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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第44話 勇者vs神獣 その1

 王都では先日工事の無事を祈る儀式が執り行われ、水上機基地建設の工事が進んでいた。

まだコンクリートを使う所までは進んでいないが、資材集積所が建てられていた。

これは工事完了後はそのまま、燃料や弾薬を保管する物資倉庫になる。


 まだ建設は始まったばかりであるものの、その近くには九三式水上中間練習機が翼を休めていた。

航路チェックのため、ザバック辺境伯領から飛んできたものである。


 そんな王都にクタイ伯からのSOSが届いた。

宰相フランク=ビリーユは驚きを持ってその報を受け取る。

早速女王に奏上し、軍務卿シャイレーンドラ=エリアンシャルを交えて協議が始まる。



「……と言う訳でして、この期に及んでレリアル神を主神と仰ぐ勢力が諸侯の一所領を脅かすとは考えにくいのですが、現実に救援を求めています。 いかなる状況なのか調査が必要であると思われます」


「そうですか、エリアンシャル卿はどう思いますか」


「はい、宰相殿が申された通り、本来であれば考えられぬ事態。 周辺の諸侯で騎士団の離反があったという報告も無く、かと言って庶民が武装蜂起したとしても、騎士団がそれを抑えられないというのは、余り例のない話であるかと存じます」


「天使が関わっているという事は無いのでしょうか」


「そうですな、レリアル陣営の軍、豚頭人間などが反乱軍に参加している可能性もあるかも知れませぬ。 ただ、クタイ伯領は内陸であり、スブリサ南の森からクタイ伯領までの街道をその様な軍勢が進んでおれば、どこかで気づくと思われますが」



 シャイレーンドラの疑問に対し、フランクはある可能性を指摘する。



「何らかの欺瞞が行われた可能性もあるかも知れません。 我らの知らない魔法が使われた可能性もありますし」


「ゲートかの」


「流石にそれは協定違反ではないでしょうか」


「であるか。 そうさな、欺瞞と言えば『気にならない魔法』というものがあると聞く。 それが使われれば、たとえ見かけても『豚頭の軍勢』を『商人のキャラバン』と思うやも知れぬ」


「いずれにしても、そう大勢では無いでしょう。 あまり派手に動けば欺瞞も破れる危険があるでしょうから」


「もう一つ、キャラバンと言えば、大公国の息のかかった者共がおったな」


「えーと、タドラルト商会でしたね。 丁度クタイ伯領で活動しているという情報があります」


「怪しいのう。 これは大公国の兵が参加しているという可能性もあるやも知れぬ」


「その場合は人数もそう多くないでしょうから、戦力的には少ないため、状況に合わない気もしますね」


「確かに、豚頭であれば1体で人間の兵二人分くらいの働きはするし、巨人(オーガ)であればさらに強いからな。 同様の戦力を大公の兵だけで用意しようとすれば騎士団級の人数が必要だろう。 少数の兵では無理であるな」


「ただ、大公はレリアル神を主神と仰ぐお方、双方の協力が行われているやも知れません」


「あり得る話だな。 そうなると諸侯の騎士団程度の戦力では不足なのだろう」


「こうなると、調査だけでなく、そのまま鎮圧となる事も考えねばなりませんね。 王都騎士団でも分遣隊ではなく丸ごと派遣するのが良いのでは無いでしょうか。 第1騎士団の再建は今だ目途が立っておりませんが、神獣騎士隊もありますので、1個騎士団を派遣しても王都の防備に問題は無いでしょう」


「うむ、卿の言われる通りだ。 ここは第2騎士団を派遣するのが良いですな。 たとえ豚頭の軍勢や大公の兵が紛れていても、諸侯の騎士団と比べ3倍の戦力がある故、十分対応できるであろう」


「魔導士も付けられますか」


「再建中の魔法団より2名選抜して付けよう。 あと、アイゼンハワー殿に頼んで、神獣騎士も1~2名程付けてもらう様にしよう」


「ああ、それが良いですね」


「あの者たちが持つ双眼鏡とかいう魔道具は、このような敵の正体が不明な時は大いに役立つであろう」



 こうして派遣方針が決まり、宰相は女王に報告する。



「では、陛下、第2騎士団を中核とした軍を派遣しようと思います」


「承知しました。 首尾よくお願いします」


「はっ」



 直ちに派遣軍が招集される。 指揮官は第2騎士団団長ユーリヒ=ドラミアン。

召喚軍からは装甲車ダイムラー Mk.IIが参加する。

兵士2名の派遣を求められたが、騎乗出来ない歩兵だけでは移動手段が馬車か徒歩になってしまうため、車両ごととしたものである。



*****



「ほほう、動き出したか」



 大公国の元にクタイ伯領での騒動と、鎮圧のため王都から騎士団が出動するという情報が届く。



「陛下、時が満ちましたな」


「ああ、あの者たち、うまくやってくれておるようだ」


「では、手筈通りに」


「うむ、速やかに事を進めよ」


「ははっ」



 大公国も動く。



*****



 勇者ロンデニウムに率いられた軍勢はクタイ伯領の都を望む丘の上に布陣している。

元々はクタイ第2騎士団の詰め所だったが、今は反乱軍の拠点と化しているのだ。

そこへ、都に使者として交渉に赴いていたサンガ村村長が帰って来た。



「どうよ、領主サンは要求を聞き入れたか」



 勇者は村長に問うが、返事は芳しくない。



「残念だが、殿下は改宗を受け入れては下さらなかった。 力が足りず申し訳ない」


「やはり目の前で奇蹟を見せないと無理なのかしらね」



 ルテティアの感想にテノチティトランは首を振る。



「そうは言っても、都に入れば捕まるか殺される。 いやなら戦いだ」


「そうね」



 領主の改宗は無理と判断した所で、勇者はルテティアに問う。



「どうするよ」


「主の威光を見てもらうしか無いわね。 見た後は生きてるかどうかわからないけど」


「そういうこったな」


「村長さん、とりあえず、都の人々に貴方の声を届けるわ。 主に従い改宗する人は明日の夜明けまでに都を出て投降して。 明日の朝残っている人は死をもって主の威光を体験する事になると伝えてください」


「わ、判りました」



 ルテティアは呪文を唱え、都全体に村長の声を届ける。 都の人々に動揺が広がる。



*****



 都の中央にあるクタイ伯の城。 当然のようにここに居る人々にも村長の声が届いた。

クタイ伯はどうすれば良いか判らず混乱している。



「どうすれば良いのじゃ、救援は来ぬのか?」


「落ち着いてください、殿下」



 城内の人々も右往左往している。

城下の人々の多くが荷物をまとめており、都を脱出しようとする住民も少なくない。


そこへ待望の連絡が届く。

早馬が到着し、反乱軍を避けて反対側の門より都に入り、王都からの返事を届けたのだ。



「殿下、お喜びください。 陛下が救援の騎士団を送って下さります!」


「おお、おお、して、何時じゃ、敵の攻撃は明日朝じゃぞ」


「お待ちください、えーと、朝です、明日朝には到着されると」


「間に合うのか、それで大丈夫なのか」


「大丈夫でしょう。 早く着けば攻撃前に戦端が開かれましょうし、遅い場合でも、敵が都を攻撃しているなら、背後を突けます!」


「おお、そうか、よし、何としても敵の侵入を食い止めねば。 第3騎士団にも指示を徹底させよ」


「ははっ」



 一途の望みが出てきたと喜ぶクタイ伯とその部下たち。

だが、その会話を聞いている者がいた。



(なるほどね、王が増援を送って来るという訳だ……)



 情報を掴んだウィンドボナは逃げ惑う民衆に紛れて都を後にする。



*****



 報告を受けた勇者はチャンスだと考える。



「なるほどな。 悪魔軍本隊のお出ましって訳だ。 これはお客さんを迎える準備をしないとな」


「どうする? 二正面はまずくない? もうあの領主スパッと暗殺しちゃう?」


「いや、暗殺はダメだ。 見せしめにしないといけないからな」


「そうだったわね」


「なーに、心配いらない。 都はティアに任せて、他のメンツが迎え撃てばいい」


「なるほどね」



 こうして双方の軍勢は翌朝に衝突する。

用語集



・協定違反

ティアマトが使った「壁通り抜け」でも、天使や軍勢を送れば戦時協定違反を疑われると言う。

ゲートなど当然アウトだろう。



・双眼鏡とかいう魔道具

だから、魔道具ぢゃ無いって。

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