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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第43話 おっさんズと新興宗教 その2

 その日、飛行場では王都から帰郷した領主を迎え式典が開かれた。

第2滑走路が正式オープンとなった式典だ。


先日一時的に工事中途状態で使用体制に入った第2滑走路だが、その後工事を進めて予定の長さを達成したのである。

実際には夜間運用用に松明を立てる設備など、いくつか工事未了の部分はあるものの、とりあえず舗装滑走路が出来たので、デリケートな近代的ジェット機を運用する際の問題もクリアされたと言えよう。


 滑走路の設営は終わったが、工事部隊の仕事は終わらない。

次はザバック辺境伯領の海岸に、水上機の運用施設を建設する作業に入る。


 施設では海岸にスロープを設ける。

実は大英の手元には「英国海軍水上機基地」というキットがあり、それを参考に施設の設計が行われていたのである。

いや、このキット自体を召喚すれば工事は一瞬で終わるのだが、生憎そのキットは1/700のため、現状まだ召喚出来ない。

とはいえ、召喚できなくても役に立つという事もあるのであった。


なお、この施設は後で王都にも設営される。

そういう意味でも、実際に建設工事を行う必要があったのだ。(基地のキットは一つしかない)

許可が得られたので、候補地の選定と現地に合わせた設計の参考にすべく、王都からの工事技術者が来ていてザバックでの建設に参加する。


 王都にも完成すれば、水上機を利用した航空路が引かれ、緊急連絡や急ぎの行き来も可能となる。

また、王都に作る基地にはヘリポートも設置し、燃料補給を可能にする事を想定している。

UH-1クラスだと航続距離的に往復出来ないため、補給出来るようになればヘリも使えるので、このような計画をしている訳だ。



 式典の後、大英達は航空機の召喚を行った。

せっかく飛行場に来たのである。 機会は無駄なく利用するのが大英のモットーだ。

召喚は領主も見守る中で行われ、これまでとは少々毛色の違う機体が召喚された。



「これはまた派手な飛行機ですね」



 領主の感想であるが、他の者も同じ感想を持つ。

ほとんどの飛行機が実戦用で灰色・茶色・緑色・銀色といったものなので、違う色使いの機体は目立つ。

派手と言えば93式中間練習機も全体がオレンジ色で派手であったが、今回出現した機体は3色トリコロールの「YF-16」であった。

一応戦闘機だが、試作機のため派手な塗装となっている。



「飛行機もここまで来たか」



 YF-16を見る秋津も感慨深い表情だ。

大英はYf-16を見ながらこの機体を選んだ理由を述べる。



「レーザー誘導爆弾が使えるから、対空戦車の射程外から爆弾を直撃させられる」



 YF-16は翼下に大型で先端に細長い部分を持つ爆弾2発と誘導用のポッドを搭載している。

先日ゲパルト相手に苦戦した戦いの経験を考えてのチョイスだ。



 その日の午後、城に戻った領主はヌヌー伯の留学についてアルル執政官と準備を進める。

既に領主本人・サファヴィー王女・ビリーユ伯爵子息の3名の教育係も兼任する執政官であったが、これに元宰相子息のヌヌー伯が加わる事になる。



「この老体の仕事がまた一つ増える訳ですな」


「アルル殿の負担が減るよう、私も(まつりごと)により深く関わるようにします。 これも王太子としての勉強になると思いますから」


「それは頼もしい限りでございます」



 現在王国宰相はビリーユ伯爵が担っているが、ヌヌー伯が成長した暁にはその責を引き継ぐ事になる。

ただし、その責に任ずるに相応しいと判断されればの話。 代々宰相を務めた家柄というだけでは、宰相にはなれない。

それ故教育係は重責であったりする。


そしてヌヌー伯がわざわざスブリサにて学ぶのは、女王のアルルへの信頼だけではない。

将来はセレウコスがスブリサ辺境伯を辞して王位に就き、その補佐としてヌヌー伯が宰相を務める体制となる。

今の内から二人が一緒に学ぶのは、効果的だと判断されたのだ。



 それから数日後、若きヌヌー伯ララムリ=オルメカがスブリサに到着する。


 城では歓迎の宴が開かれるが、大英達には関わりのない事であった。

そんな大英達の元を訪れる客があった。

執事のゴットルプ=バメスは大英の家に行き、丁度用を足して外に出てきた秋津に声をかける。



「え、お客?」


「はい、私の館にてお待ちいただいております」


「誰だろう」


「ズガペンシュ様でございます」


「ずが…誰だ?」


「大英様と王都で会われた事があるそうです」


「そうか、まず呼んで来よう」



 秋津に呼ばれ、大英も出てくる。



「んー誰だったかな」


「王都で会ったんだろ。 わざわざご指名だぞ」


「うーん」



 大英定刻(おおひでさだとき)。 人の名前を覚えない男であった。



 しばらくして大英達はバメス家の館に到着し、ズガペンシュと面会する。

ゴットルプに連れられ大英と秋津が応接室に入ると、待っていたズガペンシュは立ち上がって挨拶する。



「お久しぶりでございます。 大英様」


「あぁ、貴方でしたか。 で、どの様なご用件で?」


「まずは皆さま、お掛けください」


「ああ、そうですね」



 ゴットルプに促され、皆椅子に座る。 またゴットルプは秋津の事をズガペンシュに紹介した。



「初めまして」


「こちらこそよろしく」



 そしてズガペンシュは用件を語りだす。



「大英様は神獣の使い手でございましたね」


「ええ」



 大英がみ使いとして活動している事を知る者は少ない。

だが、ズガペンシュは大英を、王都にデザートシボレーを運び込んだ者として、つまり神獣の使い手として知っていたのだ。



「神獣を使われる大英様は、我らの知らない事についても知識を持っておられるのではないかと思います」


「それは何とも言いかねますが……」


「少々不思議な事がございまして、大英様ご本人、またはその人脈に頼りたい事がございましてまかり越した次第です」


「と言いますと?」



 ズガペンシュは、最近ヌヌー伯領の村々で「宗教」とか「悪魔」と言った言葉を聞いた件について話した。

大英は別に宗教家ではないし、オカルト関係にも深くはない。

それでも、この地では聞いたことが無く、そもそもこの地の人であるズガペンシュが「何だか判らない言葉」として話している事から、天界が一枚かんでいる話ではないかと考えた。

ついでに言えば、これらは同席しているゴットルプも聞いたことが無い言葉であった。



「うーん、そうですねえ。 宗教と言うのは、神への信仰とか、その関係ひっくるめたものを宗教という感じかなぁ」


「つまり、信仰に基づく日々の行いですか」


「うーん、そうなると、そうか。 とりあえずそれを『宗教活動』みたいに言う感じ?」


「となると、何故そんな言葉があるのでしょうか」


「そういう言い方をすると、この地では『宗教は一つしかない』と言えば判りますか?」


「はぁ、え? それでは、どこか別の地では『宗教』が2つも3つもあるという考え方ですか?」


「そう、そうです。 信ずる神、守るべき戒律、行うべき修行や、祈りの方法その全てが違うものが『別の宗教』です」


「もしかして、大英様はその宗教がいくつもある『別の地』からいらしたのですか?」


「そうですね、そう思ってもらってよいでしょう」


「そうですか、信ずる神が違っても、祈りの作法まで違うとは、理解しずらいお話ですね」


「この場合、神と言っても、互いに無関係ですから」


「なんと、親子とか兄弟では無いのですか」


「まぁ、そうですね」



 神が実在し、その実在している神々を信じるズガペンシュ達には、中々理解しがたい概念であった。



「なるほど、では『悪魔』とは?」


「こちらは沢山意味があるような気がしますが、私が知る解釈で良ければお話できます」


「お願いします」


「悪魔とは、そもそも『別の宗教の神』です。 要は異教の神を呼ぶ言葉です」


「それは、邪神とは違うのですか」


「似ていますが、邪神はあくまで神の一種ですよね。 神として認めないから悪魔という別の呼び方をしているのです」


「そうですか。 話が見えてきました。 村々の人々は『違う宗教』を信じたため、ム・ロウ神を悪魔と呼んでいた訳ですね」


「そうなりますね」



 そこで秋津が疑問を呈する。



「神が実在しているのに、なぜ他の神を信じる気になったんだ?」


「私も実際に目にした訳ではないのですが、その『宗教』を語る者は、何もない所からワインや食べ物を出したと言うのです」


「何もない所から?」


「ええ」



 それを聞いて大英は「何だその聖書みたいな話は」と反応する。



「聖書?」


「あぁ、聖書とはある宗教の経典で、そこに書かれた話の中に、そんな様な話があった気が……」


「クロス教か? 聖書読んだ事あんのか?」



 秋津が大英に問うと「有るが無い」という謎の答えが返った。



「何だそりゃ」


「いや、読んだことはあるが、全部じゃない。 パンとワインの話は読んだ記憶が無い。 別の何かの解説で見た」


「あぁ、そう言う事か」


「家を探せばどっかにあるぞ」


「何だそりゃ。 誰かクロス教徒だったのか?」


「家は全員仏教だぞ、誰もクロス教じゃない。 聖書は幼稚園の卒園記念品でもらったもんだ」


「そうか」



 だが、ズガペンシュは頭を傾げる。



「クロスとは、その仕草か何かでしょうか」


「どうなんだろ。 翻訳は合ってるのかな。 十字架の事だけど」


「翻訳? あ、いえ、そう言えば村人が十字のアクセサリーを持っていました。 また、挨拶でしょうか、こう胸の前で十字に手を動かしていました」



 それは正にクロス教徒が行う「十字を切る」動作であった。



「なんだと?」



 大英と秋津は顔を見合わせる。

クロス教は紀元後に出現した「新興宗教」であり、3万年前の世界には存在するはずが無い。

クロス教どころか、そのベースになった民族宗教すら存在していない。

というか、この地でその民族を見た事も無い。


レリアル神が自分たちを否定する宗教を「創設」するとも思えず、この事は全く訳が分からない事であった。


一体何か起こっているのか。

大英も秋津も予想外の話に困惑するのであった。


そんな中、勇者たちの活動はクタイ伯領にも広がっていく。

用語集


・神と言っても、互いに無関係

説明の都合上こうしているけど、大英の住む21世紀では世界的な2つの宗教の神は同一だったりするし、しかもその神はある民族宗教の神とも同一だったりする。

だが、そんな話をすれば、ますます訳が分からなくなるだろう。



・クロス教

21世紀にて世界的に広まっている「三大世界宗教」の一つ。


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