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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第44話 勇者vs神獣 その3

 大英の日課の一つに召喚済み模型が配置されている部屋をチェックするという物がある。

床に抽象的な地図が描かれ、白化した模型が置いてある位置と、実際の配備拠点を同期している部屋だ。


記憶力に不自由しているので何処に何を配置したかを再確認している。 ……という訳ではなく、目の届かない所にある召喚兵器の状況をチェックしているのだ。

まぁ、チェックと言っても、軽く眺めているだけで、何分もかけている訳では無いが。


 そしてこの日、ある1つの模型がやや黒ずんだ色に変色しているのを見つけた。



「これは……ダイムラー Mk.IIか。 何があった?」



 現在ザバック辺境伯領との間に有線電信の建設を進めているが、流石に王都までは遠いので計画していない。

情報を取るには、物理的に使者を送るしかない。



「とにかく、まずは報告だな」



 直ぐに秋津と共に城へと入っていく。



「なんと、王都に異変ですと?」



 執政官は驚くが、大英としても何が起きているのかを説明する事は出来ないので、困り顔だ。



「今わかるのは、召喚兵器の一つが破壊されたという事だけですので、伝令を送ろうと思います」


「判りました。 早馬ですか」


「いえ、馬だと結果が判るまで数日かかると思うので、飛行機を飛ばします。これなら、今日中に報告を受け取れます」


「判りました」



 バイク(BMW R75)が飛行場へと走る。

到着すると、滑走路わきで翼を休めている「グラマンJRF-5グース」の元へと進む。


 事情の説明を受けたパイロットは、バイクに乗ってきた兵を乗せて王都へ向けて飛び立つ。

ちなみにこのJRF-5、水陸両用のため滑走路から飛び立って、降りるときは着水という方法が取れる。

つまり、飛行場の無い王都へ向かうのに向いている機体なのだ。



 時を同じくして王都でも異常事態が把握された。

意気揚々と出動した騎士団が、団長一人しか戻って来なかったのである。



「申し訳ございません!!」



 第2騎士団長ユーリヒ=ドラミアンは、女王達を前に謝罪する。

ただ謝るだけで要領を得ないドラミアンに、女王は改めて問う。



「一体何があったのです」


「はっ、それは……」



 人なのに人とは思えない戦闘力を持つ勇者と名乗る「超人」のような敵。

僅か4人の敵兵相手に、騎士団の騎士や兵だけでなく、預かった魔導士も倒された。

それどころか、神獣までも失ってしまった。

しかも、クタイ伯領の都を救いに行ったのに、都はあっという間に焼き払われてしまった。

つまり敵兵には、騎士団に向かってきた者とは別に、都を短時間で破壊できる者が居るのだ。

さらにその敵は王都侵攻をも予告して来ている。


 この驚愕の報告に、宰相も軍務卿も言葉を失う。

泣き崩れるドラミアンは自らを死罪にして欲しいと言い出すが、女王はそれを却下し、しばらく謹慎するように命じ、彼はフラフラと謁見場を後にした。



「落ち着いて、冷静になってくれると良いのですが」


「後ほど私が様子を見に行って参りましょう」



 軍務卿シャイレーンドラ=エリアンシャルはそう女王に進言し、女王も「お願いします」と応えた。


 だが、今緊急の課題はその「超人」への対応である。

直ぐにアイゼンハワーが呼ばれ、対策会議が開かれる。



*****



「それで、王都までの道のりは大丈夫かい」


「ああ、問題ないよ。 ちゃーんと覚えてきた」



 ウィンドボナは王都へと帰るドラミアンの後をつけ、王都の場所と王都への道を確認してきた。

土地勘のない場所ではあるが、一流のスカウトなので迷子になる事も無く任務を果たしたのであった。


 勇者はパーティーメンバーを前に語る。



「王こそは悪魔と契約した諸悪の根源だろう。 王を倒せば、この地の全ての人々が悪魔の正体を知り、主への信仰に目覚めるはずだ」


「そうね。 正体に気づけなくても、私たちが王を討伐すれば、悪魔が王を見捨てたと思って悪魔信仰を捨てるでしょう」



 大魔女もその考えを肯定し、王都への進軍計画を速やかに実行に移すべく、反乱軍との調整案を考える。



「王都侵攻となれば、彼らも本気で『魔獣』を出撃させてくるでしょう。 大勢の農民兵が見ている前で、悪魔の象徴である魔獣を葬れば、その噂は王国全土へと広がり、改宗にも弾みがつくと思います」


「王を倒せば、契約している悪魔も黙ってはいないだろう」


「そうね。 悪魔をおびき出せれば、後は倒すだけ。 この世界に来た目的も果たされる」


「あと一息だな」


「ええ」



 勇者としていくつもの村や国を救ってきた「戦法」。

雑魚を討伐して幹部をおびき出し、幹部を倒して親玉を引きずり出す。

どんな相手と戦っても勝てるという自信が無ければできないやり方だが、信仰の篤さのためか、それともこれまで全てがうまく行っているためか、彼らは自信満々で計画を進めるのであった。



*****



 昼過ぎ、王都の港に1機の飛行艇が入ってくる。 朝スブリサを出発したJRF-5だ。

直ぐに伝令は王城に行き、対策会議が行われている部屋へと案内される。



「事情は了解致しました」



 装甲車が敵兵の攻撃で撃破されたという事で、大英の疑問の答えは得たものの、もっと重大な報告事項の出現を受け、伝令は対策会議の結論も持って帰る事とした。


 会議の結論としては、神獣騎士隊を中核とした軍で迎え撃つというものとなった。

既に外征戦力の多くを失っており、再建している時間は無い。 このため、召喚戦力を中心にせざる負えない。

そもそも、あのような超人は通常の存在とは考えられず、神の関係者ではないかと考えられる。

人と人の戦争ではなく、神がもたらした敵との戦い。 そうであれば、神獣騎士隊を動員する事に何の問題も無いだろう。


 そうして、王都の残存戦力は防備に徹し、アイゼンハワーが指揮する神獣騎士隊は王都の外でその火力を持って敵を討つ。

という作戦案であった。


 近代兵器の力を十全に発揮する事を優先した常識的な作戦と言えるだろう。

この結論を携え、伝令はスブリサへと帰っていく。

飛行艇は王都の基地は未完成のため補給は受けられないが、ザバック辺境伯領までの飛行に問題は無い。


 JRF-5がザバックの港に着くと、そこには大英達が待っていた。

早く報告が聞きたかったのもあるが、もう一つ用事があった。


その用事は既に完了しており、港に浮かんでいた。


 護衛艦「みねぐも」の召喚である。

初月と同じ1/200でサイズも初月より小型だが、年代が新しい分難易度が高いので、やっと召喚出来た次第。

ちなみに、今回は誰も寝込んだりしていない。



 さて、早速伝令から報告を受けた訳だが、大英達は中々に異常事態な報告だと認識した。



「個人レベルで光線放って装甲車を破壊って何の漫画だよ」



 秋津にはなかなか理解しがたい状況だ。

大英は伝令の説明からあるアニメが頭に浮かんでいた。



「魔法があるんだから、魔道具か? いや、そんな光線が出る剣ってナイトじゃあるまいし」


「ナイト? 騎士? 何だソレ」


「あぁ、秋やんは見てないか、ドゥームの話だよ」


「あぁ、あれか、ゲームとかアニメとか多すぎて今更手が出ない奴だな」


「ソレだ。 アレのナイト氏の草薙剣なら、そんな感じになる」


「何だ? 今度はアニメから敵が出て来たのか?」


「いや、いくら何でもソレは無いだろう」


「だよな」


「というか、そんな所にいきなり敵が湧いたのか?」


「それもオカシイけど、その強さだよな。 天使クラスだろ、ソレ」


「つーことは、天使そのものじゃ無いのか? ゲートでいきなり飛んでいけば何処にだって現れるだろうし」



 とりあえず事態を把握した大英達はスブリサに戻ると、神官に天界への報告を依頼する。

いわく、「天使が直接介入してる疑惑がある」と。


 そして、対策を考える。

もし、敵が本当にそんなビームだか光線だかを撃つなら、大問題だ。

ダイムラーが原形を留めない程の火力なのだから、大抵の戦車の装甲も耐えられないだろう。

そこで大英に疑問が出る。



「攻防一体だろうか」


「というと?」


「つまり戦車の装甲並みかそれ以上の『バリアー』とか持ってたりするのかという話」


「あぁ、その可能性はあるかもな」



 アニメとかだと「攻撃に偏った」ものも少なくない。

攻撃は派手で演出上も見栄えがするが、防御はそうでもないからだろうか。

大抵のアニメ兵器やアニメキャラクターは「自分の攻撃」には耐えられない。


主人公や主人公機が強いのは、「当たらない」からであって、耐えられる訳ではない事が多いのだ。

まぁ、「食らっても平気」というのは悪役っぽい演出だから、主人公には向かないのかもしれない。

しかし、リアルでは「自分の攻撃」に耐えられる防御を施すのが一般的。

戦車も戦艦も、そういう思想で設計されている。


足りない事もあるが、それは技術的問題やコスト的問題で不十分なのであって、防御を軽視する思想は無い。

中には対戦車自走砲とかモニター艦といった自らの攻撃には全く耐えられないものもあるが、それらは「普通ではない」装備であって、中核装備ではない。

まぁ、魚雷を装備していて、魚雷に耐えられる艦艇は無いけどな。


 とはいえ、アニメのメカは飛行機の延長線上にあるから、攻撃力過多なのは仕方ないのかも知れない。

高射砲に撃たれても平気な飛行機なんて無いからな。

装甲でコクピットを守って乗員は助かっても、飛行機自体は持たない。


 で、話を戻すとリアルである以上、自身の攻撃に耐える防御能力がある可能性が考えられる。

もちろん、その「光線」が切り札的な物なら、自身も耐えられない可能性はある。

駆逐艦が自身の魚雷に耐えられないのと同じ理屈だ。


 だが、それを期待するのは「虫が良すぎる」だろう。

切り札的攻撃方法があるなら、同様の切り札的防御方法があったとしても、おかしくないのだから。



「今から送れる戦力はあるか」



 秋津の問いに大英は渋い顔だ。



「敵の能力が判らないからなぁ、効果的な戦力が判らん。 敵が来るのが時間の問題ってのも困るな。 適当な物を送っても、間に合わない」


「そうだなぁ、まずはアキエルさんの見解待ちか」


「それしか無いだろう。 一応先に何か戦車を派遣するけど、トレーラー無いからなぁ。 自走だから到達できるか判らん」


「今のところ失敗は無いだろ」


「無いけどな」



 現状王都にある戦車と言えば、「M3 スチュアートMk.1 軽戦車」「クルセーダーMk.Ⅲ」「M4A1'Calliope'」の3両だけ。

Calliopeについては撃ち尽くしたロケット砲を撤去している。

攻撃だけなら対戦車自走砲(M3 75mm対戦車自走砲)もあるが、当然紙装甲。


 とりあえず都にある2両のT-34/85を送る事にして、出発させた。 すぐ出せる戦力の中では防御重視という事だ。

アキエルの返事を聞いてから後続を用意するにしても、まず出せるものを出すという判断だ。



 その頃、アキエルの元にはガルテアに関する情報が集まっていた。

その中には、普通の兵士よりも強い「冒険者」と呼ばれる者の存在と、その中には極端に強い力を持つ者が含まれるという情報だ。

強い力を持っていれば、強い装備を使いこなすことが出来る。


 そこへ、大英からの問い合わせが届く。



「まさか……、そんな事が?」



 アキエルは、モリエルと会議した時の想定が甘い可能性について、考えはじめるのだった。

用語集


・ドゥーム(ドゥームシリーズ)

バレー(valet)と呼ばれる従者を操る数人の超能力者が、至宝を得るべくバトルロイヤルするアニメやゲームや小説etc...。

バレーは正体を隠すため徒名で呼ばれる。

その中の一人がナイトと呼ばれる者で、その持つ草薙剣が真の力を発揮すると、刀身より大きな光線が放たれ、多くの敵が一掃されたり、巨大な敵が倒されたりする。

(身バレするから滅多に真の力は発揮しないそうだ)

なお、ライバルとなるバレーの中には赤い外套の人も居る。



・主人公や主人公機が強いのは、「当たらない」からであって、耐えられる訳ではない事が多い

敵が弱い場合はこの限りでない。

物語序盤でド素人主人公が乗るメカが強いのは、敵の攻撃が通じないから。(この時点では普通に当たっている)

某有名作品でも、もし主人公機の持つ「戦艦並みのビーム砲」を主人公機自身が食らったら、あっさり撃破されるのではないだろうか。

まぁ、誘爆は起こさないだろうから、爆発四散は無いだろうけどな。



・今のところ失敗は無いだろ

無限軌道が外れて自走不能になった事例は無い。 という話。

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