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模型戦記  作者: BEL
第1章 異世界へようこそ
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第5話 おっさんズ、反乱に対処する その3

 大英は得られた情報から立てた作戦の概要を話し出す。

その内容は……


あの4両の戦車が使えなくなれば、第3騎士団も投降するだろう。

敵に動きが出たら、その時は城壁を盾に戦うしかないが、動きが無ければ次のプランで行こう。


61とT-34/85は夜になってから進出し、偽装して配置につく。

その際、敵に気づかれないようライトは点けないように。


進軍ルートは街の城門への1本道だろうから、正面からそれを狙えるように。

6ポンド砲とPak40は進軍ルートを側面から攻撃できるよう配置。

移動は牽引車が無いし人力だと厳しいだろうから、馬にでも引かせればいい。

こちらも偽装を怠りなく。


念のためバズーカ砲を持った兵士を控えさせておく。

2両と2門の射点はあの4号より向こうにしておく。

あまり近づかれると偽装がばれる。

それでも200~300メートルぐらいなはずだから、いくら重装甲のドイツ戦車でも当たれば撃破できるはず。

4号は多分無人だろうから、動かない限り無視してかまわない。


敵が射点に来たら一斉攻撃。

数発撃っても生き残りが居たら、戦車は庵袋を出て機動戦に移行。


対戦車砲は被害覚悟で撃ち続ける。位置を変えてる余裕は無いだろうし、残弾だって少ないから移動する意味は無い。

たとえティーゲルでも、足回りなら6ポンド砲でも被害が期待できる。

最悪撃破できなくても、動けなくなれば街はともかく城は安泰だ。


戦車が使えなくなれば、彼らも降伏する可能性が高くなる。

何しろ、戦車の威力を知ってるんだから、その戦車が倒されれば、こっちがどんな相手かは想像がつくだろう。


戦車を倒せなくても、無力化する方法はある。

あくまで最後の手段だが、機関銃チームを投入して銃器や迫撃砲で騎士団の人員を減らせば、こっちの騎士隊でも優勢は取れるだろう。その際、ブローニングM2は対空用だから置いてけ。

で、騎士隊を敵陣に突入させて「み使い」を確保。

み使いを脅して戦車を止めさせれば問題は解決だ。



「随分具体的だな」


「そうか?細かいところは現場任せだから、かなりざっくりした作戦だと思うけど」


「いや、プランB的なところまで細かく指定があるからな」


「それはな、多分指揮は秋やん任せになると思うから」


「?どういう事だ」


「61の召喚はかなりリスキーなんだ。Overload Photon Torpedo というか……」


「おいおい」


「大丈夫、MPがマイナスになったって死にはしない」


「本当か」


「もちろん、だいいち巫女の娘も同じ事になるんだから、若い娘を死なせるような事にはならない。ちょっと寝込むくらいだよ」



実際にやって見た事は無くても、与えられた権能のためか、おおよその予測は付く。

デジタルゲームならMPがマイナスになるような使い方は出来ないが、これは現実なので、多少の無理は利くという事なのだろう。

そして勝率80%を「五分五分」とか言っちゃう慎重派の大英が「大丈夫」と言うのである。

秋津は大英の言葉を信じる事とした。


ちなみにホムンクルス達は指揮権を持つ者にしか従わない。秋津はその指揮権を持っている。

大英が召喚戦力を託せる相手は秋津だけなのだ。



「なら良いけど。ところで、敵に動きが無いって想定だよな」


「そうだよ」


「何でそう思った?」


「重戦車が2両もあるんだ、あんなの召喚したら丸一日は起きれないと思うよ」


「そうなのか」


「原理が同じなら、コストがかかる行為には同じ代償が発生するはず。

そして今現在動きが無い。

という事は、寝てるだろうさ」


「なるほどな」



まぁ、召喚原理は全く同じという訳ではないのだが「当たらずと雖も遠からず」である。



「配置だけどよ、対戦車砲を進路上にして、戦車で側面を狙ったらどうだ。

側面ならT34でもティーゲルをやれるんじゃないか?」


「うーん、日没後の移動とはいえ、目立つ戦車をあまり敵の近くに配置したくは無いな」


「そうか、攻撃能力より隠匿を優先か」


「そう」


「わかった。英ちゃんの作戦で行こう」



方針が決まり、4人は城へ戻る。


村からバズーカ砲と操作する兵員が呼び出され、合流する。


その間にT-34/85を召喚。


二人とも結構疲れたようだが、そんな事を言っている場合ではない。

大英はリディアとパルティアに61式の召喚について説明する。



「と言う訳で、次の召喚では多分倒れる事になる」


「判りました」



パルティアも覚悟を決める。

リディアも心配そうな顔をしている。



「そう、心配しなくていいよ、ちょっと寝込むだけだろうから」



そうしていると、第3騎士団から再度降伏を勧める書状が届いた。

その中には以下のような文言も含まれていた。


-----

ム・ロウ神の恩寵を受けし魔物の力は、汝らも骨身に染みて理解できたものと考える。

寛大なる第三騎士団団長は、今一度賢明なる判断をする機会を授ける事とした。

-----


しかし、「魔物」の正体を理解している執政官は拒否する書状を返答として送った。


所謂「バカメ」であるが、もちろん儀礼的で高尚な語調になっている。



そして夕方、61式戦車の召喚が行われた。

立っていることが出来ず、姿勢を崩す大英とパルティア。

すぐに秋津とリディアは駆け寄って支える。



「おい、しっかり」


「後は、頼む……」


「おう、任せろ」



大英とパルティアは眠りにつく。

騎士や城のスタッフは用意していた担架で二人を城に運んで行った。

秋津が叫ぶ



「よし、討伐作戦開始!皆さん、よろしく!」


「はっ!!」



夜陰に紛れ、道をよく知る騎士に先導され、61式とT-34は事前に決めたスポットへと向かう。

対戦車砲も配置についた。


妨害や敵が動き出すことも無く、朝を迎える。


予想通り、朝になってから戦車が詰め所を出て坂を下り始めた。

戦車は4両になっている。いつの間にか1両増えていたようである。

(プロローグを読んだと思うので)既に承知の事と思うが、敵のみ使いが1両召喚して追加したのである。

4両は縦横に2両ずつの2列縦隊の密集隊形で進んでくる。

その後ろには徒歩の騎士達が続いているが、戦車の速度にはついていけないため、だんだん離されている。



「おいおい、4両あるなら横一列横隊じゃないのかよ」



なかなかに想定外な隊列だが、むしろやりやすい。



「しかし、うまくいくのか。

失敗するわけにはいかない……」



友より託された戦力と作戦。

しくじる様な事があれば、合わせる顔が無い。

不安に弱いネガティブマンの姿が現れる。

そもそも軍を指揮した経験のない一般人なのだから……。


そんな彼を見て、傍に控えるビステルが励ます。



「秋津殿、きっとうまく行きますよ」


「そ、そうだな。うん、そうでないと駄目だ。オシ!」



秋津は気合を入れなおす。


そして、予定したポイントに敵戦車が差し掛かかり、秋津は通信機に叫んだ。



「今だ!てー」



通信を受けて、既に狙いをつけて待機していた61式とT-34が即座に発砲。

250mという戦車にとってはかなりの近距離で行われた射撃は、初弾から正確に目標を捕らえる。

左前方のティーゲルIの車体前面を61式の90mm砲から放たれたHEAT(70式対戦車りゅう弾)からのジェットが貫いた。

初弾が直撃し、炎上するティーゲルI。


右前方のパンテルにはT-34/85からの85mm砲弾が命中する。

しかし、当たり所が悪かったかパンテルはそれをはじき返し、無傷。


6ポンド砲は通信機が無いので、両車の砲撃を見て射撃を開始する。

炎上し止まったティーゲルIの後ろに居たティーゲルIIの車体右側面に砲弾が命中する。

しかし、側面装甲に阻まれノーダメージ。


だが、この被弾で右に敵がいると判断したティーゲルIIはティーゲルIを迂回する形で右に向かって進む。

残念ながらティーゲルIの被弾箇所が正面であった事は判らなかったようだ。

そしてこの判断が仇となり、即座に放たれた61式からの射撃が命中する。

砲塔側面に命中したHEATはその威力を開放し、ティーゲルIIも炎上する。


パンテルでは突然の砲撃に混乱しつつも、敵を探す。

だが、慎重に隠匿された戦車を見つける事は困難であった。

そしてT-34からの第2弾が命中する。

今度は運悪く砲塔基部を直撃した。

パンテルは反撃すること無くその戦闘能力を喪失する。


6ポンド砲の反対側(敵から見て左翼)には75ミリ砲が配置されていた。

だが敵の生き残りの4号Hを狙おうにも、ちょうど運悪く起伏の陰に入られて射撃が出来ない。

隠匿できる場所を優先したら、肝心の射撃ポイントが狙えなかったという。

想定と実践は違う(予定と実戦は違う)というか、何でもうまく行くとは限らない。


だが、その4号Hもパンテルの横から前に出たところ、T-34に撃たれ、撃破された。


敵は全滅、こちらは無傷。

事は予想以上にスムーズに進んだ。

やはり戦力そのものより、情報の違いが勝敗を分けたと言えるだろう。


戦車隊が全滅という状況に、後ろから進んでいた騎士達は詰め所へと逃げ帰っていく。



「よし、戦車隊は前進だ。だが、指示を出すまで人は撃つなよ。

突出しないよう注意しつつ、警戒しながらゆっくり進め。

騎士隊も前進!遅れることなく戦車に続け!」



秋津の指示を受け、61式とT-34は後退して庵袋を出る。

そして方向を変えて前進を始める。

城門で待機していた騎士たちも駆け足で前進を開始する。


第3騎士団の詰め所へと迫る2両の戦車と騎士達。

ある意味シュールな光景だが、着ている服と武装が変わっているだけで騎士は歩兵と変わらない。

戦車と歩兵の協同自体は当たり前の戦術である。


だが、まもなく詰め所に投降の旗が掲げられた。


*****


投降した騎士団の面々は各々事情聴取を受けた。


一般の面々は近衛騎士隊が聴取した。

団員達は熱気が醒めたような表情で当惑していた。


幹部は執政官が聴取に当たった。

こちらも何か憑き物が取れたような放心状態だった。


やがて、処罰が決定され、騎士団幹部が集められる。



城の広間に初老の騎士が跪いている。

第3騎士団団長ゴート=ボストルである。

その後ろには数名の騎士が同様に跪いていた。


彼らの前方には誰も座っていない椅子が置かれている。


暫しの間。だが待つ身にとっては酷く長い時間が過ぎて、椅子の主が側近など数名の人物と共に現れる。

領主は椅子に座り、頭を下げている臣下に向かい語りだす。



「皆さん、顔を上げてください」



領主の言葉に顔を上げる騎士たち。

処断の言葉を待つ騎士に領主は表情を整えると公的な語調で意外な言葉をかけた。



「此度は邪神の『み使い』討伐。大義である」



ボストルは言葉を失う。


(な、若は何を言っておられるのだ?)


そして請われてもいないのに口を開いた。



「殿下、此度の謀反、その責はすべて団長であるこのゴート=ボストルにあります。

我が命を持って償いたく……」


「控えよ」



だが、執政官の声に、黙らざる負えなくなった。

執政官は続けて語る。



「既に処罰は決している。そなた等に発言する権利は無い」



一方的な裁判に見えるかもしれないが、ここは現代のように弁護士がいる世界ではない。

再び領主が口を開く。



「8名もの騎士の命奪いし邪神の魔物、それを操りし邪神の『み使い』を見事討伐した功績は大なり。

ゴート=ボストルの名は英雄として民草の心に刻まれる事であろう。

後日褒章を与える故、受章の支度を成すがよい」

「しかし、邪神の企てを見抜けず、謀反とも取られかねない行為に及んだことは、遺憾の極みである。

よって、ゴート=ボストルにおいては第3騎士団団長の任を解くと共に、隠居を命じる。

家督は嫡男アラゴン=ボストルが継承するものとする。

第3騎士団団長後任も同じく副団長のアラゴン=ボストルを充てる」



ゴート=ボストルは自らはもちろんのこと、中核騎士まで死罪を覚悟していた。

それは嫡男アラゴンも含まれ、最悪ボストル家そのものが廃絶される可能性すら危惧していた。

(世襲騎士にとっては、家の廃絶は死罪より重い罰である)


それがあろう事か自分を英雄などど呼び、死罪のしの字も聞こえてこない。

彼の頭は混乱し、当惑の表情が浮かぶ。


領主は椅子から立ち上がるとボストルに歩み寄り、跪いている彼に合わせ屈むと、普段の言葉で語りかけた。



「ゴート爺、貴方にやっていただきたい仕事があります。

引き受けてくれますね」


「わ、若……」



ボストルは頭を下げ、その要請を受諾した。


用語集


・Overload Photon Torpedo

宇宙もののSFテレビドラマ「コスモ・トレック」というか、大英達の年代にとっては「銀河大作戦」と言ったほうが判りやすい作品があった。

オープニングで船長が乗組員を紹介するのが「銀河大作戦」。後に放送されたバージョンの「コスモ・トレック」にはその部分が無い。


で、これの主役宇宙船「USSアイダホ号」の最強装備が「Photon Torpedo」(光子魚雷)。

それを用意する際、エネルギーを2倍に過剰投入することで、火力を1.5倍にできる。

それを「Overload Photon Torpedo」(過剰充填光子魚雷)と呼ぶ。

ただし、その反動で回路が焼けたりするんで、エンジニアのリーチャはいつも「やめてください船長!」と泣いている。


なお、ボードゲーム版では「Overload Photon Torpedo」は射程が短くなったり、エネルギー充填後にホールド(発射準備完了状態を維持)出来ないため、そのターンに撃たないといけないだけで、船が壊れる事は無い。後に「Suside Overload Photon Torpedo」(自滅過剰充填光子魚雷)という3倍投入で火力2倍のモードが追加ルールとして加わった。こちらは使うと必ず壊れる。もちろん魚雷発射管が壊れるだけで船に大事は無い。


大英と秋津は世代が同じため、「Overload Photon Torpedo」と言うだけで、何を言いたいのか通じる。

一方がアラフォーやアラサーなら、相手がSFファンでない限りおそらく通じない。

もちろん、アラフォーやアラサーにもトレッキー(「コスモ・トレック」のファン。トレックという単語から作られた言葉)は多くいるが、一番多いのはやっぱりアラフィフなのである。

もう少しアラフォーやアラサーにもトレッキーが多ければ、新作も普通にTV放送されるんだろうけどねぇ。



・所謂「バカメ」

 大英らと同世代の方々には、説明不要なセリフだと思う。



・秋津は通信機に叫んだ

 機関銃チームセットには名前の通り機関銃と操作する兵員が入っているが、通信機やバズーカ砲も入っている。

というか、実はセットの半分はM21モーターキャリアーと共通だったりする。

その通信機を手元に置いていたのである。

SCR610という無線機らしい。

61式を含む陸自はアメリカ陸軍互換の組織からスタートしているので、通信は繋がる。

…という設定です。本当に野戦電話で通信が繋がるかどうかは判りませんが、ここでは繋がるとしています。

まぁ、T-34にも繋がっているのはご都合という事で、ご容赦を。

とはいえ、無線機。バッテリー切れたらただの箱。


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