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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第44話 おっさんズと勇者 その9

 勇者たちの「本気」が炸裂する。



「おらぁ!」



 明らかに動きが速くなったロンデニウム。 そしてその振る聖剣は広範囲にその威力を及ぼす。

危害範囲が広がったため、キリエルはかわし切れず、ダメージを受け始める。



「痛っ! くっ」


「ほー、堕天使にも痛覚があるんだ」


「馬鹿言ってんじゃないわよ」


「そらっ!」



 剣身が当たらなくても、近くを通っただけで天使の防御フィールドを貫通してダメージが入る。

キリエルは傷だらけとなって体中から血が滲んでいる。

だが、白いワンピースは切り刻まれ肌が露わとなっているため、その血が服を汚す事は無い。



「良い格好になって来たじゃんか」


「……」



 怒りの目でロンデニウムを睨むキリエル。 氷の矢を複数生み出してロンデニウムへと放つ。

だが、その攻撃は効果を発揮しない。 聖剣は攻撃だけでなく、強力な防御も勇者に与えていたのだ。


 そしてゴデエルも苦戦している。

テノチティトランの筋肉は見かけだけのこけおどしでは無かった。 尋常ならざる腕力・脚力で、格闘術を習得し力技だけではない格闘家であるゴデエルを圧倒する。



「どうだい、俺たちの世界じゃ『力は技を潰す』って言葉があってな。 圧倒的な力があれば、小手先の技なんか効かないんだ」


「そうでっか。 そいつは困ったっ、ぐおっ」


「話をする余裕がまだあったんだねっ」



 テノチティトランはゴデエルを押さえつけて力を籠める。


 ウィンドボナは姿を消したままボトエルに短剣を投げつける。

何もない空間からいきなり現れる短剣。 ボトエルはかわすのが精いっぱいだ。

だが、いつまでもかわし切れるものでは無い。


 1本の短剣がボトエルの左腕を掠める。



「!!」



 とっさにボトエルは傷口に魔力を当てて焼く。



「なんだ、気づいたのかい」



 何処からともなく聞こえる声。



「当然。 これでもアサシンの端くれ。 毒を使われて気づかぬ程呆けてはいませんよ」


「そうかい。 でもいつまで持つかな」



 今度は2方向から短剣が現れる。



「くっ、これはいけませんねっ」



 ボトエルの額に汗が浮く。



「天にまします主よ、火と炎の天使よ……」


「させません! 赤色レーザー!」



 リサエルの指から放たれた赤いレーザーが詠唱するルテティアを捕らえる。



「……我が願いを聞き届け給え。 これなるは父の子ルテティア……」



 城壁の石すら溶かすレーザー光線を受けても、ルテティア平然と詠唱を続ける。

光線は全く効果を発揮していないのだ。 ダメージが無いばかりか、詠唱を止める事すら出来ていない。



「我願うは無数の鬼火、敵を包み焼き払い給え! 火球周撃!」


「!」



 数十の火の玉がルテティアの周りに浮かび上がると、リサエルへ向け飛んでいく。 その軌道はバラバラで、真っすぐ向かう物もあれば、遠回りで後ろに回り込んでから向かう物もある。

リサエルは必死に撃ち落とすが、数が多く落としきれるものでもない。 防御魔法を展開して防ぐが、1個1個の火の玉はその防御を貫通する威力を発揮する。


 爆炎に包まれるリサエル。



「……やってくれましたわね」



 リサエルは体中から煙を上げ跪きながらルテティアを見上げる。



「まだ元気そうね」



 ルテティアは直ぐに次の呪文にとりかかる。


 アンティグアの動きも速くなっていて、ミシエルの人形は空振りする。



「遅い遅い。 そんな人形に頼ってないで、自分で戦ったらどうだい」


「なにおっ!」



 笑いながらアンティグアは短縮詠唱で数十メートル離れた仲間にバフをかける。



「はははっ。 分断してうまくやったつもりだろうけど、本気を出した僕たちにはこの程度、何でもないよ」


「くっ」


「キミは知らないだろうけど、僕たちは魔王を倒した事もあるんだ。 堕天使ごときで止められる訳ないじゃないか。 はっははははっははははははははは」



 高笑いするアンティグア。 だが笑いながらも、警戒は緩んでいない。 ミシエルが直接放った真空刃をさらりとかわす。



「なんだい、それで攻撃してるつもりかい」



 だが、急にミシエルの表情が変わる。 焦る顔から、何か勝ち誇ったかのような顔に。



「なんだよ。 その顔は。 自分の立場が判ってないんじゃ……」



 いきなり動きを変えるミシエル。 いや、彼だけではない。 天使達は戦闘を中断して散開する。

その直後、戦場に爆発が起きた。



*****



 大英とアキエル達を乗せた車両は丘を越え、ようやく現地が見える所に到着した。

そこには既に105mm榴弾砲を備えたM4A3が待機している。


 なお、大英達の車列には大英や秋津が知らない車両っぽい何かも随行していた。

それは見た感じは大型トラックのような車両だが、タイヤは無く浮遊していた。 そして到着後、地面に接し固定された。


その後、状況を観察しているアキエルの元に、マリエルから通信が入る。



「アキエル様、第7予備衛星、第11予備衛星、軌道調整完了。 最終チェックOK出てますわ。 必要なら第6予備衛星も起動させますけど」


「了解、ありがと。 こっちも移動基地局設置完了してる。 第6予備衛星も起動処理始めて」


「了解致しました。 では、ご武運を」


「OK」



 暫くしてアキエルは指示を出す。



「予想通りの状況ね。 準備始めてくれる」



 アキエルは通信でリサエル達5人の戦いの様子を確認していた。

予想通りと言うのは、途中で勇者たちが装備換装やパワーアップを計るだろうというところだ。

異世界ガルテアの情報は少ないとはいえ、強力な装備は使用するのにそれなりに代償があるし、短時間のパワーアップは普通にどこでも使われている方法だ。


 アキエルの要請を受け、大英は射撃開始を命令し、M4は10キロ離れた戦場に向け撃ち始める。



「みんなー聞こえるわね。 これから砲弾が行くわよ。 弾道情報は送るから上手く避けてね」



 アキエルは5人の天使に能天気な通信を送り、同時に自身で観測した弾道情報を5人と共有する。

ほぼ5秒に1発の速度で発射される105mm砲弾。

着弾が始まると、現地は混乱状態となった。 もちろん、得られた情報から着弾地点を知っている天使達は混乱していない。



「さーて、エミエル、準備は良い? ここまで攻撃が来る事は無いと思うけど、来たらお願いね」


「はい、任せてください!」



*****



 あちこちで爆発が起き、勇者たちは対応に追われる。 爆発の様子から、直撃や至近距離での被弾は危険と判る。



「くそっ、これは魔獣だな。 どっから撃ってきやがる。 全く、味方殺しとは恐れ入るわ」



 ロンデニウムは周りを見渡すが、見える範囲に「魔獣」の姿は無い。

テノチティトランは大楯を起動できず、攻撃に対処する方法は無い。

そして、彼らが何処に落ちるか判らず右往左往している中、天使達は落ち着いて何かを始めていた。

そう、残念ながら乱戦の中に砲弾を撃ち込んでいても、それは味方もろとも爆破するとはならない。 天使達は予め避けて移動しているのだから。



「いくわよ、コール・サテライト! アクセス・キリエル・エンジェル・K118、マスター・ロディニア」


[キリエルK118と確認。利用了承]



 システム音声がキリエルに応答する。



「地上限定解除を要請。 事前申請番号 F560-41582-3C」


[事前申請番号 F560-41582-3C 確認。 レリアル神の指定に従い地上限定解除を承認。 また、予備衛星及び臨時基地局との接続を許可します]


「OKありがと、クローズ・サテライト」



 衛星とのやり取りを終えると、キリエルは勇者に向き直る。



「さーて、これからが本番よ」



 混乱のどさくさに紛れ、キリエルは天使に課せられていた地上限定の解除を実行した。

これにより、地上での利用を禁止されていた魔法を含む全力を出せる。

なお、ただ限定を解除しても、衛星や基地局の転送能力を超えた魔法は使えない。 だが、予備衛星の稼働や移動基地局の開設により、帯域制限も無くなっている。

そして、他の4名も同じく地上限定解除を行う。



「な、なんだ?」



 見れば、キリエルのワンピースは元通りになり、傷も消えている。



「てめえ、一体何しやがった」


「回復魔法よ。 知らないの?」


「何言ってやがる。 服まで回復する訳無いだろ」


「?? 服だって回復するでしょ。 そもそも『治療魔法』じゃなく『回復魔法』なんだから」


「なにぃ?!」


「あーら、聞きました皆さん。 勇者サマの世界では服は回復しないんですって」



 おどけて見せるキリエルに、ロンデニウムの怒りが爆発。 聖剣を振るうと、竜巻状の風が発生しキリエルを襲う。

魔力を纏う風が直撃したのを見て、ロンデニウムは高笑いをする。



「はっ、口ほどにも無い。 今度は裸になったか?」



 風が通り過ぎた。 そこには無傷で服にも全く変化の無いキリエルが立っていた。



「なっ、馬鹿な……」


「さーて、今度はこっちの番かしらね」



 天使達の反撃が始まる。

用語集


・『力は技を潰す』

日本では「剛よく柔を断つ」と言いますね。



・短時間のパワーアップ

スーパーなんとか人なんかが有名ですが、戦闘機のアフターバーナーや水エタノール噴射ってのも該当しますね。



・5秒に1発

M4A3が搭載している105mm砲の発射速度は最高1分間に16発。 4秒で1発撃てる計算ですが、狭い砲塔に搭載されているので、最大では難しかろうと少し遅めで表現しています。



・地上限定

不用意に使うと人類や地上の生態系に影響が出る魔法は使用が禁じられている。

もちろん、天使程度ではそんなに破滅的な魔法は使えないが、人間が見ると伝説に残りそうな魔法は、地上文明の発達に予期せぬ影響が出る懸念があるため、禁止されているのだ。

まぁ、基地局と衛星の「転送容量」の問題もあるから、一人で帯域を使い切ってしまうような魔法も禁止されていたりする。

今回は事前申請と共に戦闘に合わせて移動基地局の派遣と休眠衛星の稼働といった対策を行っているので、派手に魔法を使いまくっても大丈夫。



・回復魔法

天使の服は単なる布ではない。 ファッション上の要請で自由に姿を変える事が出来る。 アレですね。 ナノマシンで出来てると思えば大体合ってますわ。

もちろん、常時変更している訳では無いので、服へのダメージを瞬時に自動修復する事は無い。

指定した形状を指定した強度で維持しているだけ。 斬れば切れるし、破れば破れる。 焼けば燃えるし、濡らせば濡れる。

そして回復魔法がかかれば、修復されるという訳。


2024-03-09 誤字修正

毒を使わて

    ↓

毒を使われて


2025-08-16 脱字修正

 テノチティトランはゴデエルさえつけて力を籠める。

              ↓

 テノチティトランはゴデエルを押さえつけて力を籠める。


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