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模型戦記  作者: BEL
第1章 異世界へようこそ
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第6話 おっさんズ、反乱の後始末をする その1

 大英とパルティアが目を覚ましたのは戦いの終わった翌日の夕方だった。

丸2日寝ていた事になる。

作戦の成功を聞いて一安心の大英。

だが、寝ていた時間は予想外に長かったようだ。



「え、そんなに寝ていたのか?」


「ああ、ホントに起きるのか心配したぞ。

向こうじゃさっきまで『パルティアが起きない』ってリディアちゃんが泣いてたぞ」


「まだ起きないの?」


「ついさっき起きたって聞いた」


「そうか、良かった」


「結構無茶だったみたいだな」


「うーん、もう半日くらいは早く起きれると思ったんだが……」


「そうなんか」



とりあえずリディア、パルティアと合流し午餐を頂く事となった。

大英とパルティアを見て領主も



「ようやく起きられたようで、安堵しました」



と感想を述べた。



「明日はボストル殿の受章式が行われます。

正式な宴はそれに続いて行われます。

今日は普通の午餐という事でお願いします」



執政官の言葉と共に食事の時間となった。

起きたばかりで事情が判らない大英が秋津に問う



「受章って?」


「ああ、結局、敵のみ使いはボストルさんが倒したんだ」


「という事は」


「やっぱり騙されていたみたいだ。

それに気づいて斬ったという話」


「そうかぁ」


「おかげで決戦の時は向こうの騎士団やこっちの騎士たちの戦死者はゼロ。

戦車の撃破だけで片付いて助かったわ」


「何がきっかけで気づいたんだろ」


「神の名前だそうだ」


「神の名前?」


「最初名前を言わなかったから、ム・ロウ神の遣いだと思ったら、レリアル神の遣いだったという話らしい」


「そうなんだ。戦車をやられる失態を見せたからじゃないんだね」


「だと思うが」


「いやー、しくじったからと言って斬られたりしたら、たまらんからさ」


「それは困るな」


「というか、斬らないで拘束してくれた方が色々情報が取れて有難かったんだが……」



その会話を聞いていた執政官は



「邪神の遣いなので斬ったというのは本当です。

なお、ボストル殿は失態を理由として軽々しく罰を与える事はありません」


「なるほど、なんとなく解ります」


「情報については、確かに残念でした。

彼も頭に血が上ってしまったと述べていました」


「そうですか」



そして、食事が終わると領主は大英達に



「紹介したい者がいますので、少々お待ちを」



と言うと、使いの者を呼びにやった。


まもなく、一人の初老の男性が現れた。

噂をすればなんとやら。ではないが、話題の彼である。



「失礼致す。ゴート=ボストル、お呼びにより参上仕った」


「この者がその紹介したい者です。

ボストル卿、そちらへ」


「はっ」



ゴート=ボストルは指し示された場所へ歩く。

執政官が説明を始める。



「既にご承知の事と思いますが、ボストル殿は元第3騎士団団長です」



既に家督を譲っているため呼ぶ者により敬称が変わっている。

主君たる領主は自分の臣下なので「ボストル卿」と呼んでいるが、執政官は「ボストル殿」と呼ぶ。


ちなみにこの国では領主クラスにしか爵位名が無い。

領主のフルネームはセレウコス=オーディスだが爵位名は「スブリサ辺境伯」なので、国王からは「スブリサ卿」と呼ばれることになる。

オーディス卿とは呼ばれない。


ボストル家の場合、執政官から見れば隠居したゴートは「ボストル殿」、当主となったアラゴンは「ボストル卿」となる。

領主から見ればどっちも「ボストル卿」なので、紛らわしい。

領主のように爵位名があれば良かったのだがねぇ。


と言う訳で、家督を継いだアラゴン=ボストルと紛らわしいので、今後セリフ以外ではゴートと呼ぶことにする。


話を戻そう。



「ボストル殿には新たな責務として、み使い殿直属の顧問に就任して頂く事となりました」


「不肖ながら罪滅ぼしと思い引き受け申した。よろしくお願いする」


「邪神のみ使いと直接相対したボストル卿の経験は、み使い殿の今後に必ず役に立つと思う」


「そうですね、良い考えだと思います」



こうして、ゴートは大英達と行動を共にすることとなった。



翌朝。



城の敷地の一角に2両の戦車が留め置かれており、それぞれの戦車兵が点検を行ってる。

そこへ大英と秋津が様子を見に来ていた。


大英は61式の車長に問いかける。


「61式は60年代の装備だと思うんだけど、なんか違うところがあるのかな」


「違うと言いますと?」


「この61式、何か70年代になって改修されたところがあったりしない?」


「本車に改修された部分はありませんが、70式対戦車りゅう弾を搭載しています」


「…あー、そう。そんな物があったんだ。それか」



一人納得している大英に秋津が問う。



「何だ?どういう事だ」


「60年代の装備を召喚する前提で追加消費MPを推定していたんだけど、実際は70年代の装備だった。

だから予想より『ペナルティ』が大きかったという訳だ」


「それで長く寝込んだと」


「そう言う事」


「しかし、そうなるんだ」


「ん?」


「いや、失敗とかしないんだ」


「そうだな、失敗というより、成功させておいて酷い目にあう……かな」


「なるほどな」


「だけど、そう思えるのはうち等の世代だからだろうな」


「なんでだ?」


「RPGと同じ話。

テーブルトークなら、出来る出来ないはマスターの裁量次第。

ルールブックはマスターへの指針であって絶対の規則じゃない」


「なるほどな。

滝マスなら出来そうも無い事やろうとしても、ちゃんと成功させて、喜んでるプレーヤーにろくでもないペナルティかますよな」


「だろ?

面白いと思ったらセービングスロー省略したりとか平気でやらかすからな。

多分この世界も、というか、うちらの世界もそうだろうけど、こういう『アナログ』的柔軟性があるんだと思うぞ」


「ははは」


「でだ、これであの邪神のみ使いがぶっ倒れた原因も推測できる」


「MPの使い過ぎだろ?それはもう予想がついてるが……」


「ここでの問題は『なぜ使い過ぎたか』さ。

ボストルさんの話じゃ事前予告は無く、召喚後いきなり倒れたという話」


「そういやそうだったな」


「多分本人は倒れるなんて思わなかったんだろう。

召喚が出来るなら、ペナルティが発生するなんて思いもしなかったはずだ。

MPがマイナスになるなんで概念自体無いだろう」


「そうなのかな」


「デジタルゲームなら、MPがマイナスになる魔法なんてエラーになって遂行できないどころか、最初から『アイコンがグレーアウト』していて使えないだろう」


「そうだな」


「使える=使っても問題は起きない。

という常識があると思うんよ」


「ああ、そうだな、使って問題起きたらバグだって騒がれるだろうな」


「だから『いける』と思って召喚して、ぶっ倒れた。

もし、倒れなければ、翌日には侵攻して来て、こっちは準備が間に合わず大乱戦。

どうなっていた事やら」


「危なかったな」


「全くだ。

見た感じ30代だったらしいから、アナログなゲームは知らなかったんだろう。

決めつける事は出来ないけど、デジタル世代故に柔軟な想像力が働かなかったのかもしれない」


「それはありそうだな」


「それにしても、まさか向こうもモデラーを召喚していたとはなぁ」


「あんまり頭よさそうじゃなかったらしいけどな。

み使い召喚としては雑な仕事じゃね」


「どうなんだろ、事前にどこまで情報取れるんだろう」


「うーん、それは判らんよな」


「おかげで予定が狂うわ」


「予定?ああ、召喚予定か」


「戦車が相手だと組み直さんとならん」


「すぐに次のみ使いが呼ばれるとは限らんだろ。

元々コボルトとかが攻めて来ていたって事は、それの指揮官が居るだろう」


「まぁな。だが備えは必要だ」


「またモデラーがみ使いとして呼ばれる事もあるかな」


「あるかもしんないと思う。

だけどモデラーなんて『おっさん』ばっかりだからな。

今後また『み使い』が出てくるなら、戦術が判るミリオタかもしれないから、引き締めてかからんといかん」


「そんな奴あんまり居ないだろ」


「いや、世界は広いからな、油断大敵じゃ」


「それにしても、プラモデル。若い奴がやらない趣味か……」


「認めたくないものだな」


「認めるのに若さ関係ないけどな」


「そう突っ込むかい。過ちぢゃ無いところにしてくれ」


「はっはっは」



さて、とりあえず午前の召喚の時間と相成った。



「おっはよー」



と元気よくリディア。



「おはようございます」



と静かにパルティアが現れた。


元からテンション低めな大英も今日は輪をかけて低調な感じである。

ま、二人とも昨日までMP切れで寝ていたので、病み上がりな感じなのはしょうがない。



「うん、おはよう。

早急に召喚能力を上げないといけないんで、昨日の今日で来てもらったんだけど、もう調子は大丈夫?」



大英の問いにパルティアは少し慌てながら



「はい!問題ありません」



と元気よく答えた。



「じゃ、はじめようか」



やや無理に元気よくしている感じはしたものの、大丈夫だろうという事で儀式を進めることにした。



何故に早急に召喚能力を上げる。つまり経験値稼ぎをせねばならぬのか。

それは、「戦車問題」が持ち上がっているためだ。


今回敵に戦車隊が現れた事で、急遽戦車隊を組織する必要に迫られた形となったのだが、1/35の戦車は決定的に足りないのだ。

完成しているものはこの間リストを出した通りで、年代的にまだ召喚できないものばかり。

では、未成キットはどうかと言うと、コレがまた問題アリなのだ。


年代的にすぐ行けそうなのは、4号HとM41しか無いのである。

大戦中期の中戦車と戦後すぐの軽戦車。

たとえ戦時中の戦車でも、重戦車や後期の中戦車と戦うには非力なのだ。


問題の解決は、暫定的には1/72のキットを召喚可能とすること。

1/72には結構戦車が豊富にある。

とはいえ、相手が現用戦車軍団だと、歯が立たないことになる。

だが航空機も登場すれば、たとえ現用戦車でも制圧できるだろう。

まぁ、冷戦期以後の対空戦車が居ると、大戦中の攻撃機や戦闘爆撃機は役立たずになってしまうけどな。


とりあえず、「戦車隊」と戦える体制を一刻も早く構築しなければならない。

そのため、あまりのんきしてられないのだ。

それに今日は式典があるから午後の召喚は出来ないしね。


さて、今回召喚したのはミヤタ模型 1/35 MMの 「アメリカ陸軍 小火器セット」だ。

セット品のため、一部だけの召喚が出来る。

以前にも小銃や短銃などを召喚していたが、今回はM18無反動砲とバズーカ砲を召喚することにした。


経験値稼ぎとはいえ、無理をするのは良くない。

それで個人用火器にしたものである。

ま、リハビリだね。


なお、対戦車用としてはあまり期待していない。

というのも、無反動砲は2発。バズーカに至っては1発しか弾が無いからである。



さて、大英もパルティアも特に調子が悪くなることも無く無事召喚は終わった。

召喚した砲と弾はホムンクルス達が仮宿舎に持って行った。



「じゃ、そろそろ飯にしよう」


「おう」



秋津の提案に一同はいつもの食事場所へと向かう。

ちなみに顧問になったゴートだが、受章式典の準備のため来ていない。

リディア、パルティアも儀式に出席するので帰宅して準備にかかる。


食事が終わると大英達も儀式に参列すべく準備に入った。

といっても着替えるだけだがな。

二人は別に何かしたり、何か語るわけではなく、ただ参列者の中に紛れて立つだけである。

まぁ、着た事のない礼服を着る事になるが、手伝ってくれる人たちが居るので問題ない。


そうして、二人は出席の準備を整えた。


用語集


・滝マス

 大英が高校生だった頃テーブルトークに触れたのだが、当時はまだほとんど知られていなかった。

というのも、シミュレーションゲームと違い、当時のテーブルトークRPGにはまだ日本語訳が無かったのである。

大英と秋津の同級生に英語が堪能な滝という者が居て、彼が輸入品のテーブルトークRPGを仲間たちに紹介したのである。

で、テーブルトークRPGはマスターというゲーム進行を司る者とプレーヤーで行われるのだが、マスターはルールを理解しシナリオも理解していなければできない。

滝以外は「英語の成績に不自由していた」ので、必然的に彼がマスターとなった。

つまり「滝マス」とは「滝マスター」の略である。

彼のモットーはルールに厳格にするより、楽しくやろう。であった。



・戦術が判るミリオタ

多くのミリオタは兵器は判るが、戦術や作戦、戦略は判らないケースも少なくない。

というか、一般の日本人で戦術・作戦・戦略の違いを説明できる者はあまり居ない。

webメディアのライターレベルなら、そもそもこの3つに違いがある事すら知らなかったりする。

それなのに、したり顔で「シロウトは戦略を語り、プロは補給を語る」とか解説を始めたりするから困り者だ。

まぁその言葉を最初に使ったとされる専門家も、シロウトにはどうせ違いが判らないだろうとインパクトの強い「戦略」という言葉を使ったんだろうけどな。

(小学生に向かって「地球の中はドロドロのマグマが詰まっている」なんて説明をするのと一緒。事実とは異なる)


そもそも戦略が無ければ、誰と何処で何をするかもわからない。

そして戦略は政治情勢によって決められるもの。

対立しているのは何者か、それは国家か、テロ組織か。

国家なら大陸国か島国か。近隣に同盟国はあるのか。

戦場が判らない状態で「ロジスティックのためにトラックを1万台用意して」なんて話をするのはナンセンス。

海の上が戦場ならトラックが何万台あっても無意味。

テロ組織と戦うなら、いつどこで戦闘になっても良いように物資は全て自前で持ち歩く。

戦略があって、初めて補給の話ができるのである。


方面軍を指揮する軍司令官なら補給が一番で、補給が決まらないと作戦も立てられないが、戦略が無ければそもそも方面軍自体存在の是非からして決まらない。


家を建てる話なら、「シロウトは建材や工法を話すが、家で一番大事なのは基礎だ」という話。

だが、そもそも何処に家を建てるのか、マンション購入や借家との比較検討はしたのか。

予算はいくらで、誰が住むのか(親と同居?子供は増える?)。

そっちが先だろう。

戦略を無視してロジスティックを語るのは、人生設計をしないまま家を建てる決断をするのと一緒。

大工が語るなら基礎が一番だが、それは「家を建てる時の一番」ではない。



・認めたくないものだな

 グランダーに登場した美形敵役の名言セリフの一つ。

この後「若さ故の過ち」と続く。


修正

2022/03/13 用語集で誤字訂正「そももそ何処に」→「そもそも何処に」

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