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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第42話 おっさんズと海の戦い その3

 あとを付けていた者を探しに行ったウィンドボナであったが、その日は相手を見つけられなかった。

いや、その日だけではない。

その後、連日監視者の視線を感じるのに、相手の姿を捕らえられないという状況が続いているのであった。



 その日も勇者たちは騒々しい酒場で食事をしながら情報を整理していた。

ウィンドボナが愚痴をこぼす。



「どうもおかしい。 付けられてるのは確かなはずだけど、相手の正体が全く掴めない」


「妙な話だよな。 俺には判んねぇけどボナが気づくって事は、確かに誰かが見てるんだろうけど、ボナが探しても尻尾もつかめないってのはなぁ」



 ロンデニウムも不思議そうだ。

テノチティトランも同意を示す。



「相手もスカウトとして、尾行がバレる程度の腕なら、ボナを巻ける訳無いし、ボナを巻ける技能があるなら、気づかれないように付けられるだろうしな」



 そこでルテティアは別の見解を示す。



「まぁ相手がボナより格上ってのは考えにくいけど、もしそうなら、わざと気配を出してるのかも。 こっちに『圧力』をかけるために動いているとか」


「おいおい、ティア、圧力ってどんなだよ」


「『見てるぞ』って事でしょ」


「うーん、やりにくいなぁ。 どこのどいつだよ」



 ロンデニウムも困惑する。



「可能性としてありそうなのは、王国か別の商会でしょうね」


「大公国の関係者だから監視か、ライバルか」



 ルテティアとテノチティトランは2つの可能性を思案する。



「その辺はボナ姉さんに頑張ってもらうとして、布教に付いてそろそろ始めても良いんじゃないかな」



 アンティグアは話題を切り替える。 それを聞き、ロンデニウムも賛意を示す。



「そうだな、この辺りの教会の『教え』と庶民の状況は大体把握できたし」


「そうね。 布教の第一歩は『理想と現実の乖離を突く』ですものね。 手始めに隣村から始めましょう。 最初に貧しい人たちを味方に付けるのが定石ですものね」



 ルテティアは布教へと動く事を決める。


 彼らは「監視者」は宗教には関心が無いものと思い、問題解決を待たずに次の行動へと移ろうとする。

まぁ、大公との話やこれまでの調査から、この地の人々には「異教」という概念が無い事は把握している。

なので、王国による政治的理由か、ライバル商人による商業的理由で雇われた「ニンジャ」が監視していると想定したのだ。



 こうして、彼らは着々と計画を進める。



*****



 艦船召喚のため、1/350の車両や航空機の大量召喚を始めてから約1ヶ月が経過した。

そして、遂にその日がやって来た。

大英達は1/200の結構な大きさの模型と共にザバックの都に立つ。


 今日は記念すべき日として、召喚の場にザバック辺境伯も臨席している。



「これは緊張するな」


「なーに、召喚自体は失敗しないと思うから大丈夫だろ」



 緊張に強くない秋津と当事者ながら安穏としている大英。

そして、リディアとパルティア、ハイシャルタットも特に心配している様子は見られない。



「で、先にお願いしとくけど、召喚が終わったら、その辺を一回りさせておいて欲しい」


「ああ、任せろ。 直ぐにクルーズを楽しめるようにしとく」



 そして、ザバック第1騎士団団長のバンホーデルもゴートに話しかける。



「いつぞや話されていた巨大軍船が見られるのですな」


「うむ、楽しみである」



 こうしてその時は来た。

海岸に灰色と赤、2色で構成された細長い模型が置かれた。


 リディアが告げる。「リアライズ・セットアップ」

 大英が告げる。「我求む『秋月型駆逐艦 初月』」

 パルティアとハイシャルタットが声を合わせる。「コール・エクゼ コントラクト・スタート」


白き煙と光が模型を包み、やがて少し離れた湾内に本来のサイズで実体化したフネが現れる。


 そしてパルティアが告げる。「コントラクト・コンプリート」

 締めにリディアが告げる。「リアライズ・シャットダウン」



「これは、やっぱり来るな……ひと眠りするから、後は宜しく」



 大英、パルティア、ハイシャルタットは直ぐに兵達に連れられ、城に行き休む。

その様子を見て、ザバック辺境伯は心配そうにゴートに尋ねる。



「なんと、み使い殿や魔法使い達は大丈夫なのですかな」


「ははっ、これはお見苦しい所を。 ご心配には及びませぬ。 暫し休めば回復致します」


「そうですか、それは良かった」



 初月からはカッターが降ろされ、艦長が桟橋までやって来る。



「閣下、駆逐艦初月艦長であります」


「おう、ご苦労さん。 早速だけど、近場を一回りして航路の安全を確認しておいてくれ。 近いうちに『体験航海』を実施したいのでな」


「了解しました。 明朝出航でよろしいですか」


「ああ、それで頼む」



 初月は蒸気タービンで動く。 出港準備を始めてから動けるようになるまでは6時間くらいかかる。

秋の陽が落ちるのは早い。 今すぐ始めても日が暮れてしまうので、出かけるのは翌朝にするのが良いという判断だ。


 湾内に錨をおろした初月へと帰るカッターを見送りながら、ゴートは秋津に問う。



「あの軍船はとてつもない大きさに見えるが、帆が見当たりませんな。 動かすだけで膨大な人数の漕ぎ手が必要なのでは?」


「まさか、エンジンで動くから漕ぎ手なんて要らないぞ」



 艦長は燃料の事もあって内火艇を使わず、人力で動くカッターを使ったのだが、そのせいかゴートに誤解を与えてしまったのかも知れない。



「エンジン……では、センシャのように人の手を使わず進むのであるか。……それは壮観な眺めになりそうでありますなぁ」



 ゴートの頭の中に、舷側から無数の櫂が現れてムカデのような姿となり、エンジンによって人力を凌駕するすごい勢いで櫂が漕がれて動く様子が浮かぶ。



「壮観?」



 イマイチ何が壮観なのか理解できない秋津であった。



*****



 港と魔獣舎が完成してから約1ヶ月。 この僅かな間に、港には10を超える数の軍船が浮かび、魔獣舎には多くの水棲魔獣がひしめいていた。



「遂に準備が整った。 出撃だ。 頼んだよキリエル!」


「まーかせて」



 ミシエルの用意した兵士と、キリエルが調達した魔獣は艦隊を編成して海に乗り出す。

艦隊を見送ったミシエルは急ぎ指令室へ戻ると、別動隊に出撃準備命令を出す。


 オークの歩兵隊、ゴブリンの騎兵隊、オーガの騎兵隊がマカン村、アンバー村、そして都へと進軍するため、隊列を整え、出撃タイミングを待つ。

量産能力を高めたプラントは、これまでよりも多くの兵士を生み出したため、多数の兵を艦隊に派遣したにも拘わらず、これまでよりも多くの兵を用意出来たのだ。



「これだけの軍勢だ。 まさか囮だとは思わないだろう」


「そうだと良いのですが、大英様が引っかかるかどうかは何とも言えませんわ」


「なーに、問題無いだろ。 気づいて他に戦力を向ければ、村を落とすだけだし」


「そうですわね。 今回は十分な数を用意できましたから」



 何処かの誰かが語ったという言葉がある。


 「戦いは数だよ、アニキ」


それを今、彼らは実践しようとしているのであった。



「タイミングを間違えないように、キリエルさんとの連絡を密にしてくださいね」


「もちろん」



 こうして、大規模な作戦が開始された。

用語集


・カッター

一般的な言葉で言えばボート。 紙を切る道具の事ではありません。

何人もの乗員が(オール)を漕いで進む。



・6時間くらいかかる

これはエンジン(ボイラーとタービン)だけのお話。 出港準備は外にも色々作業がある。

なお、海自の蒸気タービン艦はこの半分の3時間くらいで行けるらしい。

逆に戦艦のような大型艦だと丸1日かかるケースもあるとの事。

厳密な話をすると、小型艦の場合ボイラーやタービンの形式などにより4時間~7時間という資料がありますが、秋月型がどうなのかは確認していないので、本作ではざっくり6時間としています。


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