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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第45話 おっさんズと大公国 その4

 合流したゴートに秋津が声をかける。



「ご苦労さん。 やっぱり狂信者は狂信者だったな」


「ふむ。 本当に見ておられたのだな」



 事前に説明を受けていたとはいえ、ゴートはまだ半信半疑であった。



「ああ、俺も英ちゃんもアキエルさんも見ていた」

「で、どうする英ちゃん」


「予定通りだな。 そっちでドーントレスの現在位置は判る?」


「詳細は判りませんが、数分で攻撃位置に付くでしょう」



 ボトエルが回答する。



「じゃ、連絡お願いして良い?」


「お任せを」



 ボトエルは上空を飛行しているSBD-6ドーントレスに魔法による通信を送り、攻撃実行を伝える。

ドーントレスは魔力を発しないので詳細な位置は判っていないのだが、飛行士にはマーカーを渡しているので、通信ウインドウは開けるのだ。

生憎マーカーをトレースする魔法は通常機械魔法が担当しているので、これを習得している天使はあまり居ない。

諜報を得意とするボトエルも例外では無かったので、話は出来ても、現在位置は概算でしか出ない。


 間もなく、現地に飛行機の爆音が響きだす。

1機の急降下爆撃機(ドーントレス)が村の中央広場に作られた教会を目指して降下をはじめたのだ。



「結局こうなるのか。 何で信仰を捨てられないんだ。 命より大事とか意味判らん」



 信者たちの行動は、日本人の秋津には全く理解できない。


 教会では家へと帰った村人も数人いたようだが、多くは「貴族を追い払った」事に酔いしれていた。 だが、どこからともなく響き始めた爆音がその興奮を冷ます。

人々は何の音かと騒ぎ始める。 空から轟音が響くのを聞くという経験を持たない彼らは、音の主が自分たちの頭の上にいる事にすぐには気づかない。


 神父は人々に語り掛ける。



「しずまりなさい。 信ずるものは救われる。 何があっても恐れる必要はありません」


「な、なんだアレは!」



 一人が頭上を指さして叫ぶ。 空からは何かが急降下して来ているのが見える。

その姿は小さく、彼らに正体は判らない。 だが、彼らに徒名す存在(神鳥)であることは、なんとなく分かったようだ。



「おお、神よ! 我らをお救い下され」



 だが、彼らの主が彼らを助ける事は無かった。


 ドーントレスは1000ポンド爆弾1発と100ポンド爆弾2発を投弾し、引き起こしをかけ現地から離れていく。

そして3発の爆弾が着弾した。


 攻撃を阻害する対空砲火も無く、爆撃は比較的低高度から行われたため精度は高く、メインの1000ポンド爆弾は教会内部に着弾した。

一瞬で全壊する教会。

中にいた農民兵と村人は老若男女の別なく、ほぼ即死する。 即死を免れた者も、その命は10分と持たない。

爆発の威力は広場を囲む建物にも及び、全てが倒壊する。

2発の100ポンド爆弾も近隣に着弾し、被害を拡大する。


 村の中心部は大きな爆発と火災で壊滅状態となった。 周辺部に被害は及んでいないが、人的被害は大きい。 それは人々が教会に集まっていたためだ。



「な、なんと言う事だ……」



 不安を覚えて教会から帰ったため助かった村人は、崩壊した村中心部を見て茫然となる。

そして、十字のアクセサリーを取り出し「神よ、偽りの神に惑わされた愚か者をお赦し下さい」と呟くと、そのアクセサリーを捨て、ム・ロウ神に祈りを捧げた。



 爆撃の完了と共に、村の外に待機していた英歩兵隊は村に突入し、武器を持つ者を次々と射殺していく。


 そんな中、農民兵達は子供を盾にする。 英兵が離れた所から撃っているため、対抗するためだ。

飛び道具なら、どこに当たるか判らない。 子供を盾に使えば、接近戦に持ち込めるという考えだ。

一瞬動きを止める英兵。 だが1人が改めて狙いをつけると射撃体勢を整える。



「お、おい。 子供がいるんだぞ、その魔法の棒を使うのをやめろ!」



 英兵は無言で小銃を撃つ。


 銃弾は子供の右腕を掠め、農民兵の右肩に命中する。

農民兵は後に倒れ、子供は投げ出され、地面に叩きつけられる。



「いやぁーーー」



 一人の女性が子供に駆け寄り、その子の名を叫んで抱き上げ体を揺らす。

子供は女性を見て泣き出す。 そして女性も泣き出す。



「ああ、よかった。 よかった」



 怪我はあるものの、命に別状はない。 だが、これは偶然の幸運にすぎない。

英兵は子供を盾に使っても、そのまま撃つのだ。 いつ農民兵ごと殺されるか判ったものでは無い。

それに気づいた女性たちは農民兵に駆け寄ると、農民兵が抱えている子供を奪い取る。



「お、おい、何をする」


「とんでもない、返してもらうよ」


「馬鹿な事をするな、聖なる戦いに協力しろ」


「ふざけないでよ、今の見たでしょ! 子供を盾にしても無駄よ! それに周りを見てよ! 村はもう終わりじゃない。 神様に逆らうから……。 アンタ達に任せてたら、みんな殺される!」



 彼女たちの信仰は生まれた時から続く信仰ではなく、ついこの間始まったばかり。

農民兵の中にはこの村の出身者もいたが、そうでない知らない他人も少なくない。

子供を犠牲にして戦いを続けるような流れに、多くの民衆はついて行けず、次々と十字のアクセサリーを捨てていく。


そしてム・ロウ神に祈る作法で英兵達に赦しを乞う。

それを見た農民兵は激怒して槍を振るう。



「裏切り者め!! こんなに仲間が殺されてるのに、復讐を捨てて敵に膝まづくのか!」



 子供を抱えた一人の女性が槍に打たれ悲鳴を上げる。 彼女を直撃した槍は肩の骨を折る。

直後、女性の傍まで駆け寄った英兵はサブマシンガンで農民兵を撃つ。


 そんな地獄のような戦場となった村に、ゴートが戻ってきて叫ぶ。



「悪しき信仰を捨てよ。 捨てた者は助ける。 捨てぬ者は殺す!」



 それに対し、農民兵の一人が叫ぶ。



「何を言うか! 神聖な教会が跡形も無くなっているではないか! 村人まで殺す悪魔め!」


「わしは神に逆らえば命を無くすと通告した。 それを無視したのは其方たちであろう」


「しかし!」


「それに聞いておるぞ、汝らが崇める勇者が都に行った所業を」


「うっ」


「貴族・戦士・民衆の別なくすべてを焼き払った。 己が行うのは良しとし、己が行われる側になると、これを否定する。 そのような勝手は認められない」


「う、うるさいうるさい! 何をしたかなど関係ない! 主の思し召しなら正義の行い! 主に逆らうは悪魔の所業だ! 死ね!!」


「愚かな」



 叫びながら突撃する農民兵を、ゴートは剣を抜き一刀両断する。 農民兵は断末魔の声をあげ、絶命する。

これをきっかけに士気崩壊した農民兵達は武器を捨てて逃げ惑う。

だが、十字を捨てない者は、そのまま英兵の攻撃対象となり、射殺された。


 生き残っていた農民兵は村の反対側から逃げ出そうとするが、そこには先回りした8輪の巨大な「神獣(16式機動戦闘車)」が待ち構えていた。

哀れ彼らは主砲同軸の7.62mm機銃に撃たれ、全滅する。


 残った人々はクロス教を捨て、農民兵に協力しない事を誓う。 偽りの神を信じた大きな後悔と共に。



 ボトエルが報告を上げる。



「4名の逃亡を確認。 必要にして十分な数と認む」



 村の出口は他にもあったようで、そちらから逃げた農民兵・村人はそのまま逃げおおせた。

だが、秋津の軍はこれを放置する。 これは想定通りだ。 別に人道的配慮などではない。


 アキエルは言う。



「これで神に逆らう事がどんな結果となるか、他の村にも話が伝わるでしょ」



 そう。 わざわざオーバーキルの空爆までやったのはこのためだ。

普段は温厚な彼女だが、ちょっとでもクロス教徒を残せば、ダゴンの手下が隠れ蓑として使いかねない以上、これは手を抜けない。

地上の人々の命よりも、世界そのものを守る事こそ、天使たる彼女に期待された役割なのだ。


作戦の提案をしたのも彼女。 まぁ、大英も「何かインパクトのある事を最初にやるべき」とは考えていたので、すぐに賛同した。

秋津も異論はない。 クロス教徒でもなく、21世紀で狂信者の行動に嫌悪感を持っていた二人にとって、アキエルの作戦に反対する理由は無かったのだ。


 こうして、方々の村で農民兵を追い出したり、農民兵をやめて脱走する者が続出するようになる。

中心たる勇者を失い、底辺で支えていた民衆の支持を失い、農民兵の集団は瓦解を始めるのであった。


 そして自立型天造兵装が地上に送られる。


 それはウソ発見器が組み込まれた浮遊する円盤型のヴィマーナ(飛行機械)だ。

村の上空に現れ、口では「クロス教を捨てた」と言っていても、実は信仰を捨てていない者を識別し、ピンポイントで雷を落とす。

という機能を持った「狙撃兵器」だ。



「後はアレに任せて、みんなは残った農民兵(反乱軍)主力を叩いて」



 こうして、秋津の軍は廃墟となった都の近くの大きな村に集結しつつある農民兵を討つべく進軍する。

用語集


・機械魔法

天界の製造した機械もその機能に合った魔法を使う。ヴィマーナやレーダーなんかもそれに該当する。

以前基地内で行方不明の人物に通信が送れたのも「マリエルが使えない魔法」を「基地のシステム」が使ったため位置が特定できたのである。



・ついこの間始まったばかり

某所の様に生まれた時から続く場合は、このアキエル戦法は通用しませんね。それはリアル世界のニュースを見れば判るでしょう。

まぁ、聖戦を戦う彼らは農民兵と違ってメディアを味方につけているので、何があっても自分たちに都合の良い結果を得られるチート持ちですけどね。

(「自分たち」に民衆は含まれない)



・槍に打たれ

槍は打ちつけるものです。 突くものではありません。

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