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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第44話 おっさんズと勇者 その3

 王都を占領した勇者パーティーと大公軍だが、女王を取り逃がしたことで当初の目論見が外れてしまっている。

大公軍を指揮するアフラースィヤーブ=マッサゲタイは宮殿に残る宰相や軍務卿を尋問する。



「それで、女王陛下は何処に行かれたのですか?」



 神経質そうな逆三角形の顔で、左右に長く伸びた髭を撫でながら質問するアフラースィヤーブ。

宰相フランク=ビリーユは顔を左右に振ると答えた。



「判りません」


「判らないはずが無いでしょう。 見え透いた嘘はいけませんねぇ」


「おや、そうですか? 仕方ありませんね。 お教えしましょう」


「最初からそうすれば良いのです。 手を煩わせないでくだされ」


「陛下はスブリサに向かわれました」


「……」


「……」


「ふざけているのですか! 最終目的地を聞いているのではありません! そんな事は聞かずとも判っていますよ!」


「そうですか、それは残念。 正直な所、陛下は神獣と共に移動されております。 その移動速度は馬よりも早く、今何処におられるかは全く判り兼ねるのです」


「むむむ、それでもどの道を通って行くかは、決まっているのではありませんか」


「まさか。 王都に残る者がそれを知っていたら、情報が洩れてしまうではありませんか」



 軍務卿にも話を聞くが、結局目的は達せられなかった。

そこへ、勇者たちが謁見を求めていると連絡が届く。

王都陥落の立役者である勇者たちとの話も重要という事で、アフラースィヤーブは会う事にした。



「此度の働き、見事であった。 大公陛下もお喜びになられるであろう」



 代表してルテティアが話をする。



「ありがとうございます。 ですが、諸悪の根源たる王に逃げられてしまい、残念でなりません」


「まあ、敵が一枚上手だったという事であろうよ」


「ははっ、仰せの通りです」


「そこでだ、これからそなた達はどうするのか?」


「王の後を追いたいと思うのですが、行方についてお知りでしょうか?」


「ふむ、それがのう、行き先自体は判っておるのだが、何処を通って行くのかが判らぬ。 しかも神獣と共に移動しておるとの話で、どの程度の速さなのかも判らぬ」


「それでは、今何処にいるのか不明と言う事でしょうか」


「そうなる。 であるが、どうれば良いかは判っておる」


「と言われますと?」


「女王の向かう先は、遥か南の外れ、スブリサ辺境伯領である。 よって、我らはそこを攻める事となる」


「南の外れという事は、途中に多くの諸侯が立ちはだかっているのでしょうか」



 勇者パーティーの旅と言えば、いきなり大ボスと戦う事は出来ず、途中で幾人もの中ボスや四天王といった面々を1体づつ倒していく地道なものだ。

だが、アフラースィヤーブは不思議そうな顔をすると告げた。



「途中の諸侯と戦う必要は無い。 直接スブリサの隣、ザバック辺境伯領まで海路進軍し、そこより上陸、攻略後は隣のスブリサへ進軍する」


「なんと、そんな便利な旅が……」


「そこでだ。 そなた等にもこの進軍に同行してもらえると助かる」


「そうですね、願っても無い事です。 同行承知いたしました。 ところで、なぜ王……女王でしたか、女王は辺境伯領に向かうのでしょうか」


「それは、女王の出身地だからであろう」


「そうでしたか、という事はそここそ真の悪魔の居城がある地なのですね」


「? ああ、悪魔の討伐が最終目的であったか。 我には悪魔の所在は判り兼ねるが、女王やスブリサの者達に聞けば判るかも知れぬ」


「承知いたしました。 それで何時出立されますか」


「2日後に大公陛下が軍を率いて来られる。 報告と引継ぎを済ませ、侵攻計画の承認を受けてからとなるので、そうさな、6日程度と思うが、改めて連絡する」


「判りました。 準備を進めておきます」



 北部諸侯は領内のクロス教徒が不穏な動きを見せており、それを警戒して身動きが取れない。 しかも、近隣には反乱軍に占拠されたクタイ伯領まであるのだ。

もっとも、クタイ伯領を占拠した農民兵は勇者抜きでは烏合の衆なのだが、諸侯はその事を知らない。 警戒するのは当然の事なのだ。

中部諸侯はまだ情報が少なく、王都陥落の真偽も確認できていない。

何より、女王からの命令が無い現状では、どの諸侯も様子見するしかないのであった。



*****



 天使達との会議の翌日、1台の車両がスブリサ領の砂漠に現れた。



「陛下、ようやくここまで来ました」


「ありがとうございます。ご苦労さまでした」



 フォードGPAは女王と侍従を乗せ、細い街道や平原を超えてようやくたどり着いた。

積んでいた保存食の残りは少ないが、ここまでくればもう大丈夫だ。

機密保持というか、都落ちした女王を見て諸侯がどう動くか判らないため、どの諸侯にも協力を求めず、表の大きな街道は通らずにここまで来た。

侍従の一人は馬車とは比較にならない速さと快適さに驚いていたが、以前デザートシボレーに乗った経験のある女王にとっては驚くような事は無かった。


 程なくフォードGPAは飛行場に現れ、都に連絡が届くのであった。



 フォードGPAは都に到着し、そのまま城の城壁内へと入る。

既に連絡を受けていた一同は総出で出迎える。

その中でアルル執政官が口を開く。



「陛下、お待ちしておりました」


「心配かけてしまいましたね」


「とんでもございません」



 このフォードGPAには無線は積んでいない。 このため、途中で無事を知らせたり、現在位置を伝える事は出来ないのであった。


 こうして、心配事の無くなった大英達は、大公軍と戦う準備を進める。

女王が逃げ込む先がスブリサなのは大公も認識している事なので、 向こうから来るなら迎え撃つし、しばらく動きが無いなら、王都奪還の軍を送るだけの話。


だが、召喚軍にとって大公軍は敵ではない。

真の敵は勇者達だ。 大公軍と同行しているかどうかはともかく、同盟状態にあるのは間違いない。

アイゼンハワーの軍を壊滅させた彼らにどう対処するか。

アキエルの作戦を効果的に実施するため、大英と秋津は細部の調整を進めるのであった。

用語集


・保存食

フォードGPAに付属しているものでは無い。他のキット(クルップボクサー)に付属の「中身不詳」の木箱を召喚する際、保存食を指定したもの。

第二次大戦期のものなので、レトルトなどは無く普通に缶詰。

缶切りや食器も付属している。(本来のドイツの木箱には入っていないかもしれないが、召喚時に指定した内容が優先された)

ホムンクルス達は食料を必要としないため、(賞味期限を別にすれば)在庫が勝手に減る事は無い。


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