、『み使い』が死んだら、すぐに動かなくなって消えてしまったそうだ」
「消えた?泡になって?」
「いやいや、レーサーじゃないんだから、泡にはならんだろ。だんだん透明になって消えてしまったらしい」
「そうなんだ」
その後、残骸を後に大英と秋津は第3騎士団の詰め所へ向かう。
用語集
・昔見たマンガ
大英はタイトルを忘れているようだが、「妖術先生ぬ~ば~」という漫画である。
・例によって
主人公たちが何かの復活や出現を阻止しようとして、うまくいった試しは無い。
それが創作世界の基本理念であり、常識である。
・レーサー
大英達が小学生の頃「怪人レーサー」という特撮番組が始まった。
バイクに乗る正義の怪人が活躍する等身大ヒーローものだ。バイクレースをするスポ根ものでは無い。
この番組は大ヒットし、主役を演じた俳優は今も多くのファンから慕われている。
なので、レーサーと言えば、この怪人レーサーの事を指す。
当初はやや怪奇っぽい演出をしていて、悪の秘密結社の怪人が液体を吹きかけると、犠牲者は泡になって服だけ残して消えてしまうという事があった。本編でのやりとりはこのエピソードが元になっている。
続編の「怪人レーサーF3」も好評を博し、世界が繋がってるかどうか判らないが、その後もシリーズ作品が多数作られた。
一時期途絶えていたが、近年は平成レーサーシリーズと呼ばれ、若奥様向けイケメン俳優の登竜門として新作が続いている。それは令和の今も変わらない。