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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第44話 おっさんズと勇者 その10

 天使達と勇者パーティーの戦闘は新たな局面へと遷移する。



「拘束!」



 キリエルのコマンドでロンデニウムは動きを止められる。



「うおっ、この、この、くそっ、動けねぇ。 てめぇ何をした!」


「何をって、そこから動かない様に拘束しただけよ。 剣持って斬り付けてくるんだから、止めないと危ないじゃない?」



 何とも簡単なコマンドで地味な効果だが、これまではロンデニウムの動きを止めるのに必要な魔力量が確保できず、使えなかったものだ。

相手が普通の人間なら、別に限定解除とか要らない。 勇者のようなレジスト能力を持ち高速移動する相手だからこそ、限定解除が必要だったのだ。


ロンデニウムは必死に足を動かそうとするが、全く動かない。

戦場で動きを止められるのは致命的だ。

だが、どんなに力を込めても、動く事が出ない。



「仕方ねぇ、だが、これで安全だと思ったら大間違いだぞ」



 ロンデニウムは聖剣を構えると、呪文を唱え始める。



「天にまします主よ、光と太陽の天使よ、我が願いを……ぐおっ」


「馬鹿ねぇ、そんな長い呪文、唱えさせるわけないじゃない」



 キリエルが放った冷凍光線でロンデニウムの腹が凍結し、呪文は中断させられる。



「くそっ、アンティ! ディスペルだ!!」



 ロンデニウムはアンティグアに自身に掛けられた魔法の解除を求める。

だが、アンティグアはそれどころでは無かった。



「うわっ、っっ」



 ミシエルはアンティグアの魔法をことごとく封じる。



「僕が亜人だけ作ってる引きこもりだと思ったら大間違いだ」



 ヒーラーでありバッファーのアンティグアの動きが封じられ、勇者たちの形勢は悪化していく。

最初に掛けたブレスも効果が切れつつあるが、掛け直す事もままならない。


 そして、遂に決定的事態が訪れる。



「うあっ、ぐっ……」



 ボトエルの放った針がウィンドボナの胸を貫く。

透明化しているにも拘らずその居場所を特定されたのだ。


 刺さった針からナノマシンがウィンドボナの体内へと侵入、心臓と脳へと進む。



「あ、あ、……」



 心臓に達したナノマシンは冠動脈を封鎖し、脳へと進んだナノマシンは脳動脈の血管壁を破る。

心筋梗塞と脳溢血を同時に発症し、透明化は解除されその場に倒れる。

そして、そのまま動かなくなった。



「ホールド・ステイシス・ストア」



 ボトエルはウィンドボナの時間経過を止めると、空間収納へと送り込んだ。

そして、直ぐにゴデエルの元へと向かう。


 ゴデエルはテノチティトランを押さえつけ、動きを止めていた。



「上には上がいるって事、知りなはれ」


「くっ、こんな馬鹿な……」



 そしてボトエルはテノチティトランの傍に立つと、首に針を刺す。

テノチティトランも倒れ、空間収納へと送られる。


 崩れた戦力バランスは加速度的に事態を進める。


 アンティグアも同様に倒され、勇者たちはあっという間に、残り二人となる。

そしてルテティアも苦戦していた。


 全ての魔法が詠唱を止められるか、対抗魔法で効果を失っていく。

それでも、その強力な防御結界は破られない。

一時的なショックで詠唱中断が起きるのは阻止できないが、致命的なダメージは阻止している。

ある意味、千日手状態だ。



「結界を何とかしないと、これでは針を撃ち込めませんね」


「先に勇者をなんとかすべ」



 ボトエルとゴデエルが勇者に目を転ずると、そこには剣を失い立ち尽くす男の姿があった。



「戻れ! 戻れ聖剣!」



 ロンデニウムは遠くに弾き飛ばされた聖剣ドネガルに手を向け、呼び戻そうとする。

だが、地面に突き刺さった聖剣はびくともしない。



「何故だ! なぜ戻らん!」


「それは、もうアンタは魔法が使えないからよ」


「何? そんな事が有るものか」


「あるわよ、アレがアンタの傍に存在するから、魔法が使えていた」


「何を言う、聖剣を出さずに勇者の剣を使っていた時だって魔法を使えていたぞ」


「傍ってね、収納の中も含むのよ」


「まて、聖剣を授かる前だって……」


「ここに来る前の話よね」


「どういう事だ」


「アンタがいたガルテアと、ここレムリアじゃ世界の(ことわり)が違うのよ」


「世界の理?」


「物理定数の一部が違ってるんだけど、アンタに言っても判んないわよね」


「ぶつり……、へっ小難しい話だな。 ティアなら判るかも知れねぇが」


「どうかしらね。 でも、剣を拾うどころか、どんな魔法も、そう、身体強化も使えない事は判るわよね」


「そうみたいだな」



 そして彼が周りを見渡すと、もはや戦っているのはルテティア一人だけ。 あとの三人は倒されたのか姿が見えず、戦っていた相手の天使達3人は健在だ。

そのルテティアにも疲労が見える。 長くは持たないだろう。



「降伏なさい」


「良いだろう。 だが、一つ条件がある」


「条件?」


「ティアを、ルテティアの命は助けてくれ。 代わりに俺の命をやる」


「な、何言ってるの?」


「俺は、難しい事は判らん。 だが、勇者である俺が、悪に負ける事は無い。 これだけは絶対だ。 なのに負けた。 なら答えは出ている。 お前さんたちは悪魔の遣い、堕天使なんかじゃない。 俺たちがここに来たのは、きっと預言者サンの勘違いなんだろう。 だが、ガルテア(元の世界)には帰れない。 俺たちには帰る方法が無いんだ。 悪魔を倒したら迎えに来てくれるという話だった。 お前さん達が本物の天使様なら、ここには悪魔もいないし、そもそも戦いに負けたんだ。 迎えは来ない」


「そう、なんだ」


「ルテティアならお前さん達の話を理解できるかもしれない。 あいつの事を頼む」


「それは良いけど、何もアンタが死ななくても……」


「そんな恥ずかしいマネが出来るかよ。 預言者サンが勘違いしているなら、他所の世界に侵攻し何の罪もない人を大勢殺した俺たちは大罪人だ。 それに、負けて寝返ったなんて思われちゃいけねぇ。 もしお前さんたちの前に預言者サンが来たら、俺の首を見せて『勇者パーティーは全滅した』と言えば良い。 そうすればルテティアが裏切り者として消される事も無いだろう」


「そ、それは……」


「じゃあな」



 そう言うと、ロンデニウムは懐から取り出した短剣を首に突き刺した。



「ばっ、馬鹿!」


「ホールド・ステイシス・ストア!」



 すかさずボトエルがロンデニウムの時間を止めて収納する。



「本来なら致命傷でしょうが、治療は出来るでしょう」


「あ、ありがと。 アレで死なれたら後味悪いわよね」



 一人残されたルテティア。 必死に戦っているため、仲間が全滅しているのにまだ気づいていない。

リサエルは攻撃の手を止め、ルテティアに話しかける。



「一流の戦士は周りの状況にも気をかけるものだけど、貴方はどうなのかしら」


「え?」



 ここで、初めて一人だけになっているのに気づく。



「これ……は……」



 そこにキリエル達4人も合流する。



「残念だったわね。 残っているのは貴方一人だけよ」



 キリエルの指摘を受け、動揺するルテティア。



「ロンは、アンティ、ボナは、オッサン……は……」


「見ての通りよ。 もう誰も居ない」



 そして、リサエルは降伏を勧告する。



「これまでよ、あきらめなさい」


「わかりました」



 ルテティアの防御結界が消失する。



「さあ、一思いにやってください。 主の元へ行きます」


「そう、そうね。 クロス教では自殺は禁じられていますものね」



 それを聞いてキリエルは驚く。



「えっ、あの勇者自決したわよ」



 それを聞き、ルテティアは「しょうがない」という表情になる。



「もう、信心が足りないんだから。 これじゃ一人で主の元へはいけそうに無いわ。 さぁ、早くやってください。 ロンの魂が道に迷ってしまうのを助けないといけないので」


「ひとつ聞いていいかしら。 なぜ死のうとするの? 私は降伏を求めているのに。 もちろん、レリアル様が処刑を決められたら、死んでもらうしか無いけど」


「私たちはここに来るまでに、船団の方々を始め余りにも多くの犠牲を払いました。 今更命乞いなど出来ません。 それに任務に失敗した以上、元の地へと戻る方法はありません。 ですが、私たちは勇者一行です。 奴隷に落とされたり、公開処刑の辱めを受ける訳には行きません。 せめて、情けをかけられるのであれば、見る人も少ないこの場でお願いします」


「わかりました」


「リサエル?!」



 驚くキリエルを横目に、リサエルはコマンドを唱える。



「ターン・トゥ・ストーン」



 ルテティアの姿が消え、その場にルテティアそっくりの彫像が現れる。



「ボトエル!」


「はっ!」



 ボトエルは彫像を空間収納へと送る。

キリエルはほっとすると、リサエルに声をかける。



「驚かさないでよ」


「とにかく、これでミッション完了ね。 後はレリアル様とム・ロウ様に決めて頂きましょう」


「そうね。 貴方の希望、通ると良いわね」


「そうですね。 これだけ能力の高い人間。 とても興味が尽きません」



 地上の研究をしているリサエルにとって、勇者たちは研究材料として非常に興味をそそられる存在だ。

もちろん、実験動物のように考えているのでは無い。 純粋にその高い能力に研究者として感じ入っているのだ。

だから、最初から捕虜として捕える想定で、作戦を立てていたのである。


 こうして、勇者たちの戦いは終わりを告げたのであった。

用語集


・必要な魔力量が確保できず

よくある魔法の設定では「機能は絶対で無制限」というものがありますね。

バリアの魔法なら、「如何なる攻撃も無効化」ですし、「全てを貫く魔法」なら、如何なる防御手段も貫通するのです。

(うーん、じゃこの2つが同時に使われたらどうなるんでしょうねぇ。矛盾という奴ですが)


で、「拘束」という魔法なら、相手が何者であっても、どんな力を持っていても止められる。

人の動きや馬の突撃などはもとより、70トンの戦車が時速70キロで行う突撃や、21万馬力の戦艦さえ止められる。

魔法を生み出した存在が「知らない・想定外」の相手さえ止めるというのは何故ですかねぇ。

その代わり、非常に高度な魔法として、もっと仰々しい名前と、長大な呪文を必要とする。 みたいな。


しかし、現実世界なら限界があるのが一般的。

接着剤で固定するなら、強度に限界があるので、それを超える力がかかると剥がれる。

(まぁ、剥がれるのは接着面とは限りませんが)

本作では現実同様に「限界」がある設定となっております。


最初の例なら、術者か魔法の能力、または投入された魔力量などで、勝る方の効果が残る訳です。

つまり、「如何なる攻撃も無効化」側が勝てば「全てを貫く魔法」が貫く事が出来ずに止められるし、

「全てを貫く魔法」側が勝てば、「如何なる攻撃も無効化」側ば無効化に失敗して貫かれる。


このため、限定解除前だとパンピーは止められても、勇者は止められないのです。



・主の元へ行きます

クロス教では死した後に、遠い未来に最後の審判を受ける事になっています。

ここで言う主の元とは、神の所ではなく、この審判場だと理解すると良いでしょう。

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