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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第43話 おっさんズと新興宗教 その4

 その朝、神殿部屋に届いたブツは「当たり」だった。


 毎朝天界から届く例のブツ。 大抵は戦力にはならない。 だが大英達に「21世紀成分」を届けて、心身の平穏を保つという効能を発揮する事もよくあった。

それが今回はプラモデルだった。 珍しく戦力になるモノが届いたのだ。



「これは……120mm迫撃砲? 見た事無いキットだな」



 それはスーパーディティール社の1/35「陸上自衛隊 120mm迫撃砲RT w/重迫牽引車」というキットだ。

大英は箱を手にして首をかしげる。 彼が知るキットの中にこれは存在していない。

陸自でしかも迫撃砲、牽引車付き。 こんな「オモシロイ」キットがあれば、間違いなくチェックしているはずである。

なのに、全く知らないのだ。


それもそのはず。 このキット、大英がこの地に喚ばれた後に発売される事になる商品だったのだ。


 ブツは基本的に大英達が召喚された2021年6月近辺から調達されている。

ただし、多少年代の前後が発生する。

今回は少々未来の製品が届いたようだ。


 秋津も箱を見て珍しそうにしている。



「陸自か。 それにしてもマイナーだな」



 陸自の時点でマイナー感がある。

いや、近年は陸自物も色々揃ってきているが、秋津が子供の頃は陸自と言ったら戦車しかなかったのだ。

模型製作から離れている秋津にしてみれば、陸自というだけでマイナーなのだ。


そして大英は箱を見ていて気づいた。



「c2022だと? 来年じゃん」



コピーライトが「c2022 SUPER DETAIL MADE IN JAPAN」となっていたのだ。

それを聞き、秋津も反応する。



「おー、未来からも届くのか」


「そうらしいね」



 だが、中を見て少々問題が見つかった。



「うーむ、人がいない」


「人?」


「牽引車と迫撃砲だけ。 砲弾はあるけど、運転手も砲手も入って無い」


「欠品か?」


「いや、説明書見る限り、これで全部だ」


「それは困るな」


「ああ」



 フィギュアが無いから、召喚しても砲と車しか現れない。

もっと小さなスケール(1/72)なら、この間からフィギュアの補完機能が有効なので、人員も現れる。

でも、1/35でその機能が使えるという話は聞いたことが無い。

元々1/144以下で働く機能を1/100や1/72にも使えるようにした経緯を考えれば、使えない可能性が高い。



「とりあえず、アキエルさんに聞いてみたい。 お祈りお願いできますか」



 大英に頼まれ、神官は直ちに天界への報告を始める。

いつもの報告とは違う時間帯なので、臨時報告となるので、直接内容を伝えるのではなく「み使い殿が話がある」という事を伝えた。



「これで、しばらくすれば天使様より連絡があるでしょう」


「ありがとうございます」



 天使からの連絡は何処にいても届くので、ここで待っている必要は無い。

大英達は一旦届いたキットを家へと運ぶと、午前の召喚にとりかかる。


 ここで召喚したのは「M3A1 HALF TRACK」と「60式装甲車(MAT装備)」。

M3は兵員輸送車で、この間までよく似たM3A2を都に配備していたが、王都に送ったため代わりとして用意したものだ。

60式も兵員輸送車だが、こちらは対戦車ミサイルを装備しているので、輸送能力は大きく減っているだろう。

誘導システムや予備ミサイルの搭載を考えれば、兵員が乗るスペースは結構削れているかも知れない。


このミサイル、64式対戦車ミサイルという物だが、ファンタジーモンスター相手には過剰で、第三世代戦車には通じないという代物。

まぁ、そうそう新鋭戦車ばかり現れる事は無いだろうし、モンスターだって怪獣のようなものが現れたなら、ミサイルくらいは必要だろう。



 さて、召喚も終わった所で、大英の目の前にウインドウが開く。 アキエルからの通信だ。



「どうしたの? 大英君からなんて珍しい」


「ああ、いえ、聞きたいことがありまして」


「そうなの? 何かな」


「3つありまして、一つ目はフィギュアの補完機能についてです。1/35 で実装する予定はありますか」


「1/35で? 必要なの?」


「はい、実は今朝頂いた物品ですが、当たりで1/35の模型だったのです。 ただ、人員が付属していないため、召喚しても戦力化は難しいのです」


「なるほど、他の人員では使えないのかしら」


「難しいと思います。 付属している車は問題無いと思いますが、本体である砲は、似た物を扱う兵は用意できますが、やはり使い勝手も違うので、どうしても練度という点では低くならざる負えません。 そして練度が低いと当たりません」


「あーなるほど。 使えるけど役に立たないという事ね」


「はい」


「判ったわ、1/48が先になるけど、1/35にも広げるようにするわ」


「ありがとうございます」


「それで、次は?」


「先ほどのキットですが、2022年の製品に見えるのですが、未来から届いているのでしょうか」


「2022年?」


「私たちが元居た世界は2021年です」


「あぁ、そうだったわね。 そうねぇ、ある程度は幅が出ると思うわ。 たまにだけど。 最大でそうねぇ……5年いや10年くらいはズレるかも知れないわね」


「そんなに?」


「もちろん、2021年から離れるほど確率は下がるし、未来側自体低確率だから、滅多に起きないと思うけどね」


「判りました。 では最後に、今度は全く違う話なのですが、2021年の世界にはクロス教という宗教が世界的に広まっています」


「え?! ちょっと待って、クロス教?」


「はい。 何か知っているのですか? 実は、そのクロス教と同じ特徴を持った『宗教』がこの地で広まっているので、何か情報でもと思ったのですが」


「えーと、話をふたつに分けるわね」



 アキエルが話をまとめる。


・21世紀に普及しているクロス教とはどのようなものか

・地上にクロス教と似ている宗教が広がっているという話は何処で起きている事か


そして、アキエルからもたらされた情報が


・ガルテアという異世界があり、その地で広まっている宗教が21世紀のクロス教と同じ名を持つ「クロス教」

・ガルテアの者は世界間移動を行っているため、この地に現れる可能性がある


いきなり話が広がり、大英達は困惑しつつも情報交換を進める。



*****



 契丹とリサエル達が宿泊している宿屋では、皆が集まってボトエルからの報告を受けていた。



「それでは、あの者達がクロス教を布教しているのですね」


「はい。 例の5人組がガルテアの者である事を勘案すれば、故郷の宗教をそのまま広めていると思われます」


「目的は何でしょうね」



 リサエルの疑問に契丹がコメントする。



「布教……ではありませんね。 布教は手段でしょうから」


「そうですね。 民衆の支持を得て、何をするのか」


「僅か5名では、侵略という訳では無いですよね」


「そうですね。 精鋭であれば破壊活動は出来るでしょうが、征服するには少なすぎます」


「とはいえ、情報収集するのに庶民の支持を集める必要は無いでしょうし」



 風俗を調べるなら、支持を得るのは良策かも知れないが、そのためにいくつもの村々を改宗して回る必要は無い。

一つの地域のサンプルならそんなに沢山要らない。 学術的な調査なら、別の地域に移動して続きを行うだろう。

一体どうした事かと契丹もリサエルも困惑していると、ボトエルが私見を述べた。



「もしかしたら、威力偵察なのかもしれません」


「威力偵察?」


「はい、単に情報を取得するだけでなく、実際に扇動や工作活動を実施するのです。 最終的な征服までは実施しないとしても、様々な活動の効果を実際に確認するのです」



 それを聞き、契丹も話を理解した。



「つまり、小規模なテストケースみたいなお話ですか。 うまく行ったら、後から来た本隊もそれを大規模に行う。 うまく行かない方法は本隊では控える。 という事ですかね」


「はい、その可能性があると思います」


「でも、それをすると警戒されてしまって、かえってうまく行かないのではないでしょうか」


「本隊を送るといっても、すぐでは無いでしょう。 ほとぼりが冷めた頃になるでしょうから、100年後とか千年後かもしれません」


「そ、そんなに気の長いお話なのですか?」


「あぁ、そうでしたね。 ヒトの感覚からすれば気の長すぎるお話かもしれませんが、神々にとっては100年は短いものです」


「そ、そうですか」



 結局、ボトエルの私見が一番うまく説明出来ていると判断したリサエルは、それを元に天界へと報告を行った。



 こうして、ム・ロウ陣営。レリアル陣営共に勇者一行の活動を認識した。

まだ互いにピースは足りず、全容は掴んでいないが、両陣営が協議の場を設ける必要があると考えるには、十分だった。



*****



 天界でモリエルとアキエルによるリモート会議が開かれる。



「それでは、21世紀の世界で広まっているクロス教と、ガルテアのクロス教は同一と考えられる訳だね」


「そうね、創始者や魔法の内容が違うけど、教義の内容や布教方法・シンボルは共通してる」


「異世界同士で同一の宗教が発生するとは考えにくいが……」


「かと言って、今地上で広まっているクロス教がそのまま3万年続くとは思えないし」


「そうだね。 君から貰った資料に拠れば、そもそも21世紀のクロス教は約2000年前に創始された事になっている」


「そうなのよ、だから地上のクロス教とは無関係なはずなんだけど……って、そうか威力偵察説が出ているんだったわね」


「そうだ。 今ガルテアから来ている者たちが威力偵察を行い、3万年弱過ぎてから本番が始まったのかもしれない」


「でも変よねぇ。 ム・ロウ様が見た21世紀にクトゥルーの陰は見えなかったようなんだけど」


「宗教だけ先に広めているのかもしれないよ」


「そっか、先に人心だけ掴んでおけば、征服も『平穏』に出来るか」


「何も盛大に武力を振るうだけが侵略じゃない。 心を掴んで現地の人々から歓迎されながら、支配を進める方法もあるのだろう」


「となると、『本隊』が21世紀から見て2000年前に現れた……いや、もう少し前ね、『前クロス教』とも言える民族宗教が先にあって、そこから発達したという話だし」


「まあ、数回に分けて『預言者』を送って来ているのだろう。 別の預言者から広まった『改クロス教』とも呼べる新バージョンも広まっているという説明もあるしね。 もしかしたら、今この地よりも21世紀のほうが危ないのかも知れない」


「とにかく、今地上で広まっているクロス教をどうにかするしか無いわね。 企みが失敗に終われば、このレムリアから手を引くかも知れないし」


「そうだね。 未来は一つじゃない。 み使いの住む21世紀は、『クロス教対策が失敗した未来』なのかも知れない」



 この会議を受けて事態の深刻さを認識した両陣営は、再び一時停戦について検討を始める。

用語集


・毎朝天界から届く例のブツ

話題になったものだと、缶コーヒー・カップ焼きそば・鮭の切り身・蚊取り線香といった品々が届いておりますな。

そしてこれまでで唯一の「当たり」が1/350の秋月型駆逐艦「冬月」。



・少々未来の製品が届いた

これ、大英が無事依頼を成し遂げて21世紀の日本に帰ると、「未来に発売されるキット」を既に手にしている事になる。

ネットで写真とかアップしたら一騒動かもしれない。



・陸自と言ったら戦車しかなかった

61式と74式だけ。

後は(有名どころでは)「隠れ陸自モノ」としてM41、M42、M4A3E8などですね。

基本米軍車両だけど、デカールに陸自のものが付属している。

乗員が米兵だから陸自塗装すると「なんちゃって陸自戦車」になりますが。

まぁM42は対空戦車だから微妙に戦車じゃないけど。



・c2022

cは正しくは○の中にc。機種依存文字なので、使用を避けた次第。



・スーパーディティール社

日本の模型メーカー。 主に日本軍と自衛隊の車両や航空機、艦船などを扱っている。

その名に違わぬ高品質なキットを販売しているが、少々お値段は高め。

たまにアニメ作品を扱う事もあり、赤い飛行艇は有名だ。

公式マスコットの五式猫も人気である。



・運転手

40年ほど前の情報なので今も同じかどうかは知らないが、陸自では運転手の事を「ドライバー」とは呼ばない。

当時の現役自衛官が言うには、ドライバー呼ばわりは蔑称になるとの事。

では、どう呼んでいたのか。 残念ながらそれは知らない。

(ファインモールドから出ている1/3573式小型トラック(無反動砲装備)の組み立て説明書を見ると「操縦手」かもしれません)



・似た物を扱う兵

M30という107mm迫撃砲があり、それを使う兵員がいる。

もちろん、M21の81mm迫撃砲もあるので、迫撃砲の使い方が判らないという事は無かろうが、射程は違うから、感覚では思った所には飛ばないだろう。

マニュアルが付属していれば迫撃砲兵なら理解できるかもしれないが、牽引車にマニュアルが格納されているかどうかは判らない。



・改クロス教

略して「かいき……ゲフンゲフン」。 何もなかった。 何の発言も無かった。 良いね。

良い子のみんな、触れてはいけないよ。

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