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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第42話 おっさんズと海の戦い その6

 港へと撤退する船上でキリエルは荒れている。



「何なの何なのアレは何なの!」



 アレとは駆逐艦初月の事である。

彼女が率いていた軍船よりも大型の軍船で、数倍の速度で航行する。

弓や魔法の届かぬ遠方より砲撃を行える大砲を持ち、空飛ぶ魔物を次々と落とす機関砲を幾つも搭載している。


 全く手が出ない。

10倍の船を持ちながら、その動きにはついて行けず、一方的に殲滅される。

魔物を飛ばせばたちまち落とされ、海中から襲撃を目論んだ半魚人も、生身の泳ぎでは全く戦いにならない。



 だが、キリエルは知らない。

それは初月の全力では無いし、今後大英が整備するであろう艦艇を考えれば、駆逐艦は弱い方から数えた方が早い艦種だという事を。


 一方、ミシエル達も少なからず驚きを持って戦況を見ていた。

3ヶ所に対し、これまでの襲撃より各々倍以上の兵力を動員したにも関わらず、2つの村も都も全てこれを容易に退けられてしまったのだ。


元々囮だったから壊滅するのは想定内とはいえ、予定の半分以下の時間で殲滅されてしまったのだ。

特にマカン村は以前の戦いで大きな被害を与え、防衛戦力が半壊状態だったはずが、あっさり8両もの戦車が現れて一方的に敗れ去った。

飛行機が飛んでこないのは想定した通りだったが、戦車だけでも手に余る話となっていた。



「まさか、あのような大軍をこんな短期間に整備するなんて、思いませんでしたわ」


「3か所とも戦車が沢山いたよね。 どういう事だろう」


「おかしいですわ。 大英様が『模型』を制作する様子を見させていただいた事がありますが、非常に時間がかかっていました。 あのようなセンシャの大群が短期間に揃うとは思えないのです」



 マリエルが見たのは1/76の火砲と牽引車の制作。 1/350の戦車とは工数が全く違う。

だが、スケールモデルに関する知識のないマリエルは、この状況を理解できないし、そもそも大英の「在庫内容」を知らないのである。



「でも、現実に出てきてんだから、なんか方法があるんじゃないか」


「そうですわね。 後でモリエルさんに相談してみますわ」


「ところで、キリエルは上手くやってるのかな」


「そうですわね。 もしかしたらザバック辺境伯領にもセンシャが多数派遣されていて、苦戦しているかもしれません」


「それはマズイね。 港にセンシャが並んで海に向かって撃ってきたら、船は近づけないよ」


「ペリュトンと半魚人が居るので、船が近づけなくても戦いは出来ると思いますが、難しい戦いになりそうですわね」



 実際はそんなレベルでは無かった事は、船がレリアル陣営勢力圏に入って通信が回復した後に知る事になる。



*****



 村と都を同時強襲した敵軍は撃退した。

ほっとしている所に、飛行場から緊急通信が入る。



「なんだって、海から敵が!?」



 初月がレリアル軍の艦隊と遭遇し、交戦状態に入ったという話だ。

都のテント内に設置した通信機では出力が足りず直接会話は出来ないため、飛行場のM577経由での伝言となる。


 一応初月艦長には自分の判断で交戦できる許可を与えているので、そっちの問題は無いのだが、まさか海軍が出来ているとは想定外というのが大英達の感想だ。

現状どうなっているのかが判らず大英は困り顔だ。



「リアルタイムで話が出来ないのは問題かなぁ。 でも戦術指揮を任せてるのは陸も空も同じだからな」


「せめて報告だけでも直通できるのが良いんじゃないか」


「だよなぁ」


「なんか無いのか? 無線出来る奴」



 秋津の問いに首をひねる大英。



「82式が使えるようになるまで無理かなぁ。 まぁアンテナだけ立てればマルダーとかでも受信は出来るかも知んないけど、そんな工作出来る奴が居ない」


「そうだなぁ、『なれる』なら主人公がなぜか工事出来るスキルとか持ってるんだろうけど」


「工事と言えば、秋やん出来るんじゃ」


「誰が設計するんだ? 電気工事士と言っても、無いパーツは生み出せないぞ。 そもそも通信設備をどうこうする資格じゃ無いし」


「そうか。 適当に電線繋いでもダメか」


「無理じゃないか? 日本海軍とドイツ連邦軍で通信しようってのが、そもそも簡単じゃない気がするが」



 実は電線とアンテナを用意するのも問題が無くはない。

一応銅線の研究を依頼しているから、そのうち出来上がってくるかもしれない。 あくまでそのうち。

アンテナはもう、城の壁面に電線くっつけるみたいな話になるだろう。

鉄塔なんて建てられないからね。



「うーん、周波数が合えばアナログ通信なんだから何とかなりそうな気もするけど。 昔トランシーバーにTVのアンテナ繋いだら、それまで入ってこなかったいろんな無線が入ってきて『すげー』ってなった事がある」


「そうか、アンテナだけでなぁ。 でも出力が足りないと聞くだけで発信出来ないだろ」


「それなんだよ。 そこの問題が無ければ、テントで話せる訳なんだが」


「ところで、82式でも同じだがよ、何処に置くんだ?」


「あ……」



 通信機を持つテントは城の城壁の上に置かれている。

城の一番高いところを別にすれば、都では最も高い場所だ。

だが、そこに装甲車を持ち込むのは無理。



「これは、城にも装甲車用のスロープとか作って城壁より高くなる『配置場所』を作ってもらうしかないか」


「そうだよなぁ、執政官に相談するか」



 意外な問題点が見つかった。

港どころか、外洋に出ている艦船と通信しようと言うのがそもそも問題か。

長波で通信すれば行けそうだが、そんな通信機の用意はない。

部品取りに駆逐艦を建造とかいう贅沢が出来れば行けるかもしれないが……その場合発電機も用意しないといかんだろう。


 そうしているうち、再び連絡が届いた。

敵艦10隻を撃沈し、天使の乗る旗艦を撤退させたという話。

大英達は、まさか負けるとは思っていなかったが、無事勝利の報せに安堵する。



「それにしても、海にも敵が現れるようになるとはな」


「駆逐艦が無かったら、ザバック辺境伯領の都で市街戦だったな」


「11隻とかいう話だから、かなりの大軍じゃん。 あそこの戦車隊じゃ支え切れたかどうか」


「あぶねーなぁ」


「後方という考えは止めて、もう少し強化しとくか」



 戦力配置と召喚計画を考え直す大英であった。



*****



 ヌヌー伯領にあるタドラルト商会の商館で話をする商人がいる。

ヌヌー伯領を拠点とする旅商人ノヴゴロド=ズガペンシュと、商館の主マガダ=タドラルトだ。



「これはこれは、ズガペンシュ様ではありませんか。 今日はどの様なご用向きで?」


「ええ、そちらで腕利きの傭兵を雇われたと聞きまして。 専任の傭兵を持たれるという事は、新たな市場の開拓をされるのかと」


「ああ、流石はズガペンシュ様、お耳が早い。 ここヌヌー伯領は安全ですが、内陸部では治安のよくない所もあると聞きますし、大公国から来たというだけで、危険な事態が起きる懸念もございます」


「そうですね。 全く持って仰せの通りです」


「ヌヌーのご領主ララムリ様は若いのに実に有能でいらっしゃると、感心しております」


「そうですね。 ララムリ様と言えば、まもなくスブリサに留学されると聞いております」


「おお、そのお話は私も耳にしております。 スブリサにも販路が広げられれば良いのですが……」


「スブリサでは今も戦いが続いておりますからね。 行商を派遣するくらいなら出来ると思いますが、商館を建てるのは難しいかも知れません」


「そうですね。 まずは隣のクタイ伯領に拠点を作りたいと思います。 一時にあまり手を広げる訳にも行きませんからな。 ご協力いただけますかな」


「勿論でございます。 そのために今日来たのですから」


「はっはっは、旅商人として名の通られているズガペンシュ様のお力添えを頂けるとなれば、成功は約束されたようなものですな」


「いえいえ、そのような力はありませんよ。 ところで、護衛の方々がどの様な方か一度会ってみたいのですが」


「そうですなぁ、正確な所在は私にも判りませんが、宿は知っているので後でお教えしましょう。 今は隊商を出していないので、街の中でいろいろ学んでいると聞いております」


「学んでいる?」


「ええ、幼き頃より武術の修行に明け暮れていたため、商業や信仰についての知識が不足しているので、これを機に学びたいという事です」


「なるほど、それは良い心がけですね」


「はい、良き若者たちと出会えたと思っております」


「それでは、クタイ伯領の拠点構築について具体的なお話をしたいと思います」


「では担当の者を呼びましょう」



 ズガペンシュの本業は諜報員である。 大公の息のかかった者や、関係すると疑われる者は監視対象なのであった。


 翌日、ズガペンシュがその「傭兵」と会うべく宿へ行くと、最近は近隣の村に出かけている事が多いという。

そもそも、村々で妙な動きが見られたことが、彼が動き出す発端であった。


その妙な動きとは、今まで聞いた事の無い「名も無き神」への信仰が村々で広まっているという話であった。

用語集


・1/350の戦車とは工数が全く違う。

1/350の戦車の場合、大抵は車体・右履帯・左履帯・砲塔(または砲身)という4つのパーツで1両が出来る。

そりゃ短時間で量産されるわ。



・そっちの問題は無い

世間一般の軍でも基本的には同じ。 ただし自衛隊では「大問題」だったりする。

「civilian control」と「文民統制」の違いという奴だ。


日本の文民統制は厳密に解釈するとかなり非現実的な話になる。

何しろ自衛官が自分の判断で行動すると「シビリアンコントロール違反」となると防衛大臣が発言したことがあるくらいだから。

自衛官はトイレに行くのにも昼食のメニューを選ぶのにも大臣の裁可が必要だろう。 自衛隊では毎日数えきれない「シビリアンコントロール違反」が発生している事になる。

一方、諸外国の軍隊は「civilian control」を受けているため、このような事にはならない。


なお、人民解放軍は「党の軍隊」なので、政府によるコントロールは受けない。

まぁ、政府のトップは党のトップが就任しているので、事実上はコントロールされている事になっている。 多分ね。

(戦前の日本でも、天皇陛下が自ら総理大臣に就けば、同じ事になるから統帥権を盾にできなくなる。 まぁそれだと天皇親政となって立憲君主制ではありえない事ですが)



・城の一番高いところ

尖塔が無いので、一番高い所は普通にメインの建物の一番上。



・城にも装甲車用のスロープ

飛行場やマカン村のは2階位の高さ。

城の城壁に負けない高さで作るとなると、もっと高くする必要がある。

石造りで基礎を固めないと、いけませんねぇ。



・長波で通信

中緯度なら結構届くらしい。

だが現地は低緯度なのでどうなんだろうねぇ。

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