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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第44話 勇者vs神獣 その5

 勇者ロンデニウムは聖剣ドネガルを構えると、詠唱を始める。



「天にまします主よ、光と太陽の天使よ、我が願いを聞き届け給え。 これなるは父の子ロンデニウム、我願うは悪を滅する太陽の光、我が敵は遠くにあり……」



 剣と言っても、この場合斬ったり叩いたりする道具ではなく、魔法を発動する魔道具としての役割を持っている。

ドネガルは強力な魔法の発動に耐える最高級品だ。



「そうれ、正義の光を食らえ!!」



 振るわれたドネガルから巨大な光が前方に伸びていく。

速いとはいえ伸びていく様が見えるので光ってはいるものの、光線と呼ぶのは如何な物か。 ビームだろそれ。

だが、そんな事は問題ではない。


 3キロの彼方に布陣する「魔獣」の群れの中央に向かう光。

そして1体の魔獣に当たる。

魔獣はたちまち爆発炎上する。


 だが、それで終わりではない。

そこから真上に向かって光の柱が立ち上がる。

その柱が上空数千メートルにまで伸びると、そこに光の玉が現れる。


 光の玉は急激に大きさを増すと、一気に地面に向かって落下する。

数秒で地面に到達すると、巨大な爆発を起こす。

その爆発を見て勇者は歓声を上げる。



「よっしゃーー! これで魔獣は全滅だ!!」



*****



 巨大な爆発はアイゼンハワー指揮下の戦車と兵を一撃のもとに葬り去った。

直撃を受けた場所には大きなクレーターが出来ており、その影響は王都の城門をも破壊していた。

城門近くの城壁の上で指揮を執っていたアイゼンハワーも崩落する城壁と共に落下し、大怪我を負う。



「な、何が起きた……のか?」



 アイゼンハワーは意識を失った。



 爆発による衝撃音は王宮にも響き渡る。



「何事ですか」



 女王の問いに答えられる者は居ない。

しかし、直ぐに城門が周りの城壁ごと破られたと報告が届く。

軍務卿シャイレーンドラ=エリアンシャルは第3騎士団に敵の侵入阻止とアイゼンハワーの安否確認を命じた。


 情報が集まるにつれ、驚きは増していく。



「なんという事じゃ、このような破壊、聞いたことも無い」


「これは、神獣の、それもかなり力の強い物に匹敵するのではないかと思います」



 軍務卿と宰相フランク=ビリーユは事態を重く見る。

そこへ、担架で一人の男が運び込まれる。



「軍務卿閣下、アイゼンハワー殿をお連れしました」


「なんと、ご無事でしたか」



 城門周辺の被害報告を勘案すれば、戦死していたとしても不思議はない。

先ほど意識を失ったアイゼンハワーだが、応急措置を受け意識を取り戻していた。



「申し……訳ござい……ません、敵は、……敵は強力です。 陛下、ここを脱出して、スブリサへ向かって……ください」


「なんと、陛下、お聞きになられましたか!」



 フランクは振り返ると女王に問う。



「はい、事態は悪いようですね」



 そこへ、さらなる報告が届く。



 王都から海に伸びる岬の先端に監視小屋がある。

そこには海を監視する兵と、6ポンド砲が配備されていた。



「何だあれは?」



 監視兵の目に映るのは大船団。 12隻ものガレー船が向かってくる。

そして、その船に掲げられている旗は大公国のものだ。

来訪の目的を確認すべく船を出すと共に、伝令が城へと走り、6ポンド砲を発射位置へと移動させる。


 船団に近づく船。 大公のガレー船と比べると、そのサイズは1/10程しかない。

そんな小型船を前にして、ガレー船は「何も無いかの如く」進路を維持したまま進んでくる。

そして、先頭の船の船首付近に、人が集まって来ている。

それを見た小型船の船長は驚くというか、やはりと言うか、困った顔をする。



「何をするつもりだ……」



 いや、何をするも何も判っている。

彼の予想通り、集まった者達は弓を取り出すと、矢をつがえて小型船に向ける。



「反転離脱! 総員、矢に備えろ!」



 次々と飛来する矢、数名が倒されるも離脱を進める。

それを見た監視兵は敵襲を示す狼煙を上げると共に、発砲準備を整えていた6ポンド砲とその砲手へ攻撃を依頼する。



「では、お願いします。 先頭の船を狙ってください」



 ササン=カテドラルは英砲兵に依頼する。

発砲のための着火担当は数名でローテーションしていて、この日の担当はササンだったのだ。


 砲撃を開始した6ポンド砲だったが、その効果は限定的だった。

この地で作成した砲弾は徹甲弾しかない。 元々の弾も徹甲弾だったけどな。


徹甲弾では船に当たっても貫通するだけ。

もちろん、丸い穴が開くのではなく、周辺が破壊されるが、炸裂しない以上その効果は限定的だ。

そして何より弾数が少なかった。


1、2隻の敵船に対応する程度の想定であり、いきなり大船団が襲来する事は想定していなかったのだから仕方ない。


 やがて砲弾を撃ち尽くして沈黙する。

一方、先頭のガレー船は何発もの砲弾を受け、マストが折れ漕ぎ手にも死傷者が出ているが、沈んではいない。

別の船に先頭を任せると、船団の最後尾に移動し進軍を続ける。


 伝令が報告を城に届けるのと前後して狼煙が上がったのを確認した軍務卿は、大公の軍が侵攻して来ていると判断した。



「やむを得ません。 アイゼンハワー殿の言われる通りになさるべきかと」


「なんて事だ。 大公とも手を結んでいたとは」



 宰相も事態の重さを認識する。

軍務卿はあらかじめ定めていた緊急事態対応の実施を上奏する。



「しかし、私だけ脱出して、そなた達はどうするのです」


「我らは王都を守らねばならぬ故、ここを離れる訳には行きませぬ」


「陛下さえご無事なら、何とかなります」


「判りました」



 女王も同意し、侍従と共に秘密の脱出路から王都の外へと向かう。

そして、伝令は港に停泊している水上機へと走る。

この事態を、一刻も早くスブリサに伝えるためだ。



*****



「そろそろ行くか」



 大爆発による煙と粉塵が収まったのを確認した勇者一行は、王都入城すべく前進を開始する。

そして、魔法で丘に居る農民兵に声を届け、前進を促す。


 だが、そんな彼らの道を阻むものがある。

外ならぬ、ドネガルが作ったクレーターだ。



「これは……迂回するしか無いな」


「やりすぎじゃないの?」


「しょうがないだろ、先手必勝。 魔獣相手に手加減は出来ねぇしな」


「それもそうね」



 ルテティアは呆れつつも納得し、一行はクレーターを迂回しつつ、王都へと進んでいく。



 やがて破壊された城門の残骸を越えて王都に入っていく。

騎士も兵も姿は無く、民衆の姿も無い。



「何だよ殺風景だな。 何の歓迎も無ないとか、本当に王の都か」


「みんな恐れているのかしらね」


「それじゃ、このまま城へ向かうか」



 だが、進み始めた所で、後ろから轟音が響いた。 振り返る勇者たち。

そこには、見慣れないが、なんとなく判る物体が向かってくるのが見えた。



「おいおい、あの光の中生きてやがったのか?」


「いや、新手だよ」



 ウィンドボナはそれが先ほど対峙した敵とは違うと判断した。

それは王都に向かったT-34だ。

決戦には間に合わなかったものの、それが逆に幸いして生き延びた形だ。

そして城門が破壊された王都の様子を見て、こちらが緊急事態と判断し、王都に向かう農民兵集団を無視して突入したのだ。


 2両のT-34は、勇者たちを敵と認識し、機銃掃射を始める。

僅か100メートル程度の至近距離だ。

即座にテノチティトランが大楯を構え、その銃弾から皆を守る。



「ど、どうするんですか、もう大技は使え無いんじゃ」



 アンティグアの心配にロンデニウムも頷く。



「そうだな、これは斬りに行くしかねぇな」


「そんな、そんなに離れたらオッサンの盾の守りも届かないんじゃ」


「判ってるじゃないか。 なーに、みてろ。 大技ぶちかますだけが勇者の戦い方じゃねぇよ」



 そう告げると、ロンデニウムは走り出す。

2両のT-34は車体機銃で彼を撃とうとするが、なかなか狙いが定まらない。

そして、超人的速度で100メートルを走り抜けると、ジャンプする。

三角飛びのような動きで、傍の建物の外壁を蹴ってT-34に取りつく。



「ほらよ」



 ロンデニウムは上からT-34の砲塔にドネガルを突き立てる。

まるで粘土にナイフを刺したかの如く、易々と上面装甲を突き抜ける聖剣。

そのまま剣を動かして中を切り裂き、続いて後方のエンジンルームにも剣を刺す。


エンジンが止まり、静かになったところで、返す刀で主砲を切断。

続いて車体機銃の根元を破壊し沈黙させる。


 その時、銃声が轟き、彼の左肩に当たるが、銃弾は弾かれ、ダメージは無い。

見れば、もう1台のT-34の砲塔から身を乗り出した男が拳銃を撃ったようだ。



「魔獣の中から人……いや悪魔か?」



 すぐに銃撃を避けつつ飛び掛かると、あっという間に首を刎ねる。

そして、同じくこちらのT-34も、切り刻んで沈黙させた。



「なかなかの固さだったぜ。 ただ斬るだけでこんなに消耗するとはな」



 ただ斬ると言っても、振るっているのは聖剣だ。 腕力だけでなく、精神力も使われる。

T-34の決して薄くはない装甲を飴細工のように切り刻むのは、単なる固い金属の剣という事ではなく、魔法で能力が高まった剣という事だ。

そりゃあ振り回すだけで魔法を撃ちまくっているような消耗をする。

とても常用できる剣ではない。



 そうして勝利を確信している勇者たちの頭上に聞き慣れない音が響く。

何事かと頭を上げる彼らの目に鳥のような「何か」が飛び去る姿が映る。

それは1機の水上機。 スブリサに急を知らせる為に飛び立ったものだ。



「なんだありゃ」


「判らないね。 だけど離れていくから、とりあえず危険は無さそうね」



 さすがのウィンドボナも飛行機を見た事は無い。 そしてその意味に気づく事も無い。

不思議な音を立てて飛ぶ大きな鳥が飛び去った。 それが彼女の認識。

まさか人が乗ってるなど想像すらできない。


 王都を守る第3騎士団だが、「超人」相手では戦いにならないため、無駄に命を散らさないよう、抵抗しない様に命令が変更されている。

そして上陸した大公軍と勇者は合流し、事情の説明を受けた勇者たちは、指揮官と共に城へと向かう。

だが、そこに女王はもう居ない。



「なんてこった。 王に逃げられるとは。 これじゃどうすればいい」



 大公軍は王都占領という目的を果たしたが、勇者一行は「悪魔と契約している王」を倒せなかった。

これは彼らにとって痛恨事だ。


 王に逃げられ、次の目標も判らず嘆く勇者であった。

用語集


・元々の弾も徹甲弾

後に榴弾も登場するが、キットの想定年代ではまだ未配備。



・精神力も使われる。

ゲーム的な言い方をすれば、斬りつけるだけでMPも消費するという「魔剣」。


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