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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第43話 おっさんズと新興宗教 その1

 のどかな農村。 その教会で、司教が項垂(うなだ)れている。

彼の目の前では、大魔女ルテティアが村人が持つ盃に、何もない空間からワインを注いでいた。



「こ、こんな馬鹿な……」


「何を言われます。 これこそ、真の神の奇蹟。 私が為せるのはその僅かな欠片に過ぎませんが、司教殿、貴方には出来ますか?」


「そ、そのような事が為せる魔法など知りません」


「それは貴方の信じる『神』と名乗っている者が、真の神では無いからでしょう」


「な、何を言い出される!」


「良いですか、貴方が『神』と呼んでいる者は、正しくは『悪魔』と言う存在です」


「あくま……ですと?」


「そうです。 神を語り、人々を惑わすモノ。 あるいは人々を悪しき道や、堕落した道へと誘うモノ」


「何という事を! ム・ロウ神はその様な存在ではありません!」


「愚かな、神は唯一無二の存在です。 名前がある時点で、その者は『神』ではない事が判らないのですか?」



 神官は興奮して叫ぶ。



「何を言われる。 神々は我らを救う奇蹟を成される。 神が一柱に限定されるなどと言う不遜な考えなど許されない!」


「声を荒げれば主張が通るとでも思っているのですか? 愚かな。 真理は一つ。 貴方がどんなに怒ろうとも、変わる事はありません」



 そして、ルテティアは別の村人が差し出した籠に、今度はパンを空中より取り出して入れた。



「こ、これは、食べ物なのですか?」


「はい、そうです。 この地の方々は見た事が無いようですね。 少々固いかもしれませんが、おいしいですよ」



 恐る恐る村人はパンを口にする。



「おお、これは、何とも不思議な味だが、これはいい、食べやすい」



 慌てて食べたせいか、のどを詰まらせそうになる村人。



「慌てず、よく噛んでワインを飲みながら食べなさい」


「は、はい」



 民衆はルテティアの語る事こそ本当の事と受け取り、司教の言葉はもはや届かない。

こうして、また一つの村がクロス教に改宗した。



 村人が用意した宿に入ると、勇者ロンデニウムと斥候ウィンドボナが声をかける。



「ティアお疲れ」


「大丈夫? 無詠唱呪文はかなり疲れるはずだけど」


「大丈夫よ、こっちに来てから結構楽になってるから、これくらい楽勝よ」



 アンティグアは感慨深げだ。



「何処でも『この手』が使えるのは便利だね」


「そうねぇ、ここの魔法を調べた時パンとワインの魔法が無いのは驚いたけど、おかげで楽だわ」


「だよなぁ、何処でも酒と食いもんは人心を掴むには一番だ」



 勇者ロンデニウムもそう語ると、うんうんと自ら頷いた。

そして、勇者たちは次々と村々を改宗していくのであった。



 そんな村の一つにズガペンシュがやって来た。



「すると、何もない所からパン……ですか、食べ物とワインが出てきたと?」


「へぇ、あのお方こそ真なる神の遣い。 うちらは今まで悪魔に騙されていたんだと聞きやした」


「あくま?」


「悪しき魔道の使い手だとか。 よく判んねぇだども、ム・ロウさんやレリアルさんが悪魔だと」


「な、なんという不遜な、それに神を『さん』付けなど、一体何を考えておられますか」


「なんでも、正しい宗教では名前のある神などいないそうで、うちらもその宗教を信じる事にしたんで、もう悪魔に敬称とか付けんのですわ」


「正しい宗教……」


「それじゃ、これで。 あ、貴方様が持ってきた珍味ですかい? うちら貧乏百姓には手が出ませんわ。 余所を当たったほうが良いでっせ」



 そう語ると、村人は去って行った。



「悪魔とは何だ。 邪神とは違うのか? それに宗教とは何なのだ……」



 ズガペンシュは「悪魔」とか「宗教」という聞き慣れない言葉に、困惑の色を隠せないのであった。



*****



 基地に戻ったキリエルは、マリエル達と反省会を開いていた。



「え、それじゃハーピーは出さなかったの?」


「ええ、雨を嫌うとは、ちょっと想定外でしたわ」


「そっかぁ、そこまでは調べがつかなかったわ。 やっぱり飛ぶ奴は濡れるの嫌うかぁ」



 侵攻作戦に連れていく予定だったが、外に出したところ嫌がって暴れ出したり、ミシエルに向かって怪しい歌を歌ったりしたので、出撃は中止にしたとのこと。

なお、怪しい歌には聞く者の精神を病ませる効果があるのだが、天使には効かない。



「それより、キリエルが戦ったという軍船だよ。 地上の船とは思えない」


「そうなのよ、帆もオールも無いし、水棲動物に引かせている様子も無かったわ」


「おそらく、リアライズシステムで召喚したものでしょうね」


「だよねぇ」


「船はマズイなぁ、天界に船は無いからどんな物が出てくるか判んないな。 マリエル、パシフィア様の本には何か載ってるかい?」


「流石に見た事はありませんわ。 古代の記録を当たってみるしかありませんわね」


「あの軍船もセンシャのような攻撃をして来るし、空へも撃ってくるから、飛行魔獣も敵わなかった。 もちろん、魔力は感じなかったわ」


「同じ技術で作られているんだろうね。 対抗するには、センシャに対するのと同じ方法が必要かな」


「えー、それじゃどうにもならないんじゃ」


「そうでもないよ。 船ならオークやオーガの腕力よりも強い力を使える。 地上より重い物を運用出来るから、あの矢弾を防ぐ盾を作れるんじゃないかと」


「そっか、それならなんとかなるかも」



 残念ながらミシエルは船の特性を知らない。

無暗に重くすれば、浮かばないとか、復元性が足りずすぐ転覆するといった問題が起きる。

前途多難ですね。



*****



 その日スブリサ辺境伯は王都を訪問していた。



「お久しぶりです、若」


「ああ、フランク。 宰相職にはもう慣れましたか」


「はい。 まだまだですが、なんとか出来ております」


「それで、実は大英殿から手紙を預かって来ました。 是非検討して欲しいとの事です」


「畏まりました」



 その手紙の内容は、王都に水上機の整備施設建設を許可して欲しいというものであった。

この件は辺境伯の謁見前に直ぐに女王に奏上された。

そして謁見と時間となった。



「スブリサ卿、面を上げなさい。 本日は良く来ました。 王太子としての学習は進んでいますか」


「はい、陛下。 日々研鑽に励んでおります」


「では、本題に入る前に。 卿が帰郷しましたら、大英殿よりの提案、承知したとお伝えなさい」


「ははっ、ありがたき幸せ」



 その後ヌヌー伯留学の受け入れなどに関して話し合われた。



「では、セレウコス(・・・・・)、晩さん会で会いましょう」


「はい、母上(・・)



 最後は親子のあいさつで謁見は終了した。



*****



 その日大英はL-4という潜水艦キットの制作をしていた。



「おっ、珍しいな潜水艦か、何処のだ?」



 海軍にはあまり詳しくない秋津は潜水艦であることは判っても、何処の何であるかまでは判らない。

もちろん、一般人よりは詳しいのだが、それでも得手不得手で言えば、不得手である。



「ああ、ソ連のだよ」



 大英はそう言うと、キットの箱を秋津に渡す。



「ほう、1/400か」


「小型だからね。 排水量で言えば初月の半分だから、そのうち召喚出来るようになる。 まぁ潜水艦が必要になる事態はしばらく無いと思うけど、経験値稼ぎには良いかなと」


「そうだな。 丁度いいサイズだな」



 そう言いつつ、ふと作業台を見ると、何かとんでもない「小さい」潜水艦が目に留まった。



「あれ、それも潜水艦か?」


「そうだよ。 潜水艇な気がするけどね」


「Uボートにしちゃあ色が変だな」



 それは、ざっくり言えば1/700のUボートと同じようなサイズなのだが、艦底部分は緑色だった。



「それもソ連のだって」


「そうか、こっちは1/700か」


「いや1/400」


「なぬ? そうなのか」


「そう。 だから言ったじゃん。 潜水艇な気がするって」



 そう言うと大英は横に積まれた箱から一つ取り出す。



「コレだ」


「M-200……おお、ホントに1/400だな」


「1/400はまだ他にもあるから、こいつらが召喚できるようになったら、次に進むのはスムーズに行けるかも」


「いよいよ海軍も本格始動だな」


「向こうも海軍を作って来ていたからね。 呑気してられない」



 こうして、次なる戦いに備える大英だったが、皮肉なことに次の脅威は海上ではないのであった。

用語集


・「宗教」という聞き慣れない言葉

この地では古来よりレリアル神やム・ロウ神を信仰している。

それ以外の信仰対象や神話体系は存在しないため、「宗教」という概念自体が無い。

(そもそも神話とは太古の伝説や伝承ではなく、現実の神々についての現在進行形の話だし)


唯一無二の宗教が信仰されているため、「他の宗教」は無い。 だから「宗教」という用語は存在しないのである。

代わりに使われているのは「信仰」ですかね。 信仰対象なら複数存在するので。


余談だが、王国はこの間まで唯一無二の国家であったが、「ム・サン王国」という名前がある。

こちらはム・ロウ神を讃える意味合いで名前が付いているもの。

日本で言えば神州とか日ノ本とか中つ国(葦原中国)のような感じ。

なので、厳密には「ム・サン王国」ではなく、ただの「ム・サン」。



・怪しい歌

リアルな伝説やゲーム等の創作物に登場するハーピー(ハルピュイア)ではあまり聞かない能力です。

元ネタは、某テーブルトークでのマスターオリジナル設定でハーピーが精神攻撃として歌った歌。

マスターによるロールプレイでは「巨人が暴れて滅んだ後、復興途上の世界を描いた作品」の主題歌で、音程が一定という謎音波があり、それを歌っていた。

なお、あまりの謎音源ぶりに、監督が映画での使用を拒否したという、いわく付きだそうです。

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